だんます!!

慈桜

第六十五話 取り囲んで行くスタイル?

 「赤ジャンリーゼントってやばい奴じゃなかったっけ」
「大丈夫だ。拳に少しでも触れたら爆ぜるだけだ」
「なにそれこわい。ちょっとガチでやるわ」
「常にそうであれ」
 足に巻きついた二枚の仮面を空に投げるマースカ。 関係あるかいと拳に光を灯すバイオズラ。
「では、時間稼ぎは私がさせてもらおう」
「稼げねぇよ」
 スクイロが大きく羽を広げるが、バイオズラがそんな余裕を与える訳がない。
 即座に拳を振り抜くと、スクイロの翼は容易く粉砕する。
「なっ!?これは…予想以上です」
 砕け散ったミスリルはすぐに収束し、再び身の丈倍程の翼を形成するが、スクイロとして絶対防御の翼が容易く粉砕された事に脂汗は止まらない。
「マースカまだか」
「もうやれるんじゃね?次はスクイロだぞ」
「3分だ、稼いでくれ」
「簡単に言うけど3分てすごいからな?無茶言いやがんぜ。でも、まぁ」
 空中でダランとしていたマースカは残像を残しバイオズラの目前まで迫る。 突如としてスピードが格段に上がったのだ。
「近接なら俺も得意なんだよ」
 空中から高速起動で振り下ろされる膝をバイオズラは頭突きで受け止める。
「奇遇だな、俺も大好物なんだわ」
 足を掴み地面に叩きつける。 まるで濡れタオルを振り回すように容易く振り回し、そのまま地面に叩きつけようとするが、マースカの体はそのまま宙へと浮かび上がる。
「あっぶねぇ」
「ちょこまかしてんな降りてこいよ」
「誰が降りるかよ、あぶねぇだろ。このまま殴るぜっ!!」
 マースカはまるでプレイヤーに操作されるゲームキャラのように、予測不能な動きでバイオズラに四方八方から襲いかかるが、それでもやはり決定打に欠ける。
 互いに紙一重の攻防を繰り返すが、やはりバイオズラの光拳を1発でも喰らえばスクイロの同じ轍を踏むと理解しているのだろう。 マースカの回避は少し大袈裟すぎる程に慎重になっている。
「時間稼いで何するつもり知らねぇが」
 バイオズラは空中に描いたルーンを握り潰すと両拳に光を灯し、首を鳴らしながらマースカを睨みつけると微かに笑う。
「お前ら冒険者舐めすぎ」
 バイオズラが自身の拳と拳を叩き合わせると、一面が眩い光に覆われる。 まるで閃光弾だ、予想外の視覚衝撃にマースカ、クルイロは一瞬怯む、しかし仕掛けたバイオズラ当人がその隙を見逃すはずがない。
 再びルーンを握り閉め、隙だらけのスクイロへ駆け寄る。
「お前の宝物はね貰うぜぇ?」
時間だヴレーミャ
 スクイロの宣言と共に、彼の全身が翼で覆われ、一本の美しい剣へと変貌する。
 その一部を光拳が穿つが、大剣は沈黙を貫き、ただその場に突き刺さっている。
「あはっ、俺の大好きなスクイロだ」
 マースカは、それが当たり前であるかのように、幾千幾万の白銀の翼で形成された大剣を引き抜く。
「喧嘩に武器は禁止だぞ」
「殺し合いだバーカ!!」
「そうかよ、残念な話だな」
 バイオズラはそれに対応するように、今までの比では無い大きさの光を拳に宿す。
「俺は優しいから教えといてやる。これは俺のガチの1発だ。これでお前を殺せなかったら俺の負け、耐えたらお前の勝ち。シンプルでいいだろ?」
「へぇー、嫌いじゃないぜ!そういうのっ!!よっしゃ!スクイロ死んでこぉい!!」
 真上から大剣を振り下ろすマースカ、それを迎え撃つバイオズラ。
 拳と大剣がぶつかり合う。
 拳から放たれた光は上空へと突き抜け、大剣は羽を散らしながら大破するが、まるで意思を持っているかのように収束し、元の姿へ戻る。
 バイオズラは震える足を押さえつけるが、それも虚しく膝下から崩れ落ちてしまう。
