だんます!!
第六十六話 悪魔との決着?
悪魔がその腕を振るうと、上位冒険者達の自慢の防具が砕け散り、その身までをも吹き飛ばされてしまう。 冒険者達の素晴らしい所は致命傷になると感じたなら、インパクトと同時に自ら後方に吹き飛び、ダメージを軽減している事だろう。
いやはや、それ以外に見せ場が無い状態になってしまっているのだ。
「強すぎる件について」
「バイオ、光拳でもっかい死ねるか?」
「次倒れたら起きれねぇかもしれねぇけど、俺の体頼めるか?」
「絶対に守ってやる」
悪魔の攻撃は凄まじい威力であるが、よくやく観察するならば、その実動きは単調だ。 一瞬の隙を見計らい接敵するのは容易であるが、皆も考えは同じのようで、なんとか必殺の一撃をかましていくが、悪魔の体は自動修復が成され、依然無傷のままである。
そこへ覚悟を決めたバイオズラの最大限の力を集約した光拳が悪魔の太腿に炸裂する。
インパクトと同時に悪魔の右脚が丸々吹き飛ばされ、バランスを崩したまではいいがバイオズラも同様に力を失い倒れてしまう。
ショーキは自慢の健脚で一気にバイオズラを回収するが、鬱陶しそうに払われた爪で背を撫でられ自慢の黒い革ジャンがズタズタに割かれる。
その背からは血が噴出するが、ショーキは必死にバイオズラを運ぶ。 約束は守る男なのである。
「ショーキ、お疲れ。後は休んでおけ」
「あいつむちゃくちゃつえぇぞ」
「見たらわかる。レイドクエストだと思って楽しめ」
ホリカワは、短槍から放たれる赤い光を悪魔の心臓部へと照準を合わせると、遙か上空から降ってきた短槍がその背へと突き刺さる。
ホリカワの磁槍は二本で一対の磁力で引き合わせる槍だ。 先程多々羅に掴まれ、投げ捨てられた槍は、ホリカワの持つ片割れに引き寄せられその背を穿ったのだ。
「ついでにヘリに穴開けといてくれたらテンションあがるのにな」
「今はこっちに集中しよっ!暴食猫ごはんの時間だよっ!」
ブッチーが必死で組み上げたルーンからは軽トラ程のブチ猫のような見た目の魔力体が顕現し、一気に悪魔へ襲いかかる。 まだ再生が間に合っていない下半身を食い散らし、その間にシシオとガンジャが剣を振り上げ斬りかかる。
「nMAAaaaaaeeeee」
悪魔はワケのわからない咆哮をあげると、口の中からイソギンチャクのように触手を伸ばす。
「うおっ!!なんだこれ!!」
「シシオ!今助けるよ!!」
触手に絡みとられたシシオを助けるべく、ガンジャは大剣を何度も振り回し、シシオの回収と共にその場から飛び跳ねるが、このラグは大きい。
この間に悪魔は再び脚を生やして立ち上がったのだ。
「だっさぁ。お前らがすごいのは貯金だけにゃ!この夜爪が戦いを教えてやるにゃ」
「ギルマス、あまり皆さんを挑発しないでください」
「でもいい舞台じゃない、にゃ。主役は遅れてってやつ?にゃ」
白猫の猫獣人夜爪猫、そして補佐の漆黒聖天こと黒猫の猫獣人クロ、そして虎柄の猫獣人黒足猫、自称トップギルドにゃんこ連盟の三幹部と、取り巻きの猫耳達が現れる。
「うわぁ、俺にゃんこ連盟嫌いだけどちょっと頼もしいと思ってしまったのがなんとも言えん」
「ホリカワ、あんまり嫌わないで。一応私もにゃんこ連盟だから」
「ブッチーは根っからの罪喰いだよ」
夜爪猫は燦々とその瞳を輝かせながら瞬間移動を思わせる速さで悪魔の背に斬りかかる。
二振りの魔剣を器用に何度も斬りつけ、そっとバク転をしてウィンクをすると、其処にはクロが立っている。
「ギルマスー、ちょっと一本足りてませんよ。右下のとこ」
「だからルーンは難しいから嫌いにゃ!!」
再び夜爪が斬りかかろうとするが、其処には別の猫耳の影がある。
「いいよギルマス、私に任せな」
「くろあし!にゃをつけろと何度も!」
気の強そうな虎柄の猫獣人の黒足猫は指摘された部分に一閃すると、クロは満面の笑みを浮かべる。
「後は祭りです」
