だんます!!

慈桜

第五十六話 成敗と護衛依頼?

  頭の天辺から脚の爪先まで突き抜けるような悪寒、寒気。 そして、直後に襲い来る心臓にナイフを突き立てられたような熱と激痛。
『いやっ、そんな…イヤァァァア!!』
 やっぱ慣れないしきっついなぁ。
 たった今、何処かで冒険者が殺された。
 痛みから言って、冒険者が冒険者を殺した感じでは無い。 そうだとしたら、俺は今頃もんどりうって釣りたての鯖みたいに痙攣してるだろうからな。
 恐らく魔物に殺されたか、ミスリルの武器で狙われたか、それとも最近であれば魔物使いにやられたか。
 コアちゃんは冒険者が死んで塞ぎ込んでしまっているから、原因究明は俺のお仕事となります。
 まずはお部屋のPCで、コアちゃんアプリを開きます。
 冒険者リストで、デッドリストのカテゴリ。
 中国冒険者だな、国の欄の国旗が五星紅旗だ。
 冒険者名:レアル 本名:ワン・タイレン ハルビンのゴブリンダンジョンで活躍中のワーウルフか。まだ初心者だな。 スリで両腕を斬り落とされ餓死寸前だった所にデバイスを与え冒険者に。 冒険者活動は極めて真面目で、救済院施設を設立し、難民孤児の子供達の受け入れに精力的。
 むっちゃええ子やないか。
 デバイスを辿って映像を見てみよう。
 あぁ、ダメだ。後方からイキナリ襲われて即死してる。 デバイスは抜かずにそのままか…おっ?
 小さい女の子がレアルに抱きついてわんわん泣きわめいてるな。 あ、揺らしたせいで多分レアルの首が落ちたな。アバターが消滅して、両腕の無い子供の亡骸と、胸に置かれたデバイスだけが残る。
 冒険者なら迷わず使用するだろうが、レアルの個人プロテクトになってるから、一般人はデバイスを持っていてもしょうがない。 それでも女の子はデバイスを大事そうに胸に抱えて持ち帰り、恐らく救済院であろう建物内にある鍵付きの引き出しにしまい込んだ所で映像は切れてる。
 この子に使用許可を出してあげようかと思ったが、手元に無いのであれば意味が無い。
 さてどうすっかな、マジで。 敵の正体や戦力分析が出来るんなら、誰かに逝ってこいしてもいいんだが、下手に送り込んでやられてもな。
 アバターを選択するまでは出来ても、コアがこんなんじゃ転移が難しい。 くそ、だるいな。 タイミングとしては絶好なんだがな、ここで葬儀屋アンダーテイカーギルドを設立しておけば、この先有利でもあるが…。
 自力でなんとかするか。
 言っておくけどコアが処理してくれたら、頭で思い浮かべた矢先に、即実行可能なスクリプトがリストアップされて、並列思考と高速演算で瞬く間に概要を知る事が出来る。
 けど、俺が自力でやる場合、一個一個接続式をパチパチぽちぽち手書きで入力して、要所要所で魔法式やら魔法陣やらをカリカリガリガリ。
「ファァァァァァアッッック!!」
 やってられるか。 漫画喫茶で数学のテストやらされてる気分なったわ。
 俺が管理する世界には必ず6つのギルドが必要となる。冒険者を殺した冒険者を殺す罪喰いシンイーター、魔物と化けた人間を狩る銀の手シルバーハンド、世界に必要な魂を選定する庭師ランドスケーパー、冒険者に対抗する組織の掃除をする葬儀屋アンダーテイカー、新人類の創造者である魔女ウィッチ、そして新人類の守護者である文字のまま守護者ガーディアン他にも補助的なギルドがあるが、これが六大ギルドだ。
 今回の事案は、本来葬儀屋アンダーテイカーのお仕事なのであって、俺が自ら動くような話じゃない。 敵が不明瞭であるからして、送り込む冒険者の安否が保証できないからと言って保守的に回るのは宜しくない。
 てなわけで、携帯電話かもんなう。
『PULLLLPULLLL』
 うーん、迷宮に潜ってるのか? 出ない携帯なら携帯じゃないだろ。
『PULLLLPULLLL』
 解せぬ。 こうしている間にも、他の冒険者達が危険に晒されていると言うのに何故こうも。
 うまくいかない時は何をしてもうまくいかん。 此処はやはり御自ら動くしかないようだな。
 アプリ起動、アバター選択。 ってあれ?コアちゃん?なんでラーMENのアバターしか使えないの?
『…………………。』
 うん、コアちゃん慰めないで仕事進めようとしてるから怒ってるな。 でもわかってくれコアちゃん。 俺はコアがこれ以上悲しまないように最善を尽くそうとしているんだぞ?
『ぐすっ……えぐっ……』
 oh!泣かないでくれマイスウィートコアちゃん。 冒険者が冒険者を殺したワケじゃないんだ、元気を出しておくれ。
『システマ…かも…知れないじゃ…ないですか……ぐすっ…』
 そうだね。 確かにシステマ達が冒険者じゃない変な存在に自ら改変している所までは掴んでいる。 しかしコアの世界式の抜け目を見つけ出す程の奴が冒険者を殺してデバイスを抜き取らないのはおかしいだろう? 使わないにしろ、僅かながらにもDPそのものであるデバイスは利用価値があるはずだが…。
 まさかデバイスを作った?
 そんなまさか、それはありえないな。 コアの能力があってこそ、僅かなDPでデバイスを作製出来るが、個々の演算力では、出来たとしてもどれだけDPが必要になるかわからん。 それこそ人を殺しまくらにゃならん。 日本人の感性としてそんな事はできんだろう。
 いや待てよ、いやいやいやいや、もしそれが死んでいたり、死ぬ間際だったりしたらどうだ? 忌避感はかなり軽減されるんじゃないのか?
 考えていても仕方ないな。
 ラーMENのアバターでいい、念の為罪喰いシンイーターにも連絡しておこう。
「ジャリはお留守番な」
「んにゃぁぅ」

