だんます!!

慈桜

第九十話 だんますのいたずら?

 「ご主人、ここで一体何をやっているのかな?」
「なにー、ワタシ中国人アルよ。露国語難しいアルよ」
 どうもこんにちわ、行商人のダンジョンマスターです。 そんな所で何をしているのかって? そんなの簡単だ。 見ての通り、路上で禁制品を売って国に喧嘩売ってるんだ。
「いや、流石に路上で堂々とコカインやヘロインを売られるのは見過ごせない。署まで同行してもらおう」
「厳しい国アルね」
 遊びは程々にしておこう。 逮捕されちゃうからね!俺みたいに。 でもこんなしょーもない事にも意味はあるんだ。 脅すよりも、脅される立場の方が何かと話し易いからな。 どうせ綾鬼の仕掛け待ちの暇潰しだろとか言った奴は前出てこい。 ネタバレ駄目絶対だ。
「大層な仕入れルートがありそうだな。何処の組織の者だ?」
「取調室ってこんなオープンスペースしかないの?狭い部屋でライト当てておら! 吐けぇ!とかないの?」
「どっかの誰かがタダ同然でヤクばら撒いてくれたお陰で大忙しでな。ブラジ、いや、伯国のポリにでもなった気分だぜ」
「へぇ、そんな悪い奴がいるのか。大変だな」
「全員の供述から言って犯人はお前なんだけどなぁ?!」
 そうです、私が悪いお兄さんです。 太郎の家から露国首都に来てから、片っ端から麻薬を配り歩いてやりました。
 1つは面白そうだから、もう1つは盤上を操作する為。 俺的に意味があるのは1つ目の面白そうって方だけどな。
「この取り調べってちゃんと録音してる?」
「あぁ、勿論している」
 日本みたいに誠に遺憾の鉄板ネタで軽口挟む程度の、ある意味話のわかる国ならいいけど、露国みたいな大国だと、フィスト飛び越えてヘッドから突っ込んでくるファックガイズの集まりだからな。 ヘッドファッカーズどもめ。
 回りくどく感じるかも知れんが、搔き回すには裏社会からダイレクトにってのがスマートだ。
「でもさ、コカインやクリスタルやヘロインをタダ同然でプレゼントしてるとさ、何故か新種の極上品が飛ぶように売れたりするんだよな。不思議だよなぁ。いや、付き合いを続けたくて仕方なく買ってくれる方が正解か」
「は? 何を言ってる?」
「これ、イリーガルジャムって言ってさ。注射器で体内に入れちゃうと、超ヤバイぐらいの快楽に襲われて、下位悪魔に存在改変されちゃうんだよね。 しかもダンジョンモンスターのカウントだから絶対服従のなんたるご都合主義」
 瓶詰めの緑のジャム。 レッサーデーモンの血なんだけどね。 強さ固定で数増やせるから、150層クラスに到達したダンジョンマスターがよく街で薬物として売って手駒を増やす手段として使われてる。 人間の心臓大の魔石が取れるから、人間達はイリーガルジャムを豚にぶっ込んで、黒く炭化した豚から魔石抜いたりしてたけど。
「お前冒険者なのか?」
「うん、俺は冒険者、日本の偉いさんに露国を叩き潰すから手伝ってくれって言われちゃったんだわ。こんな理不尽な薬物ばら撒くとか侵略よりやばいよな」
「その話は本当なのか?」
「さぁ、どうだろうか? でも冒険者に頼まなきゃ下位悪魔は倒せないよな? 冒険者を派遣してもらおうにも、それを頼んでしまうと日本側のしてやったり。マッチポンプが成立だ。露国の偉いさんはどうするんだろうな?」
 後は露国のアングラレッサーデーモン達が暴れまくって仲間を増やすだけの簡単なお仕事です。 実際日本に冒険者を派遣させる事なんて出来ないけどね、世界各国はそう見てない。
 これで多々羅達が露国に到着次第、正面から露国との協力態勢をとる方向を選ぶだろ。 裏から遠回しにコソコソやるよりは恩売った方が話し易いからな。
 薬物犯罪の大物逮捕したと思ったらもっと大変な目に会うんだからたまったもんじゃないだろうな、このポリス。
「まぁ、ここで話を止めるのも、偉いさんに頼んで国に伝えるも、ポリさん次第だよな。諜報機関の人間が一人二人は潜んでるから、すぐに漏れるだろうけど。なっ? エージェント、アラン・ジューバ。 あれ今はユーリ・スモルニコフ巡査だっけか」
「知ってて俺に逮捕されたワケか。お手上げだな」
「ソ連の諜報機関が解体されたと言っても、その大組織は未だ健在だからな。調べたらすぐわかったよ」
「わからないからこその諜報機関なんだがな」
 だっておいらダンジョンマスターだもの。 なんだったら電子の海に飛び込んで経済危機に陥れてやってもいいけど、いきなりそれをやるのはお洒落じゃない。
 大国ってのは、いきなり叩き潰すといじけて引きこもる可能性もあるからな、じわじわと真綿で締め付けるように追い込んで行って、怒りの矛先を明確にしていった方がいい。
 マフィア達が悪魔になって殺し合いしてるうちはまだいいだろう。 しかしこれが無視出来ない事態に陥ったらどうだろう?
