だんます!!
第三十七話 緊急避難とわんわんお?☆
「うぇーい!とりあえず鬼達に殺されちゃった人達集めたぞ松岡君!!」
「いちいち叫ぶな。五月蝿いと言っているだろ」
アルガイオス、松岡君の両名は、助ける事が出来なかった人達に向けて手を合わせた。
「器用だな馬鹿鳥」
「羽って結構腕っぽいからな」
アルガイオスが器用に羽を合わせて拝む姿に流石の松岡君も突っ込んでしまったようである。
「まぁ、でも、この姿じゃ無礼かもしれんから、よっと」
アルガイオスはバク転をして半ズボンジャケットを着たアッシュブラウンのうねった髪と蒼い瞳が特徴的なショタ美少年に変身すると、ぱちぱちと手を合わせて拝む。
「拍手をするな」
「いいんだよ、人の感触どんなんだったか思い出してるだけなんだからよ!」
よっとバク転をして鳥の姿に戻ると、やはりそちらの姿の方がしっくり来るのか、アルガイオスはうんうんと頷いている。人の慣れとは怖いものである。
松岡君とアルガイオスは特にする事も無くなってしまったので、いつも通りに頭の叩き合いをしながらドツキ漫才をしていると、そこに黒服を纏った男が現れる。
「冒険者のお二方、この度は我が国をお救い頂きありがとうございます」
アルガイオスは面倒くさそうだと即座に感知し、そぉーっと抜け出そうとするが、松岡君に羽を毟られてしまう。
「ひでぇ!!何本抜けた?! いてぇんだぞ!!」
「う、る、さ、い」
「いや、ちゃんと聞こえてるからな?!ゆっくり言ってみたら静かになるのかな?みたいなのやめろー!!!」
何やら役人のようなスーツ姿の男は、2人?の掛け合いに付け入る隙が無いのでアタフタしていると、松岡君が優しさを見せつける。
「それで、なんですか?」
「はい、あのバケモノから救って頂いた御礼をさせて頂きたいのです」
「あっ、結構です」
松岡君がペコっと頭を下げて歩き出すと、アルガイオスもペコっと頭を下げてその後ろを歩き始める。
「あっ、おっさん今鳥が頭下げた?!みたいに思った?」
「お、思ってません!!思うわけがありません」
ジトーっとアルガイオスは物言いたげにおっさんを見つめるが、次第におっさんは冷や汗をかきながら目を逸らす。
「おい馬鹿鳥!お前喋ったりするの見てるんだからそんな事思うはずないだろ」
それもそうだなと歩き始めるが、役人チックなおっさんは、更に食い下がり2人に付いて歩く。
「お願いします…お願いします。御礼をさせていただきたいのです」
「いえ、ほんと結構ですんで」
丁重にお断りする松岡君に役人は必死で食い下がり続ける。
「五月蝿いな。礼とはなんだ?話だけでも聞いてやる」
しつこすぎるので具体的なお礼の内容を聞こうとすると、役人のおっさんはパァッと笑顔になる。
誰得なのかはわからん。
「この国に!!この国に出来る事ならなんでも致します!!」
「なんでも?」
「はい!お望みであらば、黄金も勿論、金銭が要らなければ、韓国屈指のアイドルや女優の接待も可能です!この国で考えうるいかなる内容でも国家の威信に賭けて実現させてみます!」
松岡君はハァと深いため息を吐く。
まず、金や女で動くと思われている事に呆れてため息を吐いてしまうのだ。
「だってよ馬鹿鳥」
「馬鹿鳥いうな!!まぁ、女なんて摩天楼に腐る程いるしな、別に金にも困ってない。よって結果は!!」
「お断り致します、だな」
ここまで言っても動かない2人におっさんは遂に泣き崩れてしまう。
「頼むから御礼をさせて下さいよぉ!!!」
今更泣き落としも無駄だ。松岡君は先程の内容に心底ガッカリしてしまっている。
そりゃそうだろ。
動いて喋る花火に比べたら、松岡君の心を動かすものがあるはずがないのだ。リサーチ不足も甚だしい。
性処理なんぞいくらでも賄えるが、恋は別なのだから。
