だんます!!

慈桜

第百三十四話 ダンマスの勧誘?

 『マスター、銀の魔女が産まれました』
「まじか。まぁ、いきなり取り上げるのも可哀想だから今は放置しておこう」
『了解しました。魔力操作を行うようになれば再び報告致します』
 時間の流れってのは早いもんだ。 ついこの間妊娠したナージャがもう産んじゃってるんだから驚きだ。
「すまないねぇ。飴食べるかい?」
「いや、いらん」
 冒険者バブルで活気溢れてるのは喜ばしい事だが、バタバタし過ぎるのも良くない。 冒険者の力の底上げも上手く進んでいるし、焦る必要もないのだが、手持ち無沙汰な気がして忙しなく動いてしまっている。
「じゃあお家に上がるかい? いい饅頭があるんだよ」
「いや、いらん」
 何より問題なのは閻魔のクソが騎士システムを使ってる事だろう。 上手く夢幻に隠して世界式の発現を表に出さないから乗り込んで潰す段階にもならない。 今も刻一刻と騎士階級を上げる猛者達が鍛え上げられていると考えると面白くない。
「困ったねぇ。じゃあ家のリフォームをするかい? 若い人はリフォームが好きなんだろう?」
「そういう奴には気をつけろババア」
 んで、何してるかそろそろ気になるよな? 横でババアがずっと騒いでるから薄々気がついてるかも知れんが、俺は前々から日本の老人社会をどうにかしようと色々動き回ってるんだが、コアのサポーターや手紙や電話なんかでコンタクトを取っていても爺婆ってのはいつまで経っても埒があかない。
 だからこそ、こうやって空いた時間を無理矢理作っては爺婆を捕獲しているんだが、やっぱり一筋縄では行かない。
 取り敢えず話を聞いて貰う為に病気だの痛みなどを取り除いてやるんだが、それをすると感謝モードに突入で更に話にならなくなる。
「困ったねぇ。曲がった腰を治して貰ったのにお礼も出来ないのは嫌だねぇ」
「だから冒険者にならないかと言っているだろ」
「人生80年、ずっと冒険みたいなもんだったけどねぇ。孫の哲也が結婚するって言った時はビックリしたよ。奥さんが黒人さんでねぇ、言葉も通じないって言うじゃないか。今でも哲也の通訳がいるなんてねぇ、本当。曽孫を産んでくれて感謝してるけど、やっぱり話してみにゃわからんからねぇ」
「冒険者になったら何処の言葉だろうが理解出来るぞ」
 本題に入るとすぐに話の腰を折られる。 優しい老人特有の断り方なのか、それとも単に話好きなのかはわからないが、一人にあまり時間を掛けるのも宜しくない。
「これは冒険者デバイス。デバイスオンと言って起動したら、後はデバイスがやり方を教えてくれる。もし興味があるならやってみてくれ」
 だからこそデバイス渡して丸投げがいい。
 そうすると本心が見える。 断り辛いなと苦戦していた爺婆はそっと鞄にデバイスをしまう。 だが、僅かにでも興味があったものは。
「でばいすおん」
 早速デバイスを使用する者が多い。 老人用に渡してるデバイスは、生体データから若かりし頃の姿を読み取り、現代風のメイクを施した上で、一般的に美しく見られる傾向に修正したアバターをお勧めアバターとして選択出来るように改良している。
 自身の素材のポテンシャルを最大限に引き出した状態と言えばわかりやすいだろう。
 60代ぐらいはまだまだ感性が若いから自分でサクサクいじったりするんだが、これぐらいのババアは……。
「もっと違う種族がいいねぇ。おろ、眼の色も変えてみたいねぇ。いいねぇ、かわいいねぇ。刺青とかも入れてみたかったんだよ」
 たまにこんなハードコアなババアもいる。 こんなのは珍しいタイプだが、大概はシステムで用意するテンプレートが使用されたりする。
「んじゃ、そんなわけで」
「もう行っちゃうのかい? 冒険者とやらになっても何をしていいかわからないよ」
「メニューにサポートがあるから、それで聞いてくれ」
 一々説明してたら陽が暮れるからな。 それに冒険者になれば思考速度が回復するからあまり心配は無い。 むしろ戦後の凄まじい日本を生き抜いて来た人達だからな。 かなり攻めの姿勢の人が多い。
 てなわけでお隣さんだ。
