だんます!!
第百五十八話 水のルーン?
ミネソタ州ミネアポリス。 シックな軽食店でフィッシュ&チップスに舌鼓を打つヒルコ。
白と黒を基調にした店内には多くのビジョンが埋め込まれ、邪魔にならない程度のジャズが流れる。
涼しいながらに夏の陽射しに照らされる中、千鳥柄のベストスーツを着込み、長い髪を襟足を残して一つ括りに纏めたホーステールを揺らす。
青いレンズの丸眼鏡越しにバリスタを見てニヤけるヒルコ。
以前の少年らしさは一切無くなり、彼を深く知っている者でも、その僅かにだけ感じる程度の面影と、ミルクティーベージュの艶やかな髪で、言われれば彼が成長した姿なのかなと辛うじて理解するので精一杯。 それ程に大きく成長している。
「コーヒーのおかわりはいかが?」
「ありがとう貰っとくよ」
キリッと整った眉目秀麗の青年であるヒルコがカップを傾けると、コーヒーポットを置いたバリスタは深呼吸をして胸の黒いカードを取り出す。
「かつてこの町は40万人以上の人で賑わっていたんだ」
白髪混じりの短く整えた髪をバックに流す、ダンディなおじ様であるバリスタは、カードをその手に持ったままにカウンターからホールへ出て窓の外を眺める。
「へぇ、今じゃ俺とバリスタだけだな? なんでだろうな」
大きな交差点、建ち並ぶ背の高いビル、その窓からは日頃多くの車や行き交う人々を見る事が出来た。 それが今では信号が青に変わろうとも動かない車が列をなすだけ。
「……ヒール、君は何故この悪魔のゲームに参加しているんだい?」
「俺ヒルだよ。正式にはヒルコだけど」
静かながらにも一触即発と言った状況であるが、ヒルコは店内の至る所に埋め込まれたヴィジョンから流れるニュースを見て愕然とする。
「それがトリガーか」
テレビの画面には自由の女神の首が斬り落とされたと速報が流れている。 ヒルコは自身の中に巡る感覚に納得すると、同時にスマホが振動する。
差出人は綾鬼である。
内容はただ簡素な一文のみ。
━━
本文:時は来た。
━━
ヒルコはポケットからカードを取り出して舌を出しながらおちゃらける。 それを横目に見て、バリスタは再び外を眺める。
「互いに力を得た。ここで戦わずとも、真実の日が訪れたなら、我々は良き協力者になれるのじゃないかな?」
男は背中で語るとは良く言ったものだ。ヒルコがもしこの国で生まれ育ち、なんの柵も無く、このバリスタに出会っていたら彼の言葉が胸に響いた未来もあったのかもしれない。
「俺たちは過去に大きな失敗をしたんだ。上司がいけ好かない奴でな、もっと魅力的な条件に飛びついたら大敗北を喫する結果になった」
コーヒーを飲み干すと、ヒルコは座席から立ち上がりバリスタへ向けて体を反転させる。
「そりゃ勝てないはずだよ。そのいけ好かない上司には女神様が付いてんだから」
ブラックカードの中央で指先を焼くと、視界は暗闇から闘技場へと切り変わる。
「今また失敗しそうになってるが、それはいいのかい?」
バリスタは先程と同一人物とは思えない程に様変わりしている。 赤色の全身鎧に、動きの補助をする魔導エネルギーパルスが巡り、各位設置された排出口から古い魔素が排出されると、ジェット噴射で加速する。
某アメコミの騎士バージョンスーツと言った具合の装備である。
「そうだな。強さの具現が弱い奴を相手にする俺が可哀想だって考えたら、お前を相手にしたのは失敗だと思ってる」
空間が歪んだかと錯覚する程の速度で赤い全身鎧はヒルコに襲い掛かるが、加速したまますり抜けて壁に激突する。
ヒルコはただ半身で避けただけだ。
「米国人ってさ、やれパワードスーツだの、やれ核爆弾だのってそれしか強さに対するレパートリーないのか? これだけのラディアルってわかんないか、命の力を使えるのにさ、もっと力に真摯に向き合った方がいいと思わないか? 」
「攻撃を躱したぐらいで饒舌になるのも弱く見えるよ、お客さんっ!」
バリスタは即座に二撃目に移ろうとするが、言っている側から目を見開き、コポコポと血を吐き胸を押さえてもがき苦しみ始める。
「お互い中佐で旗騎士クラスまで階級上げてるのにこんなに差があるのは悲しいな、まぁコーヒー美味しかった。ありがとう」