彼が恋する花火に勝る御礼など、あるはずがない。
「確かに、俺的に最近いいなと思う絵を描く韓国の絵師もいる。だが、お前らはそのうち萌えの発祥は韓国ニダとか言うんだろ」
「絵師?萌え?ですか?」
「話にならんぞワトソン君」
「ワトソン!?いでっ!!」
どうしたらいいのか困り果てた役人のおっさんは難しい顔をしたまま固まってしまったので、とりあえず松岡君の選択はビンタ一本だったようである。
そこで呆れたアルガイオスはメニューを開くと、メイズにフレンドコールをかける。
『お疲れ様です。現在マスターは新手のダーツに勤しんでおりますので私が対応致します』
「もう隠す気全くないなおい。てかもしやサポーターの中の人?!?」
『正確には違いますが、サポーターを生み出しているのは私です』
「うぉー!!まじかぁ!!サポーターさんまじ愛してるぜマジで!!」
『ありがとうございます。ご用件をお伺いしても宜しいでしょうか?』
「あぁ、すいません。いや、とりあえずメイズに言われてた鬼からミスリルは回収したんだけどさ、今なんか韓国の役人がすげー勧誘してくるんだわ、んでどうしよっかなって」
『お好きになさるのがよろしいかと。冒険者は自由です、銀の手としての任務は遂行するべきですが、その他に関しては此方が干渉するべきではありません。それにマスターが用事がある際は私が連れて行くのでご安心下さい』
そこでコールは一方的に切られてしまう。
「松岡君、なんかメイズ的に自由にしといてって感じ?いや、俺もなんて言っていいかわかんなくて混乱してんだけど」
「まぁ、大体何があったかは理解できる」
物分かりのいい奴らである。
そこで二人は折角だから観光をしようと言う話になり、済し崩し的にではあるが、しつこすぎる役人の同行を認める。
口出しせずに道案内するならと条件を出して。
「えぇ。車乗るなら人型ならなきゃダメじゃねぇか!」
「五月蝿いぞ、早く乗れ」
車に乗る時にアルガイオスがごねるが渋々乗る事にする。
そして松岡君がアルガイオスの小さな耳を乱暴に引き寄せる。
「とりあえず適当に撒くぞ。面倒くさそうだからな、案内だけさせて捨てるぞ」
「いだいいだいいだい、わかったから引っ張るなし!」
ひどい奴である。
小さな声で後で撒こうと言いながら互いに頷いたままに長らく車を走らせると市街地に到着する。
「ここがソウルですね」
「うっひょぉおお!!なんか新宿と渋谷がフュージョンしたみたいなとこだな」
「なんだフュージョンって」
車を止めてもらい車から降りると、子供の姿のままのアルガイオスを見て松岡君は首を傾げる。
「おい馬鹿鳥」
「鳥じゃねぇだろ!」
「鳥にならないのか?」
「あそこのJDが可愛い件」
「そうか?あっちのJKの方が可愛いだろ」
「おまわりさーん!!!あっ、松岡君!ホシバあるぜ!コーヒー買いにいこ!!」
コーヒーショップで並んでいると美形の二人に物珍しそうに若者たちが話しかけてくる。
「モデルさんかなんかですか?」
「俺もスケボーやるんすよ!!」
「うわ、かわいー!!」
「ただの一般人だよ。よしお前らなんでも買ってやる好きなの選べ」
「「「いいんですか!!あざっす!!」」」
買い食いがてらにコーヒーを奢ってあげただけで喜ばれる。
支払いは役人のおっさんであるのは勿論のこと。
コーヒーを飲みながらに、芸能人でもないのに若者達と写メを撮ったりしてぶらぶらと楽しんでいると、まるで示し合わせたかのように反日デモが行われている。
それを見て役人の顔は真っ青になる。
「い、いつもはあんな事していないのですが、たまに過激な団体があのような事をするのです…ば、場所を変えましょう」
慌てる役人にアルガイオスはまぁまぁと腰を叩く。
