だんます!!

慈桜

第百二十三話 メイファーから逃げよう?

  メイファーのお守りを任された大臣は、使われていないホテルのロビーのソファーにメイファーを寝かせ、どうしていいのかわからずにスマホ片手に撮影しながらソファーの周りをぐるぐると回っている。
「ん、んん。お兄さん何してるの?」
「なんという事だぁ!! それだけは避けたかった幼女が目覚める事案が発生だぁ!!これは生配信にしてリスナーの意見を求める案件かもしれない」
 メイファーはコテンと首を傾げながらに周囲をくるくる回る大臣を目線で追っているが、それでも彼は足を止めようとはしない。
「何やってんだお前」
「だんますぅ!! この子起きちゃったよぉ!! どうしたらいいのぉ?」
「にしてももうちょい扱い方あるだろ。撮影しながら周りクルクル回るってなんだよ」
「だって扱いわかんないじゃん!壊れそうじゃん!」
 メイファーの隣に腰掛けるラビリはアイテムボックスからスティックキャンディを取り出すと、それを手渡す。
「ありがと。メイズお兄ちゃんだよね?」
「そうだな。この姿の時はラビリだがな」
 メイファーはわかったよと言わんばかりにコクコクと頷いて飴を食べ始める。
「ハクメイを追いかけてたのか?」
「うん、でも途中で力使えなくなった」
「魔力切れだな。もうハクメイは近くにはいない。ラオが心配してるだろうから森に送ってやろうか?」
「いやだ」
「いやだって言ったって」
 ラビリとメイファーの会話には一切触れる事無く、大臣は撮影を続行しているが、何故かメイファーがムスッと睨みつける。
「あのお兄ちゃん変な人?」
「あぁ、そうだな、あいつは真の変態だ」
「何故初対面の幼女に変な人と言われなければならない!」
 大臣はブチギレて一人用ソファに腰を振りまくっているが、ラビリはそれを余裕で無視する。
「森に戻りたくないのか?」
「うん、飽きた」
「飽きた?! またそりゃ突拍子もない話だな。でもラオはどうするんだ?」
「ラオはエルフと遊んでるのが楽しいみたい。おじいちゃんだから。メイファーも楽しいけどもっと冒険したい。色んなとこ行きたい。しろ兄がいたから頑張ったけど、しろ兄どっか行っちゃった。もう帰ってこない気がする。だから戻りたくない」
 そう言いながら無表情に足をパタパタさせるメイファーだが、ラビリと大臣は互いに見合わせて目でどうしようかと合図を送るが、大臣はそのまま直立で空を見上げている。 全力で空気になろうとしているのだ。
「でもメイファー、これからどうするんだ? 今日みたいに倒れた時に、また助けてやれる保証はないぞ?」
「うん、でも……それでも……」
「それなら一度ハクメイの所へ連れて行ってやろうか? それでどうするか決めたらどうだ?」
「いい。しろ兄の好きにしてあげて」
 とても難しいお年頃である。 一番いいのは、そのまま森に帰らせる事だが保護してしまった手前ラビリと大臣はドギマギしてしまっている。
「メイファーちゃんって何の職なんだい?お兄さんに教えてみっ!」
「魔眼のせいで職は選べない」
「あ、あぁ、そうなんだ。そっかぁ、職ないのかぁ」
 大臣は慌ててラビリの肩に腕を回して引き寄せる。
「おい、職ないとか終わってんだろ。装備プレゼントして逃げようと思ったのに初期装備しかできねぇじゃねぇか!」
「痛い引っ張んなしばくぞ」
 小声で攻防は続くが、鏡の魔眼を所有していると冒険者としての職に就けないのである。 その代わりにメイファーは底知れない能力を手にしているが、それは大臣の知るところではない。 一先ずこの状態から抜け出したいのが本心なのである。
「じゃあメイファー、俺からプレゼントをあげるから頑張って生きなさい」
「うん、頑張る」
 それはラビリも同じのようで、そっとメイファーの左目の瞼を撫でる。
「魔眼?」
「そう、吸魔の魔眼だ。空気中の魔素を吸収して自身の魔素に変える事ができる。てなわけで、強く生きろよ!」
 メイファーの頭をポフポフと撫でると、一目散に走り去る。
「あっ! 汚ぇぞ!! 逃げんなだんます!!」
 それに乗じて大臣も逃げて行ってしまう。 ラビリも大臣相応に小さい女の子の扱いが不得手なのである。 普段はそんな事をおくびにも出さないラビリであるし、小さい子の扱いにもそれなりに知識もあるのだが、大臣といる時はボロが出やすい。 横でひたすら幼女撒いて逃げようぜと言われ続ければ考えがそっちに寄ってしまう。
 結果はご覧の通りに、簡単に渡すなどあり得ない程の能力を授けて、すたこらさっさと逃げてしまったのだ。
「メイズお兄ちゃん……行っちゃった」
 メイファーは両目を擦ると、両の眼に魔眼を浮かべてクスクスと笑う。
「でもこれでもっとみんなの技真似できる」
 左目で多量の魔素を吸収し、鏡面の右目が僅かに水面のような波紋を広げると、メイファーは足をパタパタさせながら再び可愛らしい笑顔を見せる。
 幼女侮る事無かれ、少し大人になったメイファーの大冒険が始まろうとしていた。

