だんます!!

慈桜

第百七十四話 黙れ売国奴?

  五島列島へ向けて多くの漁船や古い駆逐艦などが東シナ海を埋め尽くしている。
 軍艦の上でライフルを首からぶら下げながらに日の丸の鉢巻を巻いた女性。
 民明党議員、辻堂清実である。
「日の丸を掲げて日本の領土を攻め落とすのはどんな気分かね?」
「鳩川さん、これは侵略ではありません、これは革命なのです。日本を思うが故に、この地をアジアの本拠とすべき革命を行うのです」
「確かに、地方再生はどん底、本土放置で新たに得た外地に尽力しているのはどうかと思う。しかし君は朝鮮系の在日帰化人だろう? 何故新政府を中国に任せるのだい?」
「それは厳しい状況下に有るにも関わらず、彼らは最も多くの民が生き残ったからです。結果は数の力ですが、この戦いが終われば、我々は新たな人種、大東亜人の祖となるのです。今更何人がと考えるだけ無駄なのです」
 何を言っているのかよく分からないが、彼女は彼女なりの考えがあるのだろう。 どう聞いても売国奴にしか思えないが。
「長年多くの資金と人員を割き、政治活動としては反対意見に徹するだけに抑えて来ましたが、民明、社公、共民で力を合わせ沖縄、奄美と偽装移民での実質的な支配を進めて来たのは、今日この日の為に有ると言っても過言ではありません」
「確かに凄まじい速さで落ちたね。翁短知事の暗躍のお陰かな?」
「えぇ、彼は背乗りから戸籍の改竄までありとあらゆる手段で同志を集めてくれていましたから」
「そして彼らの力を使えば米軍を壊滅させるのも難しくはなかった」
 鳩川元首相の見やる先には多くの鎧武者達の姿がある。 言わずもがな、閻魔の世界式下の迷宮騎士達である。
「恐ろしい力だ。しかし心強い」
「ブラックカードがあったからこそ、我々は冒険者に恐れずに戦う事が出来る。今の歪んだ日本を洗濯し、再び戦争のない日本にする為に、今一度引き金を引く時が来たのです」
 日本国民で誰より何処より口伝で代々戦争の愚かさを伝え、平和を愛し日本を愛する離島の領土は、いの一番に彼女達の勝手な理論で蹂躙され、今もなお、一進一退の攻防を繰り返している。
 抗う日本国民、そして冒険者達はヒットアンドアウェイを繰り返すが数の多さに結果はジリ貧、遂にはその魔の手は五島列島に差し掛かろうとしている。
 その艦隊の中には台湾軍の姿もある。
 あれ程親日を主張していたにも関わらず、いざ日本が手中に収まると知れば嬉々として軍を出したのだ。
 誰しもがわかっていた。 奴らは日本が好きだと言っているから、此方も好きだと言おう。 だが、腹の底ではそうじゃないのは知っている。 現代人としてグローバルに友好的な形に落ち着こうではないか、同じ島国の者として……何処かそんな暗黒面が見え隠れすらしていた。
 それは中韓を反面教師として、日本の本来の近隣国への愛の主張をする為の贖罪の山羊として利用されて来た側面もあるだろう。
 台湾の者達も、日本の植民地、所謂日本統治時代は最高だったと言えば、有り余る恩恵を受けられる、だからこそ上辺の偽善でも構わないから、いい付き合いをしよう。日本は我々の保険会社に、なれば我々は親日を演じよう。 そんな取り決めが無きにしもあらずだと言うのが、今回の参戦に見て取れるだろう。
 勝てば恩返しの為に、負ければ中国に無理矢理と言える免罪符付きだ。 戦わない方がおかしい。
 難民の受け入れや、政府に不穏を感じた一部の台湾人、又は親日家達は、旅行で日本に訪れ帰国を拒否するよう逃げ回ったりもしているが、生存本能に素直に従ったのは一部の者や富裕層のみである。
 民明党代表蓮根の声明は、毎朝新聞、テレビ毎朝で引っ切り無しに放送される。
『平和を祈るならば今こそ立ち上がる時です。我々大東亜連邦は西日本の、九州から大阪までの割譲を願います。これからも良い関係を築く為にも無血での割譲を!!』
 マスメディアの情報操作は、大東亜連邦こそが、本来の日本のあるべき姿だと、引っ切り無しに洗脳報道を開始する。
 既にテレビジョンは電源を入れるのですら悍ましい程の害悪となっている。
 弱い日本、いや、弱くてもいい日本、半ば諦めにも似た感覚を多くの者が持つ日本のままであれば、此度の大東亜連邦側の作戦はピタリとハマっただろう。
 しかし、今の日本は、既に弱い日本では無い。
 露国全土を収め、中韓本土は命の森に、米国は荒野と化し、閻魔の騎士のみが生存する暗黒大陸となっている。
 西欧諸国は膝を折って日本への擦り寄りを行っている今、戦勝国であったならばと仮定するよりもワンランク上の大日本が築かれている。

