だんます!!

慈桜

第百十二話 システマの最期?

  3人になってしまったメタニウムのメンバー、赤髪長髪の大剣使いダイゴ。騎士風の軽鎧に白いミニスカートの太ももが眩しい金髪碧眼の美少女ヒカル。藍色の長い髪を三つ編みにした魔導師風の眼鏡っ娘のあんこきなこ。
 この3名は露国入りしてから、極力戦闘は避けつつ、孤立しているリビングアーマーを狙ったりをしながらに、半分観光を楽しんでいた。
 元々はお前達のギルメンが原因であるだろうし、もっと責任感を感じてバリバリ戦えと言いたくなるが、いかんせん男女混合のグループになると意見が多く分かれ、女子陣のきまぐれに振り回される事も少なくない。
「おっ、ケットシー達だ」
「本当だ。またホットドッグ食べてるね。キャットなのに」
「ヒカルさん?」
 ラブロフにホットドッグを高い高いされて必死で取り返そうとぴょんぴょん跳ねてる可愛らしい光景を横目に、進んでいると、輪の中に1人足りない事に気がつく。
 振り向けば、ヒナタやキイロが返せ返せと飛び跳ねている様子を、ヨダレを垂らしながら動画に収めているきなこの姿がある。
 この自由さである。 この自由さがメタニウムを戦いでは無く、観光へと叩き込んでしまうのだ。 次第にきなこは吸い寄せられるようにケットシー達に歩み寄り、大人しくホットドッグを食べていたマロンを持ち上げ、抱きしめたままに頬をすりすりと擦り付ける。
「だめ、きなこさん。ケチャップついちゃうみゃ」
「いいんだよぉ、いいんだよマロンちゃん。ふっこふこやぞぉ」
 どうやらきなこが動画に収めていたのはヒナタとキイロではなく、大人しくホットドッグを食べていたマロンであったようだ。
 ケットシーと言うだけで反則的に可愛いのに、それまではお触り厳禁だったヒナタとキイロでフラストレーションが溜まっていた所へ、新たに小さなケットシーが流星の如く現れてもふもふ自由となれば、おかしくなるモフラーは少なくはない。
 きなこも腐女子感がそこはかとなく漂うが、中々重度のモフラーである為に頬をひたすらにすりすりしてしまうのは仕方のない事なのだ。
「きなこさん、寝不足ですかみゃ? ちょうどいい飴がありますみゃ」
「猫に飴もらった嬉しい泣きそう」
 きなこは貰った飴を美味しそうに食べると、喜びのあまり更にマロンを揉みくちゃにモフっている。 そんなどうしようもない程にのほほんとしている様子を皆で微笑ましくみていたのも束の間、遠くから響く規則正しい地鳴りに冒険者達は警戒態勢に入る。
「きなこさんきなこさん、至福の時かもしれねぇけど、ちょっとやばそうなの来てるぞこれ」
「大丈夫、進行方向が違う。でも今までの奴とは違うっぽい。今は深追いしないほうがいいと思う。騒ぎを聞きつけて、みんなが集まって来た時が狙い目」
「前回、いの一番に行って殴り飛ばされちまったからな」
 ビルの間に巨大な手裏剣が降り注ぐ様子が見て取れる。 恐らくヌプ蔵あたりが交戦を開始したのだろう。 それを見てケットシー達も疼いてしまったのか、ダイゴ達を見上げながらにウンと頷いて走り出してしまう。
「ラスボスの予感にゃにゃん!!」
「また心臓はいただくにゃんにゃん!」
「あぁ、待てお前らっ!ったく」
 ヒナタキイロに続き、ラブロフもそれを追いかけていき、マロンもグイグイときなこを押しのけて合流しようとするが、きなこはその手を離さない。
「離してくださいみゃ!みんな行っちゃったみゃ!」
「大丈夫、これでいいんだよ。大丈夫っ」
 きなこはマロンに可愛らしいウィンクをすると、其処には珍しいルーンが浮かび上がる。
「マロンちゃんの出番はあるよ」
 根拠の無いきなこの自信にマロンはただ首を傾げて脱力するしなかない。

 地鳴りの発生源へ向かったケットシーを追うと、其処には背中から四本の腕と特大の拳を伸ばす化け物の姿がある。
