だんます!!

慈桜

第百五十七話 サラ・ブレンダン?

  ブラックカードにより商人と認定されてしまったサラ・ブレンダン。 彼女はある日を境にL.Aクロック社の記者としてメキメキ頭角を現し始める。
「えぇ、そうね、それでいいわ。そうなの、ハバロフスクのダンジョンパークよ。そう元、露国のね。えぇ、そうよ。記事に出来るのは明日になりそうね、約束の時間になっても来ないのよ、ええ、またね」
 エメラルドグリーンの透き通るような美しい瞳を眼鏡で隠し、黄金よりも価値があるように感じてしまう美しいブロンドを一纏めに右肩から流すように纏めているサラ・ブレンダン。
 彼女はIP電話で同僚へ仕事の連絡を入れると、木造の掘建小屋のようなカフェでコーヒーを啜っている。
「もしやあなたはドラマ版のスーパーガー◯に出演していた方では?」 
 突如冒険者に話しかけられ、驚きにコーヒーを吹き出しそうになったサラは、慌ててカップをおいてハンカチで口元を押さえて可愛らしい笑顔を見せる。
「私がメリッ◯・ブノ◯? ありえないわ! とても嬉しいけどお世辞としては微妙なラインよ? だって、ほら彼女は」
「あの流出は衝撃だったな。いや中々話せる口だな御令嬢。あのドラマどう思う? 俺としては主役が美人過ぎてドキドキしてしまって話が全く入って来なかった」
 サラは違和感に眉間に皺を寄せながらに笑顔を浮かべ、冗談でしょと更に破顔する。
「oh……あなたもしかして口説いてる? いや、その、間違いだったらごめんなさいね? 」
 かわいい。 美人なのにかわいい。
「なんでわかったんだ? 俺なりに遠回し遠回しに外堀を埋めていくつも だったんだけどな。やっぱりこんな悪人面の丸坊主に口説かれるのは嫌かい?」
「とんでもない。凶悪だなんて、その、そうね、とても可愛いわ。ワイルドで女慣れしてそうなのに初心うぶな感じ」
「おーう、こう見えても俺はやり手だぞ? そうだな、俺は頭の狂ったガンマンだ! でも頭が狂ってるせいでいつも命の危機に晒されてる。なんでだと思う?」
 丸坊主の凶悪な面構えと自称する男は両手をピストルに見立ててパンパンパンパンと打つ振りをしながら弾切れで困ったとジェスチャーをする。
「あぁ、ふふ、もし私が思ってる通りの答えなら、それを出題した貴方も、わかってしまった私も最低ね?ふふ」
「あ、ごめん、今のちょっと無し。マジでやばい。俺ガチで好きになっちゃったかもしんない」
 答えはいつもぶっ放して弾が無いって落ちの下ネタであるのだが、丸坊主の男は胸が苦しいぃとテーブルに頭を伏せる。 それを見てサラは笑いながらに、その笑いを止めようとポン、ポンと自身の胸を叩く。
「ショーキ、俺はショーキだ。よろしく」
「サラよ、サラ・ブレンダン」
 そう、彼は拳語會総長であるショーキである。 丸坊主に極悪な面構え、真っ黒のレザージャケットからVネックのサーマルロングTからはちきれんばかりに筋肉が浮かび上がる、まさに武骨で漢臭い昭和の喧嘩屋ショーキである。
「よし、サラ。俺はお前を嫁にする。いや、でもそんだけの美人だ。結婚してたり恋人がいるよな?」
「自己紹介から結婚だなんて話が飛躍し過ぎよ? それに恋人なんて長らくいないわ、仕事が恋人だもの」
「そうか、米国人の男は目が腐ってるんだな。でも感謝だ、こんな美人に出会うチャンスをくれたんだからな」
 彼が手を差し出し握手を求めると、サラも笑顔でその手を握り返す。 二人の胸の高鳴りに、次第に周囲は薔薇色に包まれるかと思ったが、その幸せな沈黙も長くは続かない。
「何処行きやがったあのマルコメ」
「キンコ蹴り上げてやろう」
 其処にはショーキを探しているバイオズラとタロウの姿がある。 店の外から店内を見回すが、店内では犬耳の白髪の主人が豆をゆっくり擦っているだけである。
 店内ではサラの肩と頭を抱き抱えて、テーブルの下に潜るショーキの姿がある。 左手人差し指を唇に当てて静かにとジェスチャーを送りながらに。
 一応と言わんばかりに店内にはターバンを巻いた色黒の男が巡回する。
「あっ」
 あかんあかんあっちいけとジェスチャーを送ると仕方ないなとリシンは首を振りながらに外へ行く。
「見当たりませんでしたね」
「くそ、あいつ。みつけたらちん◯縛って吊るしてやる」