ヒルコが一礼するが勝利宣言はまだ行われない。 しかしバリスタは今も尚血を吐きもがき苦しみ続けている。
「命のストックがあっても、この殺され方は辛いよな? 何が起きてるか知りたいだろうから説明しとく。バリスタの魔素に干渉して、心臓に繋がる血管内部に自動生成した針を送り続ける仕掛けを設置したんだ。今迄どれだけ殺したのかは知らないけど、ゆっくり死んでくれ、本でも読んでおくから」
ヒルコは後ろのポケットから本を取り出すと、その場で胡座をかきながらにそれを読み始める。 バリスタは怒りと苦しみから反撃しようとするが、更に顔を歪め何度も死に続ける結果となる。
「ちなみに魔力操作を行うと今みたいに急速に針の精製が進むからもっと苦しくなるだけだよ。変に強くなりすぎると簡単に死ねないから大変だよな。でも俺が同格で良かったよ。格下なら永遠に苦しむ事になったと思うし」
これより小一時間、バリスタは苦しみ続ける結果となる。 パラリと捲られる紙の音、響き続ける呻き声。 ヒルコは本を読みきってしまい、未だ苦しむバリスタを見て驚く。
「オイアウエ! 驚いた、まだ死に続けてたんだ。時間無いからそろそろ終わるぞ? それはほんのジョーク、以前力を手に入れた時は何一つ見せ場無く終わってしまったから技を楽しむ癖があるんだよな。悪かった」
ヒルコがバリスタの胸に手を添えると、次第に血液が全身から滲み出しカラカラに干上がって行く。 絞り出された血液は球体となりバリスタを包み込むと、アイアンメイデンのように剣山に穿たれ続ける。
「俺は水のルーンを熟知してる。だから液体を自在に操る事が出来るんだ。それは勿論血液も含まれるって聞こえて無いか」
オートメーションの殺戮球体に幾度と命を奪われ続けると遂にアナウンスが響く。
ヒルコの勝利の確定である。
『商人、サラ・ブレンダンより商談の申請が来ております。いかがなさいますか?』
「勿論受ける。長い付き合いだったな。今迄ありがと」
『他によろしい条件があらば再び相見えましょう』
ヒルコは届いたメールを操作して簡単に承認ボタンを押す。 同時に閻魔の世界式下での騎士選考の力を持ったままに表世界に切り変わる。
「それは無いよ閻魔のコアさん。あんたの声は機械的過ぎるしケバすぎる」
ブラックカードを簡単に圧し折り、乱雑に投げ捨てると、カルラ、綾鬼、樹鬼を引き連れたラビリの元に歩み寄る。
「遅かったなヒルコ。だが、お前らが多くの都市を潰してくれたおかげで助かったよ」
「どういたしまして我らが社長。なんちて。結局協力者送るって言って無し? 最初の四人だけだけど」
「いいや、ちゃんと仕事して貰ってるよ。ただ、これから自由のお前達には関係無いだろう?」
「はぁ……俺やっぱお前嫌いだな。この洗脳みたいな奴は解けないんだろ?それなら俺はお前の為で無く勝手にコアさんの為に戦うよ」
忠誠値100の固定、それがどれだけえげつないかは大臣の部下達を見ていれば一目瞭然。 70もあれば過分な忠誠値と言えるにも関わらずコアが直々に100にしているのだ。 それがラビリの方針だとわかっていながらも、彼らはコア自身が我々をそうまでして必要としていると勘違い…いや確信してしまうのだ。
「それならいつか協力者達に会える日も近いんじゃないか? お前らには遠く及ばないが、来たる冬は近そうだからな」
「夏に言われてもな。けど、とりあえずやる事やってから適当に潜伏しとくよ」
「あぁ、よろしく頼む。あまり無理はするな」
「無駄に優しさ見せてんじゃってもういねぇか」
空振りしたヒルコを見て綾鬼はクスクスと笑い、殴り合いの喧嘩に発展したのは割愛する。 それから間もなく、ヒルコ達の協力者達へのトリガーであるゴールデンゲートブリッジが斬り落とされるが、彼らはその意味合いを知る由も無い。
珍しくラビリの策がばっちりはまり、商人システム、騎士システムを逆手に取って僅かながらにも戦力を削ぐ事に成功する。
当然閻魔もこれに気が付いてはいるのだが、彼は現在それどころじゃない状況に晒されている。