 軽くジャブ程度に日本に敵対意思ありと思わせとくだけでいいんだ。 それが後々効いてくるはずだ。
「じゃあまたな。下位悪魔とは戦わない方がいい。確実に死ぬからな」
「待て、待ってくれ。その話が本当なら、どうしたらいいんだ。ただヤられるのを指くわえて見てろってのか?」
「どうだろうな。1つだけ確実なのは、外に出ずに部屋に篭っていれば安全だって事だ。もうちらほら下位悪魔が生まれ始めてる。早く手を打った方がいいだろうとは思うがな」
「くそ!!なんてことだ!!」
 あら、取り調べ中なのに飛び出して行っちゃうのね。 わっち寂しいでありんす。
 どうせなら核でもぶっ込んでくれねぇかな? 地形を変える程の攻撃は、修復が入るから、もう世界は変わったんだよって二秒で知らしめる事ができるのに。
 しかしこれで、ある程度のお膳立ては出来てしまったな。 後は時間が過ぎるまで好き勝手するだけなんだが、何をして遊ぼうか。 やっぱ全権委譲だと好き勝手出来るけど、話し相手コアがいないと暇だな。
 ウクライ、ごめ、宇国に美少女ウォッチングでもしに行こかな。 俺の一眼レフに火を噴かせつつ、掲示板で本当にダンマスは神だった件。的な自演スレおっ勃ててやろうか。
 と、言いたい所なんだが、実際そうも言ってられない。
 覚えてないかも知れないが、ダンジョンを100層クラスに到達させると、冒険者同士の戦闘禁止プロテクトが解除される。
 勿論、冒険者が殺された時のダメージは俺もコアも同様に食らうが、これまではコアの世界式以下の冒険者同士の殺し合いは出来なくなっていた。
 だが、現在50層踏破者も日に日に増えてるので、60、70層クラスを多数設置する事を考えると、そろそろ100層対策が必要になってくる。
 犯罪者の冒険者申請は丸ごと認可してしまえとコアに言ったものの、マニアックな犯罪者が多すぎて一回保留、のんびり罪喰いシンイーターの選考をしようかとも思っていたが、今回は露国で遊ぶって決めてるからな。 その辺も丸投げしちゃおうかなって思ってます。
 てなわけでブッチーにグラフィカルコールだ。
『うわっ! ダンマス! ちょっと待って下さい! 今オーガのハウス引いちゃって!』
「あ、あぁ。かけ直そうか?」
『大丈夫です! もう少しです! ホリカワ! 上来てるよ!』
 どうやら罠にかかってオーガに囲まれてるみたいだな。 こいつらぐらいなら安心して見ていられるが、中堅ぐらいなら飛び出して助けに行ってしまいそうな絵面だ。
『おっけいです。どうしました?』
「おっけいってまだまだ戦ってるだろ」
 ブッチーの後方でガンジャが大剣振り回してるのが見えてるんだが。
『あれぐらいなら魔法使うの勿体無いですから。私は後方待機です』
「そっか。ブッチー、犯罪者の冒険者申請リストお前に送るから、罪喰いシンイーターの選出お前等に任すわ。リストの横のフォロー押したらデバイス届くようにしてるから。後、中国、露国、阿国に配備される奴も出てくるだろうからその辺も話しといて」
『それは構いませんけど、露国にもダンジョン設置しているのですか? それなら阿国同様に転移ゲートを設置して貰いたいのですが。後中国沿岸の特区にも』
「露国にはまだ設置してない。中国沿岸には、マップに表示してるから上野公園の竜舎で飛竜を借りてくれ。とりあえずこれは100層に向けての対策だと思っておいて欲しい。シリウスからある程度の話は聞いてるだろ?」
『えぇ、忘れるはずがありません。100層の戦闘禁止プロテクトの解除ですね。でも、安心して下さい。それを踏まえた上で、前回の一件より、一期二期のみんなで中国の冒険者達とも連絡を密にしてますので、冒険者同士の争いは最小限に抑えられる筈だと考えています』
 それはみんなそう思うんだがな、結局は人間の味を覚えた猛獣が人間を襲いまくるようになるのと同じで、一度デバイスを奪って味をしめてしまえば、それまでの努力や経験すらも奪えてしまう愉悦に勝る毒は無い。
 たまたま100層クラスで冒険者が死んでしまって、デバイスを拾ってしまったらどうだろうか? 皆心の何処かで、黒く小さな感情が生まれ始める。 わざと魔物を利用して殺そうと画策する者も出てくる。 小さなきっかけは無数に転がってる。
