だんます!!

慈桜

第九十三話 くそ、またか?

 『……結構派手に搔きまわしましたねマスター』
「うんっ! そうでしょ? これで多々羅の庇護下の魔族を引き抜いてみるね! キラッ」
 キャラが違いすぎるとかキモいとか言った奴は今すぐ名乗り出なさい。 俺、一回でいいから美少女になってみたかったんだ。
『それは発言として危険です』
 いや、でも実際紗鬼をアバターにして乗っ取ってるんだからそれぐらい言わなきゃ逆に危ないだろう。
 女装趣味の変態なんかじゃないんだからねっ!
 実は鬼子達を多々羅の元へ送ってやると言って紗鬼の頭を叩いた時に中身を抜いてやったんだ。 今はコアの世界式のデバイスに閉じ込めてる。 これでシステマと紗鬼のデバイスゲットだぜ。
「多々羅様ぁぁあ!!」
 早速多々羅発見したのでぶりっ子紗鬼ちゃん特攻いたしましゅっ!かみまみた。
「紗鬼……なのかい? よくぞ帰ってきてくれた。ここにはどうやって?」
 システマを高校生ぐらいの少年にしたような見た目、緑色の髪に眼の多々羅。 こいつを目の前にすると、中々色々やらかしてしまいたくなるが、俺の作戦は魔族の奪還だ。 ここは紗鬼に徹するしかない。 並列思考でラビリも動いてるから気を抜かずに女になりきるのは中々難しいが。
「実は、ダンマスに……不本意ながら助けられてしまって」
「そうだったのか、でも君が無事だった事が何よりの吉報だよ。他のみんなは……」
 ここでなんて答えるかが問題だな。 こいつの世界式には、まだコアが確認されてない。 って事は自分の配下の動向が掴めてないって考えるべきか、それともカマを掛けてきているか。 欺く為には真実に重要な虚実を織り交ぜるのがベターだと言うし、この辺は素直に話しておこう。
「樹鬼と綾鬼は生きてる。でも他のみんなは殺され…ちゃいました……。樹鬼と綾鬼はダンマスに守ってくれとか言い出して」
「そうか…。辛い思いをさせたね。紗鬼、早速で悪いのだが力を貸して欲しい。今この露国の首都には悪魔のような魔物が跋扈しているんだ。不本意だけど、ダンマスの世界下の良質の魔石も手に入る。討伐に手を貸して欲しい」
「勿論です多々羅様!微力ながら尽力させていただきますっ!」
 キラッ。げろげろだぜ、まじで。 でも後は多々羅に適当に魔石を運ぶだけの簡単なお仕事です。
 しかし多々羅の奴、不完全な存在だな。 コアが存在していないのにどうやって世界式を確定しているんだろうか? いや、案外小さな真核を体内で保存して、ダミーコアの概念で設置型とかにしてる? 存在があやふや過ぎて逆に難しいとはなんたる。 会えば即座に穴が見つかると思っていたんだがな。
『ラディアルの純度が低いままに大量に取り込んでいるようで、存在が濁ってしまっているのかもしれませんね。もはや彼が何かすらわかりません』
 だよな、見た目は確かに多々羅だが、あのブサイクなコアに近い存在になっているような気がするよ。 さて、そろそろ時間も経ったし、あいつらの所に戻ろうか。
 コア、紗鬼の戦闘力でレッサーデーモンを3時間以内に倒せるのは何匹だ?
『2体討伐出来れば良いほうかと』
 あいあいさー。 じゃあサクッと多々羅の近くに転移しちゃって下さい。
『かしこまりました』
 うん、やっぱりコアちゃんいた方が寂しくなくていい。 多々羅がなんやらパソコンと睨めっこしてるが、関係なくゴマすりましょう。
「多々羅様!!頑張って2匹倒しました」
「ご苦労様、紗鬼。それと、余談なんだが」
 めんどくさいなぁ。 今はボロが出そうだからあまり多々羅と絡みたくないんだが。
「ここモスクワでは探し人に会えないようでね、ウラジオストクへ向かいたいのだが、どうやらあちらにジンジャーがいるようで、この姿だと不便なんだ」
「まさか、姿を変える事ができるのですか?」
「いや、違うんだ。Q国にね、私達に似せた偽物を用意しているんだ。だから紗鬼には申し訳ないが、そこまでジンジャーを誘導して欲しいんだ」
 うん? これもしかしてバレてるか? なんでこいつがジンジャーがウラジオストクにいる事知ってんだ? ネットで調べたか、それとも世界の眼を手に入れたか。
『目前にして検知はできませんが』
 こんだけ中身が黒靄ならわからなくても仕方ないだろう。 もし後者なら、とりあえずのスパイ大作戦は失敗だな。 とりあえず離脱しよう。
「わかりました。それではジンジャーを誘導します」
「いや、その必要は無いよ。ダンマス」
「お前細身のEカップに穴開けるとか頭おかしいのか? 国宝だぞ」
 振り向いた瞬間、紗鬼ちゃんボディの胸から手が生えやがりました。 俺、一生の不覚。
「最初から疑っていましたよ。紗鬼とは体の使い方も喋り方の抑揚も全然違いましたから」
「あらそう? わっち的には完璧であったのでありんすが。てかそれだけでよくわかったな」
