だんます!!

慈桜

百七十六話 異なる世界式、宝探しの仲間?

 「結果オーライ粗方片付いたな」
「ヒナタ達はやはり頭のネジが飛んでいるでござる。もう何処かへ行ってしまったし」
 雷神ラム◯が暴れたんじゃないかと言うぐらいの凄惨な災害を好き放題巻き起こし、納得したケットシー達はキャッキャと騒ぎながら空に消えて行く。
 戦艦と漁船の大艦隊は見る影も無く消滅し、そこに残されたのは力を持つ者のみとなった。
 大阪、福岡の冒険者学校の卒業生は既に満身創痍で森の中に寝かされている。 バイオズラとヌプ蔵がなんとか回収出来たものの、何やら悪い夢を見ているようで、皆一様に魘されている。 きっちりトラとウマが叩き込まれたのだろう。
「雑魚処理の予定がとんだ荷物だな」
「まさかこんな事になるとは予想も出来なかったでござるよ」
「こっからは俺達の出番だな」
「とりあえずは力量を見るのが大事でござるよ。あまりに差があるなら逃げるが勝ちにござる」
「わぁってるよ、行くぞ」
 バイオズラとヌプ蔵は一気に森を抜け田畑の上を横切り疾走する。
 異色の冒険者が共同戦線にて迷宮騎士を迎え討とうとしているのだ。
 相対するはギリシャ人、短い白髪にもじゃもじゃの白髭のおっさんである。 如何にもな白い薄着に腰に剣、申し訳程度にサイズの合っていないヘルムを装備している弱そうなおっさんだ。
 余りにも不自然な西洋の老人が素足で田畑を踏みつけている違和感に足をとめたのだが。
「やはり骨がありそうなのがおったか」
 おっさんが剣を地面に突き立てると、広大な田畑を埋め尽くすアンデットが出現する。 問答無用とはこの事である。
「くっそ、めんどくせぇ!! ヌプ蔵! あいつなんて奴だ」
「ちょい待ち……ペリクレス? よくわからんでござるね。かませ犬でござろう」
「おっけー、なら俺殴ってくるわ」
「ならば梅雨払いは任せるでござる」
 ヌプ蔵が飛び上がり、魔石が嵌め込まれた手裏剣を六枚同時に投げると、それらは勢いをそのままに巨大化する。
 大手裏剣は弧を描きながらアンデットを薙ぎ倒して行き、その隙間を縫うように赤い革ジャンに金髪のリーゼントの男が駆けて行く。
「あは、おじいたん。こんにちは」
「うむ、なんと美しい戦ぶりよ」
 バイオズラのキツく握りしめられた拳が光を放つ。
「一回目って奴だな」
 躊躇いなく拳が胸に叩き込まれると、ペリクレスは首を残して爆散する。
「バイオ殿!! 今でござる!!」
「わぁってんよ!! 早くしろ!!」
 爆散したペリクレスの細胞が首に向けて集まり一つに纏まろうとし始める最中、ヌプ蔵は大急ぎで砕いた魔石で九字の格子を引きはじめる。
「臨!兵!闘!者!」
「うおっらっ!! 光拳んん!!」
「皆!陣!列!在!前!!」
 ヌプ蔵が印を結び、僅かに魔石のラインが光を放つとバイオズラが光拳を叩き込む。
 ヌプ蔵の忍術とバイオズラの闘気が入り混じり、九本の光の拳を捻り巻いた監獄が完成する。
 再生が完了すると、ペリクレスはその檻の中で意識を取り戻すのだ。
「ほう、見事なお手前。この奇術の類、良く使い熟しておる」
「後は其処で消えるまで死ぬだけだな」
「それは困るな。折角の命、次は世界を見て回りたいんだが……口論は無駄か、意見が違えば戦う他あるまい」
 バイオズラは何故かその場から飛びのける。
 なんらかの悪寒に冷たい汗が背中を伝ったのだ。
「良い反応だ! 若き将よ!!」
 地面が揺れたかと思えば、先程までバイオズラが立っていた位置に百足が姿を現す。
「これは気持ち悪いでござるね」
 それは百足と呼んでいい代物かどうかすらわからない。 アンデットを編み込んで百足の形を成している何かである。
「ヘカトンペドスよ! 敵を殲滅せよ!!」
 ペリクレスの命令に返答する人編みの巨百足の鳴き声は、多くの死者の慟哭。