「ヒナタ殿!キイロ殿!こやつ硬すぎるでござる!一旦退いた方がいいでござる」
 目の前ではヌプ蔵が殴り飛ばされ、木の葉を詰めた土嚢袋が叩き潰される。 木の葉分身でなんとか致命傷は避けてるものの、かわしきれずにダメージは蓄積している。
「かっこいいにゃにゃん!」
「改造してやるにゃんにゃん!」
 しかしヌプ蔵の忠告などケットシー達に届くはずもない。 同じ轍は踏まぬと、権能を発動するヒナタとキイロ。
 如何に硬いと言えども、一対一の戦いでヒナタの抜心は無敵と言っていい。 その盗技は、生命維持に必要不可欠な心の臓を引き抜いてしまうのだから。
「うにゃにゃにゃにゃあ!!」
 ズボッと怪物の心臓部にあたるコアが引き抜かれる。 ヒナタとキイロは、何時もの如く手際よく核部分を保存しようとするが、それは即座に化け物が拳で叩き潰してしまう。 自身の核であるのにだ。 しかし、核を叩き割った拳から、ゴキュバキュと咀嚼するようなえげつない音が響き、再び化け物は活動的に動き出す。
「こいつは猫ワンダーZの素体にするにゃにゃん」
「これでキイロ達は無敵にゃんにゃん」
 左右に分かれる茶虎のケットシー。 もののついでにと放たれる閃技が放たれ、雷鳴轟き、化け物の腕一本を持っていくが、それでも即座に再生する。
「あのクソ忍者嘘ついたにゃんにゃん! 硬くはないにゃん!!」
「次は合わせ技にゃにゃん!」
 ディレイがディレイと感じさせない程には、待ち時間を必要としないヒナタキイロの種族特性は極悪な一撃を連発できる。
「ヒナタが心臓抜いたら本体焼き尽くすにゃにゃん!」
 それは心臓を引き抜いてから本体を焼き尽くす作戦だ。
「黒焦げにしてやるにゃんにゃん!」
 何よりこのケットシー夫妻が後少し要領が良ければ、引き抜いた心臓を潰してしまえば勝負がつきそうな気もするが、化け物の心臓はなんらかの企みの為にお持ち帰りする予定のようである。
 そう言えばハルビンの悪魔の心臓もケットシー夫妻が持って帰っていたが、あれはどうなったのだろうか?
「んにゃにゃにゃにゃあ!!」
 ヒナタが盗技を発動すると、何故か其処には核では無く、金属の塊のようなモノが引き抜かれてしまう。
「キイロ!!騙されたにゃにゃん! 一回距離を置くにゃにゃん!!」
「急には止まれないにゃんにゃん」
 キイロは既に空中でニャンパラリン状態でくるくる回って全身に帯電をしながら攻撃に備えてしまっている。 無残にも化け物のアッパーが振り抜かれようとした刹那、猫影は人影に変わる。
「キイロ殿!!拙者の荷物頼み申した」
 ベチャと上半身が飛び散り即死するヌプ蔵。 周囲一帯には大量の核と魔石が飛散する。
「んにゃにゃにゃにゃ!ボーナスステージにゃにゃん!!」
「ヒナタ! 急いで回収するにゃんにゃん! こいつも回収しやがるにゃんにゃん!」
「とりあえず拾えるだけ拾ったら距離とるにゃにゃん!」
 最後まで緊張感の無い猫達であるが、化け物も核や魔石を拳で吸収し始めるので、まるで新築の餅拾いのような状況になる。
 既に露国に残されたリビングアーマーも、システマの種を埋め込まれたヒルコやカルラのアバターも、その全てを吸収しているにも関わらず、化け物は貪欲に力を求め続けている。
 後はこの化け物を倒すだけの所まで来ているのだが、異世界のダミーコアの完全停止までに、まだ僅かに時間がある。
 半不死の化け物相手に立ち回るには、まだ厳しい状況だと言えるだろう。
 しかし冒険者たるは、時に単純明快で豪放磊落な者達が多い。
 多くの情報をやりとりし、事情を理解していようとなかろうと、よくわからんが叩き潰そうと考える者達が多いのだ。