「確か韓国って親日罪みたいなのあるんだよな? しゃあないって感じなんだろ?」
「それは違いますよ!話せばややこしいんですけど、日帝時代に日本に降り富を得た者の財産を国家に帰属する事によって、民衆の独立意識を高める法でして。昔は活発でしたが、現在では都合のいい解釈で事態の鎮静に使われたりしているだけの毒みたいな法ですよ、ですからあれは一部の過激派の者達の暴動のようなものなのです、国は関係ないのです!!」
「へぇー、そなんだ。法律で日本嫌わなきゃ死刑ぐらいの勢いで勘違いしてたわ。逆に」
「そんな事は一切ありません。現在の使われ方のいい例としては、先日お亡くなりになったパクチョネですね。彼女は大統領としての支持率の低下が酷すぎるにも関わらずに新たな政策を実行しようとしていたりと、目立つ動きが多かったので、政府は彼女の縁戚から親日罪で財産没収が行いました。反日で支持率を稼ぐ大統領の身内が親日罪で財産没収なんぞ支持率下落待ったなしですからね。つまり、政争のカードの一枚ぐらいでしかないのです……日本側としては気分の悪い話であるかも知れませんが、この国は特殊な集団ぐらいしか集題には興味がありませんから、それが民意であるとは思わないで下さい」
スーツの男の必死さには松岡君も鼻で笑ってしまう。
「救えねぇな」
「まったくです」
役人はそのまま急ぎ早にデモから2人を避けよう避けようとするが、歩行者信号に引っ掛かり様子を見る事になってしまう。
そこでタイミング悪く、秋田犬を日本人に見立てて殺す様を見てしまった。
鉈のようなモノを首に叩き落として、その勢いのままに首を斬り落とす残酷な瞬間を見て、松岡君は悲痛に顔を歪めながら眉間に皺を寄せる。
日頃から動物に餌やりをする動物愛護精神旺盛な松岡君からすると、信じられない光景だったのだ。
その動物が小学生であるとは、彼の名誉の為に今は伏せるが。
「あの秋田犬は人でも噛んだのか?」
「いえ………いや、そう……かも、しれないです」
「嘘はあまり好まない」
インベントリからスケボーを取り出し、人の群れを潜り抜けながら風のルーンを連続して刻み一気に加速する。デモの人集りの前へと立ち、今も殺されそうになっている犬の所へ滑り込み横から掻っ攫う事に成功する。
既に他の4匹は殺されてしまっている事に顔を歪めるが、その手に抱いた一匹はなんとか助けることが出来た。
ワンコは仲間が殺された事にブルブルと体を震わせてクゥンクゥンと鳴き声をあげている。
「ダンマスがこの国のやつ目の敵にしてんのなんとなくわかるわ」
手に抱えるワンコを焦って駆けつけたアルガイオスの背中に乗せて、スケボーを一気に加速させると、魔法を使わずに頭上を越えるグレープフリップをメイクしておっさんの顔面にトラックを叩きつけると、そのまま衝撃で気絶してしまう。
「別に……日本が嫌いとか、どうでもいいよ。好きに言っておけ。俺たちはお前らに好かれたくて日本人してるわけじゃないから。でもさ」
松岡君が手を翳すと、風のルーンが超高速で組み上がっていく。
「わんこ関係なくね?」
発動と同時にブワッと爆発的な突風が四方からぶつかり合い、巨大な竜巻が巻き起こる。
その突如現れた竜巻にデモ隊が巻き込まれあっという間に体の自由を奪われ空中へと巻き上げられていく。
松岡君は涼しい顔でその竜巻に乗り、大技を連発していくと、中で体の自由を奪われた人間達は全て叩き落とされる。
高く舞い上がった状態から竜巻の外に弾きだされて落下したのだから、死にはしなくとも無事にはすまない。
デモを行っていた者達の多くは体を強打したり骨折をしたりと、一瞬で満身創痍と成り果てる。
「殺されないだけマシだと思えよ」
「うぇーい!!松岡君かっこいい!!ラブブレイバーじゃなかったら抱かれてもいい!!」
