だんます!!

慈桜

第百三十五話 働きアリ?

  樺太豊原のダンジョンパークには、連日数多くの冒険者が訪れている。 そんな冒険者達のサポートをすべく、冒険者学校の卒業生達は、施設の運営に自ら志願し、早朝から忙しなく動き回っている。
 亜麻色の長い髪を青いリボンで一つに纏めたセーラー服の少女は、豊原竜舎で勤務しており、竜房の掃除と寝藁の交換を済ませては、端末で餌を発注して分配して行く。 預けてる冒険者のDMから自動的に引き落とされるシステムなのである。
「シズクー! 7番の竜は肉食わないんだって!」
「聞いてるよ! ちゃんとお魚にしてる!」
 まだ暗闇の早朝から輩出された食事をバタバタと走り回りながら配る中高生達。 とても自由の代名詞の冒険者がやる事とは思えないが、当人達は不思議とキラキラとした眩しい笑顔で作業に従事している。
 一通り竜舎の掃除と餌やりが終わると、えっちらおっちらと髭もじゃのお爺さんが出勤してくる。 彼はケモミミ旅飯店やグラナダなどで働いている者達と同様の異世界に存在する人のコピーである。 当然24時間働いているのだが、深夜はダンジョンに竜舎の餌の素材を集めに行くので、そのガラ空きの時間帯にシズク達が手伝いをしているのだ。
「シズクとサブロウや。いつもすまんね。ありがとう」
 そう言って老人は大きな魔石を一つずつシズクとサブロウに渡す。 このおじいさんはずんぐりむっくりのチビジジイに見えてもオーガぐらいなら楽に討伐する凄腕のジジイなのだ。
 夜中に起きて竜舎の掃除と餌やりをするだけで120DMと考えると、仕事と考えては破格と言っていい程割がいい。 しかし冒険者ならばゴブリンを3匹狩る程度の報酬なので安いと感じてしまう事もあるだろう。
「いつもありがとうございます!また明日お邪魔させていただきます!」
「ほっほっ、助かるよ」
 それでもシズクとサブロウは満面の笑みで報酬を受け取り、次の職場へ急ぐのだ。 彼女達はダンジョンパークの運営に根底から携わっている事に喜びと自信を持っている。
「シズク、やばいぞ。もう5時だ」
「うん、急ごう。今日は大阪の冒険者学校の卒業生も来るみたいだから部屋の段取りもしておかなきゃ」
 ありえない程の俊足で次に向かうのは旅館である。 裏口からボイラー室に入り、スタッフ用シャワーで汚れを落として清掃用の浴衣に着替えてから、浴室の清掃を男女に別れて始めるのだが、ここで冒険者学校の同窓がゾロゾロと集まり始める。
「シズクおはよぉ!」
「おはよぉキキ! 今日は遅いね、なんかあったの?」
「うん。スレイプニルの厩舎のバイトに行ってたんだけど、出産が始まっちゃって……感動して泣いちゃって全然手伝えなかった」
「うへぇ、いいなぁ。スレイプニルの赤ちゃん見たい」
 ペラペラとお喋りは止まらないが、手は高速でブラシを動かしている。 ゾロゾロと中高生が訪れ、鏡の曇り止め、備品の補充などを済ませていくと、着物姿の女将さんが訪れる。
 その頃には大浴場は既にピッカピカである。
「朝食の時間だよ」
 大広間に集まり、料亭の朝食に舌鼓を打つと、各自其々が皿を下げ、当番の者達がそのまま厨房で皿洗いと仕込みを始める。 五人ずつの交代制で行っているようなのだが、板前の格好が中々似合うのだから面白い。
 広い旅館の廊下を雑巾がけしたり、寝室の整理などで忙しなく動き回る中、シズクとサブロウは再び着替えてダッシュする。
 訪れたのは鍛冶屋兼アークスショップである。 中ではドワーフによく似た老人が炉に火を入れて剣を打っている。
「ん? シズク、サブロウおはよう。そうだな、今日は鉄鉱石50ってとこか」
「わかりました! すぐ行ってきます!!」
 老人の店舗の裏手には採掘ダンジョンがある。 装備可能な武器はツルハシのみだが、採掘用ダンジョンなので、それだけで充分である。
「メタルゴブリンでないかな」
「一層には中々上がってこねぇからぁ」
 彼方此方にツルハシを叩き込んだ後が見えるが、御構い無しにシズクとサブロウはツルハシを叩き込み続ける。
 しばらくすると丸い鉄球を石で閉じ込めたような物体が発掘される。
「よし! 鉱脈あったよ!」
「こっちも見つけた!!」
 腕の筋肉と握力が悲鳴をあげているが、シズクとサブロウは負けじとツルハシを振るい続ける。
 鉄鉱石が次々に発掘される最中、二人を祝福するように後方から人影が訪れる。
「グギギ、グゲッ」
 その人影の声はゴブリン特有の鳴き声でシズク達を威嚇する。
「あぁ、サブロウ。今日の私達最高にツイてる」
「間違いないな。神様からのプレゼントだ」
 振り向きざまにツルハシを突き刺すと、すかさず引き抜き頭を叩き割る。 そこに残るは鈍色のゴブリンの亡骸だけである。
 即座に亡骸をアイテムボックスに収納し、また採掘を始めると遂に50個の鉄鉱石が揃う。 既に二人は泥んこで汗だくである。
「戻りました!! 見て下さい!メタルゴブリンが出たんです!」
「おぉ、ツイてるな。じゃあ500DMで買ってやる。250ずつで分けたらいいか?」
