だんます!!
第三十六話 庭師のハクメイたん爆誕?
「何処に行ったウェイツー!!ウェイツーゥゥゥゥウウ!! くそが!くそがくそがくそがクソガキャアアア!」
オークの死体が転がっていた壁の外では、一人の痩せぎすの男が怒号をあげていた。
「こノ壁NOムこウかぁ!!」
言葉にならない言葉を叫ぶと、壁に向かって男は爪を立て続ける。
「出てコぃ!!ウェイツー!!!」
その体は徐々に変化を始めていた。
壁に登る為にロープを求めた結果に、粘着質の糸を吐き出すようになる。
壁に登ろうと腕が増え、腕の形状がそれに合わせ変化し、巨大な爪のようになると、一気に駆け上がり始めたのだ。
更に姿は変化して行き、果ては禍々しい人の身の丈を超える蜘蛛のような姿へと進化する。
壁を物ともせずに駆け上がり頂上から飛び降りると、さも当然かのように目前に群れる人間を引き裂き喰らい始める。
パニックである。
突如巨大な異形の蜘蛛に目の前で人が殺され喰われている姿に、時が止まったかのような静けさを見せた後に混乱と発狂でおかしくなってしまう。
「誰かハクメイ呼んでこぎゃばぎゃ!!!」
「逃げろ!!逃げるんだがばぁ!!」
「くるなっ!!くるな!!くるなっちゃまはぁ!!!」
「やめっ、やめれぇ! 食べないレェ」
いとも容易く蜘蛛の爪は人間を斬り裂き、そして喰われた人間達は腹から止め処なく噴き出る粘膜状の卵へと姿を変えていく。
噴出された勢いに卵の中から子蜘蛛が飛び出し、親蜘蛛が殺した人間を喰らいその体を成体へと一気に成長させる。
そして同様に繁殖し、その数を爆発的に増やしていく。
その頃、オーガダンジョンから姿を現せたハクメイは、その様子を見て再び爆笑する。
「あははは!! 結局っすか!! 救う事すら許さないと!あははは!!」
視界を埋め尽くす程に溢れていた難民達が見るも無残に食い散らされているが、ハクメイは気にせずに駆ける。
その身を光に変え子蜘蛛の群れを駆けると、その道だけくり抜かれたかのように蜘蛛の亡骸が転がる。
当然と言えるだろう。
いくら禍々しい姿の大蜘蛛といえ生まれたてのレベル1の魔物である。
過剰なまでにオーガを狩り続けていたハクメイのレベルは実に43。
文字通り格が違うのだ。
瞬く間に数万を越える蜘蛛を殺し尽くすと、再び難民達はハクメイに祈りを捧げていた。
「都合のいい……祈りなんてっ……都合のいい祈りなんていらないっすよ!!」
ハクメイは3枚のサークルエッジを生み出すと、躊躇いなくその光の円盤を投げつけ難民を肉塊へと変えていく。
「う、うわぁぁぁああ!!!!!」
「やめ゛ろ゛ぉぉ!!!!」
「おまえはぁ!!おまえは俺たちを助けるだめ゛にいるんだぼぉぉ!!!」
叫びなどは聞こえるはずも無く、阿鼻叫喚の地獄絵図を築いていく。
大蜘蛛から助けられ安心した束の間、無条件に自分達を助けていた者から惨殺される。
それは救いを失ったと知らしめるには十分すぎる出来事であった。
オークにサークルエッジを使用していた時は、その防御力に弾かれ早い段階で消失していたが、今回に至っては、まるで豆腐を切るかのように果てなく飛んでいく。
「しろおにいちゃん、もうやめて!」
「さすがにやりすぎじゃぞハクメイ」
そこにメイファーとラオも駆け付けるが、ハクメイは気にした様子も無く、魔力回復薬を飲み干すと再びサークルエッジを投げつける。
「これが庭師の仕事なんすよ」
2人の制止も虚しく、数時間に及びハクメイは白尽くめの全身をドス黒い血の赤に染め上げ難民を殺し尽くすと、双剣を翳す。
その様子を見届けてしまったラオとメイファーはブルブルとその小さな体を震わせていた。
マトモじゃない。
誰より優しい心を持っていた男が、決意を持って行動を起こしているのだ。
目の前で救いを求める果てが見えない程の群衆は、今から確実に殺し尽くされるのだと理解すると、震えが止まらなくなるのも無理はない。
「我この至上なる箱庭にて」
ハクメイが呟くと、血と肉が溢れる骸の海から緑色の輝きが舞い始める。
「き、れい……」
世界を埋め尽くすかに思わせる緑色の光に染まる地平線にメイファーも思わず震えを忘れて声を出してしまう。