クロが悪魔の背にポンっと触れると、剣で抉られた背中の傷が漆黒の影を蠢かせ始める。
「縛鎖」
悪魔の背からは、肉と血で象られた鎖が何本も噴出し、自身の血と肉でその体を縛り付けてしまう。
「くるにゃ!にゃんこ連盟レベラゲタイムにゃ!!」
うぉぉ!!と猫耳達は一気に駆け寄るが、悪魔もタダでやられてやるわけにはいかない。
自身の爪で自身の一部とも言える鎖を引きちぎり、全身から血を噴出させながらに立ち上がったのだ。
「やっば!!みんな下がって!!こいつやばい!!」
「ギルマス…にゃ、忘れてますよ」
怒り狂った悪魔は何度も夜爪達に拳を振り下ろすが、機動力に関してはズバ抜けている猫獣人達は容易く躱していく。
「おい野良ちゃん、クソ負けてんじゃねぇか」
「だまれライオン!お前馴れ馴れしいにゃ!」
まさにジリ貧、冗談を飛ばしながらにも出口の見えない状況に冒険者達は、少なからず焦りを感じて初めていた。
「うぉぉ!お前らやめるにゃにゃん!」「これは面白い生き物だにゃんにゃん!!」
そんな空気をぶち壊すかのように、茶虎のケットシー2匹が現れた。
「あの悪魔はヒナタが飼育するにゃん!」「もちろんキイロも手伝うにゃんにゃん!」
「お前ら頭おかしいんか倒すの手伝え」
思わず突っ込んだシシオは悪くないだろう。 ヒナタとキイロは尻尾をフリフリさせながら悪魔の周りをピョンピョン飛び跳ね、なんとか回復し、今こそはと斬りかかるダイゴを蹴り飛ばしたのだ。
「かわいそうだからやめるにゃにゃん!」
「俺が一番かわいそうだよ!!」
何故か冒険者であるヒナタとキイロが悪魔の応援につく意味不明な状況に陥ってしまうが、既に空港は一期、二期の冒険者達が集結しており、絶体絶命から決定打だけが必要な状況まで追い上げている。
そんな中でケットシー2匹が遊びに走るのは仕方ないが、その空気にも終止符を打つ者が現れる。
「おっ、やってるやってるぅ!」
銀色の瞳のワーウルフ銀爾と、
「祭りも終わりっぽいな」
銀色の瞳のワーウルフ金楽だ。
正直冒険者の争いに置いて重点はレベル差だ。 どんなに個の優秀さを主張しても、レベル差は覆す事が難しい力のパラメーターの一つである。
今回のケースを見てもわかるように、如何に優れた冒険者が、持ち得る至上の技を駆使したとて、濃縮デバイスを過剰に摂取し、存在改変した眼鏡デブの位階と冒険者達の位階に隔絶たる差がある為に決定打に欠けるのは当然とも言える。
だが、冒険者の中には狙ってか否か、レベル差に帰依しない攻撃手段を持つ者がいる。 それが先述した種族特性だ。 その能力はヒナタとキイロを持ってしてチート楽しいと言わせる程の能力である。
その種族特性をワーウルフも生まれながらに持っている。 そしてワーウルフの種族特性は多岐に渡り、何種類も存在すると言われている。 それはワーウルフの毛色や目色によって変化すると言われているが、銀爾と金楽の種族特性はその中でも最上位に位置する。
ワーウルフの種族取得条件は、献身的な職柄に従事した事があるか否かに分類される、しかし銀爾も金楽も介護職の仕事などした事はない。 あると言えば地元のおっかない先輩や大人達にひたすらパシられていた苦い思い出だけである。
しかしその苛烈な過去は、ワーウルフとしての王族とすら言える銀眼と金眼を兄弟で手に入れたのだから、筆舌にし難い壮絶な過去であった事は想像できる。
話は逸れたが。
「じゃあ、俺ちゃんもいきまーす!咆哮」
側から聞いたなら、それはただの遠吠えに聞こえただろう。
「イカスイカスイカス!生き永らえささるぅぅ!!」
突如悪魔は頭がおかしくなったのだ。 銀爾の種族特性ハウリングは、思考の反転である。 神経伝達がおかしくなり、チグハグな行動しか出来なくなってしまうのだ。
悪魔は異変を感じて冒険者に襲いかかりたいのだろうが、ブルブルと震えて逃げ惑ってしまう。
「じゃあ、おつかれちゃん。壊爪」