 ヒルコやカルラのコピーが強化されて苦戦を強いられようとも、ダンジョンバトルの影響でシステマに至っては勝ったとしても生き返るかもと言われても、結局戦えばいい事には変わりは無いし、死する事恐れ無ければ、これ以上に己を磨きあげる舞台は無い。
 活躍出来ずとも、冒険者の運営の屋台骨を買って出る青と白の制服を身に纏った男達が満を持して登場する。
 今はまだ弱い日本の罪喰いシンイーターだが、彼らが冒険者権能を使って戦えばいかな力が垣間見えるのか、少々楽しみでもある。
「さて、ブッチーそろそろいくか」
「一瞬の遠征だったけど凄く長く感じたね。やっちゃおう!」
 シシオとブッチーが先頭に立ち、その背後にはホリカワとガンジャが立つ。
「とりあえずジジイがある程度弱らしてからおいしいとこ貰うぞ」
「そうだね、アスラさんやる気満々みたいだし」
 彼らの視線の先には、既に目をキラキラさせながら臨戦態勢の老人が威風堂々と佇んでいる。
「小僧共、ぬしらもいずれはこの境地に達するだろう。今はただ学べ、そして権能を使い、明確な自身の目指す先へ向けて研鑽するが良いぞ」
 アスラは瞬間的に遥か彼方に見える化け物へと接敵する。 斬撃が豪雨のように降り注ぎ、斬っては再生し、再生しては斬り落としを繰り返しているが、見るもの全てを破壊する化け物は、その場で足を止める事となる。
「あのジジイ、決まった!とか思ってるだろうな」
「シシオはアスラさんにあたりがキツイね」
「理不尽な暴力反対だからな。けど行先近い未来、他の世界の罪喰いシンイーターは俺たちに敵わなくなるだろうな〝権能発動〟」
 シシオが権能を発動すると、その体毛は緑がかった銀色へと生え変わり、獣の顔面が裂け、淡い黄緑の瞳が特徴的な人間の顔面になる。
 これまでの獰猛なシシオとは打って変わって美しい姿となったのだ。 それは森精を身に宿しているような淡い光に包まれる大森林の守護者の姿と言っても過言ではない。 ワーレオンの王族に属する、ワーレグルス族の姿そのものである。
「やはりその姿見慣れんな。お前は獣がよく似合うぞ〝権能発動〟」
 続いて種族進化を行うはリザードマンのホリカワである。 狂暴な貌で二足歩行の鰐とトカゲを混ぜたような奴。 ホリカワのイメージはもっぱらにそれだが、権能発動と共に、彼もまた著しく姿を変える。
 東洋の龍が持つ、燃え盛る炎のような角を伸ばした、色白の偉丈夫の姿に様変わりしたのだ。
「お前こそ相当きもいけどな」
「キモさではお前に敵わない」
「なんだとコラトカゲ」
「やってやろうか子猫ちゃん」
 完全なる龍人化を済ませたホリカワとワーレグルスのシシオは互いを睨み合い、今にも殴り合いを始めそうである。
 このまま放って置くとシシオとホリカワの喧嘩のみで権能時間が終了してじうので、ブチ猫獣人のブッチーが必死に宥める。
「とりあえず戦お、とりあえずでいいから〝権能発動〟」
「大変だねブッチー〝権能発動〟」
 ブッチー、ガンジャの姿は変わらずに薄い光に覆われるだけであるが、無事4人は権能発動を完了する。
「じゃあやっちまうか!!『獅子吼シシコウ轟天雷弩砲ゴウテンライドホウ』」
 シシオがワーレグルスに進化した事によって使用できる種族特性は獅子吼轟天雷弩砲。 本当の名前は『射出』と『崩壊』であるが、残念な事にこんなネーミングになってしまった。
 彼が取り出したのは錆びついた古い両手剣。
「グゥゥゥルゥアッッ!!!!」
 両手剣一本を弾丸に見立てシャウトと共に掌底で撃ち出して射出、 爆発的なエネルギーで撃ち出された両手剣は、余りの速度と、ワーレグルスの魔力の波動に耐えきれず、熱で磨耗し始める。
「ついでにジジイに当たってくんねぇかな?」
「奇遇だな。俺もそれを祈ってしまっている」
 やがてそれは化け物の腹へ突き刺さると、両手剣に全エネルギーが集約、そして遂には原子崩壊を起こし消滅すると同等のエネルギーを用いて目標を球状に抉りとる。