「へへ、強かったよ赤ジャン。地獄でまた会おうぜ」
「やなこった」
「そうかよ、じゃあ死んでこ、いたっ!いたい!」
 容赦無く大剣を振り下ろそうとした刹那、マースカの顔面に何やら礫のような物が当たる。
「イヨォォオ!ポン!」
「タロウ、その指で口ポンってやつやめろ。太鼓買えや」
 突如として現れたのは丸坊主で黒い革ジャンを羽織った凶悪な面構えの男、そして長い二本の角を生やした歌舞伎役者の格好をした大男だ。
 歌舞伎役者風の男の手には電動ガス銃が握られており、地に伏すバイオズラを撃ちながらニヤニヤしている。
「こら……タロウ。力使い果たしてぶっ倒れてんのに追い打ちかけるってどうなんだこら」
「雑魚いわぁ。なにあれダサすぎ」
 歌舞伎男は空を見上げてケタケタ笑うと、空には光の玉が回転しながら、バイオズラの居場所を知らせている。
「うるせぇ…あわよくばダブルで道連れの予定だったんだよ」
 なんとも締まらない話だ。
「カブキと坊主のセットってやばい奴だよな?スクイロ」
「……逃げるぞ」
「喋れるんかい!!」
 バイオズラが倒れながらにも叫ぶが、そんな事は関係ないと、大剣はギュルギュルと肉と骨が軋むような音を立ててスクイロの姿に戻ると、一目散に背を向け走りはじめる。
「待てこれぇえええい!!出番よこさんかぁ!!」
「まぁ、心配すんなタロウ、ミズタマぁぁ!!あいつら追いかけろ」
「ふにゃおんっ!!」
 屋根の上で我関せずと伸びをしていた毛の青い金色の瞳の大きな猫が、丸坊主の男の命令で仕方ないなぁと走り始める。
「行けるかバイオ」
「すまねぇショーキ。自爆しちまった」
「見た感じ勝てただろうに。肩貸してやろうか?」
「いや、回復薬全種類ぶっこんでくれ。あいつは絶対しばく」
 次から次へと襲い来る冒険者に、マースカ、スクイロの体力は限界に近付いていた。
「もうすぐ空港だぜ」
「誰もいない事を祈るばかりだな」
 しかし無情にも、マースカとスクイロは背後から迫り来る青猫の気配に気付く事が出来なかった。 青猫は2人が歩き始めたのを確認すると、ブルブルっと身震いをし、その身を水滴に分散すると、近隣の冒険者の元へその霧を飛ばし、小さな子猫の分身体を数多にも創り出し、招き猫のように空港へと誘っていくのだ。
「一番乗りラッキー」
 青猫にいの一番に誘われたのはメタニウムダイゴ。
「俺が大活躍の予感んん!!」
 赤髪長髪の軽鎧姿の大剣使いが、容赦無く2人に襲いかかるが、その剣閃は届く事叶わず、逆に自身が空港のフェンスまで吹き飛ばされてしまう。
「なんでぇっ!?」
 ダイゴが錐揉み回転でフェンスに突き刺さる。
「我らが神と懇意にしていたダイゴさんですね?申し訳ありませんが、魔族・・には指一本触れさせる事は出来ない」
 其処には、振り抜いた拳に残る感触を振り払うように手をプラプラさせる多々羅の姿があった。
「しかし頑丈だ。殺りそこねてしまいましたね」
 多々羅が振り返ると、マースカは警戒を露わにしながら後退る。
「お前は?」
「心配は無用です。私は貴方方の味方ですから。話は後です、ヘリを用意してます、急ぎましょう」
 だがそう簡単には行かない。 既に周辺の上位冒険者は何かを察知し、この空港へ持てる最大限の力を持って駆けつけているのだ。
「誠に不可解である。某は黒剣騎士。ダイゴは兼ねてより憎悪すべきリア充と敵視していたが、中々どうして甚振られるのは見るに堪えんな」
 文字通り全身黒尽くめの西洋鎧と黒い剣を持った黒剣騎士がそのヘルムの中から眼光を光らせ剣を構える。
「邪魔をするなら殺します、貴方はそんなに強くない」
「仕合ってから申せ、たわけが」