金楽はその鋭い爪で混乱している悪魔の脇腹を通りすがりにそっと撫でる。 その一撃は本来、武器破壊防具破壊等の効力しかないが、銀爾のハウリングと合わせると凶悪の一言になる。
痛くないと思えば激痛が奔り、痛いと思えば痛みは和らぐが肉は裂け、痛くないと考えれば激痛が奔るを繰り返すのだ。
思考が混乱状態に陥っていれば、その身は忽ち引き裂かれて行ってしまう。 それが当然であるかのように悪魔の体は徐々に裂けていったのだ。
「あれ?勝っちゃった」
金楽がドヤ顔で決めゼリフを残すが、悪魔が朽ち果てる寸前で、雷鳴が轟き、同時に首を炭化させ捥がれ、更には心臓までも引き抜かれて2匹の猫の前に転がる。
その心臓には、紫と黄緑が混ざり合った魔力光にコーティングされており、引き抜かれた今もなお波打ちながら鼓動を続けている。
その心臓を素早くアイスケースに入れてヒナタとキイロはハイタッチをしている。
「どや!種族特性はお前達だけじゃにゃいにゃにゃん!!」「ヒナタとキイロが最強にゃんにゃん!!」
「いや、わかったからその危なそうな心臓潰せよ」
いいとこ取りをされて突っ込みながら落ち込む金楽。
「ねぇ、金楽どんな気持ち?ねぇどんな気持ち??」
それをおちょくるように肩を叩く銀爾の姿を見届けると、空港に集まった冒険者達は皆が皆一様に腰を落として安堵の息を吐いた。
「やっぱ種族特性すごいね。シシオとホリカワもいつか手に入れるんだよね?」
「ブッチーの期待に応えたいけど、それまでは相当長い。俺とホリカワは種族進化しなきゃ手にはいらねぇよ。くそつまんねぇ、どんだけ強くなってももっと強いヤツが出てきやがる」
「だから頑張れるんだよ。いつかはグレイルさん達を肩パンで泣かそう」
笑い話の最中、突如として上空に黒く大きな棺が浮かんでいる事に気がつく。 冒険者達はその棺を見上げながらそれぞれに首を傾げたり、中には泣き出す者まで出だす始末だ。 一難去ってなんとやらかと、好戦的な冒険者達は自身の獲物を構えたりもしている。
「ホリカワ。あれ、なんだろな」
「わからん。わからんけど悲しいってのはわかる、あれはとても悲しい何かだ」
「やっぱトカゲって人に見えねぇもん見えるんだな」
「それはカメレオンだろ」
皆が皆、棺に気がつくと、その棺はゆっくりと街の中へ落ちていく。視界に収める事が叶わなくなると同時に冒険者達は突如苦しそうに膝をつき、座っていた者達は胸を押さえて呻きだすが、それを不思議そうに見渡している罪喰いの面々だけはピンピンしている。
「どうした!?なにがあった?!」
シシオが必死で冒険者達を抱き起こすが、皆原因不明の痛みに顔を顰めながらわからないと呟く。
だが、その激痛も世界が黒い空間に染まり上がると同時に消え去っていく。 まるで彩られた原色の世界に炭をブチまけたように色を失う空間だ。
胸の苦しみが消え去った冒険者達は息を切らしながら、自身の体を動かし、異変は無いかと確かめるが、そこへ突如人影が現れる。 皆が皆がシルエットだけを残し、黒に染まり上がっているのに、その男だけは、全ての色を確りと持ち、異質な雰囲気を醸し出しは。
その姿は全身を色とりどりの宝石で飾った何処ぞの石油王のような男だ。 美しく整った顔立ち。長い藍色の神とどんな瞳よりも美しく思える黄金の瞳よの男は、小脇にケットシーを抱えながらに、真剣な表情で冒険者達を睨みつけている。 その視線は全ての冒険者が畏怖を覚え、冒険者の至高なる強者たるをその身で体現している。 そんな存在は1つしかない、ダンマスのラビュラント・ガーディアンことラビリのアバターだ。
「悪いな、ゲームは終わりだ。日本に帰るぞ」
「ダンマス!どうやってここに?コアさんは大丈夫なのか?」
「特例で復活してもらった。今は危険なんだ。お前らには帰ってもらう。それとタロウ、その魔族をよこせ」
