だんます!!

慈桜

第九十一話 日露交渉?

  阿波臣道あばしんどう。日本国99代総理大臣であり、鬼手仏顔の阿波と恐れられている。
 彼が首相を務めてから、著しく日本は変わり始めた。 日本人独特の平身低頭な外交を盾に、これまで触れられる事が無かったタブーを悉く掘り起こす鬼の手を使うイケイケ姿勢が多くの国民の支持に繋がり、自身が関係する金の動きを一早く全て事業化する事により、堂々と弾薬現金を使える珍しいタイプのボスとして君臨したのだ。
 舎弟化企業の確定と、自身の清廉潔白が証明できる準備が整うと、次は一大野党である民明党の瓦解工作を始める。
 近隣外国人が戦後80年を掛けて作り上げた日本人によく似せた高学歴外国人連合の民明党の不祥事へガンガンスコップをぶつけて、横に縦にと強請りを始めたのである。
 数億単位での強請りから始まり、絞るだけ絞りきると、誰もがやってる小さな裏金問題をリークして政治家として抹殺する手腕は、途轍もなく恐れられ、終ぞ野党は身を守る為に連合を組まざるを得ない状態にまで追い詰めたのだ。
 巫山戯た話に聞こえるかも知れないが、彼が以前の弱い自身を捨て、阿波の面をかぶった鬼となり再び降臨せしめたのは、血筋に縁の深い、ある一族の存在が大きい。
 彼のルーツを辿るならば、彼の家系は、日本のさる現神様方の縁戚に与している公家の家系である為、先祖古来より乱波者が仕えている。
 徳川二代より服部から派生し、八鳥ハトリの名を冠する忍びの一族が、影に潜み暗躍しているからこそ、彼が鬼の手を振るう事が出来るのだ。
「して、臣道。どうするでござる?ダンマスの言う通りにするならば、阿波家と八鳥家の約定を破る事になるでござるよ?」
 あからさまに忍者すぎる忍者。 冒険者であらば、誰もが知るヌプ蔵が、何故か阿波総理の目前で茶を啜っている。
「いや、それはおかしい。縫布ヌフが私の知らぬ間に冒険者になったのではないか? この場合約定違反は君の方だと思う」
「政治家モードやめるでござるよ。確かに冒険者にはなってしまったが、それまでは仕事に失敗して落ち込んで引きこもっているだけの無職でござった。忍者家業なんぞ継ぐつもりも無かったのに、叔父上や父上が代替わりを考えたのも、拙者が冒険者になった故にござる。それに夢物語であった、ご先祖様のような忍術が使えるようになったでござる。反省もしておらぬし後悔もしておらぬ。約定違反と申すなれば首を撥ねれば良いが、臣道に拙者が斬れるでござるか?」
「縫布、互いに揚げ足取りはやめよう。迷宮主の提案、冒険者を日本国の敵と断定せよとの話は、飲まざるを得ない状態になっている。南阿国の地元民の奴隷化、露国への魔物侵略、中共への侵略、南北の滅亡。条件は整いすぎている。それに今更発言を撤回する事などできない」
「ならば拙者は臣道とは敵対するでござるね?これでアイリス殿とシュバイン殿に会いにいけるでござる」
 どうやら口調こそは穏やかだが、険悪な空気が流れている。 其処には仕えている身として主人を立てる忍らしい忍の姿は見えない。
「だがこれは諸外国へ向けてのリップサービスであり、国内の冒険者をどうこうしようと言う話ではないんだよ縫布」
「いや総理大臣が冒険者は日本国民じゃありません!侵略者です!って公言しているのに、冒険者が近くに侍るのはおかしいでござる」
「しかし迷宮主の彼は麻草君にこうも言っている。従魔師達は日本国民として認めるだけでなく、国の中枢に組み込むと公言しろとね。冒険者の敵性認定までは話せたが、流石にこれを公表してしまうと」
 冒険者を侵略者として断定して、従魔師は国の中枢に組み込む。 単純に考えれば、冒険者は日本人離れしてしまっているが、従魔師は見た目も変わらないし、日本国籍を持っているゲーマー達であるので、なんら問題は無いように感じる。 感じるのだが、現状日本でのプライザーの影響力は世界規模であり、冒険者達が面白半分に魔石で強化した魔物をネットで販売していたりする為、一個人が所有していいレベルの武力でない事は誰もが知る事だ。
「戦争準備をしてると思われるでござるね」
「ご丁寧に迷宮主が世界中で私の命令で仕方なくと言って魔物をばら撒いてくれているしね。それに従魔師について態々私が言及する必要は本来無い」
「流石ダンマス。無茶苦茶でござる。けど、全世界が牙を抜くのに躍起になり、ほぼ腑抜けの完成系になってる日本人が、個人兵器を所有して、戦闘民族の血に火をつける事も心配するでござるよ。正解は、我々が魔物を排除して、然るべき国で預かって貰おうと考えている。でござる」
「しかし既に魔物達は、日本固有生物として登録されており、絶滅危惧種の申請すらしてしまっているし、既に密猟を理由に外国人を捕らえてしまっている」
