だんます!!

慈桜

第百五十六話 メイファータソしゅごい?

  老夫婦が売りに出していた木造の一軒家、中にはソファに寝転がりながらにテレビを見る赤髪の男と、何やらベッドに眠る女の子を甲斐甲斐しく世話をしている赤髪の女。
「めありーや、茶をくれんかね」
「お爺ちゃんのふりすんのやめな。首絞めたくなるじゃないさ」
 ジャイロとグレイルである。
 水差しで眠り続けるメイファーに回復薬をゆっくりと飲ませるジャイロ。 一緒にいた筈のヒルコや綾鬼達の姿は無い。 この家にいるのはグレイルとジャイロだけである。
「回復薬はちゃんと飲むんだけどね」
「相手しすぎなんちゃうんか? 寝とった方が楽やってなってもてんちゃう?」
「黙ってそのクソみたいな番組見ときな! 口からクソ吐いてんじゃないよ!」
「なんやとギザッ歯コラ! 」
 平常運転だ。 メイファーが樹鬼の所に転移してからほぼ三ヶ月、初めの一週間は彼らも共にメイファーを見守り、閻魔に感付かれないように離れた場所へ宿を置き、主にグレイルの無茶振りや我儘に散々振り回されていたのだが、密命がある事を説明し早々に去っていったのだ。
 それからメイファーを守る為に、グレイルとジャイロも不本意ながらに力を隠し、こそこそし続けているのだが、メイファーは一向に目覚める気配は無い。
「あぁ……これが可愛い女との共同生活やったら薔薇色やのにやな」
「あたいが可愛くないってのかい? それはあたいだけじゃ無くダーリンまで侮辱してる事になるよ」
「お前まじか」
 こんなに長引くとは思っていなかったが、現状メイファーだけが手掛かりである為に、グレイルも大人しくしているのだが、やはり限界と言う物がある。
「やっぱ閻魔のデバイス持ってる奴根刮ぎ塵殺したったらええんちゃうか。ほいたらたまらんくなって出てきよるやろ」
「でも今はただの人間だよ。進んでやってる奴もいれば巻き込まれた奴だっているじゃないさ。それを見極めるのは難しいよ。そこを間違えちまったら閻魔と変わらないからね」
「必要悪っちゅう考え方もあるんちゃうんか?」
「それこそ思うツボだよ。殺されたみんなの事を救済だって言ったんだからね、あいつは」
 グレイルだって馬鹿じゃない、それが良くない事だとわかっていても、わかっていながらもそれが正解としか思えなくなっているのだ。 閻魔はそれを見通した上で、表世界に顕現してない英霊を迷宮として設定し、隠しながらに育てているのだが、それを彼らは知る由も無い。
 力を蓄えさせない為には正解であるが、それに至ってはラビリの発案が一番効率的だろう。 敵の力を僅かながらにも削いで、尚自陣に加える事によって戦力を上げる事が出来るのだから。
「んんん、うーん、お腹すいた」
 この時のグレイルとジャイロの表情たるやなんとも言えない。 まるで無限にバナナが降ってきたゴリラのリアクションである。
 三ヶ月献身的に世話をしていたジャイロは飛びつくようにメイファーへ駆け寄り、その胸に小さな頭を抱き締める。
「うべ。ジャイロお姉ちゃん?」
「あんたずっと寝ていたんだよ。三ヶ月も目を覚まさなかったのさ」
「うそ、ヤムラシン様とちょっと喋っただけなのに……」
 その言葉にグレイルは再びガバッと起き上がる。 そしてメイファーへ駆け寄ると、ジャイロの胸に挟まる顔を引き抜き自身へ向ける。
「グレイル! あんたおっぱい触ったよ!」
「じゃかしゃ! 胸筋やろが!! おいメイファー、お前さっきヤムラって言うたよな? お前それあれか? パッと見た感じ真面目そうな黒髪の青年やけど喋ったらおもいっこ残念な奴か? モテるモテへんの次元やない感じの奴ちゃうんか?」
 ほっぺたをつねりながらに捲したてるグレイル。 メイファーは寝起きで頗る機嫌が悪いのだが、彼はお構いなしに頬を伸ばしまくる。
「むぅー、みためはわかりゃないひょ! でも変な人だったよ。此処から出る為にしろ兄と……えと、しろ兄と……」
 メイファーはジンジャーを思い出そうとするが、その陰にジャイロが浮かび上がり、何度もそれを否定するようにかぶりを振る。
 そしてジャイロの首からぶら下がる棺を見て、何か閃いたようにグレイルの瞳を見つめる。
「この世界の葬儀屋アンダーテイカー、そう、この世界の葬儀屋アンダーテイカーを連れてきてくれって! しろ兄と葬儀屋アンダーテイカーだよ! そしたらヤムラシン様は外に出られるって」
 メイファーの言葉に疑念を持ちながらも確信めいたのか、首を傾けるジャイロ。
「やっぱりあんたの予想通りにヤムラとダンマスは別物になってるようだね? けど葬儀屋と庭師がいるってヤムラの精神世界とこの世界にかずら橋でも作るつもりなんじゃあないかい?」
「そんなん出来るんか? それやったらコアさん説得した方が早いんちゃうんか?」