それは彼の怒りを買い、そして結果来たる戦いまでの猶予を失う事になるのだが、この時はまだ誰も知らない。
白と黒を基調にした店内には多くのビジョンが埋め込まれ、邪魔にならない程度のジャズが流れる。
涼しいながらに夏の陽射しに照らされる中、千鳥柄のベストスーツを着込み、長い髪を襟足を残して一つ括りに纏めたホーステールを揺らす。
青いレンズの丸眼鏡越しにバリスタを見てニヤけるヒルコ。
以前の少年らしさは一切無くなり、彼を深く知っている者でも、その僅かにだけ感じる程度の面影と、ミルクティーベージュの艶やかな髪で、言われれば彼が成長した姿なのかなと辛うじて理解するので精一杯。 それ程に大きく成長している。
「コーヒーのおかわりはいかが?」
「ありがとう貰っとくよ」
キリッと整った眉目秀麗の青年であるヒルコがカップを傾けると、コーヒーポットを置いたバリスタは深呼吸をして胸の黒いカードを取り出す。
「かつてこの町は40万人以上の人で賑わっていたんだ」
白髪混じりの短く整えた髪をバックに流す、ダンディなおじ様であるバリスタは、カードをその手に持ったままにカウンターからホールへ出て窓の外を眺める。
「へぇ、今じゃ俺とバリスタだけだな? なんでだろうな」
大きな交差点、建ち並ぶ背の高いビル、その窓からは日頃多くの車や行き交う人々を見る事が出来た。 それが今では信号が青に変わろうとも動かない車が列をなすだけ。
「……ヒール、君は何故この悪魔のゲームに参加しているんだい?」
「俺ヒルだよ。正式にはヒルコだけど」
静かながらにも一触即発と言った状況であるが、ヒルコは店内の至る所に埋め込まれたヴィジョンから流れるニュースを見て愕然とする。
「それがトリガーか」
テレビの画面には自由の女神の首が斬り落とされたと速報が流れている。 ヒルコは自身の中に巡る感覚に納得すると、同時にスマホが振動する。
差出人は綾鬼である。
内容はただ簡素な一文のみ。
━━
本文:時は来た。
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ヒルコはポケットからカードを取り出して舌を出しながらおちゃらける。 それを横目に見て、バリスタは再び外を眺める。
「互いに力を得た。ここで戦わずとも、真実の日が訪れたなら、我々は良き協力者になれるのじゃないかな?」
男は背中で語るとは良く言ったものだ。ヒルコがもしこの国で生まれ育ち、なんの柵も無く、このバリスタに出会っていたら彼の言葉が胸に響いた未来もあったのかもしれない。
「俺たちは過去に大きな失敗をしたんだ。上司がいけ好かない奴でな、もっと魅力的な条件に飛びついたら大敗北を喫する結果になった」
コーヒーを飲み干すと、ヒルコは座席から立ち上がりバリスタへ向けて体を反転させる。
「そりゃ勝てないはずだよ。そのいけ好かない上司には女神様が付いてんだから」
ブラックカードの中央で指先を焼くと、視界は暗闇から闘技場へと切り変わる。
「今また失敗しそうになってるが、それはいいのかい?」
バリスタは先程と同一人物とは思えない程に様変わりしている。 赤色の全身鎧に、動きの補助をする魔導エネルギーパルスが巡り、各位設置された排出口から古い魔素が排出されると、ジェット噴射で加速する。
某アメコミの騎士バージョンスーツと言った具合の装備である。
「そうだな。強さの具現が弱い奴を相手にする俺が可哀想だって考えたら、お前を相手にしたのは失敗だと思ってる」
空間が歪んだかと錯覚する程の速度で赤い全身鎧はヒルコに襲い掛かるが、加速したまますり抜けて壁に激突する。
ヒルコはただ半身で避けただけだ。
「米国人ってさ、やれパワードスーツだの、やれ核爆弾だのってそれしか強さに対するレパートリーないのか? これだけのラディアルってわかんないか、命の力を使えるのにさ、もっと力に真摯に向き合った方がいいと思わないか? 」
「攻撃を躱したぐらいで饒舌になるのも弱く見えるよ、お客さんっ!」
バリスタは即座に二撃目に移ろうとするが、言っている側から目を見開き、コポコポと血を吐き胸を押さえてもがき苦しみ始める。