「ラブブレイブを馬鹿にするな鳥」
「はっはぁ!!でも、まぁ、それぐらいにしとけよ。どうせ言ったって殴ったってわかんねぇんだからよ!」
カコンっとテールを踏み込み、スケボーを手にキャッチすると小さく溜息を吐き出し歩き始める。
「んで?こいつどうすんの?」
アルガイオスの背中に掴まりブルブル震える日本犬を見て松岡君はうーんと悩む。
「冒険者にする」
「どうやって!?」
その2人に役人のおっさんが犬と同様にぷるぷると震えながら歩み寄ると、なんと声をかけていいのか悩み手をこまねいているだけに終わる。
アルガイオスと松岡君は互いに目を合わせて頷くと、松岡君は突如おっさんの肩を殴る。
「ふぐおぉぉぉれ!!!」
肩パンである。
「えぇー!?そこはしゃあないからもうちょっとガイドさせてやるってとこじゃねぇの?」
「え?まじか。DQNみたいな事してしまったな」
「DQNって!だははは!!」
「ふん。で、どうする?もうちょっと観光してくか?」
「そぉーだなっ!よっと!人気者モードでいこう!!」
アルガイオスが人型を取り2人で歩き始めると、観光は突如の終了を告げる。
目の前にマルコメボーズを小脇に抱えたメイズが現れたのだ。
「帰るぞ」
「お、おぉ。ってメイズ、あの鬼とかの討伐はいいのかよ?てかなんだそのハゲ」
「ん? おお、龍王か。もう人化できるレベルになってるとは時の流れは早いもんだな。このハゲの話は後だ。庭師のお出ましだからな、俺らにやる事は無い」
「ソープランド?」
「いいから来い!!」
メイズは急いで2人を回収すると、即座に転移する。
《しかしマスター、この国の民度では庭師の選定は効率が悪いかと。この案件は魔女にさせるべきでした》
「そうだな」
《エルフの創生が確認されました。守護者の配置をお急ぎください》
「次から次へと忙しいな」
秋葉原に転移すると、いつものように冒険者に対するデモが行われており、メイズが深く溜息を吐くとアルガイオスは歩き始める。
「んじゃまメイズ、また銀の手の仕事があったら呼んでくれ」
デカイ鳥がお尻をプリプリさせながら歩いて行くと、一気にデモ隊に追いかけられるアルガイオス。
「うわぁぁあ!!くんなくんなくんな!!!」
それがいい人避けになったので、松岡君はメイズに振り返る。
「メイズ……こいつを迷宮に連れて行けるようにしてくれないか?」
松岡君は手に抱えたワンコをメイズに見せると、メイズは数秒考えた後に結論を出す。
「ダンジョンマスターに聞いてくれ」
「いや、だから言ってるんだが」
「暗黙の了解無視!?」
今更である。
松岡君は韓国の反日デモでの一連の流れを話した。助けたワンコの仲間の4匹は既に殺されてしまった事、コイツだけはなんとか助けだせた事、メイズは嫌な話を聞いてしまったと肩を落とす。
「できんことはないが今回の報酬それにするぞ」
「あぁ、俺への報酬は約束通り花火でいい。このワンコはアルガイオスへの報酬として頼む」
「ちょ!!!てめぇ聞こえたぞ!!おい!!松岡ぁぁああ!!!」
だが、人の群れからこちらに来ようとするが、デモ隊にモフられてどうする事も出来ないアルガイオスはただただ叫ぶ。
「わかった。じゃあワンコを上位存在にしてやる。ちゃんと面倒見るんだぞ?」
「わかってる」
「わかってねぇぇええええ!!お前らわかってねぇぇよぉぉおおお!!!」
アルガイオスに触発されたのか、メイズが小脇に抱えるマルコメボーズも突如泣き叫ぶ。
「それよりハゲって言われ続けた私の気持ちはどうなるのですかぁぁああ!!!」
「「「誰だよハゲ!!!!」」」
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