だんます!!

慈桜

第七十五話 礼文島にいこう?

 「昔はね、こっちにもリフトがあったみたいなの。でも駐車場を作る為に裏コースは閉鎖しちゃって、今じゃ宿泊施設も大きいのができちゃったから、 今じゃここらは地元の子供の遊び場なんだよ」
 黒髪の大層美人な鶫が、薪で焼いた鮭とばを更に並べて自衛官達の前に置く、酒の肴にどうぞと差し出すが、子供達が我先にとガシガシ齧り付くので、小野田二尉は伸ばした手を彷徨わせている。
「おねぇちゃん…一緒に寝よ」
 二階へ続く木造の階段から降りてきたのは、鶫を小さくしたような可愛らしい黒髪の女の子だ。 先程まで寝ていたのか、ペンギンのよれた人形を小脇に抱え、目を擦りながらに拙い足取りで降りてくる。 寝癖混じりのふわふわの柔らかい髪の毛を鶫が手櫛で伸ばす。
「そうねひたき、でも一杯寝たから眠たくないでしょう?」
 鶲と呼ばれた美少女は、素直にコクンと首肯すると、自衛官と悪ガキ達を見渡して、恥ずかしそうに鶫に抱きつく。
 自衛官達は可愛らしい妹さんだと優しい笑顔を浮かべているが、悪ガキ達の反応は違う。 5人は食い入るようにひたきを見つめ、頬を赤らめている。
「あらひたきモテモテね」
 ひたきは照れから姉の言葉を否定するようにブンブンと首を横に振り、顔を真っ赤にしながら二階へ上がって行ってしまう。
「鶫さん、こんな事を聞くのは失礼ですが、妹さんのお体あまり良くないと仰っていましたが一体何処がお悪いので?」
「えぇ、ひたきは心臓の位置が逆なのですよ。それで手術で入れ替える必要があるのですが、どうやらそれが大手術みたいで。東京の医師せんせいが同じ症例を扱った事があるようなので、お願いしようと思ってるんです」
「それはまた難儀な…」
 見るからに元気なひたきが、そんな難病を患っているようには見えない。 内臓逆位と言えば、症例が少ない病状の一種であり、肺などに障害を患う可能性がある難病である。 あの日本で一番有名な顔に縫い傷のある闇医者ですら、手術でミスをしてしまう程の困難な手術になる為だ。
「鶫さん、ヒタキちゃん治るよね?」「メイズに頼もうぜ。あいつなんでもできるだろ」「そうだよ!メイズに頼もう!あいつ多分神様なんだぜ!」
 子供達は口々にそんな事を言い始め、鶫は困ったように眉尻を下げながら小さく笑う。
ひたきの事は心配しなくても大丈夫よ。あの子は強い子だから。それよりもチカラ君達さ、いい事教えてあげよっか?」
 そう言って鶫は、携帯を取り出して、メール画面のリンクをクリックして一枚の画像をダウンロードする。
 其処には、白髪混じりの優しそうな笑顔を浮かべる男と、黒髪赤眼の蝙蝠のような翼を生やした幼女が写っている。
「すげぇ。人型五柱だ。次は悪魔だ!!」
「私達のお父さんなんだけどね、考古学の研究をしてて日本中飛び回ってるんだけど、佐渡ヶ島で捕まえて、今は礼文島にいるんだって」
「鶫さんのお父さんやっつけてもいいの?」
「やっつけなくても大丈夫よ。私達の機嫌を取ろうと思ってガンプライズ始めたみたいなんだけど、手に余るみたいで迎えに来てくれって言われてたの。良かったら譲るように言っておくわよ?」
 その言葉に悪ガキ達は目をキラキラささながら小野田と時田に振り返る。 2人は溜息を吐くと、わかったよ、行こうと口々に了承した。
 それと同時に小野田はスマホを手に取り、子供達を写メると、通話アプリでメッセージを飛ばす。
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 小野田:すいません。急遽子供達と礼文島に向かう事になりました。写メ.jpg みんな元気です。
 チカラママ:お世話になってます小野田さん。お手数ですがウチの子の鼻クソとってあげてください。
 えみ:もー、凛に宿に狐入れるなって伝えてくださいね。
 チルマミー:なんでウチの子こんなにいちびってるんだろ。えみちゃん今日同伴?
 丸山綾子:うわお。マルが見えない。
 美羽:綾ちゃん、あんたもマルだからね?チルママ、それはうちのタロウへの当てつけ?ウチの子なんでこんなヤンキー顔なんだろ
 チカラママ:小野田さん、えみちゃんが小野田さんの上半身裸の写真が欲しいって言ってますよ
 えみ:ちょwみゆきしばくぞ!
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 女三人寄れば姦しいとは言うが、小野田は子供達を預かる上で、定期的に子供達の写メをグループチャットで送ってくれと頼まれており、何度か送ってはいるのだが、その度にグルチャが炎上するので、小野田は微妙な表情で笑うと、再び子供達を撮影し始める。
「また撮ってんのかよ!」「あっ!ヒタキちゃん!一緒に写真とろっ!」
 悪ガキ達の笑い声に、二階から覗いていた事がばれてしまったヒタキは気まずそうに階段から降りてくると、みんなと写メを取り満面の笑みを見せた。
 マルのお母さんがヤキモチを焼いて誰よその女と連呼していたのは秘密である。

