だんます!!

慈桜

第百三十七話

  印国の八割を命の森へと変え、後は人喰いを開始した女型屍喰鬼グール達を退けたなら印国は制覇と言った所まで来たハクメイ。
 街道の形が一目見て浮き彫りになるほどに白い一条の光が折重なり、地上を駆け抜ける中、高層ビルの一室にて血を飲みながらに自身を探し回るハクメイの光を愉快そうに眺める美女の姿がある。
 高級スカートスーツを着込み、胸元はシャツのサイズが合っていないのか、隙間からブラが見えてしまいそうな程にパツパツである。 緩やかな曲線を蛇行させる腰まである長いブロンド、黒い眼球に金色の瞳を持ち、額からは二本の赤い角が、彼女が人間とは違う存在なのだと主張するように伸びている。
「私達は魔物だから創造主様に迷惑をかけずに冒険者を食べれるのだけど、あの美しい男の子はどんな味がするのかしらね?」
 周囲で彼女を護衛するかのように整列する屍喰鬼グール達は、その発言に生唾を飲み込む。
「そうよね、力に飢えている貴方達には酷な質問だったわね。少し誘い出してみようかしら」
 彼女は赤い稲妻を周囲に展開する。 それは暴力的な魔力の奔流だ。 身を焦がす程の莫大な力の流れに、護衛のグール達も苦しそうに顔を歪める。
 流石のハクメイも馬鹿じゃない。 此処までの挑発をされたのならすぐにこの場所を特定する。
 外から窓ガラスを叩き割り、白く長い髪を揺らしながらに彼女を睨みつけるハクメイ。
「見つけたっすよ」
 部屋の片隅には全裸で転がされる女性の遺体と複数のグール、そしてバカラグラスに満たした血を飲みながらに妖艶な瞳でハクメイを品定めする女型の屍喰鬼グールの姿がある。
「血塗れっすね、美人が台無しっすよ」
「そう? 私の種族的には美しい絵面なのだけれどね」
「喋れるんすっ?!」
 話の途中であるのに、ハクメイの右太腿には血を硬質化させた刃が突き刺さる。
 あまりにも速く、そしてあまりにも突然の攻撃にハクメイは自身を光で構成する前に足を穿たれたのだ。
「甘いのね、何処までも甘美。もっと欲しいわ。もっと、もっとぉ!!」
 噛みちぎった手の甲から噴出する血液は剣山の如く形を変え、部屋そのものを埋め尽くす。
 壁や備品すらも串刺しにしながら、自身の同族すらも貫く。
 流石に時間をかけ過ぎなのでハクメイは光で再構成し、傷を治してからに攻撃を回避するが、攻撃が鳴りを潜めると既に其処には彼女の姿は無い。
 舌打ちをしながらビルの外へ目を向けると、彼女は対面するビルの屋上で同族に囲まれながらに笑みを浮かべる。
「私の血がある場所なら、私は何処にだって存在出来るのよ! さぁおいで! 早く私を殺してご覧なさい!」
 挑発である。 面白い玩具を見つけたと言わんばかりに愉悦に嗤う彼女。
「俺を舐めすぎっすよ」
 刹那、言葉を帰すように彼女の胸からは腕が生える。
「後ろから胸を揉むなんてどんな神経しているのかしら?」
 だが彼女は動じる様子も無く振り向き、背後に立つハクメイを横目に睨みつけ、裏拳を叩き込まれる。