歌舞伎風の男は、気絶しているミュースへ躊躇いなくガスガンを3発撃ち込み、こいつ?と首を傾げる。 その3発に反応するようにミュースはビクンビクンと跳ねるが、タロウは再び首を傾げる。
「魔族?でも、こいつは敵じゃねぇの?」
「話すとややこしい。冒険者はコアの管轄だが、魔族は俺の管轄だ。こいつらの王も俺の配下にいれる。異論は認めんさっさと寄越せ」
「そんなぁ、苦労したのにそりゃないぜ。それに殺しそうにも殺されそうにもなった。ダンマスの管轄だってんならもっと早く助けに来たら良かったんじゃねぇか?」
「タロウ、すまない。悪いが駆け引きは必要ない、矢面に立つならば殺されてやってもいいが、お前達もまた俺にとっても大切な存在だ。俺の死による不完全なままの世界で彷徨わせたくない。頼むから渡してくれ、世界の均衡がおかしくなるんだ」
そこで割って入ったのは罪喰いだ。 ダンマスがミュースを庇おうとしているのは見てとれるが、強引に奪いとらないのを見て、最低限の世界の理は守るつもりなのだと理解したからだ。
「捕らえられた冒険者の救出はどうする。こいつは人質として価値がある。交渉で前に立つと約束するなら渡してもいい」
「お前らはつくづく罪喰いだな。その心配は必要ない、コアが復活したついでに連れて来た。こいつが攫われた冒険者だ」
ラビリは小脇に抱えたクリーム色の毛並みのケットシーをそっと地面に寝かすと、額を愛おしそうに撫でる。 暴れるのでデコピンで気絶させたとは誰も思うまい。
「お前達に任せた手前、大人気ないかもしれないが許して欲しい。そいつを渡してくれ、お前らがもっと最高に楽しい世界にしてやるから」
非常にダンマスらしくない、彼は頼むと頭を深々と下げたのだ。 そこへ罪喰いを代表してブッチーが前に出る。
「詳しい事情はまた伺いますが、一先ず交渉材料として利用する理由はなくなりました、ダンジョンマスターの介入感謝します、改めてありがとうございます。しかし此方も冒険者を殺されております、罪喰い主導でのクエストの為、例外なく妨害は認められません。正当な手続きの元、交渉をして頂きたい」
このやり取りを行う事によって、本来であれば、直に干渉できなくなる。 例えそれがラビリであろうとも、攫ったり武力に訴え掛けることが出来なくなるのだ。
これはコアの世界式であり、世の理である為に絶対だ。 だが、それは条件を満たしている場合に於いての効力を発揮する世界式であり、コアの守護が発動していない時点で条件は満たされていないのだと罪喰い達は気付くが、簡単に引き下がる訳にはいかない。
「罪喰いギルド長殿、それは無効だ。現在クエストは葬儀屋主導となっている。冒険者を害する敵対勢力の排除が第一となっている為、罪喰いの干渉は認められん。本来の任務を遂行してくれ」
「それならば問題ありません。これにて我々の執行は無効となる為、捕虜を解放します、意義を唱える者は我々と敵対しますがよろしいでしょうか?」
なんとなく、よくわからんが、そんな言葉も浮かびそうな状況だが、一先ずそれで話がついたのだなと、一堂に会した冒険者達はなんとか納得した。 実質日本の冒険者は誰1人欠ける事なく、怪我をさせられたりの小競り合いで苛立っていただけであるから、強引に納得した部分もある。
「なんせここから離れるぞ」
世界を黒く塗り替えていた黒い幕は徐々に範囲を狭め、その場にいた罪喰い、ミュース以外の冒険者達を転移させてしまう。
「よし、ここにまだ来れてない冒険者のみんなを助けにいこう」
『先にマスターの用事をするなんて酷いです』
「でもコアのおかげで助けられた、本当にありがとう。もし魔族を殺してたら、システマにいい線やられてたかもしんない」
よっこいしょとミュースを肩に抱えるラビリに、罪喰い達は微妙な表情を浮かべる。
「ダンマス、そいつなんで」
シシオはつい口を開いてしまう。 しかしそれは罪喰い皆の代弁だった。
「それはこの件が終わったら全て説明する。今は急がせてくれ、嫌な思いさせてわるいな」
