だんます!!

慈桜

第四十四話 リア充で吐血?


「うーん…何故飴玉が何も無いところから無限に生み出されるのか…」
 薄い緑色のミディアムヘアの髪を揺らしながら、黒縁眼鏡から覗く髪色同様の薄緑色の瞳を凛々と輝かせながらキャンディボックスを分解する青年は、ケモミミ旅飯店の片隅でぶつぶつと独り言を呟いていた。
「シーステマッ!なにしてんのっ?」
「ひ、ヒカル氏!!いや、これ、この魔導具、ダンマスに貰ったんだけど、それで、その、分解してみて、どうなってるのかなって」
「へー、またお勉強してるんだっ。凄いねっ!リリちゃんたこ焼きとウーロン茶ちょーだいっ!」
「はーいっ」
 システマの前に当たり前のように座り込む金髪碧眼のミニスカートの騎士のような服装の太ももが眩しい冒険者。 ヒカルは犬耳の店員に食事を注文すると、楽しそうにニコニコ笑いながらシステマに向き直る。
「どうしたのっ?見てるだけだから気にしないで続けてねっ!」
 当の本人はたこ焼きが楽しみで仕方がないだけなのだが、システマはどうやらあらぬ方向に勘違いをして顔を真っ赤に染めている。
 そして、システマは何を思ったのか、ケモミミ旅飯店のアンケート用紙の裏地に、小さな文字で数式の羅列を書き上げて行くと、その式に魔力を通した。
 すると、キャンディボックスの中からは指輪型の飴玉がコロリと現れる。
「そうか、魔力を使用する前提であれば、キャンディボックス自体なら容易に作れるかもしれない。でもおかしい。それなら亜空間はどうやって創りだせばいいのかの答えには一向に辿りつかない…そもそもなんでキャンディボックスの式は魔力と亜空間が存在する前提になってるんだ?何を見落としてるんだ…くそ、わからない。わからないけど、たった1つだけ明確に分かることがある。それは、私がヒカル氏の事を想いすぎて好きと言う言葉では表す事が出来ない程に、複雑な数式が心の中にある。だから、結婚してください」
 どうしてそうなった。
 システマは構成式を書き換えた飴玉の指輪をヒカルに差し出すと、ヒカルは笑いを堪えるように、その飴の指輪を受け取り薬指に填め込みクスリと笑った。
 そして、その指に煌る飴の指輪を翳してから楽しんだ後にガリッと噛んだ。 そう、単純にガリっと噛んだのだ。
「おいしっ!」
 してやったりとニコニコするヒカルを見ながら、システマは何故か悲しそうながらに眉を垂らしながらにも、ヒカル氏可愛いと小さく胸の内を呟きながらに笑みを浮かべている。
「システマがさ、そーゆー感情持ってくれてるってのは、テレビで見たから知ってるんだっ。でもさっ、本当のあたしの事知ったら、多分システマはあたしの事嫌いになっちゃうと思うんだっ。だから今は恋愛とか考えられません、ごめんなさい!」
「うん、知ってた」
 何もシステマも馬鹿では無い、自分の恋愛感情には鈍感であるが、ヒカルにそんな感情が無い事は勿論わかっている…はず。 多少の淡い期待はあったかも知れないが、どうせならメイズに言われた通りにガンガンアタックし続ける方がいいと合理的に考えたのである。
 飴玉の指輪とプロポーズ、限りなくジョークに感じる環境を故意で無く、たまたま作り出し、通常なら一つ笑いの華でも咲きそうなシチュエーションだが、得てして返答はガチの拒否であった。
 そこは知ってたと強がるのも、システマの精一杯の返答だったのだろう。
 ここでシステマは何かを言おうか言わまいかと逡巡しながら小さく体を揺らし、細かく深呼吸し、口を開くが、すぐに噤み、キャンディボックスに向き直る。
「どったの?恋人にはなれなくても、同じギルメンなんだから言いたい事言っておこうよっ」
 ヒカルが優しく問うと、システマは逃げ場が無いと理解したのか、瞬時に言いたい事を頭の中で整理し、小さく息を吐き出す。
「もし、ヒカル氏が冒険者になる以前、人に言えないような過去があったりしても、私は変わらずヒカル氏への、この複雑な心情、所謂、胸の内に宿る難解な数式は解ける事が無いと思う」
「うん、ありがとっ。本当に嬉しいよシステマ。でもごめんね。システマを恋愛対象としては見れない。なんか変わった人だなってしか思えないんだっ」
 システマはショックが過ぎたのか、アイテムボックスからミスリルを取り出し、カリカリとルーンを刻み、自身に大粒の雨を降らし始めた。
「ちょ、ちょい!システマ!?」
「あーもー!システマさん!!店の中で雨降らさないでくださいよぉ!!」
「おぅ、あいにーちょーらゔ。あはは、あははは」
 ぶっ壊れてしまったのである。 そりゃ、いきなりガチトーンで行ってバッサリ振られたら雨に曝されたくもなる。 わからんでもないが、実際にやってしまうほどにぶっ飛んでいるのがシステマだ。
「違うよう!!もっと色々あるんだよっ!歩けるのに改造した車椅子乗ってるのとかも、歩ける人に対してどうなの?って思ったりもしてるし」
「ぐはっ」