「偽物の首を使って、紗鬼がジンジャーを露国までおびきよせたまでは、蟲でなんとか把握してましたから」
 目の前に銀色の蜻蛉が飛んでる。 ミスリル生物ってヤツですね、わかります。 ミスリルにデバイスを与えて擬似生命化したんでしょうね。
「紗鬼に関して実は半信半疑でしたが、ここで嘘をつくなら貴方しかいないと思いましたよ」
「あ、そう。けど俺も殺されてやって正解だったわ。お前システマだろ?」
「ふふ、ふふふ、いいえ、今は歴とした多々羅ですよダンジョンマスター。それにね? もう我々は貴方が考えてるよりずっと深く世界を理解している」
 カッコつけて心臓を握り潰してくるのはいいが、俺精神生命体だしラビリに戻ったらノーダメージだから、まだ全然意識保ててる件。
「貴方がお膳立てをしてくれたお陰で、私の完璧なコアは完成し、露国全域を完全に掌握する事も可能になった。次は一方的な宣言はさせませんよ。我々の存在と世界式の正当性を賭けてダンジョンバトルを宣言する」
「せっかちだねぇ。まだ早いとか思わないわけ?」
「そんな討論会を開くつもりはないですよ。前回は貴方の一方的な宣言でなす術なく敗れましたが、このコアさんが定める正当なダンジョンバトルであれば負けませんよ」
「まぁいいか。よし、受けて立とう。一つだけ勘違いしてるようだから言っておくが、お前は四つの世界を敵に回したって事だけはわかっておけよ?」
 前回速攻でシステマちょんぱしちゃったから、わかってなかったかもしんないけど、ダンジョンバトルに移行したら、本来のルールとしては、手駒は庇護下の存在。それは冒険者は勿論の事、魔物なんかも入る。 んで、攻めは相手のダミーコア全破壊と、それが完了してからのメインコアの破壊。 ダミーコアを手駒で潰しきるまでの間、マスターは互いに攻めに入れない。 どんだけ力量差があろうと、ダミーコアが大量にあれば防衛面では有利ってのが大雑把なルールなんだが、それを踏まえた上でシステマの決断はいかが思われるだろうか?
 まるで殺してくれと泣き叫んでいるようにしか聞こえない件。 どう考えても、こいつが俺に勝てる筈がないだろう。 色々考えて、こいつが最強だ!ってテンション上がった時に叩き潰す予定が、一瞬でそのステージになってしまった。
 余りに早い接触で追い込んでしまったんだろうか?
「ご自身の掌握する全世界の迷宮のダミーコアと、ナージャ達以下の魔族の心臓を潰せるのなら、この勝負は貴方の勝ちですよ」
 え、嘘?まさかの展開? 最近調子乗りまくってたから、またしてやられた?
『マスター、多々羅は凄い式を組み立てていますよ。多々羅自身が我々の眷属として存在し、我々の世界式庇護下にありながら、露国の大部分を別ダンジョンとして管理しています』
 うわぁ、頭いいなこいつ。 じゃあとりあえずグランアース、フェリアース、レィゼリンはバカンス名目で休眠状態にしたらいんじゃね? そしたら地球だけの話だろ。
『まさしく本筋はそれが狙いかと、しかしその場合に於いても、魔族の心臓にダミーコアを埋め込んでいるならば、魔族と敵対する結果となる保険も掛けています』
 なるほど中途半端に見えて、きっちり準備してきてるわけだ。 前にもこんな事あったよな?
『フェリアースの大魔王を名乗るダンジョンマスターのケースに似ていますね、しかし厄介さで言うなれば此方の方が上かと。フェリアースにはアスラやヤシャを筆頭に名だたる罪喰いシンイーターが存在していましたから』
 くそめんどくせぇな。 てかとりあえず死ぬわ。 そろそろ紗鬼ちゃんの身体が可哀想になってきた。 でもその前に多々羅を喜ばせておこう。 完全に勝ったと思ってて負ける時ほどざまぁな話はないからな。
「くっ……中々やるじゃないか……覚えてろよ」
「私は誰より貴方とコアさんを敬愛しておりますよ。貴方からこれまで頂いた言葉、一言一句忘れた事もありません」
 くぅぅ!!ムカつくムカつく。 これ戦力差的に、流石に攻めては来ないだろうけど、ちょっと考える必要あるな。 何より魔族問題をどうするかだな。
『そろそろ本当に従魔師の弟子を育てたらいかがですか?』
 ……確かに従魔師なら、俺の庇護下に無くとも自由が利くな。 って事は……コア、確か北海道に可愛いプライザーいたよな?
『やはり美少女の師匠になる夢は諦めていないようですね。それならば初めから彼女を弟子にしたらいいものを』
 いやいや、偽物の五天五柱使役するだけでもすごいでしょうよ。 けど、チビ達が寄ってたかってだからな、そんなのはリアルなテイマーじゃない。
『はいはい、言い訳はわかりました。では小鳥遊姉妹の元へ転移しましょう』

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