だんます!!

慈桜

第百七十八話 それぞれの宮司?

  やぁ、みんな元気? だんますだよ。 ラビリだよって言った方がわかりやすいか。
 済し崩しに閻魔とダンジョンバトルが始まってしまっててんやわんやなんだが、取り敢えず俺は今フェリアースに来てる。
「んもうっ、来るなら来るって言っておきなさいよぉ」
 俺のとなりでクネクネしてる半分ピンクで半分水色のニョキーンとしたセンター分けのピエロみたいなオカマ。
 こいつがフェリアースの宮司であるセイリュウ・ガルドギアス、自称通称総じてセリと呼ばれてる。
 レィゼリンにも行かなきゃならんのでさっさと話を終わらせたいんだが、どうにも上手くいかん。
 カマとかゲイとか普段サッパリしてるけど久々の再会ってのにはしつこいもんである。
「てなわけで強烈なダンジョンマスターとやり合う事になったからフェリアースとゲート繋いでくれ」
「あんたがそんな事頼みに来るなんて相当切羽詰まってるのねぇ。あらやだ濡れそう、濡れるとこないけど。でも断る」
「やめろ、変な押し問答しようとすんな。ゲート繋いでくれって言ったら繋いでくれよ」
「いぃやぁよぉぉん。それってこっちも危なくなるじゃない。そんなに新しい世界の冒険者が信用できないの?」
 なんかいきなり真剣な目つきなんですけど。 やはりトントン拍子にはいかんか。 俺的にはさっさと戻りたいのだが。
「信用できんってわけじゃなく、まだ弱いんだ。ダンジョンも100層に到達してないぐらいだからな」
「あらかわいい。ピヨ子ちゃんなのね。ふぅん、そうなの、そうなのね」
 ガチムチのカマ野郎が思案に耽る。 こいつ上下ドラゴンの革のスーツなのはいいけど、どうやってピンクのエナメルにしたんだろうか? 技術屋がカマだと突拍子もない事するからリアクションに困る。
「じゃあゲートは繋がないけど、その冒険者を信用できるぐらいにしちゃうのはどう?」
「どういうことだ? こっちに連れてきて鍛えるってか?」
「のんのんのん。フェリアースの世界式稼働エネルギーを集約して擬似的なコアを貸し出すのよ。勿論戦いが終わったら返して貰わないと困るけどね」
「話にならんな。危険すぎるだろ。それで冒険者が負けたらフェリアースが弱体化する。それに冒険者が黙ってないだろ」
 星一つの力を分配するのは魅力的な提案ではあるが、万が一地球で押し込まれてゲートが開かれた時にタダで閻魔にフェリアースを差し出す結果になりかねん。
「でもそれをグランアース…は無理ね、あまりに強大すぎるもの。けどレィゼリンとフェリアースの稼働エネルギーをラディアルに変換して冒険者の底上げをしたらと考えてみて?」
「確かにそれは一理あるが、現実的じゃないだろう。それこそその日暮らしの冒険者は干上がってしまう」
「だから宮司として責任を持ってバカンスを楽しめる程度のボーナスを出すのよ。溜め込んでるラディアルとDM全部放出しちゃえば賄えると思うしね」
「それは、いや、お前はそれでいいかもしれんがカブトが無理だ。あいつは頭がおかしいぐらいの守銭奴だからな」
 セリは商才があるし、ぶっちゃけ宮司なんかしてたらクソみたいに資産は溜まっていくから、別にそれでいいと思っているかも知れんが、レィゼリンの宮司であるカブトはそうは行かない。 なんだったら倹約こそが美と世界そのものに訴えかけてるぐらいの変態だからな。
