だんます!!

慈桜

第百三十六話 商人?

「ヤムラ君の生産者達は頑張っているねぇ。そんな薄いラディアルを小分けに与えていても意味はないだろうに」
 コーヒーショップでニュースペーパーを読みながらに閻魔は小さな声で呟いている。
 その周囲で一般人のふりをしている客達は皆々がブラックカードを隠し持っている事に、閻魔は新聞で顔を隠しながらに北叟笑む。
 現在米国では、原因不明の失踪事件が話題で持ちきりとなっている。 ストリーキングの大統領なども一時話題となっていたが、それを忘れさせる程には、連日行方不明者の名前がニュースで羅列される不気味な世の中となっているのだ。
 勿論メディアも馬鹿じゃない。 原因不明とは言っても、内容は理解している。 どうしてこんな事になっているのかも、皆が皆理解しているのだ。 しかし異空間で殺し合いをしているなどと馬鹿げたニュースを流す事に怯えているだけだ。 それに国からも圧力が掛けられている事も理由の1つとしてある。
 日本のようにちょっかいをかけた警察や自衛官が虐殺される程度ならまだ可愛らしいが、米国は国民同士で殺し合いをして能力を奪い合っているのだから筆舌にし難い感情が渦巻いているだろう。
「しかしインパクトがあるかと思って過去の偉人の霊魂を集めてはいるが、どうにも思った通りの者達は訪れないようだね。私の本体がいつになっても降臨しないのがいい例だよ」
 閻魔は窓越しに空を見上げ、何かに思いを馳せるように虚ろな笑みを見せるが、直ぐにコーヒーを片手に新聞に向き直る。
 日本の露国開発や、中東での魔物被害などが記されているが、その内容の薄さに閻魔は不服そうである。
「あの堕天や鬼神の事は書かれていないのだね。薄い薄い。私が新聞を作った方がいい記事になるよ」
「その話、詳しく聞かせて頂いても?」
「おや、日本語が話せるのかい?アメ公にしては珍しい」
 まるで海外ドラマのワンシーンである。 ブロンドのいかにも美人スパイと言った女が、素性を隠すために眼鏡をかけながらに、美しいエメラルドグリーンの瞳で閻魔を見つめている。
「私はL.Aクロック社の記者、サラ・ブレンダンよ。サラと呼んでもらって構いません」
 差し出された名刺を読み、胸ポケットへ仕舞い込む閻魔。 最低限の礼儀として貰っておこうと言った様子だ。
「ではその神様仏様サラ様が行く先短い老人に如何なご用かな?」
「記事に対する先程の発言に関してです。私のクルーが命を賭けて、この不安定な情勢の最中、世界中を飛び回って集めた情報に対して先程の発言は納得出来ません」
「あぁ、これはこれは申し訳ないね。ただ、ネットニュースでも書かれているような事しか無かったのでね。有料の情報媒体としては薄いかなと、そう思ってしまったのだよ」
「そのネットニュースに掲載されている情報が、我々L.Aクロック社からの情報だとわかっておられますか?」
 無知とは恐ろしいものである。 彼女が目の前にしているのは、現状の米国、数万の犠牲を出す原因となった男であると言うのに、彼女は老人を問い詰めるように睨みつけている。
「ふむ……ではそうだな。記事をこうしてみては如何かな?」
 閻魔は新聞に手を翳すと、文字の羅列が次々と変換されて行く、そのあまりの光景にサラも目を見開く。
 そこには写真付きで星虎と酒呑童子の姿が写り、悪の親玉を発見。堕天使の降臨か? と書かれた見出し、そして殺戮大臣と、深雪BBAの一番舎弟の会談が喧嘩別れに終わった一件も、遂に対立か!? 邪王と賢王の行く末は?の見出しで写真付きで記されている。
 露国開発のドワーフの土との対話や、ダンジョンパークの概要、付け加えて重度障害者が天族になったニュースなど事細かく日本に関連するニュースが描かれているページを捲ると、次は米国について赤裸々に記されている。