「お互い中佐で旗騎士クラスまで階級上げてるのにこんなに差があるのは悲しいな、まぁコーヒー美味しかった。ありがとう」
ヒルコが一礼するが勝利宣言はまだ行われない。 しかしバリスタは今も尚血を吐きもがき苦しみ続けている。
「命のストックがあっても、この殺され方は辛いよな? 何が起きてるか知りたいだろうから説明しとく。バリスタの魔素に干渉して、心臓に繋がる血管内部に自動生成した針を送り続ける仕掛けを設置したんだ。今迄どれだけ殺したのかは知らないけど、ゆっくり死んでくれ、本でも読んでおくから」
ヒルコは後ろのポケットから本を取り出すと、その場で胡座をかきながらにそれを読み始める。 バリスタは怒りと苦しみから反撃しようとするが、更に顔を歪め何度も死に続ける結果となる。
「ちなみに魔力操作を行うと今みたいに急速に針の精製が進むからもっと苦しくなるだけだよ。変に強くなりすぎると簡単に死ねないから大変だよな。でも俺が同格で良かったよ。格下なら永遠に苦しむ事になったと思うし」
これより小一時間、バリスタは苦しみ続ける結果となる。 パラリと捲られる紙の音、響き続ける呻き声。 ヒルコは本を読みきってしまい、未だ苦しむバリスタを見て驚く。
「オイアウエ! 驚いた、まだ死に続けてたんだ。時間無いからそろそろ終わるぞ? それはほんのジョーク、以前力を手に入れた時は何一つ見せ場無く終わってしまったから技を楽しむ癖があるんだよな。悪かった」
ヒルコがバリスタの胸に手を添えると、次第に血液が全身から滲み出しカラカラに干上がって行く。 絞り出された血液は球体となりバリスタを包み込むと、アイアンメイデンのように剣山に穿たれ続ける。
「俺は水のルーンを熟知してる。だから液体を自在に操る事が出来るんだ。それは勿論血液も含まれるって聞こえて無いか」
オートメーションの殺戮球体に幾度と命を奪われ続けると遂にアナウンスが響く。
ヒルコの勝利の確定である。
『商人、サラ・ブレンダンより商談の申請が来ております。いかがなさいますか?』
「勿論受ける。長い付き合いだったな。今迄ありがと」
『他によろしい条件があらば再び相見えましょう』
ヒルコは届いたメールを操作して簡単に承認ボタンを押す。 同時に閻魔の世界式下での騎士選考の力を持ったままに表世界に切り変わる。
「それは無いよ閻魔のコアさん。あんたの声は機械的過ぎるしケバすぎる」
ブラックカードを簡単に圧し折り、乱雑に投げ捨てると、カルラ、綾鬼、樹鬼を引き連れたラビリの元に歩み寄る。
「遅かったなヒルコ。だが、お前らが多くの都市を潰してくれたおかげで助かったよ」
「どういたしまして我らが社長。なんちて。結局協力者送るって言って無し? 最初の四人だけだけど」
「いいや、ちゃんと仕事して貰ってるよ。ただ、これから自由のお前達には関係無いだろう?」
「はぁ……俺やっぱお前嫌いだな。この洗脳みたいな奴は解けないんだろ?それなら俺はお前の為で無く勝手にコアさんの為に戦うよ」
忠誠値100の固定、それがどれだけえげつないかは大臣の部下達を見ていれば一目瞭然。 70もあれば過分な忠誠値と言えるにも関わらずコアが直々に100にしているのだ。 それがラビリの方針だとわかっていながらも、彼らはコア自身が我々をそうまでして必要としていると勘違い…いや確信してしまうのだ。
「それならいつか協力者達に会える日も近いんじゃないか? お前らには遠く及ばないが、来たる冬は近そうだからな」
「夏に言われてもな。けど、とりあえずやる事やってから適当に潜伏しとくよ」
「あぁ、よろしく頼む。あまり無理はするな」
「無駄に優しさ見せてんじゃってもういねぇか」
空振りしたヒルコを見て綾鬼はクスクスと笑い、殴り合いの喧嘩に発展したのは割愛する。 それから間もなく、ヒルコ達の協力者達へのトリガーであるゴールデンゲートブリッジが斬り落とされるが、彼らはその意味合いを知る由も無い。
珍しくラビリの策がばっちりはまり、商人システム、騎士システムを逆手に取って僅かながらにも戦力を削ぐ事に成功する。
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