「くそッ!!」
 ハクメイは魔石を探してやろうと全身くまなく探すが、見つける事は叶わず に距離を置く。
「胸の次は中身まで全部触るなんて変態通り越してるのね。流石に魔物の私でも悍ましく感じてしまうわ」
「なんで魔石がないんすか。魔物の癖に」
「核はあるわよ? 潰せば確実に死ぬ」
 ハクメイは再び全身を光に変え、何度も彼女を通過するが、遂には核を見つける事は叶わずに表情を歪める。
 モノのついでに挽肉になる程に攻撃を重ねているにも関わらず、彼女の体は血液が繋ぎとめあい、無傷のままに裸体を晒す。
 豊満なその胸を隠そうともせずに、彼女は身震いをする。
「はぁ……体を散々弄んで服を剥ぎ取るとかキモすぎるわ。少しタイプだと思ってたけど撤回。あんたみたいな変態二度と見たくない」
 血液の刃で横撫でにされるが、光で構成されるハクメイに攻撃を加える事は叶わない。
 しかし次の瞬間には貯水タンクの上に立ち、月明かりと街の灯りに照らされながらにハクメイを見下ろす。
「待つっす! 逃げるんすか!」
「さて問題です。突然見ず知らずの男にレイプされたとします。隙だらけで今にも逃げられそう、貴方なら次のうちどれを選択しますか? 一、戦う。二、逃げる」
 そうこう言っている間にハクメイは忍者刀を引き抜き彼女に斬りかかるが、既に彼女は対面の破壊した部屋の一室に立っている。
「正解は三、逃げて引きこもるでした。貴方みたいな変態ストーカーレイプ魔の顔なんて二度と見たくないわ」
 彼女は全裸であっかんべーと無邪気な挑発をしたままに、その場から姿を消し、更にはその膨大な魔力を完全に消し去ってしまう。
 散々な言われようのハクメイは、踵を返しギロリと配下の屍喰鬼グール達を睨みつける。
「あのお方はエリザベス・リズ・リウム。我らはリリリ様と呼んでいる。どうだストーカー。名を知れて嬉しいか?」
「そうっすね。感謝するっすよ」
 ハクメイが再び踵を返しビルの屋上から飛び降りると、光を放つ植物の根がそのビルを貫いて行く。
「普通のグールは簡単に殺せるっす。でもあいつは、リリリちゃんはどうやって殺せばいいのか」
 遠く遠く離れた場所で、再び肌を刺すような魔力の反応を感じ、ハクメイは身を光に変えてその場へ訪れる。
 其処には多くの人間の首が並べられ、中心には一枚の血文字で書かれた置手紙のみが残されている。
『ナルシストロン毛の変態ちゃん。貴方が弱いからこの子達は死んだのよ。私を追うなら食事とは関係無く殺しを続ける。それが嫌なら二度と姿を見せないで。本当にキモい』
 ハクメイは瞬時に手紙を塵にする。
「俺からしたら人喰いの方がキモいっすよ」
 忠告など知った事かとハクメイは総仕上げに入る。 怒り任せに印国に残るグールを狩り、その全土を命の森の影響下に変えると、パキスタ…巴国へと向かう。
「逃がさないっすよリリリちゃん。俺が絶対に殺してやるっす」
 へんた、ハクメイは怒りに血相を変え印国を後にする。

