だんます!!

慈桜

第四十二話 新世界の理を探る?

 
 とある研究機関では白衣の男達が総動員で一つの研究に取り組んでいるようである。 その研究対象は一見すると宝石のようにも見える紫色の石のようだ。
「博士、今日も朝食はマヨネーズトーストでよろしいですか?」
「君も博士号を取得したのだろう?私を博士と呼ぶのはやめなさい、むず痒い」
「いいえ、私の博士号は博士のおかげで頂けたものですから」
 白髪の如何にもな博士と、プラチナブロンドに赤い紅を引き黒縁の細いメガネをかけた欧風のポルノ女優のような女とのやりとりである。 女はメガネを外し白衣から覗く太腿をちらつかせると唇を強調する。
「ねぇ、博士。私とあなたの間に子供が産まれたら素晴らしいと思わない?あなたの知能と私の美貌、歴史に名を残す偉人になるわ」
「はぁ、ダリア。悪ノリはやめろ。私の見た目に君の知能を受け継いだら子供が可哀想じゃないか」
 ダリアと呼ばれたセクシーな研究員はクスッと笑って添え付けのミニトマトを齧る。
「それで、この未知の結晶が何なのか、少しは分かったのですか?」
「はむっ、うーん。やはり君の焼くマヨトーストはおいしいね」
「博士?聞いてます?」
「聞いてるよ、見てごらん」
 タブレット端末に映し出されたのは輻射状のゼンマイが細胞のように蠢く姿である。
「これは?」
「あの石の粉末を拡大すると、この輻射状の細胞の結合体だと言う事がわかったんだ。一つだけ分かった事はね、世界が変わるって事だよ」
 ロシアに持ち込まれた僅かな魔石、それを一流の研究機関にて調べ尽くしていた。 北朝鮮から送られていた人体実験の大雑把なデータでは、この大国の研究員達を満足させる事は出来なかったのだ。
 沢山摂取したらモンスターになります。 的なデータでは疑問符を浮かべる事しかできない。 だが、一流の研究者達の調べにより、パープルフィズ、または魔石は、輻射状の正体不明な粒子の集合体だと言う事実が明るみになった。
「動物実験の結果も見て欲しいんだ、嘘だと思うかも知れないけど、これは全て事実なんだよ」
 魔石を投与されたモルモットのデータが画面に映し出される。
 0.001グラム程度の投与で開始され、経過を記したデータであるが、そこには徐々に細胞と結合し環境に適して僅かに進化している数値が出される。
「筋力値の6%上昇?そんな馬鹿な」
「驚くのはまだ早いよ」
 続いて映し出されたのは、思考量の上昇と、思考とリンクして進化形態を変更する資料である。
 均等に魔石を投与されたモルモット達が、各々に違う進化をする実験映像だ。
 水の中で育ったモルモットには、見た目に変化は無いが薄い透明な鱗のようなものが形成される。
 走らなければ餌を得られない環境にすると、見た目に変化は無いが脚力が異常に発達する。
 そして穴を掘らなければ餌を得られない状態にすると、不可視の爪が伸びる。
 そしてそれらを解剖すると、血中に輻射状の粒子が爆発的に増殖し循環している事が明らかになる。
「そして、次に報告にも挙がっていた医学利用の一件なんだがね、これらが癌細胞を植えつけられたモルモットの投与結果だ」
 そこには、ガン細胞のみならず、生命に異常をきたす不要な細胞や毒素までも消し去ってしまった結果が明らかになる。
「そんな、意味がわからない」
「右に同じくだよダリア、でもこの輻射状粒子細胞は人類を大幅に進化させる事が出来るよ、そして更なる実験の結果がこっち、投与量を僅かに増やしていく検体と、そのまま経過を観察する検体とで分けたのだけど、血中に循環する輻射状粒子細胞の濃度により、進化の形態が段階的に変化する事もわかったんだ」
 そこには、魔物のような特徴を持った様々なモルモットが映し出されていく。
「極微量であれば、検出不能なドーピングにはもちろん、そんな利用など馬鹿らしくなるほどの爆発的な能力上昇が見込める。コミックスのヒーローのような超人を生み出す事が可能だよね」
「あら、私はまだ夢の中なのかしら。早く起きて博士にマヨネーズトーストを焼かないと」
「残念ながら現実だよ、いや、嬉しい事にと言うべきかな、そしてこれだ」
 そこには完全にモンスターに変化したモルモットを解剖し、その心臓部から極微量の金属が採取された研究資料が映し出される。
 金属を調べると輻射状粒子細胞が生命に反応し新たに生み出した輻射状粒子を体内に循環させる心臓のような役割を持っていると憶測が立てられる。
「この金属は恐らく紫結晶の上位、もしくは下位互換だね。丈夫になった分、新たに進化に必要な紫結晶としての使い方は出来ないけど、加工に関しては群を抜く金属だよ、見てごらん」
 そこにはBB弾のような銀色の粒が結合し、指先でなぞると小さなペーパーナイフが出来上がる動画が添えられている。
「この金属は思考を読み取り変化するんだ。そして形を固定化させると、そのままの形に留まる。だが再び変化させようとすると」
 そのペーパーナイフはダリアによく似たミニチュアの人形に姿を変える。 そして指で弾かれると、銀色のトレイに金属と金属がぶつかり合う鈍い音を立てるが、事細かに再現された髪や白衣に傷が行く様子は微塵もない。

