だんます!!

慈桜

第九十四話 露国の裏切りと決断?

  雲の上を亜音速で編隊を組む制空戦闘機F-15、通称イーグルが大陸の空を滑空している。
『おい雪緒、ちょっとブレてるぞ。寝てんのか?』
『悪い。女の写真見てた。しかし本当に攻撃なんてあるのかね』
『撃墜されても話題のダンジョンマスター様とやらが助けてくれるらしいがな』
『雪緒、佐々木。レーダーに反応がある、速いな。通信拒否、状況開始だ』
『おいでなすったおいでなすったぁ!!』
 六機の日の丸を刻んだ戦闘機は3機ずつ左右に分かれ、敵機を迎えいれる。 事態は突如として亜音速の空中戦へと移行した。
『あんま弾の無駄遣いすんじゃねぇぞぉ』
『こちらの台詞ですよ。ですが』
 雲海に突っ込み、空対空レーダーミサイルが立て続けに躊躇い無く発射され、垂直に落下したミサイルが炎を噴き出し目標に向けて飛来。
『雪緒、目視できた。Su-35だ』
『スホーイ? 味方機じゃないのか?』
『ご丁寧に豆鉄砲撃ってきやがったよ』
 空自から後方支援名目での派遣、その実は爆撃の先行隊として送られた六機のF-15は予期せぬ空中戦に巻き込まれるが、なんら取り乱す事無く、露国第4.5世代制空戦闘機Su-35と一回り小さなMigの混成チームと相対する。
 対する露国のファイターパイロット達は、日本の者達に比べると会話が少なく、息使いも荒い。
『やめ…ろ。ヤポンスキーと…戦っては…いけない』
 ゴーグル越しに覗くその表情は、目は虚ろに、額には膨れあがった血管が幾つも浮かび、その瞳は血の涙を流す程に充血している。
 頭ではわかっている。 こんな事をしてはいけない。
『動くな…勝手に動くな……』
 言葉に出さずとも、その体の強張りや、抗おうとしている姿を見るならば一目瞭然である。 恐らくは綾鬼の洗脳の毒に対抗しているのだろう。 しかし抗うにも少し遅かった。
 露国のパイロット達が相対するは、空自の空狂い達である。 あまり知られていないが、彼らは日米合同演習時などで、自衛権行使の名目で、領空侵犯を犯した他国戦闘機を米軍機の協力の元太平洋沖まで誘導し撃墜する言わば空の暗殺者達でもあるのだ。
 日本はどうせ撃てないんだろと安心して深追いする敵を躊躇い無く撃ち落とし、海の藻屑にして放置する様から、暗殺者の異名で呼ばれる結果となったのだが、それをするには並の腕前では不可能である。
 いくら威嚇射撃をされようとも躱し続け、広範囲のジャミングを施した処刑台まで招き蜂の巣にする高難易度の作戦を実行できる暗殺者達が、その場で潰してもいい格闘戦を行うとどうなるだろうか?
 答えは簡単だ。
 偵察で一早く格闘戦を行った三機に気を取られたと同時に、追跡ミサイルが直撃。 ミサイルのレーダーと重なるように飛んでいた偵察隊にまんまと騙され、八機からなる編成のうち四機が撃墜。 偵察隊が流れるような動作で背後を取り、残す四機も容易く撃墜される結果と相成った。
『状況終了。明らかな裏切りだな。一旦引くぞ』
 空ではコンマ1秒の判断が命に直結する問題となる。 明らかな敵対行動に対しての自衛権行使であったのだが、後にこの戦いは、道案内に送った露国側がなんらかの不可思議な力で通信トラブルを抱えていたにも関わらず、一方的な攻撃を加えられたとして、開戦予告まではされていないものの、極度の緊張状態へと陥る事となる。
 そして、あろう事か新潟から北海道までの日本海沖、領海スレスレに糸を通すように露国海軍が艦船を展開し、睨みあいが始まる。
 そこで国連では緊急議会が開かれ、1時間にも及ぶ阿波総理の会見が行われた。
 全ては露国の誤解を解く事から始まると言った内容を引き延ばし、度重なる通信拒否に威嚇射撃を踏まえても、自衛権の行使に問題は無かったとする反面、露国側が主張する不可思議な力が昨今を賑わせている彼の者の仕業であるならば、徹底的に対抗しなければならないとの内容を、厚紙がミクロになる程の引き延ばしをした演説が終わるが、混乱した国民によりネット環境が過負荷となり。多くのサーバーがダウンする事となる。
「嵌められたとしか思えない」
「そうだろうな」
「あなたは? あれ、ラーMEN?」
「すまんな。ラビリもメイズもフル稼働中なんだ。ダンジョンマスターと言えば伝わるかな?」
 一人執務室で頭を抱えていた阿波総理の前に立つは、某超人コミックスの主要キャラであるラーMENである。 言わずもがなダンマスであるが、彼はこの暗い部屋の片隅で、阿波が訪れるのを待っていたようだ。
