だんます!!

慈桜

第百七十三話 色付きの魔女?

 「やっれ、こらまた偉い美人だな。ナージャが化けてるのか?」
「違う違う、娘の方だよ」
「娘の方ってレジーナはまだこんな小さい赤ちゃんでってえぇー?!」
 庭先でレジーナと話して驚く麻草。 変わり行く世界への順応力が高い彼は、世間の常識に囚われない柔軟な考え方が出来る為に、ナージャ達の迷宮から出てきた美女が申告通りにレジーナなのだと理解して驚いているのだ。
「こりゃたまげたな。そのレジーナが大人の姿で何処に行くんだい? 急ぎなら送ってやるよ?」
「それは必要ないよ。でも、そうだね。箒とかある? 無かったらそこの木の枝とかでいいんだけど」
「箒? 竹箒ならあるけどな」
 ちょっと待ってろよと小走りに竹箒を持って戻ってくる麻草。 それを手渡されるとレジーナはブンブン振り回してからウンと頷き、それに跨る。
「いや、それはいくらなんでも」
「なんでもいいんだよ。あくまでもバランサーだからね」
 庭の落ち葉が舞い上がると、レジーナはゆっくりと浮かび上がる。
「いい箒だね。ありがとう」
 そう言い残してレジーナは笑顔で空へ消え去ってしまう。
「今更驚かんが魔女ってそう言うもんなのか?」
 尻餅をついた麻草は空を見上げて呟くが、それに答える者はいない。
「たのしぃぃぃいいい!!!」
 空では奇声を発しながら飛び回るレジーナの姿がある。
 大人びた美少女であっても、やはり何処か言葉が拙かったり、こうして叫んでしまっていたりすると、まだまだ幼さが残っているのだと感じる事が出来る。
 都内の空を縦横無尽に飛び回りながら、無敵のJKさながらに叫んでいると、えっちらおっちらと空を飛び、果てはバランスを崩して逆さまになりながらフラフラと浮かぶ魔女に遭遇する。
 黒く長い髪を重力に従って垂らした可愛らしい少女である。
 着る服が無かったのか、黒髪黒眼の美少女であるのに黒地にピンクの某猫のキャラクターのジャージ姿であるのが中々にシュールである。
「飛び方わかんないの?」
 レジーナは面白い奴を見つけたと興味津々で声をかけるが、少女はジト目でレジーナを見た後に頬を膨らませて体勢を整えようとするが、その反動で真横にグルグルと回ってしまう。
「あははは! 何してるの? お腹痛い!! やめて! 回らないで!!」
「ちょっと助けなさいよ!! うわ、うわわわ」
 あまりにグルグルと回っていると、遂に箒は穂先が折れてしまい、バランスを崩してフラフラと落下を始めてしまう。
 バランスが取れなくなってしまったのだ。
「おいで」
 レジーナは襟首を掴んで同年代の見た目の少女を抱きかかえると、そのまま背の高いビルへと着地する。
「あ、ありがとう。一応お礼を言っておくわ」
「アバターって事はアーカイブに接続出来てるんだよね? なんで飛べないの?」
「これよ、これ」
 黒髪が差し出したのは箒の柄である。 受け取ったレジーナはそれをブンブンと振ると真ん中から折れてしまう。
「すっかすか」
「そう、私の家はあまり裕福じゃないの。だからこんな古い箒しか無くて。でも此処から見たら世界樹は遠くないって思ったんだけどご覧の有様よ」
「ふーん、じゃあ魔女のよしみで一緒に箒探しに行こうよ。私はレジーナ、よろしくね」
「私は海凪みなぎよ、宜しく。手伝ってくれるなら助かるわ」
 レジーナと海凪が握手をすると、レジーナの魔力が爆発的に溢れ出す。 その魔力は海凪の全身を包み込み、気が付けば海凪の髪と眼は青く変色し所々に銀色のメッシュが入る。
「私は魔女を眷属にするのが目的だったしね」
「なるほどね。でもいいわね、あなたの眷属ならママの事が好きなままでいられる。それにこの綺麗な青い髪も素敵」