「いかにもインテリのイケメンって感じのアバター設計とかも狙いすぎててなんか嫌だし!!」
「かはっ」
「それに切れ長の目に泣きぼくろとかナルシスト超えてるってか行き過ぎてキモいって言うか、変わった人だなぁって」
「モルサァァァアッ」
 血涙を流し果てるシステマ。 ヒカルよ、其処まで叩きのめす必要があったのだろうか? 同じギルドの仲間であれば、もっと気遣っても良かったのではないだろうか?
「ヒカル、それぐらいにしとけ。システマのHPは0だ」
 遠目に様子を見ていたダイゴが、状況を見かねて待ったをかける。 どうせならもっと早く止めてやって欲しかったが、何かしら理由もあったのだろう。
「ダイゴ!だってシステマ、自分の気持ちを正確に理解する為に調査が必要だとか言って、ずっとあたしのムービー撮ったりしてたんだよ!これでもちょっと怒ってるんだからね!!」
「お前がパンツ見せながら戦うから悪いんだろうが。俺ですらお前のレパートリー全部知ってるとか彼氏か!ってなるぞ!!とばっちりで茜ちゃんに怒られて俺すらキレそうだ!!」
 システマは既に白目を剥いて気絶現実逃避しており、緩やかに始まった口喧嘩は次第に武力行使へと移行しようかとした所で当然に待ったが入る。
「もぉ。じゃあうちがダイゴをやっつける。」
 藍色の長い髪を三つ編みにした、魔導師風の眼鏡っ娘である。
「あんきな。お前は餡子かきな粉でも食ってろ」
「もちうまいよなぁ。」
 メタニウムの面々がケモミミ旅飯店で身内漫才をしてる最中、カランコロンと鈴を鳴らしながらに店の扉が開く。
 このタイミングでの来客に皆が振り返るが、其処に立っているのは無名の冒険者だ。
 ただ、何故かその少年には、皆が吸い込まれる様に視線を奪われた。
 その理由は簡単だ。
 1つ特徴として、システマを子供にしたような薄い緑色の髪と瞳を使用した知的なアバターにしている事に起因するだろう。
「お初にお目にかかります、メタニウムのダイゴさん。私、四期の新人冒険者で多々羅と申します。其方のシステマさんと、兼ねてより解読スレで親交を深めておりまして、本日面白い品が手に入ったとの事で参上した次第に御座います。システマさんとの同席の許可を頂けますか?」
「むっちゃくちゃ真面目だな。そんな固く喋んなくていいぞ。冒険者は自由の民だからなっ」
「そうですね。お心遣い感謝します。それでは、お言葉に甘えて」
 薄ら笑いを浮かべていた多々羅は、ダイゴの横を通り過ぎると同時に、酷く冷たい視線に変わりシステマを睨みつける。
「はぁ…システマ様、折角の研究材料が水浸しではありませんか…おーい、システマ様ぁ、起きてくださぁい!!」
 振られたショックに放って置いてくれと言いたげなシステマは、声のする方へ僅かに視線を送ると、多々羅を視界に捉えて意識を取り戻す。
「これはこれは多々羅殿。やっときてくれましたね。今ばかりは、この場は気まずいので、少し場所を変えましょう」
 システマは車椅子のタッチパネルを起動して移動を始める。
「ダイゴ殿、済まないが今日は同行辞退する事を許してほしい」
「おぉ、構わねぇけど早めに復帰してくれよ?システマがいねぇと攻めきれねぇとこもあんだからよ?」
「勿論。このキャンディボックスの謎が解けたら直ぐにでも。ヒカルたんの撮影もしなければなりませんからハァハァ」
「吹っ切れたな」
 システマは悲しそうに、そして楽しそうな、なんとも言えない表情を浮かべてダイゴの前を通り過ぎる。
「ヒカル氏、迷惑をかけて申し訳ない。少しの間、掲示板とかで迷惑をかけるかも知れないが、ほとぼりが冷める頃には必ず戻りますので、その時はよしなに」
「うんっ、あんまり深く考えてふさぎ込まないでねっ?これからも仲間でずっと一緒にいるんだから!恋人じゃなくて家族でいいじゃん!」
「カハッ」
「なんで血を吐く!?」
 親指を立ててグッジョブと一言残すと、あんこきなこがポンとシステマの肩に手を置く。
「気合いいれろよ童貞」
「お前もな処女」
 システマときなこは互いにニヤリと笑い、拳をポンと合わせると、システマは多々羅と共にケモミミ旅飯店を後にする。
 その背を見送りダイゴは腕を組みながらウーンと唸る。
「やっぱり何度考えてもきなことシステマが一番お似合いなんだよなぁ」
 その呟きに、ケモミミ旅飯店の他の客もうんうんと頷くが、1人あんこきなこは素知らぬ顔で、足をパタパタと揺らしながら餅に齧りついている。
「あたしもさ、システマはきなこが好きだと思うんだ。あたしに向けてるのは恋って書いて下心の方でさ、likeでLoveなのはきなこなんじゃないかなって」
「だろうなっ。てかこんな話ばっかりしてるから俺たちメタニウムってリア充云々言われて嫌われてるんだろうな」
 ケモミミ旅飯店の客達は、否定せずに素直にうんうんと頷いていた。

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