「いや、あんたの予測が当たってるなら今のダンマスはヤムラを使いたくない筈だよ。同じダンマスだとしても、閻魔を封印してからラビリを育て始めて、ある程度してからヤムラは姿を消した。そう考えたら、兎で行った他の世界は今のダンマスがこれまで主になって降して来てるんだ。あいつの性格なら、自分こそがオリジナルだと思ってるだろうさ。いや、並列思考からの分離だろうからオリジナルには変わりはないんだろうけどね、ややこしい」
「なるほどな、それやったらどないかしてメイファーに干渉したヤムラが外に出る方法を探してるんも納得できるな。どうせ前ん時みたいに暇潰しがてらにみんなに会いに来て納得したように笑って消えるんやろけどな。くそ、なんかおかしい思ててん。どない考えても辻褄合うやんけ。さっきラビリで会うた思たらヤムラで会って頭わやくそに撫で回してったんや、おかしい思てもいつものキマグレやろなて気にも止めてへんかったわ」
 ジャイロとグレイルが喋るたびに首をブンブンと振り双方の言葉を聞くメイファーを他所に、二人は作戦を立てて行く。
「せやけどこっちの世界の葬儀屋アンダーテイカーは夢幻でお寝んねしとんねやろ。説得すんのは相当だるいで」
「まずは夢幻に干渉出来るかどうかが問題だよ。メイファー、あんた閻魔の夢幻に干渉出来るんだよね?」
 メイファーは何を言われているのかわからない様子である。 だが、それっぽいのはあれだろうと首を傾げながらに頷く。
「お爺ちゃんの扉がいっぱいある部屋? かな? ヤムラシン様は、あそこにもう一回行って葬儀屋アンダーテイカーを連れてこいって。恐いからヤダって言ったんだけど」
「だけど?」
「気合でいけって」
 ジャイロが残念そうに眉を垂らしながらに目を瞑ると、グレイルは腹を抱えて笑い始める。
「わいらを連れて行く事も出来るんか?」
「できるよ、でもお爺ちゃんの赤い眼見たら死んじゃうよ?」
「かめへんかめへん、そこらは心配いらんで。わいら目瞑ってても開けてんのと変わらんからな。ほな善は急げや、さっさ行こか」
 グレイルがメイファーの頭をガシッと掴んで夢幻回廊に連れて行けと急かすが、メイファーは何度も首を振ってそれを拒否する。
「おなかすいた。なんか食べてから行こう。それにお爺ちゃんは恐いけど、もっと簡単に葬儀屋アンダーテイカーを探す方法もあるよ」
 メイファーは右目を全て鏡面に変える。
 それを見てグレイルは腰を抜かしたのかバランスを崩してソファにしがみつきながらに眼を閉じる。
「お前それあれやろ! なんや聞いた事あんぞ! 古の大陸のなんやシエル、そうやシエルクラティアの、なんやった? ほら昔聞いたやん! なんやったかな」
「おとぎ話であったね、天空の大陸の天鏡族の王族達、地上の民は皆がシエルの旅人で、世界中のルーンを集めては王様に謁見して、ルーンを返せば・・・ご褒美が貰える、でも黒髪の悪魔が目玉をくり抜いて、シエルを粉々にして浮遊石にして売り歩いたって」
 流石のジャイロも苦笑いで眼を瞑るが、それを見てメイファーが首を傾げる。
「じゃあメイズお兄ちゃんは悪魔?」
「それやそれそれ! そう言う事やろ! そうやないとダンマスがそんな目玉持ってるはずないやろ!」
「馬鹿言ってんじゃないよ。ヤムラがグランアースに来たのはそれよりずっと後さ、歴史なら閻魔の方が長いんだからね」
 答えの出ない不毛な言い争いの中、メイファーはジャイロに抱きついて目をこじ開けようとする。
「何するんだい! 離しな!」
「大丈夫だよ、メイファーとグレイルお兄ちゃんとジャイロお兄ちゃんを混ぜて強い冒険者に囮になってもらおう。それなら葬儀屋アンダーテイカーさんを簡単に探しに行けるよ?」
「は? 何を言ってるんだい?」
 ジャイロが半信半疑に薄眼を開けると、目の前では天鏡眼を開くメイファーがその時を待っていたと、ジャイロの中に入り込む。
「ッハァッ!」
 まるで呼吸法を忘れたかのようにジャイロが胸を抑え倒れ込むと、すかさずグレイルがその肩を支える。 その場にメイファーがいない事を知っているグレイルは目を開けてジャイロの顔を自身へ向ける。
「いけるか? おい、しっかりせ……」
 ジャイロが必死に首を横に振ると、グレイルも違和感に気がつく。 ジャイロの目を通して既にメイファーはグレイルの中に入り込んでいたのだ。
「ハァ、ハァ、ハァ」
「なんやこれ、はぁ……あぁぁ、溺れたみたいやな、はぁ……はぁ」
 永遠にも思われる空白、だが刹那の時を持って呼吸は再開されるが、振り向けば其処には鎖を繋いだ二本の大剣を背負う赤髪の美少女がいる。 美少女と言っても見た目はメイファーと瓜二つであるが。
「かわいいでしょ。グレイルお兄ちゃんとジャイロお姉ちゃんを掛け合わせたんだ。ジャイールちゃんでどうかな?」
 赤髪の少女は無表情にぺこりと一礼をする。 グレイルとジャイロは呆気に取られている。
「この子にお爺ちゃんの足止めをしてもらおう。それなら葬儀屋アンダーテイカーさんのとこに簡単に行けるはずだよ」

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