だんます!!

慈桜

第八十話 オバナなう?

 「一体何が起きてると言うんだ!!」
 米国の惨劇を見て途方に暮れる複数のオバナがいる。 今は壊滅してしまった米国大統領であるバラクウ・ユフイン・オバナは全裸で膝をつきながらに天を仰ぐ。
 ワールドリーダー、世界の警察、抑止力の主張とすら言える大陸が壊滅した衝撃は彼の心を押し潰そうとしている。
 惨状を語り継ぐ者は既に存在しないかもしれないが、彼は米国最後の大統領として、歴史に名を刻む事になるだろう。
 綺麗事ばかりをトレーディングカードのように集めていたオバナは、史上最も愚かな大統領として歴史に名を刻んでしまうのだ。
 但し、それはこのまま閻魔が負けてしまえばの話だ。
「こうなっては仕方ない。徹底的に日本へ攻撃させてもらう」
 軍事力を盾に強気に出るこれ迄とは状況は大きく変わるが、それでもオバナは強気である。
 何故なら彼は混沌とした終末の米国で数多くの国民の命を奪い、己が糧としていたからである。
 多くの命を自身のステータス、そして特殊能力に極振りし、更には強くなった個体での同一存在を多量に生み出し、全裸の一軍を率いているからこその強気である。
「あは、あははは、みんな死ねばいい」
 考えれば考える程に理不尽な破壊の惨状、そして飢えに飢えたオバナは次第に壊れ始める。
 わからなくもない。
 自分と全く同じ見た目の全裸のおっさんが血と欲と乾きに飢えたまま数百の群れとなって行進しているのだ。 どう考えてもまともな神経の奴とは思えないし、まともでいられるとも思えない。
 昼夜を問わず、荒野を進むオバナの群れ。
 次第に彼らはメキシコ国境へと辿り着いていた。
 飢えたオバナは凶暴である。 まだ辛うじて形を残す町並みを見て、なんの話し合いをするでも無く一目散に駆け始める。
「ファッキョーメーン!!」
 略奪に話し合いの席は設けられない。 オバナは目に映る自身とは異なる姿の人間を殴り倒して行く。 菓子の自販機のガラスを叩き割り、雑貨屋で食料を強奪しては店主を殴り倒す。
 その惨劇の中心でオバナは僅かに降り始めた雨を神が歓喜に喜びの涙を流して下さっているのだと手を広げ大声を上げて笑い始める。
「あははは!! 私だけしか存在しない世界にしてやる!! シンプルに生きよう!! 男は殺し女は犯せ!! 人間の悉くを侵略しオバナ帝国を作ってやる!! 私の遺伝子こそが人類の祖となるのだ!!」
 もうイカれてしまっているのだ。 無理もないだろう。米国の象徴と言える程までの存在へと昇華したにも関わらず、意味不明の空飛ぶ大陸に通り過ぎるついでと言わんばかりに穴とマグマしかない荒野へと変えられたのだから。
 彼方此方で響き渡る銃声。 その鉛玉は全てオバナ達に向けられている。 オリジナルオバナはその銃声へ心地よさそうに耳を傾け手を翳す。
「Change!! No, You Can't.」
 宣言と共に降りしきる雨と同様に撃ち放たれた弾丸は勢いをそのままに射主を蜂の巣へと変えて行く。
「奪え奪え奪え奪い尽くせ!!! 物資を武器を食料を命を!! 目に映る全てを奪い我が手中に収めよう!!」
 進撃のオバナの群れ降臨である。
 目には目を歯には歯を略奪には略奪を殺意には殺戮を。
 理不尽な力で全てを奪われるぐらいならば、自身こそが理不尽であらんとするオバナの怒りの炎は、メキシコの弱者へと向けられる。
 当初の日本への怒りは、いつぞや全人類へと向けられるようになったのだ。
「だははは!! おい見ろよ。大統領が腐る程いやがるぜ」
「新種のホブゴブリンじゃないのか? まじか、俺やっぱ夢みてんのかな」
 そしてその怒りは同胞である筈の閻魔の騎士にも向けられる。
 迷宮騎士では無い、ただの騎士も多くは命を消費しながらにカナダやメキシコ、そして海へと散っている。 ブラックカードでの騎士選考に於いて、命の駆け引きを自ら進んで行っていた殺人鬼達が、このオバナ大統領大量発生を見て笑わないワケが無かった。
「や、やめろ!! いつの間に!!」
 何処からともなく湧き出したオバナが2人の騎士を取り押さえ、その心臓をくり抜かんと胸に指を食い込ませて行く。
「ご機嫌よう、親愛なる同胞。驚くほどに気持ち悪いなお前達。父親が誰かも知らないような場末のガバマンの売春婦の息子みたいな顔しやがって」
「なっ?!」
「喋るな喋るな。声を聞くと優しく出来なくなる」
 オリジナルオバナは騎士の首に指を差し込み、首の骨をそのまま抜き取る。
 即座に再生が始まるが、オバナはその再生を待たない。 心臓を噛みちぎり、喉仏を噛み砕き、飛び散る血を舌舐めずりしながら飲み込んで行く。
「ひっ! ヒィィ!!」
 友が喰われ行く様を見た騎士は取り押さえられたままにガクガクと震え始める。
「私に理性がまだあった頃、騎士選考の世界である偉人に出会ったのだ。彼の名はアルベルト・アインシュタイン。彼とは多くの話をし、そして最後には私の手により再び生を閉じる事を望んだ。わざと殺されてくれたのだよ。迷宮騎士であるにも関わらずに」