 黒剣騎士の剣閃は赤黒い三日月となりて多々羅を襲うが、それは容易く受け止められてしまう。
喰爪バイト
 多々羅の宣言と共に、実体のない剣閃はガラスのように砕け散る。
「んなっ!?」
 多々羅は薄笑いと共に、その五指の指先を鋭く尖らせ、黒剣騎士にとどめを刺さんと近付いていく。
「いただきます」
「そうはいかないね」
 黒剣騎士へ歩み寄る多々羅を弾き飛ばしたのは、白と黄金の鎧に身を包んだいかにもな金髪碧眼の青年だ。
「シュバインさんですか、また大物が釣れました」
「黒の字もそれなりに上位なのだがね、しかし苦戦してるようだから助太刀するよ。同じ属性の仲間を失うわけにはいかない」
「シュバイン殿!」
 何故かおっさん2人の友情劇が始まり、不思議な薔薇に包まれだすと、2人は互いに手を取り合いハハハハと笑いだす。 その様子を見ていた多々羅は青筋を浮かべながらワナワナと震えだした。
「あぁ!!どうして貴様らは真面目に殺し合いが出来ぬのだ!だから不完全なのだ!」
「足止まってんぞ僕ちゃん」
 轟ッと凄まじい風切り音が響き、咄嗟に半歩避けた多々羅。彼が立っていた場所には、凶悪な面構えの坊主頭のショーキが、眉間に皺を寄せながら多々羅を睨みつけて威嚇しているが、自身の足をのめりこませて必死に引き抜こうとしている情けない姿があった。
「なんだコラ。こいよオラ」
 その横では歌舞伎役者風のタロウが赤と白の髪を振り回して爆笑している。
「だせぇ!!かっこつけて足ハマってんじゃねぇか!」
「あぁ!タロウ!笑ってねぇでひっぱれよ」
 流石に驚いた多々羅だが、ふと我に帰ると千載一遇のチャンスだと心臓目掛けて爪を伸ばすが、その爪はショーキには届かない。 横からの乱入者に突如殴り飛ばされ、顔面を歪めて吹き飛んだのだ。
「ぃってぇ。えらい頑丈だなあいつ。おい、仮面と羽。ボコボコにしてあげるからかかってきなさい」
「お前限界だったんじゃねぇのかよ。ピンピンしてんじゃねぇか」
「地獄行きの改札前でムカつきすぎて帰って来ちゃった」
 てへっとマースカ、スクイロを睨みつけながらバイオズラが小さく舌を出すと、次は逃さんと拳を振り抜く。 何故バイオズラは学ばないのか、再びクルイロの翼を粉砕するに終わるが、それはフェイク、二撃目の左フックが本命だ。
 脇を締めて、腰の捻りを効かせた光を纏う左フックがまさにクルイロの脇腹を目掛けて振り抜かれようとしている。
「あは、チャオ」
 まさにスローモーションである、一つの命が奪われる瞬間たるものは、見るもの全てが息を飲み、時間の感覚を麻痺させる。 誰よりも勝利を確信したバイオズラはスローモーションの空間の中で、謎の少年が自身の腹に頭突きをかますのもまた、その視界に捉えていた。
「ニョキーーーーン!!!!」
 クルイロも生を諦め、そっと目を閉じようとした刹那、バイオズラは何者かにダイビング頭突きを喰らい、情けなく、その身をくの字に曲げながらギャグのように吹き飛ぶ。
 そこには黒い肌と透き通る海のような青い瞳の黒人の子供が立っていた。
「ミュース!!どうしてここが!?」
「騒ぎに乗じただけだっつーの!にゃは!!敵いっぱいたのしぃぃ!!」
 ミュースはゴム毬のように弾け飛び、目前のショーキに襲いかかる。 幼児の残虐さ故か、無差別に視界に入る者を襲おうと襲いかかったのだ。
「う・ち・ご・ろ」
 しかし相手は冒険者トップクラスの肉弾戦のスペシャリスト拳語會のボスである。低弾道に襲い来るミュースの顔面をいとも容易くサッカーボールのように蹴り上げる。 拳で語るのみを合言葉のにしている拳語會のボスの得意技が蹴りとはいかなるものか。
「うぅおぉぉおらっ!!!」
「うべぇぇえ!!」