 ━━

「お世話になりました」
「何を仰いますやら。此方こそ久しぶりのお客さんで楽しかったです」
 楽しい時間はあっと言う間に過ぎ去ってしまうものである。 大人達の別れの挨拶の側では、すっかり仲良くなった鶲と悪ガキ達が、それぞれ両手の小指を繋いで輪になっている。
「ヒタキ!俺たちはマブダチだかんな!」
「うん、チカラくん。白夜達の事よろしくね!」
 何故かチカラは歯を食いしばって泣くのを我慢してしまっている。
「ヒタキ!東京来たら遊ぼうなっ!」
「うん、絶対遊ぼうねチル君」
 それに反してチルは頬を赤らめて、鼻の下を伸ばしている。
「ヒタキちゃん、病院怖かったら言ってね?メイズに言ってあげるから」
「うん、大丈夫だよリン君。ちゃんと治してくるね!」
 リンリンはうんと頷き、ヒタキと繋いだ小指に力を入れる。
「ヒタキかわいい」
「ありがとうマル君もかっこいい!」
 大人しいマルはみんなに目配せをしてドヤ顔をする。
「ヒタキ、またな」
「うん、またね!タロウ君!」
 友達の儀式と約束を結び、お別れの挨拶は済んだようだが、玄天に跨った白夜は名残惜しそうに鶫を見つめていた。
「またね白夜。みんなのこと頼んだよ?」
「うん、またねつぐみ・・・ちゃん。たのしかった」
 白夜が涙を浮かべると、鶫もうっすらと涙を浮かべてその小さな頭を抱き寄せる。
「大好きだよ白夜」
「白夜もだいすきだよ」
 その別れの切っ掛けを作った大人達は、気まずそうに視線を逸らしてしまうが、一応の白夜の主となったリンリンは、鶫の前に立ち深々と頭を下げた。
「白夜のこと大切にします!ありがとうございました!!」「ありがとうございました!またプライズのこと教えてね鶫さん!」「ありがとう!鶫さんに会えてよかった!」
 口々に感謝の言葉を述べ、ロッチを後にする。 この出会いが悪ガキ達を大きく成長させたのは言うまでもない。 そして、この出会いはまだまだ彼らが歩む道程の序章にしか過ぎないが、鶲と交わした約束、そしてその心に刻んだ小さな恋が彼らを強くして行く。
「しっかしヒタキ可愛かったなぁ。小野田のおっちゃんもそう思うだろ?」
「バーカ、俺は鶫さん推しだっつの」
「ツグミさんは綺麗だけどさぁ、ヒタキは別格だよぉ!わかってないなぁ」
「俺にはお子ちゃまにしか見えないのっ!」
 流石に小野田がそれに同意したのならば、通報しようと時田さんが携帯を取り出していたのは誰も知らない。

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