「そこでダリア、君にお願いがあるんだ。ここまで聞いてしまったんだ、拒否権を失ってしまった事を知っておいて欲しい」

 色気を全身から醸し出した研究員の女性は、苛立ちを隠す様子も無く、ある施設にて国の重鎮との会議を開いている。
「ここまでの研究結果がでており、ヤコフ博士からの願いがありまして、国境付近に迫る豚型のモンスターを検体として回収して欲しいとのことです」
「それは危険すぎるだろ」
「容認できませんな、あまりにリスクが高すぎる」
「下手に手を出して中国の二の舞は御免だな」
 研究者と国側で意見が真っ二つに別れてしまうのだが、ここでダリアは小さく笑みを浮かべる。
「こちらをご覧ください」
 ダリアが提示したのは、銀色の金属の加工している様子である。 花、動物、車、人間と様々な形に変えて行く動画を見せる。
「これはモルモットに、件の結晶の溶解液を投与し、進化した新種モンスターを解剖した際に心臓部から摘出される金属です、この金属を加工すれば、迷宮から這い出たモンスターに攻撃を与える事が可能となります」
「なぜそんな事が言い切れる!!」
「試してもいない事だろう!!」
「日本や中国で相当数の人間が殺されているのだぞ!」
「南北朝鮮半島や中国のようになったらどうするんだ」
 だが、ダリアは新たな研究結果を映し出す。
「これはモンスターと化したモルモットの外皮です」
 機械で何度も何度も切りつけ、やっとの事で切断できた外皮を、その金属で創り出したナイフで切りつけると、まるでハサミで紙を切るようにスパッと切れてしまう。
「何故このようになるか、我々はこの結晶が一つの細胞の集合体のような物だと考えています。画面を見て下さい」
 そこには輻射状の蠢くゼンマイが映し出される。
「我々のラボでは便宜上、輻射状粒子細胞と呼んでいますが、これらの特徴は進化です」
 様々な能力上昇をしたモルモット達の動画が流れる。
「先ほどの機械での切断は、あくまでも外皮側の輻射状粒子細胞が、いま何をしているのか?切ろうとしているといった情報を読み取り切断させただけにすぎません。ですが、後者のペーパーナイフは輻射状粒子細胞そのもので切ると思考を読ませていた為に簡単に切る事が出来ました。わかりますか?輻射状粒子細胞同士の認識が必要なのです。ですので、あのモンスターにも対抗し得ると確信を持っているのです。そして迷宮モンスターから摂取できる紫結晶から換算して倍ほどのこの金属が採取できます。近い将来、この金属で弾丸を造れば、この国は世界の頂点に容易く立つ事が出来るでしょう」
 その報告を境にロシア国境では連日ヘリの航空が行われる事となる。
 ケブラー繊維を編み込んだ頑丈な網で、オークを捕らえると加工した桐状のミスリルを首に突き刺し、ゆっくりと血が抜け落ち絶命するのを見届ける。
 そのオークから魔石を抜き取ると、死体は残らず全て胡散する。
 ここ数日ですっかりと定着してしまい驚く物はいない。
 驚くべき速さで魔石が回収されていったのだ。

「これだけの輻射状粒子細胞があれば、さらなる研究が可能になるぞ」
「国も躍起ですね」
「……そうだね。WWⅡでは、米国がいち早く核を完成させ、かの極東の島国でその威力を見せつけ、地球で一番初めに核を保有した国として君臨し、現在の立ち位置になった。それと同じだよ。子供っぽい言い方になるかもしれないが、輻射上粒子細胞を制するは、世界を制すると同義と言っていいのかもしれないからね。躍起にもなるさ」
博士の冷たい微笑にダリアは何故か身震いをしてしまっていた。

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