 しかしインパクトの瞬間、人と人との衝突ではありえない鈍い音が響いた。
 いてててと額をさする蒼目のブラックチルドレンは、目をキラキラさせて立ち上がるが、ショーキは脂汗を噴出させながら膝をついた。
「え?!ショーキやられた?ちょ!はらいたいんですけど!!」
「あー、足折れた。くそ、俺タロウ嫌い」
「だから種族特性がある種族にしろとあれほど」
 ミュースはマースカ、スクイロに向こう行ってろと目配せをすると、両名は多々羅の元へ駆け寄り、冒険者達から距離を置こうとする。
「仕方ないなぁ、お前らは。さぁておチビちゃん。どんなトラウマをご所望かなぁぁ?」
 タロウはニンマリと笑いながら距離を詰める。
「お前なんでそんな派手な格好してるんだよぉ!ダサいぞぉ!」
「ダサいって言ったぁぁあ!!」
 タロウは何故か膝をついてさめざめと泣き始めた。 彼にいかなるトラウマがあるのかは知らないが、この場面では真面目にやってもらいたいものである。
「やっと見つけたで御座るよ」
 そこで割って入るはヌプ蔵だ。 その姿を見て、安心したかのように一歩前に出るシュバイン。
「一気に決めるぞヌプ蔵、まずはそこのおチビちゃんだ」
「御意!!」
 ヌプ蔵、シュバイン、アイリスの3人は、『趣味の集いロール』の名のチームを組んでいて、いつも3人でダンジョンに潜っている。
 ヌプ蔵は桜の国出身で海を渡り、西洋の小国の王子の家臣となり、和平を結んでいた敵国の裏切りにより、敵国へ和平交渉の手段として嫁いでいた王子の妹君であるアイリスを救出、それからは仲睦まじく互いを研鑽しあっている。 と言った設定・・の元に成り立っているチームだ。
 アイリスも一端の冒険者であるが、このロールの為に、いつも強敵との戦闘はアイリスは後方へ下り、メインの戦闘は2人の連携の元に成り立っている。
 結果、2人揃っていればかなり強いと言うのが冒険者内での常識である。
「我が雷帝たる証、覇者のルーンよ!今こそ雷鳴轟かす時が来た」
 シュバインの豪奢な剣には紫電が奔り始める。 しかし、アークスショップの叩き売りのガラクタであるスタンソードに人口宝石を加工して取り付けただけだとは口が裂けても言えない。
 しかし。
「臨兵闘者皆陣列在前!雷鳴!!」
 空中からミュースへ無限に手裏剣の雨を降らせながら距離を置き、その間に印を組み上げると、雷のルーンが重なり合った魔法陣がシュバインの目前に浮かぶ。
「さらばだ聖剣、お前の事は忘れぬよ」
 魔法陣を躊躇いなく切り捨てると、聖剣(笑)は瞬く間に蒸発するが、ルーンとルーンの拒絶反応により、粒子砲のような紫色の一条の光が疾る。
「よっと」
 しかしミュースはいとも容易く、むしろ馬鹿にするように、やんちゃでお茶目に、その光線を避けてしまう。 拍子抜けもいいところである。 光は旅客機に直撃し、その機体を液化させてしまう。 乗客は乗っていないようだが、肝を冷やす絵面である。
「おいら全身の筋肉がミスリルだからヒクぐらい速いよぉ?」
 一瞬で間合いを詰め、ヌプ蔵を空から叩き落とし、その勢いを反動にシュバインへ襲いかかる。
 まるで黒い弾丸だ。
 だがシュバインも意趣返しだと半歩避けて躱し、ミュースの後頭部を裏拳で殴り飛ばす。 吹き飛ばされた先で待ち構えていたのはタロウだ。 神の悪戯か、タロウの位置取りが完璧だったのか、FWであれば満点の位置でミュースをゲットする。
「シュバインストラァァイク」
 タロウは逆さまになりながら暴れるミュースの大事な小袋を握り、ふゆっとした感覚を捉えると共に、自身の凄まじい変顔と共に、パキャっと気の抜けた破裂音を響かせ、大切な大切な小袋を握り潰した。
「ふぅぎゃあぁぁあぁぁぁあ!」