 どん底にあっても冒険者としてのチャンスが与えられる強い日本。
 日本至上主義のダンジョンマスターによる世界統治。
 愛国心があれば彼に見つけて貰えるのではないか?
 強国の心、その礎を築いた言える冒険者が、この暴挙を見逃すワケが無い。

 愛する日本を守る為に真っ先に立ち上がったのは三匹のケットシーである。
「ぶっ殺してやるにゃにゃん」
「神風を起こしてやるにゃんにゃん」
 ジェットランドセルを背負って空を駆け抜ける三匹のケットシー。
「なんか面白そうみゃ」
 内、水色やクリーム色に変色するケットシーマロンは、元を辿れば中の人は中国人であるが、彼女には愛国心はあまり無く、ヒナタとキイロが良ければ全て良しのチビ猫である為に何となく同行しているが、そこを掘り下げるのはやめておこう。
 西の空に掛かる世界樹を目指していた魔女達も、超高速で飛来する三匹のケットシーを見て目を丸くする。
「何今の? 見た?」
「か、かわいいわね」
「あれ猫だぜ。母ちゃんが家で飼ってた」
 ケットシーは同種で特殊なトライブを形成する為に、魔女と伴侶となり子孫を残す例は無いわけではないが、長い歴史の中でも極端に少ない。
 なので世界樹が管理する、魔女の知識庫とも言えるアーカイブにケットシーの知識など必要無いとされていない。 なので魔女のアーカイブにより知識を得ているレジーナ達からするならば、ケットシー達は稀有な生物に見えて仕方が無いのだ。
 実際地球に関して言えば、世界広しと言えど、たった三匹だけなので稀有な生物であるが。
「追いかけよう! あのネコ捕まえようよ!!」
「いいわ。レジーナに賛成よ」
「猫はキマグレだから寄ってきた時しか相手にしちゃダメなんだぜ」
 色付きの魔女達は半ばモフモフに釣られる形で、ヒナタ達の後を追う事となる。
 他国の侵略に怒り狂ったケットシー、それを追う色付きの魔女達が五島列島へ向けて飛来しているなど露知らず、 辻堂、鳩川を乗せた戦艦の看板には、髪を短く切り揃えた女性議員が現れる。
 民明党代表、蓮根だ。
『見えて来ましたね。上陸作戦を開始して下さい! 可及的速やかに占領し、我々の統治下に置くのです』
 海を埋め尽くす船団、水陸両用戦車が更に密度を高め、小型の漁船に乗った民間人や偽装兵が旧式のライフルを抱きながらに上陸を開始する。
「もぬけの殻だな」
「我々に恐れをなして逃げたのだろう」
 武装した兵士が雪崩れ込むが、住宅密度の高い港町に置いても、人っ子一人存在して居ない。 つい先日まで人が住んでいたのだと分かる生活感は残ってはいるが、そこは無人の街である。
 大東亜軍は拍子抜けして気を緩めてしまう。
 誰しもが思った。
 巻き込まれるぐらいならばと逃げたのだと。 五島列島の征服はEASYに終わったのだと。
「何処かに潜んでいるのかも知れない。一応五人一組で周囲一帯探してみよう」
「だな。日本人殺せるかと思ったのにがっかりだ」
 タバコ屋から煙草を盗み一服をする兵、多種多様のアジア系人種の混成グループが各所へ散らばるとそれは起きた。
「460円になります」
 振り向くと其処には大太刀を持った蒼い和装軽鎧に丸に十文字、島津十文字の家紋を入れた侍がいる。
「聞いてる? タバコ代」
 ただ、長い黒髪に前髪だけ明るめの紫色が入っていて、その髪色に合わせた紫色の瞳を見るに侍と言うよりはV系の兄ちゃんのコスプレのようにしか見えないが。
「うるせぇよ」
 状況を把握するまでに僅かな時間を必要としたが、その侍が冒険者のそれだと理解し、タバコ泥棒が銃口を向けると、他の四人も銃口を向け、躊躇いなく引鉄を絞る。
