だんます!!

慈桜

第四十三話 ゲーセンで返り討ちの気分?

 
 めんどくさいなぁ。いやだなぁ。 なんで昼間から忍者連れて上野くんだりまで…。 いや別に近いからいいんだけどな。
「してメイズ殿。1つお伺いしてもよろしいでござるか?」
「なんだ?内容によるけど答えてやるぞ」
「なれば冒険者の選考基準とはどうなっているのでござるか?お恥ずかしながら今でこそアイリスやシュバインの助力ありきではござるが、富豪と言っても遜色ない程に稼ぎがあり、冒険者として充実しておりますが、以前までの拙者はうだつの上がらないタダの無職であった。感謝こそしておるが、何故拙者を選んでくれたのかずっと気になっていたでござる」
 この手の質問はよくされる。 正直に言えば先発組の殆どは社会不適合者と言われる一部の人間達から選んでる。
 冒険者なる歪な存在を創りあげるにあたって、消えても国の運営に遜色ない人間が選考基準となっている為だ。
 だが、それだけってワケでもない。
『ヌプ蔵は器用に生きすぎようとして挫折してしまった方でした。人並以上の努力する才能があり、不動産業界で確固たる地位を築き、将来に向けて建築関係の仕事に手を伸ばし二足の草鞋を両立させ莫大な富を得ようとしましたが、糖尿病を患い、建築の職からはみ出し、更には元々勤めていた不動産の職も解雇され塞ぎ込んでしまいました。彼の人生を数値化した結果、冒険者としてチャンスを与える事により大成する確率は86%と高い数字を算出していたのでデバイスを配布するに至った次第です』
 ありがとうコアちゃん。 ヌプ蔵のプライバシー無視だけど、凄くわかりやすかったよ。
「選考基準は簡単だ。才能があるのに燻ってる。そんな奴を選ぶ」
 その一言を返してやると、ヌプ蔵は急に足を止めて感慨深そうに目を瞑り小さく頷いている。 なんかムカつくから殴ってもいいんだろうか?
「やはり志願して正解でござったな。ダンジョンマスターには感謝してもしきれん」
 どうやら悟りモードに入ったようである。 コア、ヌプ蔵って何歳なんだ?
『35歳で冒険者となりました』
 35歳で忍者ロールとか筋金にアダンチウム合金詰め込み型のギークじゃねぇか。 いや、人にとやかく言うのはやめよう。 そんなの言ったらお前何百年厨二病なんだよとか言われかねん。 精神体だから老化しないの!わかって!
「って誰もいねぇじゃねぇか」
 態々トーキングタイムを設けて秋葉原から上野までテクテクしてきたってのに不忍池には冒険者のボの字も無い。 無駄足マックスにイラついて振り向くとヌプ蔵の姿は消えていた。
 置き手紙をひらりと残して。
 〝アイリス殿が激昂し候〟
 しらねぇよ。 俺も激昂しそうだけどそれはいいのかよ。 さっきまでダンジョンマスターには感謝しなきゃ!みたいに感動に打ち震えてた忍者は何処行ったんだよ。
「はぁ…だる」
 ぶっちゃけ多々羅ってのが新人集めて謎の決起集会してたとしても、俺からしたら好きにしろって感じなんだがな。
 別に冒険者同士で殺し合いみたいのが無いなら全く以って構わん。
『池の畔に冒険者がいます』
「え?何処何処?え?あのおじいさん?あ、まじだ」
 蓮池の畔のベンチで、腰掛けながら冒険者なら購入出来るコア特製の魔導ラジコンで遊んでるおじいさんがいる。
 おじいさんと言っても白髪なだけで、見た目は中々ダンディな初老の男である。 眼光も鋭く、腰に帯びた日本刀が醸し出す存在感と相まって気迫に満ちている。 疑問点を挙げるならば、何故そんなにもドヤ顔で大日本帝国の軍服を着てるのかだが、そこをイジると面倒臭そうなので全力で放置する。
 下手に身形や装備から歩み寄ろうとすると、専門的な知識チートを駆使して「住む世界が違うのだよ」と一段上からの目線で仲間になりたければ讃え崇め奉るが良い!と軍門に降される可能性があるからな。
 この手のタイプは戦うのが一番だ。
 魔導具とラジコンが一体になった魔導ラジコンのレーダーを指でなぞり器用に六機の零戦を飛ばしてる爺さん。
 以前に俺も無茶苦茶ハマった玩具だ。
 2ℓのペットボトルに羽を生やした程度のミニチュアであるが、機関銃もきちんと装備されており、敵機を撃ち落とす事も出来る高性能さを持っているにも関わらず1機30DMとお買い得な玩具である。
 さて、俺には罪喰いシンイーターの選出や、守護者ガーディアンの選出、冒険者用店舗の増設や迷宮の増加、更には冒険者の増加と、仕事は腐る程あるわけだが、此処であの爺さんに空を占領されたままで見過ごしていいモノだろうか?