『鳴動』
 タロウは、その見た目から歌舞伎好きの変態に思われガチだが、本来の種族としては地鬼アースオーガであり、夜叉の子供達とされる種族だ。 冒険者は、一風風変わりな種族や、取得条件が厳しい種族が存在する。 ケットシーは医者であったり、エルフは箱入り娘の処女であったりと、不可思議な条件があるのだが、このタロウの地鬼といった種族の取得条件は、喧嘩で金的を使用した事があるか否かだ。
 これらの種族には種族特性と言った特殊な能力がある。 それはヒナタの盗技やキイロの閃技も同様である。
 そのタロウが持つ種族特性とは鳴動、鳴動は一度与えた痛みを何度も小さな衝撃でぶり返す事が出来る呪いだ。
 ここでミュースは大事な小袋の一つを握り潰されてしまい、今も尚もがき苦しんでいる。
 そこにタロウ愛用の電動ガス銃を乱射したらどうなるだろうか。
 答えは簡単だ。
「ヒャッハー!!ざまぁ!!!」
「ぎぃぇやぁぁあああ!!!」
 信じられないだろう。 地獄のような苦しみがとめどなく襲い掛かり、遂にはミュースは意識を手放してしまう。 否、白目を剥きながら泡を吹いてビクンビクンと震えてしまう。
 そこへ待ってましたと足の骨を高価な回復薬で完治させたショーキがデニムを上げベルトを締めながら歩み寄る。
「殺していいか?」
「いんや駄目だ。そいつは冒険者の人質と交換するカードにする。折角鳴動決まったら有効活用せにゃな」
 タロウが鼻クソをほじりながらショーキを制する。
 ミュースが捕らえられ、マースカとスクイロが飛び出そうとするが、多々羅は2人の肩を掴む。
「ミュースさんは私がなんとかします。ですから今は逃げる事だけを考えてください」
「離せよ!そんなのできるか!あいつは仲間だ」
「だからこそです。ナージャさんを悲しませたくないでしょう」
 マースカは舌打ちをしながら用意されていたヘリに乗り込んだ。
「待てやコラぁっ!!」
 ゆっくりと浮上するヘリに待ったを掛ける4人の人影がある。 青と白の制服に身を包んだ4人の冒険者が、やっとこの場に到着したのだ。
「これはこれは殺戮ギルドの皆々様!ご機嫌麗しゅう」
「じゃあ死ねよ」
 多々羅が礼儀正しく一礼をするが、ホリカワは空気を読まずに短槍を投げつける。 だが、槍は容易く多々羅に受け止められてしまう。
「ほう、磁槍ですか。いい武器ですね」
「どうでもいいから捕らえた冒険者返しやがれ!ヘリごと叩きおとすぞ!」
 シシオも吠えるが、多々羅は口パクでどうぞ、できるものならねと呟く。
「冒険者はもうここにはいません。ロシアの何処かへ連れていかれました。あなた達は負けたんですよ」
 そう言って多々羅は胸元から無線を取り出し、なんらかを呟いて上空へと消えて行く。
 その直後、フラフラと虫の息の中年男性が空港に現れる。 全身は血塗れであるが、その手には何やら怪しい注射器を震えながらに持っている。
 男は空へ消え去るヘリを見上げて僅かに涙を流した。
「ジークハイル!!」
 眼鏡デブは首筋に注射を押し込むと、その全身から黒い粘土が噴出し、その肥え太った体を覆っていく。
 そこに現れたのは、黒い悪魔だ。
 まさしく悪魔と呼ぶのがここまでに合致する生命体は他にいないだろう。光沢のある黒い筋肉質、身の丈3mを越える巨軀に禍々しい爪と、蝙蝠のような羽。 眼光は赤い光を灯し、口からは息を吐くたびに血霧が舞う。
「コロスコロスコロスコロスゥゥ!イヒャッヒャッヒャ!!ジークゥゥハイルゥゥゥ!」
 圧倒的有利であった戦場に、不気味で理不尽な存在が舞い降りたのだ。

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