「はい! お願いします!!」
 鉄鉱石の報酬500DMとメタルゴブリンの500DMを手にしてホクホク顔の二人は一礼をして鍛冶屋を後にすると、既に初級ダンジョンの前には、武装をして準備万端の同窓達がストレッチや組手などをしながらアタックの準備をしている。
「おせぇよシズク!! 後三時間しかない! 早く行こうぜ!!」
 大剣を振り回して素振りをしている少年が声をかけると、シズクは一つ頷き、メニューを開き、全装備を換装する。
 その姿は天女の羽衣を纏った女神のような姿である。
 額と両腕に安物のアークスが装備されているが、とても安物に見えない程に美しくシズクを彩っている。
「みんなごめんね! 今日の目標はゴブリン150! いこう!!」
 ダンジョンパーク名物、ゴブリン虐殺 の開始である。 冒険者学校の卒業生達は、ダンジョンパークの運営に深く関わっているが、昼に一度体を空けて16時まではダンジョンアタックを必ず行っている。 彼らの実力があらば、既にワンランク上の迷宮を攻めてもいいのだが、基本を忘れずに効率重視で短時間で大量に稼ぐアタックを心がけている。
 将来的に少しでもいい武器を揃える為に、初期はDMを稼ぐ事だけを念頭に置くべきだと学校で習っているからである。
 そして、そんな努力家の若手の為に、一つ教鞭をとってやろうと、偶にベテランが訪れたりもする。
 それが子供達の楽しみの一つでもあるんだが。
「初めまして。拳語會のリシンです」
 最下層の10層まで潜ると、頭にターバンを巻き、白いマントを羽織った色黒の男が待ち構えている。 彼は新たに拳語會に加入したリシンである。 バイオズラ達の無茶振りの罰ゲームで訪れているのだが、子供達は純粋にトップ50の一人が教えに来てくれたのだと喜んでいる。
「うわぁぁ! リシンさんだ! 本物だ! 握手して下さい!」
「剣に! 剣にサインください!」
 子供達は喜びの余りにワラワラとリシンに駆け寄るが、リシンは咄嗟に地面に拳を叩き込み子供達を吹き飛ばす。
「今日はみんなに多対一の戦い方を教えに来ました。みんなは仲良しみたいでいつも大勢で囲んで敵を倒しているみたいですけど、もし仲間とはぐれてしまった時の事を考えて、きっちりモノにしてもらいます」
 今の一撃で怪我をしてしまった者を、手際良く治療すると、子供達は引き締めた表情を見せながらに横一列に並ぶ。
 まるで軍隊のように統率が取れている。
「皆さんがレベルを上げて行くと、先程お見せした円撃のような範囲攻撃のスキルを覚えますが、問題は範囲攻撃を放った後の単体への攻撃を、如何に瞬時に判断し実行するかが鍵になります」
 話の途中で石畳を踏みつけるとゴブリンがワラワラと湧き始める。 ここはどうやらモンスターハウスのトラップのようだ。
「まず範囲攻撃をいれます」
 一斉に襲いかかって来たゴブリンを、先程同様に地面に拳を叩き込み、拳圧で吹き飛ばすと、即座に裏拳で3匹のゴブリンの首を殴り潰す。
「範囲攻撃の範囲外で、足を止めた個体などはこうして即座に潰します。次は、範囲攻撃でのダメージが少ない個体を瞬時に見極め」
 ゴブリンの亡骸を投げつけると即座に壁を背に回す。
「牽制をした後に、自分の行動範囲を確保、壁を背に回して、警戒範囲を円から扇状に変えます。石などがある場合は拾っておきましょう。私の場合はミスリルをパチンコ玉程度の大きさにして持ち歩いています」
 ミスリル玉を指で弾くと、ゴブリンは纏めて4匹が頭を貫かれて事切れる。 同様にパチンパチンパチンと3つ弾くと10匹を越えていたゴブリンの殆どが地に伏す。
「遠距離攻撃が可能であらば、こうして即座に潰して、残りを冷静に対処したりも出来ます。えと、では精進して下さい」
 リシンはペコッと一礼すると、顔を赤らめながらに立ち去って行く。
「ぶひゃひゃひゃ! 誰がそんな事できるんだよ! だっしゃっしゃっしゃ!!」
 その背後からは金髪のリーゼントに赤い革ジャンを羽織った男が爆笑しながらその背を追う。
 言わずもがなバイオズラであるが、子供達はキラキラした視線をバイオズラに送り、見られて感激だと感情を露わにする。
「さっきのミスリル拾っていいからなぁーっ! みんな頑張れよぉ」
 元気よく子供達は返事を返し、即座にゴブリンから魔石を回収、そしてミスリルを拾い集めると、石畳を踏みつける。
「よし! 今日は多対一を念頭に置いて残り1時間半きっちりやりきろう!」
「範囲攻撃は剣を振り回したりして応用しよう!」
 リシンは仲間内の罰ゲームで来ていたなんて考えずに、先輩に教えて貰った事を素直に活かそうとする中高生の冒険者達は、この純粋で無垢な心の在り方に多くの冒険者から支持を受けている。
 季節は冒険者学校二期生の卒業を控える頃となっているが、彼女達は後に伝説の一期と呼ばれるようになる事を今は未だ知らない。








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