 答えは否だ。
 断じて否。
 奴が筋金入りなのは認めよう。 だが、俺の存在する場の空を自由に飛び回るのは他の誰が許しても俺が許さん。
 土俵は同じ、俺も零戦を…と思ったが、やはりあの爺さんの軍服姿を見るに、性悪女、所謂F6F性悪女ヘルキャットであの爺さんの神経を逆撫でしてやろうじゃありませんか。
 コア、ヘルキャットを六機用意しろ。
『慣らしも終えてないエンジンを使うのですか?それならば以前よりお持ちの改良型の零戦ジークがありますが』
 それだと圧倒してしまうだろう? 俺は不利な状況下で爺さんを叩き潰したいのだよ。
『了解しました』
 そう言ってショップから購入したヘルキャットを六機並べて予備走行でエンジンを温め始めると、爺さんもそれに気付いたのか視線を鋭くしながら手元に零戦を集め燃料の補給、更には武装換装を開始する。
 もう此処まで来ると互いにニヤニヤしながら準備を開始している。
 わかる、わかるぞ爺さん。 俺も今すげぇ楽しみでやばい。
 対艦戦じゃないから機銃だけで十分だ。 コクピットには誰も乗ってないから純粋な撃墜が必要になるが負ける気がせん。
 さぁ行け。 意地悪な小娘達よ。 あの爺さんの零戦を沈めてこい。
 flightボタンを押すと隊列を組みながらに、パリィィィィィィンとガラスが割れるような炸裂音と高回転するエンジンの唸りが響き渡り、ゆっくりと助走を始めると次第に加速し六機のヘルキャットが空を舞う。
 〝You have control〟
「あいはぶ!!」
 声帯認証を終わらせると2つのレーダーに両手の人差し指、中指、薬指を置くと、操縦権は俺に移譲される。
「鬼畜米英ぇぇぇえ!!!!」
「おいおい。効果ありすぎかよ」
 不忍池を旋回し零戦六機、ヘルキャット六機は互いに牽制しつつ出方を見るが、爺さんが指6本を一気に引き込み、機体は急浮上する。
 背面飛行から此方に真正面からぶつかるように仕向けたのである。
「上はとらせんぞ!!!」
「たわけ若僧が!!!」
 ゆっくりと上昇しながら両親指と小指で機銃を乱射しながら揺さぶりを掛けるが、機体を真横にしながら大きく楕円を描く零戦。
「うまい!!」
「貰ったぞ小僧!!」
 このままじゃ左翼三機が何も出来ないままに堕とされる。
 だが、それじゃ面白くない。
 左手のレーダーの指を縦にして真横に弾く。
 自動コントロールで操縦権を放棄すると、初動で真横に進路を変えるので蜂の巣にされずに済む。
「ふん!!ハリボテから堕としてやるわい!!」
 自動運転にすると大きく旋回しながら敵機後方に回ろうとするので、小回りをしながら背後を取れば、確実に撃ち墜とす事が出来る。
 だが、肉を斬らせてなんとやらだ。
 自動追尾するデコイが邪魔で気を取られていたら、本気で三機を操っている数の差で操縦精度の利を持っている俺にヤラれるのは常道だ。
 一瞬の隙も逃さんよ。 貰ったぞ爺さん!!!
「ふん、やりよるわい。じゃが!!」
 三機並行で機銃を乱射するが、爺さんは右翼三機の操縦権を放棄、即刻離脱した機体が急旋回で俺のヘルキャットの背後に迫る。
「まずいまずいまずいまずい!!」
 急いで旋回するが目前には俺が自動運転にした三機が迫り、横並びになり、更には背後から爺さんの零戦が迫る。
『強いですね』
 こんな簡単に背後を取られるなんて…。
 こうなっては一か八かの勝負しかない。
 エンジン急停止、再起動。
 裏ワザではあるが、うまくいけば一気に背後を取れる。
『三機撃墜されました』
 見りゃわかるよ。 自動操縦の三機はいい的だ。 穴だらけにされて煙を上げて蓮池に墜落。
 だが、お陰で此方も爺さんの背後を取れた。
『二機撃墜しました』
 コアちゃん!見たらわかるよ!!