 ありえない速度で動き、骨が軋む男と肉が捻れる男にキチャキチャと悍ましい音色を奏でながらにバイオズラへ襲いかかる。
「光拳っ!! 硬ぇ!!」
 百足が襲いかかる勢いを利用して拳を叩き込むが、それらを繋ぎ合わせている金属に拳が跳ね返されてしまう。
『バイオ殿、此処は子供達の方向を避けながらさり気なく逃げるでござるよ。この百足チャプターのボスに近いなんかを感じるでござる』
「あぁ、そうだな! クソ、こんなマイナーなヤツでこれならショーキ達がやべぇかも知れねぇ! 急ぐぞ」
 ヌプ蔵の念話を聞いて即座に作戦変更、直ちに逃げる方向にシフトチェンジするものの、百足の猛攻を捌きながらだと、追い詰められる一方である。
「ヘカトンペドスから逃げられると思ってはならぬぞ! まだまだ強くなる、お前達は餌になるしかないのだ!」
 ペリクレスが剣を一閃すると光の監獄は容易く消え失せる。
「次はこちらが攻めさせて貰うぞ」
 ペリクレスが地面に剣を再び突き立てると、周囲一面にアンデットが現れるが、百足は嬉々としてそのアンデットを喰らい始め、その体を更に大きく長くして行く。
 それには次の手を準備していたヌプ蔵の額にも嫌な汗が流れる。
 見誤った、その一言である。
 ヌプ蔵とバイオズラの技を掛け合わせた光拳の牢屋があれば、いかな存在であろうとも倒しきる事は出来なくとも足止めする事は出来ると踏んでいたが、その希望は泡となり消えたのだ。
 今バイオとヌプ蔵の頭の中は一つの単語で埋め尽くされている。
「ヤバイ」
「で、ござるな」
「どうする? 戦略的撤退って意味も込めて死んどくか?」
「いや、今死ぬと子供達の回復が不完全に終わるでござるよ」
「だから回復薬飲ませろって言ったじゃねぇか!」
「な、なにおう!? 九字で大地からエネルギーを引っ張ればコストはかからないでござるよ! それに忍具を買い揃えて金が無いと言ったでござろう! バイオ殿に頼んだのにもったい無いから嫌だと言ったんでござるよ!」
 絶体絶命であるにも関わらず口喧嘩を始める始末だ。 今ばかりはヌプ蔵の金欠とバイオズラのケチさが功を奏したと言うべきなのだが、やはりハルビン戦線での死んでもアキバで蘇る感覚が色濃く残っている為に何処か楽観的である。
「よし、全力で逃げよう」
「それしかないでござるな」
 即座に冷静に頷き合うと踵を返す。 逃げるが勝ちとはよく言ったものである。
「それを儂が許すとでも思ったかぁ!!」
 ペリクレスはそうはさせないと剣閃を幾度と放つが、バイオとヌプ蔵はまるで後頭部に目がついているかのようひょいひょいと躱しながらに一目散に走る。
 冒険者と迷宮騎士の決定的な差の一つである。
 ペリクレスが先程バイオの光拳で爆散したのを見ればわかるが、やはり戦い慣れしている英霊は、多くの命を消費して個別のパロメーターを上げるよりも、一騎当千の能力を手にする方を選ぶ。
 その方が戦に於いては圧倒的に有利であるからだ。
 僅か一年と幾許かであるが、月日をかけて毎日の積み重ねをしながらに自身が想像できうる数倍の身体能力を当然に行使できる力へと変えている冒険者は、こと身体能力に於いては迷宮騎士よりも優位にあるのだ。
「チャプター通っといてよかったな。しつこいぐらいに逃げる内容が多かったが、今となっちゃダンマスに感謝だわ」
「で、ござるな。もしやこれを想定していたのかも」
 まさにその通りである。 チャプタークエストの内容は、逃げに徹する必要がある場面が多々ある。 その判断力を養う内容になっていたのは、前回いの一番に逃げ出したシュガーを見るにも明らかだが、先ずはヒットアンドアウェイの精神を叩き込まれていたのだ。
 相手が坂本龍馬のような理不尽な相手ならば、その判断力も無駄になるかもしれないが、此度のペリクレスのような頭の堅い能力使いが相手であれば、効果は絶大である。
「結果どうあれガキ共から離せたな」