「そうねぇ。あんたが出せたらそれでいいんだろうけど、今は僅かなラディアルでも残しとかなきゃだしね。あっ!! じゃあレイセン様に出して貰えば良いじゃない。グランアースぐらい歴史があったら何回か戦争できるぐらい溜め込んでるんじゃない?」
 それもそうだな。 けどレイセンに頼む為にはヤムラに話を通す必要が……いや、いかんいかん。 和解した筈だ。 あれは俺を認めたんだ、邪険にしなくていい。
「わかった。まずカブトに会ってくる。それで了承が得れたらレイセンと交渉する。セリは準備を整えておいてくれ」
「そんな時間あるの? こうしてる間にもピヨ子ちゃん達が食べられてるかも知れないのよ? それにフェリアースは特殊だから心配しなくていいわ」
 セリが世界式を広げて、俺から繋がるフェリアースの世界式を俺の式の上に重ねる。
「迷宮に入れないのとメニューが使えないぐらいでガタガタ言わないのよ。フェリアースの冒険者は」
「いや、事前に報告ぐらいしておくべきだろう」
「事後報告で充分よ。さっさと終わらせて早く新しい世界を案内してよん。あんたがそんなに焦っちゃうぐらいに好きな世界なんでしょ?」
「あぁ、そうだな。うん、ありがとう。これで時間稼ぎは出来そうだ。急いでカブトに会ってくる、次元兎出ておいで」
「負けるんじゃないわよ男前」
 背中叩かれたけどむちゃくちゃ痛い。 バシッじゃなくてバチンっていった。
 せっかち過ぎる気もするが、思い立ったら即行動、よしバーベキューしよう!今日!!のタイプのセリだからこその決断は非常に助かる。 こいつ連れてってもかなりの戦力になるんだがな。
 コア、フェリアースの稼働エネルギーを冒険者に分配した場合どれぐらい効果がある?
『ある程度は対抗出来る……と言ったところでしょうか。殺戮大臣信長の軍勢を除いた冒険者の戦力を閻魔の騎士と比較しパーセンテージに換算した場合、閻魔騎士100%と仮定するならば、8%に満たない程ですが、大凡で35〜40%程までの上昇が見込めます』
 それだけか? 仮にも支配世界として確立しているフェリアースの稼働エネルギーだぞ?
『強さをどう見るかの問題です。単に滅するだけと仮定した能力値なら更に高く評価する事も可能です、ですが閻魔の騎士は何度でも蘇ります。他の邪魔が入らない条件下で、何度も何度も倒す事が出来るのならば話は変わりますが、そのタイムラグは思念体で常に戦況を把握している閻魔に後詰めを用意させる時間に直結します。それを踏まえた上での数値です。付け加えるならば、フェリアースの稼働エネルギーをラディアル換算して、3000名の冒険者に分配するでなく、TOP100の冒険者に分配し、突出した勢力を形成するのが数値上最も高い数値を弾き出したのですが、それ以下の冒険者がパーセンテージを下げている現実もあります』
 ……もしレィゼリンも同様に稼働エネルギーを換算出来たとして、全ての冒険者に分配するなら?
『先程説明したTOP100の戦力を60%ほどに落としたラインでの分配が可能になるかと。補足するならばレィゼリンはカブトの意向で大迷宮が多数存在しているので稼働エネルギーだけを見るならばフェリアースよりは上ですので』
 その状態で冒険者権能の使用可能時間は?
『充分に対抗出来る程度の時間を得る事が可能となります』
 道筋が見えて来たな。 切れるカードはバンバン切るか…納得せざるを得ないな。