 その頃、爆発的にその数を増やし続ける魔物達が1つの群れになろうとしていた。
 先頭には堕天使の姿があり、その背後には多様な魔物が追従している。
「凄いな、我が神の言う通りだ。ただ歩いているだけで魔物達が頭を垂れるではないか」
 魔物の一行は誘われるように一本道を突き進んで行くと、遂には奴と遭遇してしまう。
 この短時間で何があったのか、ハクメイとの邂逅から僅かな時間で、周囲には貢物のような金銀の詰め込まれた陶磁器や貴重品を山積みにした酒呑童子と星虎がかち合ったのだ。
 かち合ったのだが、一触即発に思えた両名の邂逅は意外な結末を迎える。
「お前、すげぇ面白いぞ。すげぇ面白いな、なんなんだお前」
 思わず酒呑童子は立ち上がり、興味津々と星虎に歩み寄って行く。
「魔物でも冒険者でも人間でもない。それなのに強い!それに創造主様の匂いもすごい! お前面白いぞ!」
「不思議な力を手に入れたものだな。貴殿が如何におかしい存在かが手に取るようにわかる。私はあのお方から魔物を従えて道すがらの国を全て征服してこいと命を受けている。そこな鬼神の如き鬼の子よ、よければ共に行かぬか?」
 星虎の曲解だが、それを咎める者はここにはいない。
「創造主様の命令?! 何それ羨ましいぞ! 行く! 行くぞ!! 俺も創造主様の命令に従うぞ!」
 あろう事かこの両者が手を組む事になってしまうのだ。 第二世代の魔物を狩り始めているハクメイを他所に、字の如く百鬼夜行は侵攻を始める。
 そして星虎だけで無く酒呑童子も加わった事により、より多くの魔物達が集まりさらなる大軍を率いる事となる。
 彼等が進む道先には、草木一つ残らずに蹂躙され、そしてその配下の魔物の数を爆発的に増やしていくのだ。
 命の森も、その侵攻と息を合わせるように広がって行くが、一人での剪定には流石に無理が生じる、しかしハクメイは無理を押してでも魔物狩りを続けた。 それはハノイ、ラオス、タイ、バンコク、ベトナム、ホーチミン、マレーシア、バングラデシュ、ブータン、ネパールまで拡がるが、その星虎、酒呑童子の破竹の勢いには、追いつく事は叶わない。
「ハクメイの森作りのきっかけの捨て駒にするつもりが拾いもんだったかもなぁ」
「面白いんすけど、そろそろ帰してくんない?? 飯時だけ帰るの繰り返してたら、なんか給餌の担当みたいな気がしてきたんだけど。折角王様になったのに能力全然使えないわ」
「本来は日本の冒険者用の素材集めを手伝わせたかったんだけどなぁ」
「おかげでハクメイが大暴れした国の難民ごっそり頂いちゃったから得もしてるんだけどねペロペロ」
「そこ普通てへぺろじゃないのか?」
 今回の遠征で一番得をしたのは大臣かも知れない。 彼はこの半月の間で、これ以上にないほどにまで生産者の獲得に成功したのだ。
「次は印国だぞ? 人材ゲットのチャンスじゃないのか?」
「インちゃんは地味に嫌われてるからいらね。てか、このまま順調に攻めてきたら星虎と酒呑童子俺ちゃんとこ来ない?」
「そうならないようには注意しておくよ」

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