だんます!!

慈桜

第七十四話 怒りと嘘?

 「多々羅様!多々羅様!!」
「ん、あぁ、すまないね。気が付かなかった」
「もう、システマ様の事は残念だったけど、切り替えようよっ!」
 だいぶこの体にも慣れて来た。 小さな嘘を隠す為には大きな嘘が必要だとはよく言ったものだ。 完璧にコアさんとダンマスを出し抜く事が出来た。
「ヒルコ、コーヒーをお願いできるかい?」
「任せて!カルラいこっ!!」
 システマであった私と、私のコアが消滅した事により、ダンマスのヘイトは消化でき、残す問題は現在の世界そのもののコアさんであったが、誤情報のバグの中に真実と嘘を混ぜた情報の錯覚をリンクさせたのは予想以上に効いたと言ってもいい。
 それは我々、Dの世界式の住人が変則的ではあるが、敵対心は無く冒険者同様のコアさんの世界式の一部である形の世界式を確定し、それを同意していると嘘を混ぜた。 そうする事により私の人格をデバイスに埋め込み、多々羅のデバイスを私に取り込む事によって、体を入れ替える事に成功する確率が大きく上がる為だ。
 Cの世界式では、コアさんの世界式の大部分を否定していたので、コアさん発のデバイスの効力は、アバター程度に抑え込んでいたが、デバイスその物を私自身として、コアさんの世界式を肯定する事により、時間差で人格が発現するようにしたのだ。
 上手くいけば生き残る事は出来ると思ったが、我々の目前に現れたダンマスは、恐らくコアさんの制止があった為に手を出しては来なかった。 ダンマスがこちらの配下に攻撃を加えて、一瞬顔を歪めたのは儲けものだったが、生き残れたのだから賭けに勝てたと言えるかな?それでも問題は無くならない。
 この体の主であった多々羅がジンジャーさんの恋人を殺した事により、不可思議な能力を発現させたジンジャーさんに命を付け狙われている事。  
 コアさんを騙す為とは言え、組み込んだ式のせいで、此方の元冒険者の配下から体を奪う事が出来ない。
 全てを失った為に、また一から始めなければならないが、既に拠点としていた地に訪れる難民も、理不尽に殺められる現地民も少ない。
 言い出したらキリが無いが、ジンジャーさんから逃げる為にも、最低限世界の眼は絶対に必要になる。
 世界の眼、所謂私のコアを創る為に中東へ向かうか、それとも露国に濃縮デバイスを回収しに行くのも一つの手段として考えられる。
 Cの世界式は消滅したので、使い物にならなくなった濃縮デバイスを廃棄してないかは懸念される所であるが、キャラクターエディットが備わっているPCだけでも回収出来たら今後楽になるのは間違いない。 濃縮デバイスが残っていれば、もっと素晴らしいのだが、高望みはしてはいけない。
 まさか隠れ蓑として利用しようとしていた露国上層部に直々に濃縮デバイスやPCを取り返しに行こうとするなんて思いもしなかった。
「多々羅様っ!逃げなきゃヤバいかもしんない!黒い鎧が空から鎖でみんなを殺した!!」
 どうしてこうも上手く行かないのでしょうか。 私は今や大きなコミュニティを形成する事が出来る程度には、この世界を知っているはずです。 超常なる力の行使には、人様の命が必要となりますが、それでもコアさん達の与り知らぬ処でジックリと世界を二分する程度は出来た筈。
 前回は此方の宣言前に殺されましたが、次回ダンジョンバトルがあるならば、此方も宣言の元、同等のダンジョンアタックを必要とする世界式に則った戦いをしたい。 その為にも、今は力を蓄えるしかありません。
「ヒルコ、全力で逃げます。博士と魔族の皆さん、そして主力を此方に固めます。幾人かの犠牲が出てしまうかも知れませんが」
「うんわかった!多々羅様が本調子になるまで、僕とカルラが頑張るからね」
 マッシュルームカットの半ズボンスーツ姿の少年と、同じ栗色の髪のツインテールにミニスカートの黒い制服の双子であるヒルコとカルラは、嫌な顔をせずに、元ハクメイ信者達を取りまとめてくれている。
 彼らはこの群体に欠かせない存在であるし、絶対に後々必要になる。 こんなにも早くジンジャーさんが辿り着いてしまったのは予想外でしたが、なんとか乗り越えてみせましょう。
「多々羅様、みんな連れて来たよ!他のみんなは死んでも食い止めてみせるって言ってくれたよ」
「情けない私を許してほしい。此処で果てるみんなには、私から良き世界に生まれ変われるように祈りを捧げましょう」
 ヒルコが伴って現れたのは、白衣を纏ったアルベルト・ゼレェイニ、そして彼の研究の末に、この世で初の魔族達である、魔王ナージャ、その配下であるマースカとクルイロ。 彼等が此方の手札である限り、優勢であるのは変わらない。
「それでは博士、ナージャ様、マースカ、スクイロ。カルラと数名の護衛を付けて先行して下さい。あなたがたには絶対の安全をお約束します」
「いいのかい?多々羅君。我々も力になれると思うが。これでも一宿一飯の恩義ぐらいは返す気構えはあるよ?」
「それでは、我々にこれからも博士達を護らせて頂きたい。それが何よりの恩返しです」
 魔素でミスリルを生み出せる馬鹿げた存在を手放すワケにはいかない。 今は私の世界式の庇護下となっているが、その上で逸れてしまい、ミスリルが過剰に流出したならば、第三勢力すらも生み出す程に、パワーバランスを崩しかねない。
 ダンマスが庇護下に入れたミュースさえ取り戻せば、此方に絶対の命令権が得られるのだが…たらればを言っても仕方がないな。 死してなおイラつかせてくれる多々羅め。
 博士達を先行させて、細長い隊列にしていたのが幸か不幸か、多くの犠牲を払ったが、かなり距離が稼げた。 あれからどれだけの間、走り続けたのか検討がつかない程には走ったが。
「待て!どこへ行く!」
「失礼」
 これ迄は居住を黙認させる為に、共存できる道を選んでいたので、自治区の管理団体には一切手を出してはいなかったが、逃げる為には彼らの死は必要不可欠となってしまった。 我々の無力さを許してほしい。
 心臓に手刀を一突き、生暖かい肉の感触と共に、術式を発動。 茶色のデバイスの作製だ。濃縮デバイスに比べるなら命の力が分散してしまう廉価品だが、これを取り込む事によって戦力の底上げになれば、逃げ果せる確率が上がる。
「ヒルコ。彼らもまた、弱き者を虐げる悪です。彼らの死を対価に、我々が力を蓄えるのです」
「シリカゲル?よくわかんないけど、こいつら中国の残党のくせにすげぇ偉そうだし、いつ殺すのか待ちわびてたよぉ多々羅様」
 ヒルコの持ち前のスピードで翻弄し、次々と自治区の兵隊の首を折っていく。 その隙にデバイスに変換して行くを繰り返す。 生き残るには、仕方のない事だ。
「うん、システマ様の時ぐらいまでは強さが戻ってきてる。でもチョコデバイスより、やっぱり濃縮デバイスの方がいいかな」
「次は、よりもっといい世界にしてみせるよ。誰もが本当の自由を知る世界それもシステマ様・・・・・の遺言であり、何よりの願いでもあるからね」
 安易なデバイスで強化した配下達がジンジャーさんに対抗すべく殿へと走り、さらに距離は稼げた。 いくら不可思議な力と言えど、高レベル帯の者ならば足止め程度ならば可能だとわかったのは収穫だった。
 しかし時間の問題だろう。 一早く完全に姿を変える術を手に入れなければならない。
「このまま中東へ向かいます。博士達に追いつきましょう」