そう言って彼は、その場から姿を消した。
いやはや、それ以外に見せ場が無い状態になってしまっているのだ。
「強すぎる件について」
「バイオ、光拳でもっかい死ねるか?」
「次倒れたら起きれねぇかもしれねぇけど、俺の体頼めるか?」
「絶対に守ってやる」
悪魔の攻撃は凄まじい威力であるが、よくやく観察するならば、その実動きは単調だ。 一瞬の隙を見計らい接敵するのは容易であるが、皆も考えは同じのようで、なんとか必殺の一撃をかましていくが、悪魔の体は自動修復が成され、依然無傷のままである。
そこへ覚悟を決めたバイオズラの最大限の力を集約した光拳が悪魔の太腿に炸裂する。
インパクトと同時に悪魔の右脚が丸々吹き飛ばされ、バランスを崩したまではいいがバイオズラも同様に力を失い倒れてしまう。
ショーキは自慢の健脚で一気にバイオズラを回収するが、鬱陶しそうに払われた爪で背を撫でられ自慢の黒い革ジャンがズタズタに割かれる。
その背からは血が噴出するが、ショーキは必死にバイオズラを運ぶ。 約束は守る男なのである。
「ショーキ、お疲れ。後は休んでおけ」
「あいつむちゃくちゃつえぇぞ」
「見たらわかる。レイドクエストだと思って楽しめ」
ホリカワは、短槍から放たれる赤い光を悪魔の心臓部へと照準を合わせると、遙か上空から降ってきた短槍がその背へと突き刺さる。
ホリカワの磁槍は二本で一対の磁力で引き合わせる槍だ。 先程多々羅に掴まれ、投げ捨てられた槍は、ホリカワの持つ片割れに引き寄せられその背を穿ったのだ。
「ついでにヘリに穴開けといてくれたらテンションあがるのにな」
「今はこっちに集中しよっ!暴食猫ごはんの時間だよっ!」
ブッチーが必死で組み上げたルーンからは軽トラ程のブチ猫のような見た目の魔力体が顕現し、一気に悪魔へ襲いかかる。 まだ再生が間に合っていない下半身を食い散らし、その間にシシオとガンジャが剣を振り上げ斬りかかる。
「nMAAaaaaaeeeee」
悪魔はワケのわからない咆哮をあげると、口の中からイソギンチャクのように触手を伸ばす。
「うおっ!!なんだこれ!!」
「シシオ!今助けるよ!!」
触手に絡みとられたシシオを助けるべく、ガンジャは大剣を何度も振り回し、シシオの回収と共にその場から飛び跳ねるが、このラグは大きい。
この間に悪魔は再び脚を生やして立ち上がったのだ。
「だっさぁ。お前らがすごいのは貯金だけにゃ!この夜爪が戦いを教えてやるにゃ」
「ギルマス、あまり皆さんを挑発しないでください」
「でもいい舞台じゃない、にゃ。主役は遅れてってやつ?にゃ」
白猫の猫獣人夜爪猫、そして補佐の漆黒聖天こと黒猫の猫獣人クロ、そして虎柄の猫獣人黒足猫、自称トップギルドにゃんこ連盟の三幹部と、取り巻きの猫耳達が現れる。
「うわぁ、俺にゃんこ連盟嫌いだけどちょっと頼もしいと思ってしまったのがなんとも言えん」
「ホリカワ、あんまり嫌わないで。一応私もにゃんこ連盟だから」
「ブッチーは根っからの罪喰いだよ」
夜爪猫は燦々とその瞳を輝かせながら瞬間移動を思わせる速さで悪魔の背に斬りかかる。
二振りの魔剣を器用に何度も斬りつけ、そっとバク転をしてウィンクをすると、其処にはクロが立っている。
「ギルマスー、ちょっと一本足りてませんよ。右下のとこ」
「だからルーンは難しいから嫌いにゃ!!」
再び夜爪が斬りかかろうとするが、其処には別の猫耳の影がある。
「いいよギルマス、私に任せな」
「くろあし!にゃをつけろと何度も!」
気の強そうな虎柄の猫獣人の黒足猫は指摘された部分に一閃すると、クロは満面の笑みを浮かべる。
「後は祭りです」
クロが悪魔の背にポンっと触れると、剣で抉られた背中の傷が漆黒の影を蠢かせ始める。
「縛鎖」
悪魔の背からは、肉と血で象られた鎖が何本も噴出し、自身の血と肉でその体を縛り付けてしまう。