 ピンポーン。
 ええ、そうです。 だんますなのにピンポン巡りしてます。
『はーい!どちらさん?』
 ちょっと若めの主婦の声である。 大抵インターフォン越しに顔も見せない奴は何を言っても出てこなかったりする。 けどダンジョンマスターの威信に賭けて絶対に外に出す。
「あっ、すいません。御宅の外塀に車で突っ込んでしまいまして」
『えっ!? 嘘でしょ?!』
 演出家の俺としては直ぐに車を用意してぶつける。 ドイツ製のあれでいいだろ、高級車だし。
「ちょっと困りますよ、何してるんですか! ここ私道ですよ!勝手に進入してぶつけたなんてありえません!」
 中から出てきたのはどスッピンの小太りのおばはんだ。 頭にカーラーを巻いているので、出かけ支度でもしていたのだろう。
「ごめんなさいね奥さん。勿論弁償もしますし迷惑料も支払いますから」
「それならいいんですけどって、あら? あなたもしかしてダンジョンマスターさん? あら、いやだわ、それならそうと言ってちょうだいな。塀の事なんてどうでもいいから上がって上がって。散らかってるけど、ほら、ささっ、上がってちょうだい」
 あら、演技する必要なかった。 最近ニュースとかでも俺の顔バンバン出るから、こんなおばちゃんとかでも知られてるみたいだな。 ダーツで日本地図貫いて片田舎にお邪魔しても通用する気がしてくるよ。
「散らかってるけどごめんなさいね。ところでダンマスさんがウチなんかにどんなご用で?」
「新手の勧誘ですよ。なんやら90歳近いおばぁちゃんと住んでるとか?」
「あぁ、前に女の人からも電話貰ってたわ。でも婆さんもボケちゃってるからねぇ。会ってみる? 二階にいるけど」
 会ってしまえばコッチのもんである。 二階に上がり案内されるがままに……って平日の昼間っからこのマウスのカチカチの連打音、これはネトゲ特有の…いや、これは面白いぞ。
「奥さん、こっちの部屋は?」
「あぁ、そっちはね、息子の部屋なの。就職した先でイジメにあってね、現在心の休憩中2年目に突入って感じ」
 よし、決まりだ。 ここにお邪魔してやろう。 コア、ここの住人から申請が届いた事はあるか?
『いいえ、ありません。有名な廃神プレイヤーのようなので、外の情報は一切遮断しているのかもしれませんね』
 なら話は尚早い。 ちょっとドア壊させて貰います。
「いいーね! ガチャバキ! だって」
「な、なんなんだよお前は!!」
 慌ててヘッドホンを外して振り返る暗闇の中に生きる男。 頭はギトギトで伸ばしっぱなし。 パンイチで肩から毛布を羽織って尿入りのペットボトルが机の下に並んでる。 カップラーメンのダンボールが山積みになっているし水とコークも大量に備蓄されている。 完全にシェルター化してしまっているな。 引きこもりの武装としては無敵の部類に入るのじゃないだろうか。
「クソババア! 変な奴呼びやがったな!! 貯金で金も入れてるんだから放っておいてくれって言ってるだろ!ゲームも仕事なんだよ!」
「おいおいRMTの説明したってわからないぞ。お母さんも若いったって60前なんだから」
「だからお前はなんなんだよ! イケメンはそうやってすぐ人を見下すから嫌いなんだよ! 出て行ってくれ!」
 さて問題です。 彼のようにリアルを完全に捨ててしまっている場合は社会復帰をさせる事などなかなかできません。 しかし、リアルが彼の愛する世界そのものになっていると知った時、どんな反応をするでしょうか。
「エリュシオンウィーバーか。キャラはヴィヴィ。お前その見た目でネカマかよ」
「ほっとけサブキャラだ。メイン垢はマルス。ヴィヴィは満月宮の狩り場でハメ技が使えるし呪術師はこのステージでレアドロップのドロップ率が2.4%も上がるから泣く泣く使用してるんだよ。それにキャラデザの素晴らしさぐらい理解しろ」
「男の呪術師のキャラであるセブは故郷を裏切ってるから満月宮に入れないしな」
「そうだ。だからこそのヴィヴィ。もっとも最新チャプターでセブが故郷に許しを得る為のストーリーが展開されているけど、サブでそのチャプは受けられない。だから仕方ないんだ。そこまで知ってるなら理由も分かってるだろ。一々掘り下げてくるな」