 殺された騎士は、復活する兆しも無く、物言わぬ肉の塊となる。
「彼はこの命を奪う事によって得られる力を理論付けて解明し、更には如何なる能力を習得すれば良いのかも教えてくれた、理論上自らの命を差し出す事によって習得が可能となると教えてくれた。それがこの能力、魂喰らいだ」
「あ……あぁ……」
「力の源を根刮ぎ喰らい尽くす暴食の力。お前達のような害悪を殺すにはお誂え向きな力だろう? 聞いているかサノバビッチ!」
 目玉に親指が突き立てられ、四肢をもがれてもなお再生しようとするが、無意味である。 既にその手には引き抜かれ今も尚、鼓動を続ける心臓がその手に握られているのだ。
「彼は言った!! なんでも可能になる世界など研究の成果にならないと」
 心臓に齧りつくと、オバナはその口からダラダラと血液を垂らしながらに咀嚼する。
「お前達の魂の力は私を強くする! そして同一存在の中で私は唯一無二の存在となるのだ!!」
 紫がかった赤黒い気を纏い、黒い瞳を怪しげに光らせると、数あるオバナ達が次第に膝を曲げ始める。
「オー!! ボス!!」
「YES!!BOSS!!」
 ちらほらと起源のオバナを賞賛するコピー達。 既に正気の沙汰の外である。 本能に従う事が出来なかったオリジナルはオバナの群れのヒエラルキーで最も下等に位置していたが、騎士のラディアルその物を食らう事により、本来あるべき最上位の存在へと押し上げられたのだ。
 敵味方関係無く文字通り蹂躙が始まる。
「奪え! 喰らえ! 焼き尽くせ!!」
 引かぬ媚びぬ省みぬとでも言わんばかりに襲いかかるオバナ。
 ある者は頭から炭酸飲料を浴び、奇声を発する。
 ある者は車を直結して逃げ惑う一般人をロープで縛り付けて引き回している。
 ある者はサルサを売っている小太りなおばはんを背後から欲の捌け口に。
 ある者はアリの巣に鉛を流し込み、またある者は首を切り落とした鶏を走らせて爆笑している。
 多種多様の破壊行為に嫌がらせ、男はおもちゃを扱うかのよう惨たらしく殺され、女は棒が乾く間も無く陵辱される。
 レンタカーを強奪したグループが舞い戻り、トランクにこれでもかと物資を積み込んで行く。
「これならまだ増やせるな」
 それを見たオリジナルオバナは納得の表情で自身の首を切り落とす。 落ちた首からは胴体が生え、胴体からは頭が生える。 力を増したオバナが同一存在として増殖したのだ。 命のストックを持つオバナが再び自身の首を切り落とすを繰り返すと、更に数百のオバナを増やす事となる。
「Yes We Can」
 街は燃える。 国境の街として栄えた一つの都市が陥落する。 自身の国の惨劇を拡大するように、じっくりと丁寧に略奪を行い、果ては全てを燃やし尽くす。
 民家に押し入り、奪える物はなんでも奪い、最後には火にかける。 秒を追うごとにコミュニティを拡大し、文字通り虱潰しの侵略が繰り返し行われているのだ。
 だが、その残忍さは多くの敵を作る結果となる。 個々が大きな力を持つ閻魔の騎士は、それぞれに独立している者が多かったのだが、一人の迷宮騎士が立ち上がった事により、迷宮騎士を頭に置いた一軍の形成を促す結果となる。
 その総大将として君臨するはホセ・マリア・モレーロス。 メキシコ革命の英雄である。
「あの黒猿、いかに料理してくれようか」
「総大様、一つ案があるんだが」
「ほう、確かゴウキと言ったか、此度は多くの同胞を説得してくれて感謝している。聞くだけは構わぬ、その案、申してみよ」
 スキンヘッドの大薙刀を持つ大男、いつぞやジンジャーに殺されたシステマの配下であった八部衆の一人である剛鬼である。
 彼はラビリが綾鬼達の他に用意し、騎士選考に潜らせた五つのデバイスの内の一人である。 此度のオバナ制圧軍に参加する多くの騎士を集めた立役者であり……。
「まずオバナの群れは東から西に掛けて、民家一つ残さずに破壊しているのは偵察隊の報告の通りだ」
 地図を広げオバナに破壊されるのが確定と言える範囲を丸で囲む剛鬼。
「だが、あいつらはまず奪い、犯し、殺す。だから此処を餌に食い止める」
「オヒナガか…しかしもっと早い段階でもいいのではないか?」
「ここは家屋の密集地、やりようによっては分断できる」
「ふむ、一理あるな。それに其処へ行くまでの間に兵も増やせそうだ」
 ラビリより、どうにかして強い騎士同士の火種を作るように密命を受けているのである。
「では詳しい陣取りを。一番槍は安心して自分に任せて頂きたい」


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コメント

  • ノベルバユーザー270920

    お気に入り確定!

    0
  • クスバミ

    一話だけ見ましたが、もう少し、文と文の間をあけた方が見やすいのでは?

    1
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