「くるにゃ!にゃんこ連盟レベラゲタイムにゃ!!」
うぉぉ!!と猫耳達は一気に駆け寄るが、悪魔もタダでやられてやるわけにはいかない。
自身の爪で自身の一部とも言える鎖を引きちぎり、全身から血を噴出させながらに立ち上がったのだ。
「やっば!!みんな下がって!!こいつやばい!!」
「ギルマス…にゃ、忘れてますよ」
怒り狂った悪魔は何度も夜爪達に拳を振り下ろすが、機動力に関してはズバ抜けている猫獣人達は容易く躱していく。
「おい野良ちゃん、クソ負けてんじゃねぇか」
「だまれライオン!お前馴れ馴れしいにゃ!」
まさにジリ貧、冗談を飛ばしながらにも出口の見えない状況に冒険者達は、少なからず焦りを感じて初めていた。
「うぉぉ!お前らやめるにゃにゃん!」「これは面白い生き物だにゃんにゃん!!」
そんな空気をぶち壊すかのように、茶虎のケットシー2匹が現れた。
「あの悪魔はヒナタが飼育するにゃん!」「もちろんキイロも手伝うにゃんにゃん!」
「お前ら頭おかしいんか倒すの手伝え」
思わず突っ込んだシシオは悪くないだろう。 ヒナタとキイロは尻尾をフリフリさせながら悪魔の周りをピョンピョン飛び跳ね、なんとか回復し、今こそはと斬りかかるダイゴを蹴り飛ばしたのだ。
「かわいそうだからやめるにゃにゃん!」
「俺が一番かわいそうだよ!!」
何故か冒険者であるヒナタとキイロが悪魔の応援につく意味不明な状況に陥ってしまうが、既に空港は一期、二期の冒険者達が集結しており、絶体絶命から決定打だけが必要な状況まで追い上げている。
そんな中でケットシー2匹が遊びに走るのは仕方ないが、その空気にも終止符を打つ者が現れる。
「おっ、やってるやってるぅ!」
銀色の瞳のワーウルフ銀爾と、
「祭りも終わりっぽいな」
銀色の瞳のワーウルフ金楽だ。
正直冒険者の争いに置いて重点はレベル差だ。 どんなに個の優秀さを主張しても、レベル差は覆す事が難しい力のパラメーターの一つである。
今回のケースを見てもわかるように、如何に優れた冒険者が、持ち得る至上の技を駆使したとて、濃縮デバイスを過剰に摂取し、存在改変した眼鏡デブの位階と冒険者達の位階に隔絶たる差がある為に決定打に欠けるのは当然とも言える。
だが、冒険者の中には狙ってか否か、レベル差に帰依しない攻撃手段を持つ者がいる。 それが先述した種族特性だ。 その能力はヒナタとキイロを持ってしてチート楽しいと言わせる程の能力である。
その種族特性をワーウルフも生まれながらに持っている。 そしてワーウルフの種族特性は多岐に渡り、何種類も存在すると言われている。 それはワーウルフの毛色や目色によって変化すると言われているが、銀爾と金楽の種族特性はその中でも最上位に位置する。
ワーウルフの種族取得条件は、献身的な職柄に従事した事があるか否かに分類される、しかし銀爾も金楽も介護職の仕事などした事はない。 あると言えば地元のおっかない先輩や大人達にひたすらパシられていた苦い思い出だけである。
しかしその苛烈な過去は、ワーウルフとしての王族とすら言える銀眼と金眼を兄弟で手に入れたのだから、筆舌にし難い壮絶な過去であった事は想像できる。
話は逸れたが。
「じゃあ、俺ちゃんもいきまーす!咆哮」
側から聞いたなら、それはただの遠吠えに聞こえただろう。
「イカスイカスイカス!生き永らえささるぅぅ!!」
突如悪魔は頭がおかしくなったのだ。 銀爾の種族特性ハウリングは、思考の反転である。 神経伝達がおかしくなり、チグハグな行動しか出来なくなってしまうのだ。
悪魔は異変を感じて冒険者に襲いかかりたいのだろうが、ブルブルと震えて逃げ惑ってしまう。
「じゃあ、おつかれちゃん。壊爪」
金楽はその鋭い爪で混乱している悪魔の脇腹を通りすがりにそっと撫でる。 その一撃は本来、武器破壊防具破壊等の効力しかないが、銀爾のハウリングと合わせると凶悪の一言になる。
