だんます!!

慈桜

第七十三話 ダンマスとダイジン?

  その男、姿は上下黒のジャージ姿、その背には白い五つ木瓜の家紋あり。 その男、その足元にはワニのマークの定番サンダル。 その男、頭頂部を剃り上げ、茶筅の髷を結った侍のような風体。 その男、腰には身の丈半を越えるハリセンあり。 その男、その顔面狂暴につき。
「やっと着いた、むちゃくちゃ遠い」
 空港から着の身着のままの格好で外に出た男は一先ず腰からぶら下げたハリセンを引き抜き、通行人に突如振り抜き、パァァァアン!と独特な破裂音を響かせる。
「くそがっ!!」
 叩かれた大柄な肌の黒い男は激昂。 すぐさまやり返さんと立ち上がるが、再びハリセンが顔面を襲う。
「くそがぁぁぁあ!!」
 そこでハリセンを振り抜いていたジャージ侍は、スマホで動画を撮りながらにハリセンを振り抜き始める。
「我、殺戮大臣信長と申す」
「頭おかしいのかボケが!!」
 襲いかかる阿国人にハリセンが立て続けに2発振り抜かれ、集まってきたギャラリーの爆笑が聞こえだす。
「I'm Japanese Samurai!ok?」
 そこから一方的にハリセンでの滅多打ちが始まった。 得物がハリセンなので怪我こそしないが、何度も発狂し、立ち向かい、ハリセンで殴り倒されるを繰り返して行くうち、阿国の青年は子供が駄々を捏ねるように仰向けに寝転がりジタバタとし始めた。 ムカつきすぎておかしくなったのだろう。
 しかしジャージ侍は攻撃の手を止めない。 パァァァアンパァァァアンと、駄々を捏ねる青年の顔をハリセンで叩きケタケタを大声で笑うのだ。
「これ今からYO!pipe上げちゃうから。お前は世界中の笑い者。ユアデッッド!おけー?」
「ファック!ユーファックユー!!」
「HAHAHAHAHAHA!気持ちいぃ!よぉし!お前ら全員人としての自尊心をぶち殺してやるからかかってきなさい!!」
 その言葉に蜘蛛の子を散らすようにギャラリー達は逃げていくが、調子に乗っている若者達はやれるもんならやってみろとジャージ侍に寄っていく。
 3人のカラフルなストリート系の格好をしている若者達だ。 それを見たジャージ侍は、ハリセンを投げ捨て、突如ハイキックを振り抜いた。 それでいいのか。
 まさかのハイキックに若者は体の自由を失い、糸の切れたマリオネットのように前のめりに崩れ落ちると、続けざまに頭突きを放り込んで、怯んだ男の首を掴み、それを鈍器に最後の男の顔面に叩き込む。
 3人の若者達はあっという間に崩れ落ちてしまう。
「えぇ、現場の信長です。只今南阿国に来ております。治安が悪いとは本当でしたね、早速3人組の男性に襲われました。」
 スマホで気絶した3人が映される。
「命からがら倒す事が出来たので、彼らを今から晒したいと思います」
 そうして彼はいそいそと1人ずつ服を脱がしていき、途中目覚めたら殴り寝かせ、1人を四つん這いにすると、そのケツに業務用接着剤を塗り始める。 そしてもう1人の額を割れ目と接着させると、同様に3人目も連結されていく。
「と、いうわけでですね。簡単に追いかけてこれないように連結してみました。東海道線もびっくりですね。黒い三連結、ケツだけに。なぁんて言っちゃったりしてね、はい。それでは次行ってみましょう」
 殴り倒してから物陰に連れて行ったとは言え、危険を感じ取ったギャラリー達は消えて行ったが、余所者にやられっぱなしで黙っているような土地ではない。
 地球上で最も治安が悪いとされるこの地は、全員が全員生き方に試練が課される。丸まって生きるか、尖って殺し合いするかの両極端なお国柄である。
 タトゥーまみれの強面の黒人達が、射殺すような視線を飛ばしながらにジャージ侍に迫る。 だが、睨まれている当人は目尻を吊り上げ不敵に笑う。
「かまんぶらっく!」
「ありったけぶち込め」
 路地裏に度重なる銃声が響き渡る。 人を殺す為だけに鳴り響く冷酷な音である。
 しかしお気付きの方もいらっしゃるかもしれないが、彼は冒険者である。 当然の如く、雨のように撃ち込まれた弾丸は全て弾き飛ばされ、首を鳴らしながらにジャージ侍は強面達の所へ歩み寄っていく。
「道徳の授業をはじめましょうか、ホブゴブリン達御一行」