 ━━

 秋葉原駅武器屋、アークスプラザ。 武具そのモノにルーンを刻む最先端の武具店であり、ミスリルを中心に扱っている為に超高額であるが、ルーンを刻む事により、最小限に抑えているとは言え、武具内部からのダメージが蓄積される為に耐久値に問題があるので、賛否が分かれているアークスを取り扱う武具店だ。
 何故そんな所に俺がいるのかって?
 決まっているだろう、ラーMENのアバターで散々冒険者達に爆笑されながら人探しをしていたら、やっとの事でここに辿り着いたんだ。
「おい旦那ぁ。俺ぁ確かに超振動するように造ってくれって頼んだよなぁ?」
「やかましいわワーレオン。わざわざ他の世界からお前達みたいなヘボ冒険者の為にルーン武器売りに来てやってんだ、ガタガタ抜かすな」
「なんだこら地底人。髭むしるぞ?あっ?毟っていいんだなコラ?なけなしの30万返せコラ」
「あーやだやだ。30万なんて使い捨てだろうが。お前罪喰いシンイーターだからそのレベルでアークスルーン武器に手を出せてるだけで、お前単体なら相当ヘボいからな」
「お前だってレィゼリンで競争率高すぎて新天地求めて来たんだろうがヘボドワーフが!!」
「俺ぁノームだ!クソと一緒にすんな!!」
 殴り合いが始まったので静観中です。 探しに来たのはご察しの通り罪喰いシンイーターのシシオだ。 ブッチー、ホリカワ、ガンジャは既にグラナダで待ってくれているのだが、シシオだけはフレンドコールも携帯も応じずに探さざるを得なかった。 コアちゃんがいればグラフィカルコールで1発なのにな。
『ぷいっ』
 今は落ち込んでいるみたいです。 そろそろ殴り合いも佳境だな。
「うぉーい、そろそろ落ち着けぇ」
 シシオと武器屋の親父は俺を見て固まる。
「ぶぁはははは!!ダンマスそのアバターやめろ!!腹痛ぇ!!」
「なんだダンマスか。新手のゴブリンかと思ったぞ」
 ラーMENにあやまれ。 新手のゴブリンは言い過ぎだ。
「おっちゃん悪い、シシオに用があったんだ。ちょっと借りてく」
「助かるよ、さっさと連れて行ってくれ。今からこいつのアークスのルーンの打ち直しで忙しいからな」
「やってくれんのかよ旦那ぁ!!」
 ドワーフを小さくしたようなノームの職人であるおっちゃんはフンと鼻を鳴らしながら、軽々とシシオのツーハンドソードを持ち上げる。
「ワーレオン、お前の為じゃないからな。これは後学の為だ」
「武器屋のデレキター!!ぐふっ!」
 とりあえず話に終わりが見えないから腹パン1発かましときました。