痛くないと思えば激痛が奔り、痛いと思えば痛みは和らぐが肉は裂け、痛くないと考えれば激痛が奔るを繰り返すのだ。
思考が混乱状態に陥っていれば、その身は忽ち引き裂かれて行ってしまう。 それが当然であるかのように悪魔の体は徐々に裂けていったのだ。
「あれ?勝っちゃった」
金楽がドヤ顔で決めゼリフを残すが、悪魔が朽ち果てる寸前で、雷鳴が轟き、同時に首を炭化させ捥がれ、更には心臓までも引き抜かれて2匹の猫の前に転がる。
その心臓には、紫と黄緑が混ざり合った魔力光にコーティングされており、引き抜かれた今もなお波打ちながら鼓動を続けている。
その心臓を素早くアイスケースに入れてヒナタとキイロはハイタッチをしている。
「どや!種族特性はお前達だけじゃにゃいにゃにゃん!!」「ヒナタとキイロが最強にゃんにゃん!!」
「いや、わかったからその危なそうな心臓潰せよ」
いいとこ取りをされて突っ込みながら落ち込む金楽。
「ねぇ、金楽どんな気持ち?ねぇどんな気持ち??」
それをおちょくるように肩を叩く銀爾の姿を見届けると、空港に集まった冒険者達は皆が皆一様に腰を落として安堵の息を吐いた。
「やっぱ種族特性すごいね。シシオとホリカワもいつか手に入れるんだよね?」
「ブッチーの期待に応えたいけど、それまでは相当長い。俺とホリカワは種族進化しなきゃ手にはいらねぇよ。くそつまんねぇ、どんだけ強くなってももっと強いヤツが出てきやがる」
「だから頑張れるんだよ。いつかはグレイルさん達を肩パンで泣かそう」
笑い話の最中、突如として上空に黒く大きな棺が浮かんでいる事に気がつく。 冒険者達はその棺を見上げながらそれぞれに首を傾げたり、中には泣き出す者まで出だす始末だ。 一難去ってなんとやらかと、好戦的な冒険者達は自身の獲物を構えたりもしている。
「ホリカワ。あれ、なんだろな」
「わからん。わからんけど悲しいってのはわかる、あれはとても悲しい何かだ」
「やっぱトカゲって人に見えねぇもん見えるんだな」
「それはカメレオンだろ」
皆が皆、棺に気がつくと、その棺はゆっくりと街の中へ落ちていく。視界に収める事が叶わなくなると同時に冒険者達は突如苦しそうに膝をつき、座っていた者達は胸を押さえて呻きだすが、それを不思議そうに見渡している罪喰いの面々だけはピンピンしている。
「どうした!?なにがあった?!」
シシオが必死で冒険者達を抱き起こすが、皆原因不明の痛みに顔を顰めながらわからないと呟く。
だが、その激痛も世界が黒い空間に染まり上がると同時に消え去っていく。 まるで彩られた原色の世界に炭をブチまけたように色を失う空間だ。
胸の苦しみが消え去った冒険者達は息を切らしながら、自身の体を動かし、異変は無いかと確かめるが、そこへ突如人影が現れる。 皆が皆がシルエットだけを残し、黒に染まり上がっているのに、その男だけは、全ての色を確りと持ち、異質な雰囲気を醸し出しは。
その姿は全身を色とりどりの宝石で飾った何処ぞの石油王のような男だ。 美しく整った顔立ち。長い藍色の神とどんな瞳よりも美しく思える黄金の瞳よの男は、小脇にケットシーを抱えながらに、真剣な表情で冒険者達を睨みつけている。 その視線は全ての冒険者が畏怖を覚え、冒険者の至高なる強者たるをその身で体現している。 そんな存在は1つしかない、ダンマスのラビュラント・ガーディアンことラビリのアバターだ。
「悪いな、ゲームは終わりだ。日本に帰るぞ」
「ダンマス!どうやってここに?コアさんは大丈夫なのか?」
「特例で復活してもらった。今は危険なんだ。お前らには帰ってもらう。それとタロウ、その魔族をよこせ」
歌舞伎風の男は、気絶しているミュースへ躊躇いなくガスガンを3発撃ち込み、こいつ?と首を傾げる。 その3発に反応するようにミュースはビクンビクンと跳ねるが、タロウは再び首を傾げる。
「魔族?でも、こいつは敵じゃねぇの?」