 だってそのゲーム知らないもん。 コアがゲームの情報を纏めて教えてくれただけだもん。
「じゃあヴィヴィの得意技はなんだ?」
「そんなの魔人の手に決まってるだろ」
「こんな感じか?」
 とりあえずメイズの得意技であるが、影掌で家の壁ぶち抜いてやる。 後で修理業者頼んでやるからへたり込まんでくれおばはん。
「なんだよそれ、なんなんだよそれ」
「闇属性の魔術だ。第四位階ぐらいから影掌ってのが使えてな。俺ぐらいになると何本でも出せる」
「イケメンで魔法使いとか終わってんなお前」
「どどどど、童貞ちゃうわい!」
 引きこもり君は振り返ってPC画面を見つめて、ぶち抜かれた家の壁を見てから俺に向き直る。 どうやら話を聞いてもいいと思ってくれたようだ。 ザックリとだが説明をしておこう。
「てなわけで、現実世界がゲームみたいになってんだわ」
「俄かに信じられんが、さっきのを目の当たりにしてしまうとな」
「これ倍率超高いよ。連日申請が届きまくってるのに、たまたまお前は冒険者になれるチャンスが舞い込んで来たんだ。どうする?」
 デバイスを投げ渡してみる。 慌てて受け取るが、どうやら腹は決まっているようだ。
「デバイスオン」
「キャラメイクは時間かけてゆっくりやれよ?お前の婆ちゃんに会ってくるから」
 答えはゲーム廃神はリアルがゲームっぽくなってると知ると、迷わずログインするようです。 ただいきなりログインするとルーンのテストも合格出来ないから一からコツコツやらにゃならんくなるけども、この手のタイプが冒険者になるととんでもなく強くなったりするから将来が楽しみだ。
 さてさて次はババアでございますね。
「壁直して下さいね?」
「わかってる。なんならフルリフォームしてやってもいいぞ」
 和室の引き戸を開けると、布団に包まってるおばあちゃんがいる。 ジッとして動かないが目は開いてるから起きてるんだろうな。
「なんだい! またみんなで私の悪口を言ってるのかい! 早く死ねって言ってるんだろ!」
 とりあえず全部治すか。 とりあえず思考力の回復、同じループになってる思考の破棄、体もボロボロだなぁ。 そりゃ90年生きてたらガタもくるわな。
「どちらさん?」
「あぁ、お孫さんの友達です。医者みたいなもんですよ」
 腰も曲がってるし、節々も弱ってる。 とりあえず治しておこう。 冒険者になったらこんな治療も意味無いけどな。
「こんなに頭がすっきりしてるのはいつぶりだろうね。死ななきゃ死ななきゃと思ってた頃から記憶が曖昧だよ」
「そんな悲しい事言わないで。おばあちゃんがこれからの日本を支えて行くんだから」
 もう強引に冒険者にしちゃおう。 横でおばはんも半ば諦めてるし。
「これを持ってデバイスオンって言ってみて」
「でば?」「デバイス」「でばいす」「オン」「おん」「よくできました」
 認証だけされたらこっちのもんだ。 3人冒険者にすんのにどんだけ時間掛かってるんだって話だが、こうやって苦労してる人に直接デバイスを渡すのも悪くない。 これでこいつらが強くなってくれたらなおの事良しだ。
「んじゃお邪魔しました。奥さんも冒険者に興味があるなら、旦那さんと話し合ってからメールなり電話なりお願いします」
「良くわからないけど、家の修繕はお願いしますね?」
「わかってますよ」
 しつこいな。さて、次だ次。 今日の目標は後7人だ。 それが終わったら次は樺太の鉾部から露国本土への海底トンネル作ってる最中だから、本土のダンジョンパーク造りだな。 忙しい忙し……。
「おい、お前それどういう事だよ」
「だからヴィヴィの可愛さは正義だとあれほど」
「お前やり直しできないんだぞ? 本当にそれでいいのか?」
「うるさいな! 放っておいてくれ!これからはヴィヴィとして生きるから誰にもこの事は言うなよ!」
 なんだろう。 ラオの時よりビックリしたかもしんない。


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