「攻撃を仕掛けられてるんだ。気にせず戦争をしたらどうだ?米国もWWIIIを気にして静観を決め込んでいるんだろ?」
「いや、此方から攻撃を仕掛けたら、それこそ第二次大戦を学ばないと全世界に罵られ、それこそ全世界を敵に回す事になるだろう」
「憲法云々は言わないんだな、それこそ俺が世界式をいじってやる。日本にはダメージは無し。どうだ? 世界一安全な戦争だ。日本だけはと但し書きがつくがな」
「君は、何故戦争をさせようとしているのか、伺ってもいいかい?」
 ここでラビリやメイズであれば絵になったかも知れないが、長い三つ編みを垂らしたラーMENが、阿波のデスクの上で脚を組み直し、ただでも細い目を更に細める。
「人間の統治国家は少ない方がいい。俺がする事に邪魔をする者が多いなら理解を示す国に征服させた方がやりやすいだろう? それに俺は元日本人だしな」
「なるほど。確かに大小合わせ300を超える国々は多い。言わんとする事はわからなくはないが、貴方程の力があれば時間を掛けてゆっくりと理解を求めてもよかったのではないか?」
「そのつもりだったんだがな。だが余りに小蝿が多いと殺虫剤が必要になるだろう?」
「我々日本に、その殺虫剤になれと?」
 ラーMENは月明かりに照らされる部屋の窓を開き、月夜を見上げ窓枠に足を掛ける。
「さぁ……その辺の判断は任せるよ。ただ俺がいる世界を、これまでと同じ目で見ない方がいい」
 それだけを言い残してラーMENは窓から飛び去って行ってしまう。 そして突如ガシャンと破砕音と共にカラスが月夜に舞い上がる。
 その音に驚いた阿波が急いで外を覗くと、式典用のリムジンの上に、まるでコミックジョークのように人型を残して着地失敗をしたラーMENが、ぐぬぬと四つん這いに悔しそうに立ち上がる姿があった。
 ラーMENはチラッと振り返ると声を荒げる。
「そこなんか滑るよ!!」
「オイルでコーティングしてるからかもしれんな」
 ラーMENは鼻筋に横皺を浮かべ眉間をを寄せながらに悔しそうな表情を隠そうともせずに、ガレージを二回踏みつけ、地面を凹ませると踵を返した。
「子供らしい所もあるのだな。しかし理解を示す国家に統治させるか。確かにそれならば敵対関係にあった方がやりやすいが……迷宮主よ、今の世は戦争を許してはくれないぞ」
 阿波臣道の声は届かないが、彼はかつてない程の葛藤に苛まされている。
 自身が首相を務めている時代に訪れた千載一遇のチャンス。 勝てば官軍、負ければ賊軍。 決断をしたならば、彼はかつてない程の大日本を作り上げるだろう。 しかし、それをするメリットもまた少ない。 今の日本の在り方では、領土が増えるだけ負担が大きくなってしまうのだ。 それに人種の交配が今より更に加速するならば、近い将来、日本人の大半が混血になる可能性すらありえる。
 そこでふと、阿波の胸ポケットからスマホのバイブレーションが響く。
 画面にはメール受信を知らせる手紙マークと僅かながらの文章。
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 差出人:だんます 宛名:阿波ちゃん 件名:あ、そうそう 本文:数年以内に世界統一紙幣創るから、今のうち物資とか買いまくっておけよ? 諭吉さんがチリ紙にもなりゃしない時代が訪れちゃうよ〜。
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「今物資を買い集めたら、それこそ戦争の準備をしてると言われるではないか。いや、しかし彼が言ってる話が本当なら」
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 差出人:abazurenomix@ 宛先:だんます 件名:ならば協力願いたい 本文:貴方のDungeon Moneyでの物資購入をJPY、USD換算でして頂きたい。期待に応えられるかどうかは、わからないが、どの国よりも、貴方の世界に理解を示そう。
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 錆びついた戦乱の歯車は、ゆっくりと、ゆっくりと回り始めたのかもしれない。

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