 一方的、あまりに一方的である。 何もさせずに殴り倒し、そして再び連結されていく。 気付けば其処には全裸で10人を越える四つん這い連結された変態達がいた。 まるで新種の百足である。
「どうやら南阿国は変態の集まりのようですね。恐ろしい話です。と、再生回数稼げるかなぁ?」
 殺戮大臣信長が激ハマりしているのは、YO!pipeと呼ばれるハプニング動画専門の動画投稿サイトであり、ハリセンでタイマン張ってみたシリーズは100万再生を越える人気を博している。 その再生回数を稼ぐ為ならどんな事でもする殺戮大臣は、一部マニアの中では恐怖の対象となっているが、南阿国の人間はそんな事を知るはずもない。
 言わば災害。
 存在そのものが天災と言っても過言ではない男が、この地に降り立ってしまったのだ。 彼は殺戮大臣と名乗っているが、これまでに人を手にかけた事はない。 しかし冒険者の癖に、全力で一般人を的にするのは、日本の冒険者史上でも彼が初のタイプであり、その凶悪さは如何ともしがたい。
「あ、すいません。トロフィーハンターの受付って何所か知りません?」
「あっ?トロフィーハント?プレデターファームなら知ってるがバスで8時間ぐらいかかるぞ?」
「え?まじで?!」
「よくは知らねぇけどな。乗り合いバスならこの先にターミナルがある。行ってみるといい」
「ありがとう。ってプレデターファームってなんだよ」
 スパァァアンと丁寧に教えてくれた人にハリセンを振り抜くが、笑いながら頭を摩り立ち去って行ってしまう。
 たまにあるリアクションであるので、殺戮大臣も変顔で踵を返す。
 そんな時である。
 彼は前方から現れた男を見て、何度も何度も目を擦り、再び凝視する程に場違いな男が現れたのである。
 その男、腰布だけでほぼ全裸である。 その男、腰まで伸びる藍色の長く艶やかな美しい髪である。 その男、その瞳、全てを見通すような金色に輝いている。
 どっからどう見てもラビリであるが、その格好は何処からどう見てもジャングルの王者状態である。
「やぁ、殺戮大臣君。こうして会うのは初めましてだね」
 いくら大人ぶった話し方をしても無駄である。 何処からどう見ても変質者であり、小太りでちょび髭の警察が遠目に無線で何か連絡を取り合っているのを鑑みるに、包囲網を敷かれるレベルの変態だと思われていてもおかしくなさそうである。
 高級時計をつけているだけで、腕を切り落とされて盗まれる土地で、半裸にキンキラキンの装備をしているラビリはカモネギ以外の何者でもないだろう。
「えと、だんますさん。何からツッコんでいきます?」
「何がだい!共に海外旅行を楽しもうじゃないか!」
「大自然の中で悟り開いた!?キャラ変わりまくってるし?!」
 殺戮大臣のツッコミにだんますはにっこりである。
「いやぁ、マジで会いたかったんだよお前。クソ面白いよな」
「あ、まさかpipe見てくれました?」
「そそ、大臣君が来るまでライオンとかと戯れとこぉってしてたんだけど暇でさ、結局ちゃんねる開いたりしてたら殺戮大臣元芸人説ってのがあってさ」
「いや、全然っすよ。チューバーだったんですけど、pipeが出来てからはそれにどっぷりで」
「見たよ見た見た。名前的に殺しまくってんだろなって思ったらそう言う事かよってなったよ。面白くてコアに色々個人情報聞いちゃったわ」
 謎の変態2人が徒党を組んでいる様子に、写メールやムービーを撮られたりするが、互いに握手をし合い笑い合う。
 遠い異国の地で冒険者と迷宮主が握手している様は中々に異様なものである。
「まぁ、一緒にもふもふ達を助けようじゃないか!」
「はい!だんますいたら万人力ですよ!それでだんます、どうやらプレデターファームってのが怪しいらしいんですよ?」
「ん?あぁ、どうやら其処で動物育てて狩り予約があったら野に放ってるみたいだな。それも調べがついてる。だが、いい作戦もあるんだ、手を握ってくれ」
 職務質問をしようとしていた警察達が躙り寄って来ていたが、ダンマスと殺戮大臣はその場から姿を消した。
 その後、全裸で百足のように歩く集団が逮捕されたとか保護されたとかは別の話だ。

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