 着弾と同時に黒い球体がその体の右半身を消滅させたのだ。
「くぉら! 危ないであろうが!!」
 ロングレンジでの必殺を可能とする種族特性が決まり、紙一重でアスラに避けられる。
 遠方で腹の底から声を荒げる老人がいるが、気にした様子も無くホリカワが前に出る。
「やっぱりシシオはオシャレじゃないな」
「いや無茶苦茶おしゃれだろうが」
「おしゃれなのは俺のような種族特性だ」
 ホリカワが取り出すは、彼の代名詞とも言える磁槍。
「先ずは敵の向こうに槍を投げます」
「それがすげー地味なんだよ」
 槍はホリカワの膂力のままに遥か彼方まで飛んでいく。
 そして種族特性を発動する。
『倍化』
 発動と共にホリカワの手にある槍は倍の大きさになる。
『倍化』『倍化』『倍化』『倍化』
 ダメ、ゲシュタルト崩壊してくる。 何度も何度も倍化を繰り返すと、やがては槍であるかどうかもわからない程に巨大な槍がホリカワの横に転がされると、雲を穿ち、天より巨大な槍が流星の如く降臨する。
「いや、おしゃれじゃないだろ。もっと名前あっただろ」
「お前のような超絶ダサい名前にするぐらいならシンプルの方がいい」
 2人は結果など知った事かと口論を始めるが、轟っと突風が吹き荒れると同時に、化け物の体が四散するのが目に入る。 頭から真っ二つにかち割るように巨大な槍が突き刺さり、熟れたトマトを地面に投げつけたように爆散したのだ。
「じゃあ行ってくるね」
「次撃つ時は言って欲しい」
 その隙にブッチーとガンジャが駆け寄るが、化け物の四散した肉は再び蠢き一つになろうとしている。
「いやいや、すぐ撃つけどな」
「シシオにしては珍しく気が合うな。俺ももう一発お見舞いしようかと思ってた」
「じゃあタイミング合わせて行ってみるか? 俺は今回こいつを使う」
 そう言って取り出したのは、ガンジャがダンジョンで廃棄した半分に折れた大剣である。 何かに使えないかとインベントリの肥やしになっていたのだが、ここで使うよりいい場面は無いだろう。
「待て待てシシオ、じゃあそれを倍化するのはどうだ?鈍の大剣ならいくらでも買えるだろう」
「連発する? イッちゃう?」
 早々に復活した化け物は、全てを無に帰す闇のルーンの結合体、ブッチーが使役するブチ猫にいとも容易く食い散らされ、ガンジャが一騎当千の大剣裁きで化け物を相手取ってるにも関わらず、せっせと大剣を並べるバカ達の姿がある。
「楽しそうだな」
 シシオ、ホリカワの両名はぞくりと背筋に走る寒気に襲われ、恐る恐ると振り向くと、そこには全身を泥々に汚したアスラがいきりたっている。
「お、お前らは頭のネジが一本か二本なくなっておるんじゃないのか?」
「アスラさん、お説教は後にしてもらえねぇかい?」
「完全に武人優位の世界から砲弾主義に変わろうとしている事をとくとご覧入れよう」
 シシオとホリカワの種族特性の発動を感じ取ったブッチー、ガンジャは急いで戦線を離脱するが、それを見届ける間も無く、シシオの獅子吼轟天雷弩砲がぶっ放され、それはホリカワの倍化で巨大化し、高層ビルのような大剣が化け物を木っ端微塵に吹き飛ばす。
 ダミーコア停止の時間までは、まだ僅かに時間が残されている。 木っ端微塵にされても尚、化け物は肉を蠢かせて一つになろうとする。
 そして運命の悪戯か、化け物は核を守るために、体から切り離し遠くへ投げ捨てられる。
 紫と緑のプラズマが混ざり合い、システマの残滓とも言える、赤く小さな粒子がスノーボールのように無数にふわふわと浮いている化け物の核は、空高くに弾き飛ばされ何の因果なのか、コロコロとメタニウムのメンバーとマロン達がいるホットドッグ店の前に転がっていく。
「なにこれ?」
「新種のネズミか? キモすぎるな」