 ━━
 お馴染みのコンビニに入ると、ギャルチックなJKが雑誌の整理をしてる。
「茜ちゃんおはよう」
「おはようございますメイズさっ…え?だれ?!てかシシオさん!?!」
 声は俺のままなので驚かせてしまったようだな。 そりゃそうだ、ワケわからん冒険者が最強の一角を担うシシオを肩に担いでるんだからな。
「まぁ、色々あるんだわ。ところで茜ちゃんジンジャー見なかった?」
「ジンジャーさんなら朝ご飯食べてダンジョン潜りに行きましたよ?資本主義の豚を狩るとかなんとか」
「あいつ社会主義の犬だった癖によくそんな事言えるな」
 場所は変わってグラナダまでやって参りました。 コンビニのトイレから南国リゾート!誰でも気軽に!のグラナダだが、最近は上級冒険者の溜まり場の様相となって来ている。
 言わばお馴染みのメンバーだ。 一期二期の奴らばかりの集会場みたいな有様である。
 とりあえず一頻り爆笑されてから罪喰いシンイーターのメンバーが待つ席に着席。 あまりの騒がしさにシシオもやっとお目覚めだ。
「どうしたんですかダンマス。いきなり全員集合かけて」
 ブチ猫の猫獣人、一応罪喰いシンイーターのリーダーであるブッチーから話し合いが始まる。
「まず本題、中国の冒険者が殺された」
 うん、流石罪喰いシンイーターだ。 全員が一瞬で覇気を纏って戦闘態勢に入った。
「落ち着け。犯人は冒険者じゃない。多分な」
「多分?ダンマスらしくない言い方だな」
 リザードマンホリカワは二本の短槍を片手で器用にクルクルと回しながら問う。 飛んできそうで危ないからやめて欲しい。
「コアが冒険者が死んだショックで職務放棄だ。俺ができる範囲で探ったが、背後から首を斬り落とされてて状況が全くわからん。可能性は2つ、なんやら動きが怪しいシステマ達か、ミスリルの有用性に気が付いた誰かだ。ただ犯人はデバイスを持ち去っていないのが気になる点だがな」
「おい待て待て、中国冒険者の仲間割れってのはないのか?」
「あぁ、それはない。冒険者が死んだ感覚が違うからな」
「それじゃあ俺らってのはどうなんだ?確かシステマやら多々羅ってのはコアさん出し抜いて冒険者じゃないなんかになってるんだよな?ルールどうこうの前に元冒険者ってんでぶっ殺すのは構わねぇけどよ?」
 シシオが凶悪な貌で嗤うが、本題はまさにそこだ。
「ちょ、ちょっと待って。俺たちは罪喰いシンイーターだ。冒険者を殺した冒険者をダンマスやコアさんに負担無く殺せる力を与えられたギルドだ。グレイルさんが言ってた。確か、冒険者じゃない奴らが冒険者を害する場合は葬儀屋ってギルドが動くって」
「そそそ、ガンジャの言う通りなんだわ。てなワケで、葬儀屋アンダーテイカーの同伴ってことで、お前達には護衛についてやって欲しい。敵の力も規模も分かってないから、護衛任務として同行して敵勢調査、国の軍とかパンピーなら静観、もしシステマの関連してる元冒険者?って言えばいいのか、なんせあいつらなら完膚なきまでにムッコロさんして欲しい。風変わりなクエストだが頼めるか?」
 ガンジャは大きい体を丸めていたが、深呼吸をして胸を張り、ウンと頷く。
罪喰いシンイーター9カ条に抵触すると判断した場合は、如何なる者が相手だろうと、大剣使いとしての任務を遂行するよ…」
「かぁぁあ!ったくガンジャ、おめーは真面目過ぎんだよ。コアさんが落ち込んでダンマスが痛ぇ思いしてんなら俺たちは罪喰いシンイーターとして動く意味があるんだよ。グランアースでシリウスさんに言われただろ?」