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 多々羅へと成り代わったシステマ達を逃すべく、30名を越える元冒険者の配下達は、黒い殺戮の化身に戦いを挑んでいた。
 上空より、橙色と藍色の鎖を自在に操り、立ちはだかる全ての者を薙ぎ倒して行く。
「くそ、文字通り刃が立たねぇ」
「せめて濃縮デバイスがあればな」
 Dの世界住人達は、持てる手札を出し惜しみせずに、葬儀屋アンダーテイカーであるジンジャーへと攻撃を仕掛けるが、何をしようにも黒鎧に攻撃は弾かれ、時に鎖は槍のように鋭く、時に鎖は巨大な拳となり、貫き叩き潰し、暴虐の限りを尽くす。
「これからは私達が受け持つ!」
「まだ息のある者は治療しろ!時間は稼いでやる!」
 そこに現れたのは、ヒルコ、カルラ両名の親衛隊として結成されている八部衆の者達である。
「チェコデバイスを大量に取り込んでいるのになす術ないな」
「いや、なす術ならある。ここで我々は多々羅様、ヒルコ様カルラ様と道を違える事になってしまうかもしれないが」
「は?裏切るってことかよ」
「違う。幸運な事にレベル差はあるようで拮抗はできる。この戦闘状態継続のまま、ハクメイ様の元へこの悪魔を連れて行く。神と悪魔の戦いであらば、決着は着くやもしれん」
「初心に帰るって事ね。いいよ、行こうじゃない」
 元はハクメイを神聖視していた者達の集まりだ、生きとし信仰を持つ者は、己の絶望には己が信ずる神に祈るが、 それが戦乱の舞台に神を引き摺り下ろそうとは、神とは随分と安くなったものである。
 しかし、この咄嗟の判断のお陰で、期せずして、多々羅達にも八部衆にとっても最良の結果へと繋がろうとは、この時誰も思っていないだろう。
 それはそう遠くない未来さきの話であるが。

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