 一早く核を回収しようと肉片が地を這いながらに集まってくるが、ある程度の人型をとれるまでに回復すると、突如として動きを止める。
 そして、ズブズブと変形を始め、顔面部分だけがシステマの顔面に変化する。
「あぁ、ヒカルさん。こんな所にいたのですね。さぁ、私の中に」
「きんも」
「あぁ……キモい……だなんて……」
「ドチャクソゲロキモいな」
 ダミーコア停止時刻が訪れ、脳内に緊急アナウンスが流れる。
『フィナーレです。システマを宿す化け物を見つけたら報せて下さい』
 そのアナウンスを聞いたきなこは小さく笑ってマロンの耳を引っ張るように撫でながら肉の塊へ向ける。
「ほら、マロンちゃんの出番だよ」
「んみゃっ!!」
 同時に巨大な氷柱が肉人形を穿ち、すれすれで指先に逃がした核が剥き出しになりながらも、顔面だけを残したシステマは縋るようにヒカルを見上げる。
「ただ、君だけを、私の、モノに、したかった……」
「私ね、元は風俗嬢だったんだ。毎日知らないおっさんのキノコ食べてたんだよ」
「……うそだ……信じない………」
「これでも一期だよ?消えても困らないやつばっかりなんだから、ある程度想像はつくでしょ?」
「でも……そんなの……ヒカルさんじゃ……ない」
「違うよ、それも含めて私なの。だからシステマが私とろくに話もせずに、勝手にお姫様みたいにワレモノ扱いしてくるのが、嫌で嫌で仕方なかった」
「そうだとしても……それでも私は……」
「システマ、ごめん。仲間の時は割り切ってたけど、今はマジで客のおっさんよりお前の方が嫌い」
 ヒカルのその言葉に、システマは表情を失い、ドロドロの肉片へと姿を変えようと蠢き始める。
「ゔぞだぁ!いやだぁあ!信じないぞぉ!!」
「俺はお前の事、マジで仲間だと思ってたぜ〝権能発動〟」
 ダイゴが権能発動と共に、衝撃波が発生する程の勢いで大剣が振り抜かれ、化け物を形成していた核が叩き潰される。
「ビガルダァァアン」
 ここにシステマの残滓を持った全ての生物の消滅がなった。なってしまったのだ。
 ダンマスは彼へ募る想いもあっただろう。 煩わしい存在であるシステマを叩き潰したくもあっただろう。 しかし彼は別の標的でストレス発散をしている最中にダンジョンバトルの勝利が決定してしまったのである。
 散々暗躍していたシステマは酷く脆く簡単に、いとも容易く、何の因果か、最後は自身が最も愛した仲間達の手により滅される事となった。
「メタニウムの新メンバー募集しないとなぁ」
 システマの核を潰した事によって割れてしまった大剣を墓標に立てるダイゴ。 なかなか自分の世界に酔いしれてる奴である。
「システマ、仲間としてはいい奴だったのにね」
 ヒカルは長い髪を短剣で斬り、髪の束で器用にヒマワリを編み込み剣の柄へとぶら下げる。
「ヒカル良かったの? ヒカルが失恋したみたいにならない?」
「うーん、どうだろっ。恋愛対象では無かったけど、あんなに一途に人を好きになれる気持ちって忘れてたから、システマに感謝してる部分もあったんだ。だからそんな気持ちもこの髪の毛と一緒にリセット」
 きなこはそんな話など聞かずに修正ペンでシステマのはかと書いた後に、小さく涙を流して濁点を書き足し、システマのばかと書いてから涙を拭う。
「きなこはヒカルが大好きなシステマが好きだったかも。流石に最後の怪物みたいな姿には引いたけど」
 しんみりとするメタニウムの面々が、かつての仲間との別れを済ませると、マロンが気まずそうに耳を垂らしている。
「どうしたの? マロンちゃん」
「みんなの友達だったのに氷柱刺しちゃった」
「でもそうしなきゃならなかったんだよ。マロンちゃんは優しいね。今度餅おごったる」
 そしてきなことマロンはすっごい仲良しになる。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品