「粘着質なジジイで助かったでござるな」
 結果、冒険者学校上がりの子供達に迫る危険から守る事が出来たので万々歳である。
「ショーキ達が心配だ。山に入るぞ」
「あれを引き連れて行くのは逆に危なくはござらんか?」
「いや、あいつらがいればなんとかなる」
 根拠の無い自信であるが、拳語會はこれ迄にも強敵を難なく片付けて来ている。 拳語會の皆が揃えばギャグ枠となり、まるでアラ◯ちゃんが戦闘民族の王子をボッコボコにするような逆転現象が起こるのだ。 なんとかなりそうな気持ちもわからんでもない。
「逃さぬぞぉおお!! 森を選んだのは失敗であったなぁ!!」
 しかし幾ら距離を置こうにも、ペリクレスは何処までも追ってくる。 まるでノルマが迫った下っ端警察官の意地である。 サイレンを鳴らした以上はプライドに賭けてってヤツだろう。 傍迷惑な話だが。
 そんな中、木の上から一人の若者が飛び降りてくる。
 黒いブーツにキャラコのストライプパンツ、ボロのヘンリーネックにスカーフとターバンを巻いた、如何にも海賊的な若者である。
「コッチだ」
 肩までの長い鳶色の髪と同色の瞳の若者はついてこいと顎で行く先を示す。
 咄嗟に現れた怪しい若者にバイオは拳を構え、ヌプ蔵は手裏剣を手に持つが、若者は両手を上げて降参の意を示す。
「助けてやるからついてこいよ。アレの対処法は知ってるつもりだ」
 そう言って地面に拳を叩き込むと、大地が蠢めき土人形が形成され、次第にそれはバイオとヌプ蔵の姿に変わる。
「お察しの通りに世界式で言えば敵だけど、危害は加えない。だからついてきてくれ!」
「どうする? ござる忍者」
「四の五言ってる暇はなさそうでござるよ」
 百足に樹々が薙ぎ倒される音が既に近くに迫ってきている。 信用は出来ないが、今は敵を増やすよりも、この若者に従った方が良さそうだとその背中を追う。
「良い判断だ。あのジジイはしつこいのが取り柄でね。前の沖縄攻めでも酷い活躍だったんだ」
「んで? お前はなんで助けてくれたんだ? 騙し討ちしようってんなら、今ここで殴り倒してやんぞ」
「あー、そうカッカしない。裏切り裏切られの争い事は嫌いなの? わかる? 敵だって言ったって同じ人間なんだからわかるだろ?」
「じゃあなんでこの島にいるんだよ。嫌だってんならもっと早く離脱出来ただろうに」
「それも今から見せるからついてきてくれよ。むしろ手伝って欲しいんだわ」
 猿のように身軽な身のこなしで崖を登り始めると、不自然に掘られた穴に身を傾けながら入っていく。
「その上着大切なら脱いでおけば?中は広いけど入り口狭いよ」
「いや、心配いらねぇよ。これ防御力高いからな」
 バイオとヌプ蔵も若者を怪しみながらも岩の割れ目に体を捩じ込んでいくと、次第に開けた空間になる。 人力で掘り進めたと考えたなら気が遠くなるような広さである。
「んで、此処はなんなんだ?」
「いやぁ、びっくりだよなぁ。生き返らせてくれたお礼がてら戦争手伝ったけど、次の目的地が俺が死ぬ前にお宝を隠した島だってんだから」
 若者はツルハシを持って再び岩を削り始める。
「海岸から穴掘って隠してたんだけどさ、年月ってすげぇのな。全部崩落してやがってさ。今反対から掘り進めてんだよ。助けたお礼ってのも恩着せがましいけど、手伝ってくれない?」
 流石にその一言にバイオは堪えきれなくなり噴出する。
「だっしゃっしゃ! お前まじか!」
 あの百足の化け物から救ってくれた見返りが穴掘りだと聞いて拍子抜けをしてしまったのである。
「よっしゃ。わかった、手伝ってやる。俺はバイオズラ、バイオって呼んでくれ。こっちはヌプ蔵」
「よろしくバイオ、ヌプ蔵。俺はキッド。ウィリアム・キッドだ。お宝は分けてやらねぇけど、存分に手伝ってくれ」

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