「話すとややこしい。冒険者はコアの管轄だが、魔族は俺の管轄だ。こいつらの王も俺の配下にいれる。異論は認めんさっさと寄越せ」
「そんなぁ、苦労したのにそりゃないぜ。それに殺しそうにも殺されそうにもなった。ダンマスの管轄だってんならもっと早く助けに来たら良かったんじゃねぇか?」
「タロウ、すまない。悪いが駆け引きは必要ない、矢面に立つならば殺されてやってもいいが、お前達もまた俺にとっても大切な存在だ。俺の死による不完全なままの世界で彷徨わせたくない。頼むから渡してくれ、世界の均衡がおかしくなるんだ」
そこで割って入ったのは罪喰いだ。 ダンマスがミュースを庇おうとしているのは見てとれるが、強引に奪いとらないのを見て、最低限の世界の理は守るつもりなのだと理解したからだ。
「捕らえられた冒険者の救出はどうする。こいつは人質として価値がある。交渉で前に立つと約束するなら渡してもいい」
「お前らはつくづく罪喰いだな。その心配は必要ない、コアが復活したついでに連れて来た。こいつが攫われた冒険者だ」
ラビリは小脇に抱えたクリーム色の毛並みのケットシーをそっと地面に寝かすと、額を愛おしそうに撫でる。 暴れるのでデコピンで気絶させたとは誰も思うまい。
「お前達に任せた手前、大人気ないかもしれないが許して欲しい。そいつを渡してくれ、お前らがもっと最高に楽しい世界にしてやるから」
非常にダンマスらしくない、彼は頼むと頭を深々と下げたのだ。 そこへ罪喰いを代表してブッチーが前に出る。
「詳しい事情はまた伺いますが、一先ず交渉材料として利用する理由はなくなりました、ダンジョンマスターの介入感謝します、改めてありがとうございます。しかし此方も冒険者を殺されております、罪喰い主導でのクエストの為、例外なく妨害は認められません。正当な手続きの元、交渉をして頂きたい」
このやり取りを行う事によって、本来であれば、直に干渉できなくなる。 例えそれがラビリであろうとも、攫ったり武力に訴え掛けることが出来なくなるのだ。
これはコアの世界式であり、世の理である為に絶対だ。 だが、それは条件を満たしている場合に於いての効力を発揮する世界式であり、コアの守護が発動していない時点で条件は満たされていないのだと罪喰い達は気付くが、簡単に引き下がる訳にはいかない。
「罪喰いギルド長殿、それは無効だ。現在クエストは葬儀屋主導となっている。冒険者を害する敵対勢力の排除が第一となっている為、罪喰いの干渉は認められん。本来の任務を遂行してくれ」
「それならば問題ありません。これにて我々の執行は無効となる為、捕虜を解放します、意義を唱える者は我々と敵対しますがよろしいでしょうか?」
なんとなく、よくわからんが、そんな言葉も浮かびそうな状況だが、一先ずそれで話がついたのだなと、一堂に会した冒険者達はなんとか納得した。 実質日本の冒険者は誰1人欠ける事なく、怪我をさせられたりの小競り合いで苛立っていただけであるから、強引に納得した部分もある。
「なんせここから離れるぞ」
世界を黒く塗り替えていた黒い幕は徐々に範囲を狭め、その場にいた罪喰い、ミュース以外の冒険者達を転移させてしまう。
「よし、ここにまだ来れてない冒険者のみんなを助けにいこう」
『先にマスターの用事をするなんて酷いです』
「でもコアのおかげで助けられた、本当にありがとう。もし魔族を殺してたら、システマにいい線やられてたかもしんない」
よっこいしょとミュースを肩に抱えるラビリに、罪喰い達は微妙な表情を浮かべる。
「ダンマス、そいつなんで」
シシオはつい口を開いてしまう。 しかしそれは罪喰い皆の代弁だった。
「それはこの件が終わったら全て説明する。今は急がせてくれ、嫌な思いさせてわるいな」
そう言って彼は、その場から姿を消した。
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