 兎でレィゼリンに渡り、目的地に即座に転移する。
 ベタ凪の風一つ無い静かで透き通る海に浮かぶ無人島に辿り着く。
 この漆喰を乱雑に塗った白壁の小屋こそが、レィゼリンの宮司であるカブトの住処である。
 潮風で塗装が剥げたドアを開けると、半袖半パンのラフな格好でパンチパーマにサングラスを掛けたペンとかアップルとか持ってそうなおっさんが木刀を持ってハイビスカスの甚平を着た白狐の獣人幼女と対峙している。
「てめぇよくも俺が魂を込めて塗装したミノー根掛かりさせやがったな」
「ちげーのん! かぶかぶが使っていいって言ったのん!」
「てめぇみたいなド下手でも使えるようにしてたのにどうやったら根掛かりすんだクソが!」
 パンチのおっさん。 いや、カブトが木刀を狐幼女に振り下ろすが、狐幼女は残像を残しながらにぴょんぴょんと飛び回り俺の頭に抱き付く。 ギュッと抱きついていて引き剥がせそうにない。
「イナバ? お前がそこにいるとさ」
「助けるのんラビリ!! あのおっさん殺して!!」
「キエェェエエエ!!!」
 あのさ、自分で言ったらかっこわるいけどさ、まぁ、俺もある程度は強いじゃん? でも大臣とか見てて、宮司とかって結構強いのわかるよね? 言えば対等って考えてさ、道端歩いててパンチパーマのオッさんに突如木刀振り抜かれたらどうなるかな?
 答は簡単だ。
 痛すぎて2秒ぐらい素になって、そっから痛いよりも頭割れそうなぐらい熱くなってジタバタもがく、今ここ。
「お前マジでクソヤクザだよな」
「だから天パだっての。いや、キャラメイクでしたから天パじゃないのか? ん?いや、それはどうでもいいけど何しに来たんだクソマス」
「ニジマスみたいな言い方やめろ」
 久々だと言うのに散々な扱いである。 木刀で殴られてディスられて。 無人島に幼女と住んでる変態の癖に。
「無人島に幼女と住んでる変態なのん!!」
「あ゛!?」
「ラビリが言ったのん! イナバじゃないのん!」
「あ゛?!」
「ちがっ!? イナバ心読むのやめろ!!」
「やっぱ言ってんじゃねぇか!!」
 最悪である。 ここに来たら2、3回木刀で殴られる。 3回目やられたらボッコボコにしばくけど。
 とりあえず本題に入ろう。 こいつらのペースに飲み込まれると気が付けば沖合に釣りに来ましたなんて事になりかねない。 とにかくマイペースなのだ。
「てなワケだから、暫定的に稼働エネルギーを貸して欲しい。勿論その間の休暇費用は全て此方で用意するしな」
「あ゛? なんでだ? ダンジョンバトルしてんならラディアルの無駄遣いできねぇだろ?」
「いや、資金の算段はこれからレイセンに相談する。だから心配ない」
「あ゛?  なんでグランの兎が出てくんだよ」
 うん? なんか思っていたカブトのリアクションでは無いな。 どケチのカブトなら、それぐらいは当然だと言うと思ったんだが。
「それはどう言う事だ? カブトが保証するとでも言うのか?」
「あ゛ぁ゛?! するわけねぇだろ! 保証してやる必要が無ぇってんだ。この世界の王はお前だろうが! 自分が死なねぇかわりに他の世界の冒険者が戦うんだから収入が無くなるぐらいでガタガタ抜かす奴がいやがったらケツ毛毟りとってやる」
「あ、そっち系ね」
 レィゼリンはブラックもブラックで真っ黒でしたのパターン。 会社の都合でしばらく休業するけど有給ないからねとかケチ過ぎる。 それで行けるなら運営側としては良いんだろうけど。
「ただ事前に知らせてやりたいから多少時間はくれ。なんならそのガキ連れてってもいいぞ?」
「いくのん。イナバ頑張るのん」
 俺の頭にしがみついてる狐幼女がうおーと士気を高めているのだが、扱いに困るから要らないと言って良いのだろうか? 確かに強いし戦力的には助かるのだが、俺は幼女が苦手なんだが……。
「いや、危険すぎるからやめておいた方がいい」
「おう! 連れてけ連れてけ! 見た目はガキでも足手まといって事はねぇ」
 聞いてねぇ……。 どうしてこうも面倒を押し付けられるんだろうか? しかも窓から海王竜が馬鹿でかい青い目で中を覗き込んでるし。
『カブト、約束の時間から16秒過ぎてるぞ』
「あ゛ぁ゛? せっかちすぎんだ、青トカゲ!! てなワケで、俺西方群島で暴れてる悪食って鯨の魔物狩りに行くから! 心配しねぇでも世界式は後で重ねといてやる。まぁ、なんだ、頑張れよ」
 パンチパーマのおっさんは終始マイペースに喋ってそのまま出て行ってしまう。
 戦の真っ只中だってのに、なんで幼女預からにゃいかんのだ。
「違うのん! 幼女じゃないのん! 祈りの具現なのん!」
「あー、はいはいはい。わかったから心の中読むのやめろ」

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