「そうだよ、魔女のアーカイブは世界樹を母親だと思わせるウィルスが組み込まれてるからね。私は殺虫剤!」
「あはは! なによそれ! でも面白い、あの世界樹の小娘泣かしに行きましょう」
 レジーナはウィンクをすると、再び竹箒に跨り、海凪もその背で共に跨る。
 タンデムである。
「その前に箒探しと眷属探しだね。その後に世界樹に喧嘩売りに行って色付き魔女カラーズの自治を認めさせよう」
「そうね、魔女として世界樹の上に住めないのは腹ただしいもの」
 空に浮かび上がると、レジーナと海凪は箒を探しに低空飛行へと切り替える。
「レジーナ、ちらほら世界樹に向かってるわね」
「そうだね、けど二人乗りじゃ追いつけないよ」
 彼方此方でスマホのシャッター音が響き渡る中、同じように箒に跨る魔女の姿を見かけるが、そのスピードはとてもじゃないが追いつきそうにもない。
 公園やテレビ局や街中やと、ドラゴン教授が必死に金の果実を配り歩いてるのは余談だが、二人乗りの魔女は遂に、広く大きなバルコニーにお誂え向きな竹箒を発見する。
「盗んだ箒もあまり言う事聞かないんだよね」
「お互いにそれを知ってるって事はそう言う事なんじゃない?」
 ならばとレジーナは窓をコンコンとノックする。
 突然のバルコニーからの来客に何事かと勢いよくカーテンが開かれると、寝癖のぼっさくれた中年男性は腰を抜かして尻餅をつく。
 そりゃあそうだろう、家のバルコニーに見ず知らずの超絶美女が二人も立っていたら腰を抜かすのも無理は無い。
「外の箒!! 貰っても!! いいですかっ??」
 窓越しにレジーナが叫ぶと、男は意味がわからずにウンウンと頷くとレジーナと海凪は嬉しそうに顔を見合わせて空へと飛び立って行く。
「なんなんだよ」
 男の声が二人に届く事は無い。 麻草に続き、この短時間に二人目の尻餅である。 彼女達の突拍子も無い行動は多くの人を驚かせて行くのだ。
「たのしぃぃぃいいい!!!」
「子供じゃないんだからやめなさいよ!」
「え? 赤ちゃんだよ?」
「それは本体でしょ? 私達は16年後の姿なんだからもっと淑女としての嗜みをって聞いてねぇ!!」
 レジーナははしゃぐキャラでは無い。 何方かと言えばクールビューティであるし、家族と話す時などは落ち着いていて、少し冷たくも感じるぐらいである。
 だが、自身が側に居ても傷付ける心配の無い眷属と共に、そして自由に空を飛び回っていれば、それは歳相応の少女となんら変わらないテンションになってしまうのも致し方ないだろう。
 普段大人しい子がクラブに行くと弾けるのと同じ原理である。
 そんな折、箒でレースをしているレジーナと海凪に対抗するように、ショートカットのボーイッシュな少女が並走する。
「なんだおめぇら、チンタラ飛びやがって」
 飛んで火に入る夏の虫、ネギを背負った鴨とはこの事である。
 さてここで問題である。
 先程の海凪の飛行を見るにも明らかであるが、魔女の飛行に必要なバランサーとして箒は重要なキーになっている。
 そこで、この日本国の裏のドンと言われる程の麻草太郎の邸宅で使用されている竹箒が、そこらの数百円の竹箒と同じであろうか?
 答えは否である。
 麻草の家にあった竹箒は厳選された天然竹を使用した一万円を越える五段締めの最高級竹箒である。
 当然DMショップやアークスショップに並ぶ高級な魔女専用の箒なんかと比べたらゴミ以下であるが、現時点ではレジーナの箒に勝る箒を持つ者は誰一人とて存在しないだろう。
 それはタンデムが出来る程に高性能であるのを見れば火を見るより明らかなのだが、そんな箒に跨ったレジーナが本気で飛んだらどうなるだろうか?