「八方塞がりでござる。もう強引に憲法改正しちゃったらどうでござるか?もう世界は変わったでござるよ。ダンマスの日本贔屓を利用して、サクッと戦争するのが早いでござる」
 しかし阿波総理はヌプ蔵の言葉に黙り込んでしまう。 憲法改正したから戦争しましょう!は彼が立てるプラン、道筋には残してはいけない筋書きだからだ。
「私はただ、円滑に石油を輸入する為と、密漁漁船に武力示威をする為だけに……」
「でも武力示威をする為には、攻め込まれないように6000発の核爆弾作りましょうってのが、腹の内でござるね?原発総廃止になるまでに憲法改正、そして核爆弾作りましょう!か…臣道、もうそれは意味ないでござるよ?」
「何も私は其処までは言っていない」
「臣道、世界は変わったでござる。石油もある、密漁漁船もいない、もうこれから増え続ける冒険者が居れば日本は回るのでござるよ。それに核爆弾を撃たれようと、ダンジョンがあり冒険者がいる地には何も出来ぬでござる。ここでダンマスの言う通りにしておくか、自分の過ちを御託で固めて突き進むかは一目瞭然でござる」
 彼は鼻で溜息を吹き出し、吹っ切れたように小さく笑みを浮かべた。
「縫布、短い間だったが、八鳥の任を解こう。そしていつか再び、我が阿波家に仕えて欲しい」
「それが約定の罰なれば、喜んでお受け致し候」
 既にその場からヌプ蔵の姿は消えていた。
 そして阿波総理は、曲がりかけた背中を正し、胸を張りながらにSPが見張る重厚な扉の前に立つ。
「ボスがお待ちです」
「ありがとう、失礼するよ」
 扉の先には青い目を細めながら、ご機嫌な笑顔を浮かべる露国大統領、ウラスジミル・フウテンの姿がある。
「やぁ、裏筋見る」
「やぁ、シンドウ」
 彼らはファーストネームで呼び合う仲であるが、その実犬と猿が可愛く見える程には険悪だ。
 阿波が入室したからと言ってフウテンは立ち上がらないし、阿波も握手もせずにソファへ腰掛ける。
 本来の様式をかなぐり捨てた二人だけの喧嘩外交、これが実際の日露交渉である。
「さて、裏筋見る。何から話そうか?」
「何からでもいい。今日は多く話したい事がある」
 阿波は一々喧嘩を売るイントネーションでフウテンを呼ぶが、そう感じているのは私だけかもしれない。
「そうですか。ならば此方から本題に。まず冒険者に関しては、日本国民と認めず、敵対する侵略者として断言する」
「そうか、それはいい報らせだな。ならば自衛権を行使するのだな?」
「侵略行動が開始されたら即時に」
 実は、ここでフウテンは先手を取られた状態にある。 何故なら彼は今回の来日で、前回の礼文島の件を踏まえても、冒険者を敵だと公言させる為ならば、いかなるカードをも切ろうとしていたからである。 既に開始直後に目的は達成したと言える状態になってしまったのだ。
「では、それは冒険者に対抗する武力を持っていると考えていいのか?」
「いや、それはない。しかし攻撃が通用しないからと、ただただ侵略されるわけにはいかないからな」
 お互いに狸や狐の化かし合いである。 プラモンの密漁をしていた露国に対して、プラモンに関しての質問には答えないと暗に返事をしているのだから。
「しかし我々の国で従魔師と呼ばれる者達は国の中枢に組み込む事は決定した」
 しかしまさかの不意打ち。 会心の一撃を繰り出す。 プラモンの話はしないが、それに関する話をぶっ込んでいく。 それには流石のフウテンもピクッと眉を動かす。
「それは例の生物兵器を使用する者達の事か?」
「さて、何の事かな?裏筋見る。彼等が使役するのは日本の固有種の動物達だが?」
 強く握りしめたティーカップの柄が粉砕するが、互いに笑顔を絶やさない。
「そう言えば、とある冒険者がウラジオストクやモスクワで、日本の指示だと言い張って悪魔のような怪物を生み出す薬物兵器を使用しているんだが、シンドウは何か知らないか?」
「そう言えば、とある海軍が大規模な上陸作戦を我が国の領土で行ったようなんだが、裏筋見るは何か知らないかい?」
 手持ちの札の相殺は早めに行うようである。 実際の所、露国の件に関してはダンマスの暴走であり、阿波は関係無いのだが、ここで強がっておく事で、迷宮主との繋がりを示唆しているのだろう。
「シンドウ、では単刀直入に言う。あの迷宮主の行動に君が関与していないなら、日本から軍を派遣してくれないか?」
「裏筋見る。自衛隊は軍では無い。後方支援の名目でならば派遣出来るが、直接的に攻撃に加わる事は出来ない」
「突発的な戦闘を除き、だろ?それだけ聞けたら十分だ。いち早く世界の脅威を排除しようじゃないか」
 雑談を割愛したが、1時間46分に及ぶ会談は終了し、後の正式な日露交渉にて、自衛隊は露国へ派遣される事が決定した。

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