 二人が通り過ぎるのを見計らい、ショーキは店の裏手の壁を蹴り1発で破壊する。
「マスター、俺の口座から修理費引いといてね」
「まさか。冒険者専門の喫茶ですよ? コーヒーの代金に含まれてますよ」
「通りで高いはずだな」
 コーヒー一杯300DM、ショーキは1000DMをメニューから支払ってサラを連れ出そうと腕を引く。
「待って。この後取材があるの。冒険者に独占取材のアポをいれてて」
「ん? その冒険者の名前は?」
「Mr.松岡とドラゴンキングよ。もう約束の時間に1時間以上過ぎているけれど」
 それを聞いてショーキは肩を震わせる。 その顔は笑いを堪えるように口元がもごもごと動くが、それを見てサラも嫌な予感がすると、片目を瞑りながらに答えを待つ。
「からかわれたのね?」
「あぁ、あいつらは鉾部でドワーフのおっさん達とスケボーパークの建造に忙しいからな」
 残念でしたと肩をすくめると、サラはやられたと頭を抱える。
「でもラッキーだったな? 俺もこう見えてTOP50に入る冒険者だ。松岡や龍王にも負ける気もしない。そんな俺でいいなら無料でいつでも何処でも取材を受けてあげられる」
「なんとなくイヤらしく聞こえるのは気のせい? 」
「勿論ご相談とあらばベッドの上での話も光栄だ」
 ショーキは辛抱たまらんとサラをお嬢様抱っこで抱き上げて、店の壁から駆け出して行く。
 まさに彼は今人生で絶頂にテンションが上がっているだろう。 まさに自分のドストライクの女性をナンパして満更でも無い関係になろうとしているのだから。
 拳語會は摩天楼以外での女っ気はゼロである。 それもその筈だ。 いかに財も力もあったとしても、彼らは朝から晩までダンジョンでの己の研鑽に費やし、夜は摩天楼で朝まで果てるを繰り返しているのだ。 女性と出会う機会などある筈もない。
「俺は今、最高に幸せだ!!」
「幸せなところ邪魔して悪いが…」
 絶頂から一気に地に叩きつけらる。 その襟首を強引に掴んだ手はアラビアの王様のような格好に全身に金銀財宝を身に付けた男だ。
「ダンマス? 空気読んで? お願い、俺もパパになる日が来たの、わかる? ねぇ? わかるよね?」
「すまないが俺も彼女に用事があるんだ。松岡達に手伝ってもらって呼び出す程にはな。直ぐ済むが、聞かれたくない内容もあるんだ。少し外してくれ」
「う、嘘つけぇ……はぁ、わかったよ。サラ、良かったらまた連絡くれ」
 ショーキはショップを操作し、大臣のショップから木札を買う。 はずれ商品ではあるが、安くて便利でナンパの必殺アイテムとしては人気があるのだ。
「俺を思い浮かべたらいつでも話せる。待ってるよ」
「え、えぇ、また連絡するわ」
 ラビリがすまんなと、ショーキの肩を叩き、ショーキは気にすんなとラビリのケツを鷲掴みにしてから路地裏へ消えて行く。
「さて、サラ・ブレンダン。単刀直入に商談を願い出たいのだが、お時間頂けるかな?」
 サラは驚いた表情を垣間見せるが、相手は件のダンジョンマスターである。 直ぐに納得したと頷くと、口をキツく結び、了解を示しラビリの目を見つめながらにもう一度頷く。
「自由の女神の首が落ちたら、この四名を此方の世界式での雇用で商談をして欲しい。そしてこの五名はゴールデンゲートブリッジが落ちたら此方の世界式での雇用を頼みたい、雇用主はラビュラント・ガーディアンと設定してくれたら自動で商人システムが此方にアクセスするはずだ。元は此方の者達だ、了承は簡単に取れる。問題はサラ・ブレンダンへの報酬だが」
「あ、あの」
「なんだ? 何か問題があったか?」
「いいえ、出来れば報酬は私をこのカードから解放して欲しいの。勿論協力はさせてもらう、でもそれが終わったら……」
「心配しなくていい、近い将来閻魔の世界式は消える。その四人頼んだぞ、タイミングは」
「自由の女神の首が落ちたらね」
 ラビリはよろしいと頷くと、その場から姿を消す。
 サラは渡されたファイルをバックに仕舞い込むと、先程までラビリが立っていた場所に再び視線を送る。
「何が起きようとしてるの……ショーキ、まだ近くにいるかしら?」

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