「じゃあ勝負してもいいよ? のろまな魔女さん」
「上等だ銀髪くそ魔女!!」
 そして彼女は銀の魔女、生まれ落ちて今日に至るまで、ナージャが創り出すミスリルをミルク変わりに魔力に変換し続け、その身に蓄積し続けている変態的な魔女である。
「じゃあここから見える、あの背の高い塔に先にタッチしたら勝ちでどう?」
「上等だよ! やってやろうじゃねぇか!!」
 一触即発の空気を割るように海凪が間に入る。
「じゃあ私が合図を出すわ、行くわよ! せーの! どん!!」
「なにそれダサい!!」
 レジーナは笑いながらにも一気に加速し、銀色の光を放ちながら某押上ツリーに一早くタッチする。
 ショートカットの少女は驚愕と悔しさに顔を歪めて歯軋りをしている。
「なんだよそれ! おかしいじゃねぇか!!」
「お互い魔女ってのは同じだけど、根本的に格が違うんだよ」
「キーッ!! むかつく! なんなんだよお前は!!」
「私が何かは握手をしたらわかるよ。勝ったんだからそれぐらいしてもらってもいいよね」
 少女は口を尖らせながらも、致し方無しと握手を求められた手を握り返す。
 その握手は海凪の時と同様にレジーナの銀色の魔力が溢れ出し少女を光が包み込んで行く。
 ボーイッシュな少女は赤髪に銀メッシュを散りばめた赤眼の姿へと変化する。
 赤髪が多いがそれは言及しないでいただこう。 ここで更にレジーナの眷属が一人増えたのだ。
「そういう事か、なんだ、その、ありがとな」
 赤髪の少女は照れ臭そうに後頭部を掻きながらレジーナに感謝するが、レジーナは改めて握手を求める。
「私はレジーナ、あなたは?」
「オレは緋雨ひさめ、よろしくなレジーナ」
「やっぱり属性変換は名前が関係するのかな?」
「うん? なんの話だ?」
「いや、なんでもないの。独り言」
 レジーナが眷属にする事により、通常は万能型の魔女が属性特化型に変換される。 それはレジーナがミスリルを無限に魔力へと変換出来る特性を、属性ルーンを与えて特化させる事による変質だ。
 海凪が青、緋雨が赤、名前から想像しやすい属性へと二人続けて変化した事にレジーナは名前が関係してるのでは無いかと憶測をしたのだ。
「流石に魔女の全知とも言えるアーカイブでも銀の魔女の事は未解明だものね、時間を掛けて検証したらいいじゃない」
「そうだね、海凪と緋雨がいたら心強いよ」
 それとほぼ同時であった。
 示し合わせたかのように彼方此方から多くの魔女が飛び立ち、世界樹へ向けて幾つもの列を成しているのだ。
「助けてやりてぇけど全部は無理だな」
「それはそれで一つの幸せだからいいんだよ。みんな森の魔力で産まれたんだから間違いでもないしね」
「でも実の母ちゃんより世界樹の方が愛おしいなんて間違ってると思うけどな」
「それが世界式に刻まれた本来の魔女、世界樹で生活して、花嫁修業と力の使い方を学び、そして新人類の生みの親になる。イレギュラーなのは私達の方なんだよ」
 某押上ツリーの上に立ち360°何処を見てもコンクリートジャングルが広がる東京を見下ろす三人の魔女。
「じゃあ、行こっか」
 魔女達は西の空へと飛んで行く。
 そして一仕事終えたドラゴン教授と赤雷もまた、夕焼けの茜色の空に舞い上がる。
「これだけいたら世界樹さんも納得だろうね。帰ろうか赤雷」
「きゅあっ!!」


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