「滅びと苦痛を対価として」
続いて詠唱が放たれると、緑色の光は円環に包まれ、更に地平線を緑と黄金の光で染め上げる。
「己の魂の在り方に選択を与え賜う」
そこからはまさに幻想の世界としか言えぬ光景であった。
様々な光にその色を変え、世界そのものを虹色の光の海に塗り替えてしまったかのようである。
次第に死した者たちは光と共にその姿を変えていく。
野生動物の姿や、植物、花や樹木へとその姿を変えて行くのだ。
「あ、ああ、なんじゃこれは」
「きれい」
ハクメイは全てを終え、優しい笑顔を浮かべながらメイファーとラオに歩み寄る。
「庭師は災害でもあるっすよ」
その歩に合わせ、世界は色とりどりの大自然へと姿を変えて行く。
死した全ての人間が、自然の恵みとなりて再び顕現したのだ。
「魂の選択は、その人間が奪った命を巡り体験するっす」
手の上に浮かんだ赤い光から蝶が舞うと、更に歩みを進める。
「奪った命の死を受け入れ、巡り巡り、耐える事が出来なくなれば、その生き物に姿を変え、考えを放棄すれば植物へと姿を変えるっす、救いを求める心が救いを齎す果実を実らせる樹木へと姿を変えるっす。でも魔女の仕事である新人類の創造でも、創造しえない、干渉できない種族があるっす」
そこに集められたのは最初に放たれた緑を色褪せる事なく保ち続けた光である。
その光が命の巡りを終え、その姿を変えていくと、金髪碧眼の長い耳を持つ美しい少年少女達が現れる。
「全ての死を受け入れ、そして全ての命を慈しむ者、魂の剪定と選定を終えた者は、命の森の守り手であり新人類である樹人族に生まれるっす」
「きれい」
「これが本当の美しき存在というのじゃな……」
その美しい少年少女達がラオとメイファーの肩をそっと押すと、そこを境界に虹色の光を放つ美しい森が視界を埋め尽くす。
「箱庭に相応しい命の剪定、そして穢れを恵みへと変える、それが庭師の仕事なんすよ」
そこに見計らっていたかのように、ハン達が乗る二機の輸送ヘリが降下してくる。
その異様な光景に着陸を戸惑っているようにも見える。
「さぁ、ラオ、メイファー。行くっすよ」
ハクメイは2人に手を伸ばす。
「どこにいくの?」
メイファーはビクッとしながらその手を取ろうとするが、ラオはメイファーの手を掴み引っ込ませる。
「ハン達の国は多分美しくないっす」
ラオはメイファーを背後に隠しハクメイを見上げ睨みつける。
「またあのような虐殺をする気かの?」
「言ったっすよね?庭師は災害みたいなもんなんすよ」
困ったなと眉を垂らすと、メイファーはその美しい森に指をさす。
「でも、ここを出ちゃうとオーガがエルフ達を襲っちゃう」
「心配ないっすよ。招かれざる客は命の森には入れないっすから」
恐る恐るとメイファーはハクメイの手を握ってしまう。
「メイファー!!!」
「わかってる。でもしろおにいちゃん、ひとりでいたら壊れちゃう。だからメイファー、一緒にいる」
「はぁ、面倒くさいのう」
仕方無しにラオもハクメイの手を取ると、3人の体は光の粒子へと変わりゆく。
そしてヘリにそのまま乗り込んだのだ。
「あ、ヘリコプター操縦の仕方わからないっすね」
「ワシはわかるぞい」
「へ?ラオちゃん何者っすか?」
そう話しながらコクピットへ抜ける重厚な扉を強引にこじ開けると、ハンが目を日開く。
「は、はくめいさん!?!」
「こんにちわ、ハンさん、ジャンさん。申し訳ないっすけど、最後の空の旅を楽しんでもらうっす」
2人を操縦席から引き離す。
「や、やめろ!離せ!!」
「やめてくれ!!やめろぉお!!」
「空の旅をお楽しみくださいっす」
そのまま外へ投げ捨てる。
「うわぁぁぁああ!!!!!」
操縦者を失いらヘリが斜めに墜落をし始めるがラオが慌てて機体を立て直すと上昇を開始する。
「難しい方のヤツじゃのこれ」
「ラオちゃん凄いっすね!!!」
「ふん、慣れておらん。揺れるかもしれんぞ! しっかり掴まっておけ!」
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