 シシオが巨体のガンジャに肩を回し、強引に引き寄せる。 ガンジャは困ったようにウンウンと頷くしか出来ない。
 グランアースの罪喰いシンイーターギルドの本部長であるシリウスに預けてから、こいつらの意識はかなり変わったと思ってはいたが、何を吹き込まれたんだろうか?
「よし、ならやっと研修服は終了だな」
 ホリカワは凶悪な牙を剥き出しにすると、納得したようにブッチーも立ち上がる。
「やっとですね。これも立派な正式任務です。本来私達は暇な方が幸せなのでしょうけど」
「クソ猫、御託はいいからさっさと出せ」
「クソ…猫?」
 ブッチーとシシオが一触即発の空気に包まれるが、ホリカワとガンジャがまぁまぁと落ち着かせる。
「はぁ…その話し合いは後にしましょう。では」
 四人はメニューを操作して、コスチュームチェンジを行う。
 特に何時もと変わらないような気もしたが、思いっきり変わってた。 罪喰いシンイーターの制服である立襟膝丈のジャケットのカラーが白黒から白青に変わってる。
「グランアースは白黒、フェリアースは紅白、レィゼリンは緑白なので、我々は青と白にしました。名ばかりの罪喰いシンイーターだったので袖を通してはいませんでしたが、今回は覚悟の意味も込めてこれで行かせてもらいます」
「お、おう」
 ブッチーがいつになくマジだ。 しかし不思議だな。 こうやって見ると、マジで歴戦の罪喰いシンイーターに肩を並べられるような気がしてくる。
 早く部下つけてやんなきゃだけど、後回しにし過ぎてたわ。 新人は異世界に強化合宿で送り込んで放置する自動養殖もありだな。 またリスト見ておこう。
 ピピリピーピッピーピッピピピピ。 吐きだしぃた♪おっ、電話だ。 やっと折り返して来やがった。
「だんますその子本当好きだな」
「あぁ、至高だ。もしもし?」
 ホリカワに細い目で見られるが殴っていいのかな?このサイコパス。
『すいませんっ!!電話貰ってたみたいで!!』
「あぁ、ジンジャー。お前に仕事の話がある。グラナダ来れる?」
『はい!!行きます!!すぐ行きます!!スパイダーマ○して行きます!!』
「うん、普通に来てくれたらいいから」
 なんでこう無駄にテンションが高いんだろうか? ハクメイもずっとこんな感じだったもんな。
「ダンマス?まさか葬儀屋アンダーテイカーってジンジャーなのか?」
「そうだ。元お巡りさんとしてお誂え向きのギルドだろう?ってのは冗談だが、国側に冒険者を渡したくないから安全策としてジンジャーの記憶を消したのは知ってるだろ?記憶を消すってのは案外危険でな。簡単に言えば果てなく聳え立つ積み木だ。都合良く警察の記憶だけを引き抜くと、どうしても空白が出来てしまう。そこへ、ギルドの権能や参考書とかの莫大な情報を詰め込んでバランスを取る。これが記憶改竄の仕組みだ」
「あぁ、ハクメイもそんな感じで?」
「そう、ハクメイも庭師ランドスケーパーとしての権能を同様に植えた。最も、あいつの場合は記憶は全部戻ってるけどな」
 そこへカランコロンと鐘の音が響き渡り、スタッフのいらっしゃいませーと大きな声が聞こえると同時にハイテンションの叫び後が聞こえる。
「あっ!いたぁ!!ここです!ジンジャー参上です!!ってラーMEN!?なかやまんは何処!?」
「はぁ…さて、何処から話そうかな?」

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