「やりよるわい!!」
 でも二機しか堕とせてない!! 爺さんの機転で二機を捨てて急上昇、真上を取られた。
 ピャキィィィィィィン!!と日頃聞く事の無い音が響くと同時に俺の機体が墜落する。
「まじかおぉぉおおおい!!!」
 上に意識を持って行かれてた。 自動操縦の零戦が横っ腹から特攻。 巻き込まれてそのまま俺の機体と共に墜落したんだ。
 エンジンが唸り、割れたペラを強引に回そうとなんとも言えない甲高い音と共に水飛沫を上げる。
 爺さんの残機3、俺の残機2。
 そしと真上からは爺さんの零戦が……。
 見るも無残な姿になったヘルキャットが墜落する。 真上からの集中放火に為す術無く撃墜されてしまった。
「参った参った。完敗だわ」
 久々だったからとか言い訳はしない。 慣らししてなかったとかも言わない。 性能上、ヘルキャットは零戦より若干上とすら言われているのに完敗だった。 これはもう言い訳のしようがない。
「ヘルキャットの方がゼロより上ってのは実際どうなんじゃろうの。当時一線級の精鋭パイロットはみな消え、新兵ばかりが飛行機乗りじゃった。アメ公の戦闘機は日に日に数を増し、日本は日に日に数を減らした。考えうる最強の布陣でヨーイドンならこんな結果になったのかものう」
「さりげなくdisってんじゃねぇぞ。本気出したら蚊トンボでも勝ってやるよ」
「カッカッカ!威勢がええのう。しかし、こんだけの娯楽を与えて貰えて、心より感謝するぞい」
 そう言って爺さんはニコリと笑って握手を求めてくる。
「楽しかった。また遊ぼうぜ爺さん。改めて、メイズだ。よろしく」
「本名ですまんが時田じゃ。して、メイズ。いきなりですまんが頼みがあるんじゃが、ホンモノの零戦の値段どうにかならんか?15000DMなんぞ、わしみたいな三期のジジイには手の届くような数字じゃない。ゴブリンでもなんとかと言った具合なんじゃ」
 確かに、確かに攻略に集中せずに1万5千集めようと思えば大仕事だ。 だが、そんな簡単に零戦が買えるなんてどうだろうか。 しかも買えたところで自衛隊様にヒャッハーされる終わりが目に見えてる。
 冒険者仕様の不壊じゃないのかって? 撃墜しない戦闘機なんて美しくないだろう?
 そんな高い買い物は、あまり勧められたモノじゃない。 だからと言って旧式とはいえ戦闘機をお安く買える特権なんていかがなものか。
 今回完敗だったからとプレゼントなんてのは…いいや、甘い。甘すぎるぞ俺。 そんなのはいけない。
「よし、爺さん。アイテムボックスに一機入れといた。今回完敗だったからな。やる。」
「や、やるっておい」
 甘いわぁ。 砂糖より甘いわぁ。 けど、それぐらい楽しかったしな。 死闘の後は、それに見合う褒美が必要だろ。
「死にはしないだろうけど、すぐ叩き落とされるだろうから、そん時は諦めてよ?」
「返り討ちにしてやるわい」
 大丈夫かな、この爺さん。 まぁ、ヌプ蔵の無茶振りで多々羅って奴には会えなかったけど、いい遊び相手が見つかった。
 てかジジイ多いな。 太郎ちゃんとか時田さんとか…。 気にしたら負けだ。
「よし、爺さん。キャバクラいこ」
「い、いや。わしゼロ乗りたいし」
「うっさい。没収するぞ。」
 おじいちゃん成分が供給過多になってしまったからキャバクラ行って癒されてきまーす。
『仕事をするべきかと』
 コアちゃん厳しいっ。可愛いのに台無しっ。
『ボンッ』
 ボンッて照れて赤くなったって意味?最近あまり見なくなったけど、それ大丈夫?ナウいの?
『早くキャバクラに行ってきなさい』
 はーい。行ってきまーす。 ちょっと怒ってるな。 クワバラクワバラ。

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