 オカルトニュース、黒いカードの真実。 カードを持つ者同士で殺し合いを行い、対戦相手の全てを奪う事が出来ると噂のブラックカード。 独自に調べた結果には、過去死刑にされたシリアルキラーや、戦乱の世を生きた英霊の存在も確認されている。 ゲームに負けて殺された者達は、ウォーキングデッドとして兵隊にされるのではないか? 
 事細かに説明されている記事を読み、サラが顔を上げた先には既に閻魔の姿は無かった。 あるのは湯気の立つコーヒーと、チップを含めた8ドルだけである。
「見つけたわよ、貴方が黒幕なのね」
 サラはその新聞をバックにしまいこんでコーヒーショップを後にする。 その足取りは慌ただしく、一早く出社しようと駆け足に近い速度でヒールの音を響かせる。
 しかし彼女は突如として胸を抑え込み屈み込んでしまう。
 知らず内に閻魔にカードを仕込まれていたのだ。
『こんにちはサラ・ブレンダン。あなたの適性は商人と判断されました。頑張って商才を磨きましょう』
「なに? なんなのこれは」
『商人はアンデッドの取引、または他の世界式の生産者を雇う事ができます。先ずはアンデッドの素材を確保する為に、保存遺骸の買取を致しましょう』
 目前には無数に騎士職の者達の一覧が表示される。 そして、その中にバラクウ・ユフイン・オバナの写真がある事に気が付き、迷わずタッチをする。
『まずは商談です。メッセージを送ってみましょう』
 サラは暫く悩んだ末に、概要をさらに詳しくシステムに質問し、ある程度の知識を得てから、半ば脅しにも似た商談メールを送信する。
 ━━バラクウ・ユフイン・オバナ大統領。初めまして、私はL.Aクロック社の記者であるサラ・ブレンダンです。件のブラックカードにて商人と認定されてしまい、アンデッド生産用の遺骸を必要としているのですが、貴方の所有している遺骸を引き取らせて頂けませんか? アンデッド製造後、必要でしたら適正価格で販売致します。 他にも商談は成立しているので、引き受けて頂けないのであれば、貴方が殺人ゲームに参加している情報をリークします━━
 商談は即座に成立し、綺麗な姿で保存されている遺骸が10体並べられる。
 ━━サラ・ブレンダン、今回の交渉嬉しく思うよ。私に交渉を持ちかけてくれる商人がいなくて困り果てていたんだ。是非、君が製作したアンデッドは此方で訂正価格に上乗せした値段で引き取らせて貰いたい。振り込みでもレター便でもいい。送金方法は其方で指定してくれ━━
『おめでとうございます。商談成立です。今回は金銭の取引でしたが、能力等でも取引出来るので、今後の参考にして下さい』
「じゃあこの人達をアンデッドにしてオバナ大統領に送って頂戴」
『了解しました。サラ・ブレンダンの現在の能力ではウォーキングデッドの製作しか出来ません。ウォーキングデッドの製作が完了しました。10体のウォーキングデッドの製作を確認しました。次回以降フレッシュゾンビの製作が可能です』
 オバナに入金口座を送ると、次の瞬間サラは自身が屈み込んだ場所に戻っていた。
 スマホで自身の口座を確認すると、そこには2万4千ドルの不透明な入金がある。
 胸からブラックカードを取り出し、再び抱き締めると空を仰ぐ。
「あぁ……どうしてこんな事に……」
「商人だったようだね。珍しい」
「貴方はさっきの」
 嘆くサラの前には杖をついた丸眼鏡の老人が笑みを浮かべたままに立っている。
「商人はお金なんて求めてはいけないよ。商談相手からDMを貰うんだ。騎士は能力を分割してDMに変換する事が出来る。大きなラディアルを吸収しているから、破格のDMが手に入る、だからこそ、冒険者を雇う事が出来るのだからね」
「でも、私はそんな事は」
「求めてはいない。だろうね、けど君は特別な存在なのだよ。商人は如何なる存在であっても、商談が成立したら無敵なのだからね。君がいい商人になる事を願っているよ」

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