 鉛玉の雨に貫かれるV系。
 物言わぬ肉の塊は、気が付けば只の丸太に変わっている。
 タバコを盗んだ兵がそれに一早く気が付き、斉射を制止すると仲間達四人の首が宙に舞い血飛沫を上げる。
「博多冒険者学校第1期卒業生、クラン島津印頭領ヒツギ、憧れの冒険者はヌプ蔵さんです。以後お見知りおきを」
「ひっ!!」
 両手に構えられた大太刀を逆手に鋏で刈り取るように首を斬り落とすと、柩は踵を返す。
 そしてスマホを取り出してグループ通話を開始する。
「不死身はヌプ蔵さんや拳語會の皆さんが引き受けてくれる。雑魚はオレ達島津印で片付けるぞ」
『大阪拳聖會も忘れんといてくれまへんか』
「あ、ごめんごめん。アキラ君達も頼むね」
 今回の戦いに於いて、誰に言われた訳でも無く、むしろ無駄死にを避ける為に迎え討つのを禁止されているにも関わらず、自発的に五島列島へ訪れている冒険者は少なくは無い。
 TOP50冒険者も多くは樺太防衛に残ってはいるが、DMを出し合ってテレポートゲートを利用し、五島列島遠征に訪れている者達も存在する。
 迅速に住民を逃がし、新人冒険者達をゲリラ要員とした上で、沖縄冒険者を敗走へ追いやった迷宮騎士の対応にはTOP50冒険者が当たる作戦である。
 閻魔世界式下で力を蓄えた蓮根や辻堂のようなカード騎士の流れ弾が戦いの邪魔にならないように徹底的に叩いてから挑む作戦を綿密に緻密に練り上げていたのだ。
「シリアルキラーのガキ共が動き出したみてぇだな」
「雑魚狩りに関しては心強い味方でござるな。上陸した外人が皆々斬り殺されているでござる」
「シュバインとアイリスは?」
「今回の聖剣はあの御二方で無いと撃てないのでござるよ」
 丘の上から戦況を見守るヌプ蔵とバイオズラの姿がある。
 先程までは嘘のように静まり返っていた町の其処彼処で爆発や銃声が響き渡っているにも関わらず、両名は冷静に街を見下ろしているだけだ。
「お前らその聖剣のノリ好きだよなぁ。安モンのアークスに大層な名前つけて」
「その安物のアークスで十分なんでござるよ。これの為に住民を逃がしたのでござるから」
 ドンッ!! と耳元で太鼓を鳴らしたのかと錯覚する轟音が響く。 ビリビリした衝撃がヌプ蔵とバイオズラの頬を擦り抜けて行くと、まるでCGの世界でしか見られないような巨大な津波が船団へと襲いかかる。
「うわー、これひでぇなぁ」
「王家に伝わる聖剣、十戒でござる」
「ロールやめないのね」
 たかが大津波、されど大津波。 敵味方関係無く大船団ごと巻き込んだ大津波は全てを喰らい尽くし、引潮で根刮ぎ建築物を磨り潰し飲み込んで行く。荒れ果てた水浸しの沼だけを残し、一撃で戦況をひっくり返したのだ。
「ガキ共も死んだんじゃねぇのか?」
「心配無用にござる」
 蠢めく濁流の海の中ではガラス玉のような膜に守られた新人冒険者達が多く浮かび始める。
「忍具を預けているでござるよ、さて、バイオ殿我々の出番でござるよ」
「だな、ヌプ蔵死ぬなよ?」
「誰に言ってるでござるか」
 盛り上がりが絶頂の最中、崖から飛び降りようとした二人の頭上に、魔導ジェットの心地よい轟音が響き渡る。
「あれ、ヒナタ達だよな」
「嫌な予感がするでござるね」
 さて今から迷宮騎士と戦おうかとしている所に水を差すように、空気の読めないケットシー達が乱入したのだ。

「だんます!!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く