 冒険者の殺し合い、それはシリウスやグレイル程の強者達が護る世界でも容易く起きてしまう悲しい現実だからな。
 そうならないように、ゆっくりじっくり冒険者を増やしているのに、システマみたいな奴も出てくるんだからな、たまったもんじゃない。
「頼んだぞ」
『任せてください』
 でも頼むけどな。 ダンジョン運営で一番面倒くさいのは冒険者のいざこざだからな。 そこを丸投げ出来るのは本当に助かる。 罪喰いシンイーター様々やで。
『あ、ダンマス。グランアースへの社会見学はもうしないんですか?』
「タイミング見てだな。とりあえずそれまではお前らがガッチガチの縦社会見せつけてやれ」
『ダンマスが縦社会とか言うとギャグにしか聞こえないですけどね』
 うん、俺あんまり敬語使われたりしないしな。 わかってるけどギャグとか言うなし、地味に傷つく。
「あぁ、前回のクエストの報酬も入れておく、後で確認しといてくれ」
『いや、いいですよ。結局ジンジャーの護衛も放棄したんですし』
「それとこれとは別だ。お前らには嫌な仕事をして貰ったからな、じゃ」
 クエスト中も配給で結構いい武器プレゼントしたりしてたんだがな、やっぱり仕事には報酬で答えるのがいいだろう。 あいつら無駄遣いすごいしな。
「おいおいおい、何帰ろうとしてやがる?」
 テクテク歩いて帰ろうとしてたら俺の取り調べをしていたポリスメンが戻ってきた。 どうやら俺は帰ってはいけないようである。
「喧嘩する?」
「いや、やめておく」
「じゃあ行くよ?」
「いや、待ってくれ。回線がパンクする程に通報が入りまくってる。どうにかならないのか?」
 どうにかならないのかと言われても元凶が俺なんですけど。 このポリスメンは何を言っているのだろうか。
「冷静な判断が出来なくなっているのは察するが、どうにかできる筈がないだろう。俺は冒険者の中でも最弱だからな。なんてったって日本の侵略に手を貸さなきゃいけないぐらいに最弱なんだから」
「ハァ…言葉遊びはやめようダンジョンマスター。現在我々は何より日本に関心を寄せている。調べれば君がダンジョンマスターのラビリである事はすぐにわかった。何故君が日本と我々を敵対させようとしているんだい?」
 おっと、いきなり全部バレやがった。 だからネット社会は世界を狭くするんだっての。 どぼして……どぼして俺が下調べして警察に捕まってまでして頑張ったのにうるうるシクシク。
「なんの事かな?」
「子供騙しのやり取りはやめよう。こちらに落ち度があるならば、貴方の要求を飲む準備があると上は言っている。北海道の一件に関しても、モンスターを全て返還してもいいと言っている」
 上から目線なのは気になるが、プラモンはむしろプレゼントしたい。あれを多々羅が調べたら調子に乗って魔物研究に更に精を出すだろう。その方が俺としては都合がいいんだ。
「はぁ…お前らちょっと調子に乗りすぎたよな。米国みたいに今は静観ってのを決め込んでくれてたら、いくら研究を続けようが、世界式を組み上げるぐらいまでは放置しておいてもよかったんだ」
「いや、だからこそ落ち度があるならと」
「落ち度に関しては現在を問うものじゃない、数万通りのシュミレート結果により、今後露国が冒険者に危害を与える可能性が数値として82.69%と算出された。そこで俺がそっと手を加えた。現状での露国の未来的敵対意思は99.66%まで上昇した。それが落ち度だが、未来を変える事なんてお前らには出来ないだろう?」
「そんな、むちゃくちゃな」
「無茶は1つも言っていない。俺が動く時は俺がイラついた時と楽しそうだと思った時だ。それが今だったってワケだ。悪いが、お前みたいな一諜報員とこれ以上話す事は無い」
 バレたら開き直るしかない。 露国の冒険者敵対率が98.78%に下がったが微々たるものだろう。
「それなら国ごとすぐに滅ぼせばいいだろ!! お前にはそれができるんだろ!!」
「お前らには繁殖してラディアルを生み出して貰わなきゃならんからな。間引きはこっちの加減でやらせてもらうよ。それこそまさに俺の自由だ」

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