 その頃、場所は変わり中東ヨルダ、いや約国にはエジプトから追い出された堕天と鬼神、星虎と酒呑の姿がある。
 彼らなりに侵攻の件はグールに任せておけばいいと考えたのだろう。 実際に彼らが手を加えるまでもなく、グールの群れは既にブルガリアまで侵攻を進めている。
 星虎と酒呑が抜け、主力の多くがリリリの魔力に誘われて進路を変えている 為に、グールの侵攻速度は著しく低下しているものの、邪魔をする者がいない分じっくりと攻める事が出来ている。
 いずれは鬼の本能に負け力を求めるようになるだろう。 そうなれば侵攻速度は再び上昇する筈、そこまで読んで両名は一先ずは酒呑の新たな能力で遊ぼうと新天地を求めて約国に訪れたのだ。
「して、我が神の命に従い埃国から退いたがこれからどうする?」
「そうだな、これで遊びたいけどどうするかな」
 右手に鎮む虹色の宝玉を見せる酒呑、星虎は羨ましそうに目を細める。
「本当に美しいな。しかし危険でもあるのだろう? その力を使えば宮司とやらに逆らえなくなるとか」
「世界式を見るに宮司様は創造主様が連れてる友人だ。こんな力があっても無くても逆らえんよ」
 酒呑は手を翳すと金と銀の煌びやかな全身鎧を召喚すると、何処からともなく現れたファントムが腹部に鎮まる緑色の核に吸い込まれ、忠誠を誓うように膝を曲げる。
「うん、召喚は簡単だ」
「本当に存在そのものが迷宮と化しているのだな。しかしいくら強いと言えども我々ぐらいになると物足りなくも感じるな」
「それでも100層クラスを量産出来るのは凄い事だ。それに力はそれだけじゃない」
 酒呑達の力に魅せられてふらふらと近寄ってきたグールに手を翳すと、グールはその姿をファントム下位のレイスへと変える。
「こいつらは実体を持たないから単純に足し算だ。ほら、あのグールに入れ」
 他のグールの中にレイスが入ると、僅かに角を伸ばしたグールが再び酒呑の前に訪れる。
 そのグールへ手を翳すと、グールは首が二つある異形のレイスへと姿を変える。
「単体50から70層、進化個体でも90〜150層クラスのグールでも、足して行けばそれなりの存在になるだろう。そのレイスをこの鎧に宿せば、俺達ぐらいの強さの軍を作れる」
 目前で膝を曲げる鎧の中に二つ頭のレイスが飛び込むと、暫くもがき苦しむが、落ち着きを取り戻したのを見てレイスへと変換させると、三つ頭の異形の精神生命体が顕現する。
「輪郭がはっきりしてきているな」
「戦士寄りのファントムの特徴に鬼を足した感じだな。ファントムオーガって所か」
「頭が三つあるのがなんとも言えんがな」
「それはそのウチ自分達で改善するだろ。分からんけど。とりあえずそこらへんのグール全部混ぜてみよう」
 堕天使と鬼神は好奇心旺盛である。 後先考えずにグールを捕らえては融合させてを自重なしに繰り返していると遂には青白い魔法光を放っていたレイスや緑色の魔法光を放っていたファントムの特徴を一切残さずに、全身を黒く染め上げた謎の生物が完成する。
「首増え過ぎて結局一つにしたみたいだな」
「しかものっぺらぼうにヘルムかぶらせて無かった事にしてるしな」
「結局取り外してしまってるしな」
「これで馬に乗ってたらデュラハンだな」
 星虎と酒呑は互いに視線を合わせニヤリと笑う。
「馬を探すしかあるまい」
「もうグールだと入れた側から破裂するからな。きっと容量的なあれだ」
 方々馬を探し回るが結局見つからず、集合場所に互いに持ち寄ったのは馬のマークの黒いスポーツカーと黒い大型バイクである。
「「あっ」」
 互いに思うところがあったのだろう。 合流すると声が揃い、そして若干恥ずかしそうに頬を染める。
「「馬力……」」
 互いに互いを指差しながら考えまでが同じであったと気付くと、僅かな沈黙が流れる。
「そうなるのが妥当であろうな」
「街中で馬を探す方が無茶があるからな」
 酒呑が首を抱きかかえる黒子にアゴをクイっと動かすと、黒子はこいつマジかと動揺を隠せない様子であるが、それに苛立った酒呑が殴りかかるジェスチャーをすると、黒子は即座にバイクの中に入り込む。
 酒呑が手を翳すと、其処からは少し馬に見えなくもない、バイクのような馬のような乗り物に跨る黒子の姿がある。
 そして間髪入れずにスポーツカーに入り込むと、次はチャリオットを牽引する様へ姿を変える。
「やばいな。超デュラってる」
「これぞデュラハンと言った所であるな。現代のと言えば格好がつくか」
 実に1000体以上のグールを掛け合わせ、250層クラスの実力を持つまでの魔物を創り出したにも関わらず、両名は楽しそうに笑っている。
「多分星虎と一緒ぐらいだな。勝てる?」
「負けるわけがなかろう」
「じゃあやろう!」
 酒呑がアゴをクイっと動かすと、もうヤケクソだとデュラハンは星虎の中へ入って行く。
 星虎は血涙を流しながらにも抗い、全身から血を滲ませながら、顔色はズクズク色に変色し始めるが、遂にはデュラハンの抵抗虚しく、自身の中へ全てを吸収する事に成功する。
「ゲホッ、ガハッ。勝ったぞ星虎」
「これで星虎も300層クラスだな。眷属としての力抜きで単体の俺と同じぐらいだ」
「ふん、悪くはないな」
「よし、んじゃ次は子分のデュラハンを創るぞ」
 何をしたいのか再び星虎と酒呑はグールの回収を始める。 そして、彼等はサウジアラ、沙国へと進路を変える。
「次はもっとデュラっとさせよう」
「さっきのが私的には完璧だったのだがな」

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