だんます!!
第三十五話 真実と怒りと剪定への覚悟?
中国、天貫く奈落のオーガダンジョンでは、ハクメイ、ラオ、メイファーの3名の冒険者がオーガを狩っていた。
「はぁはぁはぁ…ふぅ、だいぶ狩ったのう」
「まだまだっすよラオちゃん!」
「確かに、ワシらのレベルじゃツライからのっ」
ハクメイが四肢を斬り落として、ラオとメイファーの2名が息の根を止める。
当初訪れた頃は、ラオがレベル3、メイファーがレベル6、ウェイツーに至ってはレベルが1しか無かったのだ。
何故、この3人で迷宮に潜る事になったのか、全てはメイファー達とハクメイが出会った日に遡る。
ハクメイは突如現れた冒険者の面々に募る思いを吐き出すように、これまでの苦難を聞かせると、突如ラオが腹を抱えて笑いだしたのである。
『あっはっはっは!!お主は人が良過ぎるのう!』
『え?なんでっすか?』
『ウェイツーの話を聞くに、魔石の覚醒剤利用は間違いないじゃろう。仮に不治の病に効果があるとして、この握り拳大の大きさの魔石を毎日5つも渡して対価が難民の受け入れ…誰が聞いてもわかる。騙されておるよ、お主は』
『でも……だとしてもハンさんは難民の受け入れをしてくれてるっす』
『あの国がどんな国かわかってないようだの。民間軍事会社なんぞは全て国の管轄じゃ。ワシもCAMs関連のネタを触った事があるからの。そしてあの国に難民を受け入れる余裕なんぞない、どうせそこらの島に捨てるか薬物の検体にしとるのが関の山じゃろうの』
『そんな……嘘っすよね……? 信じないっすよ。それが本当だとしたら…』
『ただ助けたい心に嘘はないじゃろ。その心構えは嫌いではないぞい、それが結果を伴ってなかったとしてものう』
ハクメイは放心してしまう。
ただ一人でこの場に残る決意をした。
罵詈雑言を浴びせられてもなお助け続けてきた、そしてやっと訪れた一縷の望み、それが全て騙されていたと聞かされて信じる事が出来なかった。
考えなかったわけではない。
もし本当にガンやAIDSなどの特効薬になるのであれば、それは想像も出来ないぐらいの巨万の富を生むのじゃないかと。
考えはしたが、地獄のような終わりの無い毎日に少しでも終わりが訪れる可能性を希望として胸に抱き戦い続けてきたのだ。
だが……考えを放棄していた部分をラオに突きつけられてハクメイは言葉を失う。
『しろにいちゃん、嫌な事されたの?』
よくわかってないメイファーはハクメイの頭を優しく撫でるとハクメイは抑えきれなくなり涙をボロボロと流し始める。
『そんな…嘘っ…すよね』
暗くなりきった空気を変えたのはマルコメ頭の冒険者ウェイツーであった。
強く拳を握りしめて、その空気を変える。
『ラオさん、でも本当にどうなってるかなんてわからないじゃないですか!聞く話によれば、救援のヘリコプターは毎日来るのですよね?それならこの中で一番見た目が冒険者っぽくない私がそのヘリに乗って調べてきますよ!!』
ラオは腕を組みながらツインテールを揺らす。
美少女ではあるが、元糞尿垂れ流しの浮浪者である。
今は関係ないが。
『そう言ってまた親方の所へ戻る気ではないだろうの?』
『ありえませんよ!!壁を越えた時に決めました!私は冒険者として自由に……メイファーさんに自由に楽しんでいる所を見せたいんです!』
その言葉にラオは悪そうに口角を釣り上げる。
『青春じゃのう。ふむ、それはいいが、それをするには人目につかんようにこのダンジョンの中で身を隠せるようにならねばいかんのう。時にメイファー、レベルは?』
『ろく』
何故か誇らしげである。
『ウェイツーは?』
『イチ…です』
ウェイツーは申し訳なさげだ。
『わしが3、どうじゃハクメイ。このダンジョンで身を隠せそうか?』
そして偉そうである。
だが、ハクメイは現実を突きつける。
『絶対無理っすね、でもあまり良くないっすけど、養殖すれば少しはマシになるかもしれないっすね』
そしてその日、4人は寝る間も惜しみ潜り続けた。
ハクメイが手足を斬り落とし、その心臓に刃を突き立てて行く作業を繰り返したのだ。
翌日の朝からウェイツーは難民に紛れ込み魔石の受け渡しと紛れ込んでヘリに乗り込むことに成功する。
そしてウェイツーからの報告を待ち、再びダンジョンへ潜っている所で冒頭に戻る。
「しかしウェイツーから連絡がこんな。既に3日目じゃぞい」
「でも、ラオもメイファーも戦えるようになった」
「そうじゃな、ハクメイのおかげじゃな」
致命傷を与えるまでには行かないが、ラオとメイファーは距離をとりながら投擲用ナイフを投げつけ、隙を作り出した所でハクメイが手足を斬り落とすを繰り返し、効率よくオーガを狩る事に成功していた。
そこでタイミング良くウェイツーからのフレンドコールが鳴る。
「わしじゃ」
『連絡遅れましてすいません。色々独自に調べたんですが、魔石を渡すのと難民の引き渡しを至急やめてください!』
「何があったんじゃ?」
『はい、私は解毒薬を飲んですぐに回復したのですが、施設に到着すると同時に注射を打たれたのですが、どうやらそれが魔石入り覚醒剤のようなのです。それで、魔石入りの薬を入れられた難民の皆さんは異形の魔物のようになってしまっているのです』
「まもの……じゃと?」
『はい、ハクメイさんにはなんと言っていいのかわからずラオさんに連絡させてもらいました。それと、魔石を投与した際の研究資料を盗んで読んだんですけど、どうやら魔石を投与し続けると、人間は作業の最適化をする為に進化するみたいなんです。その進化条件の調査や、兵としての利用が目論見のようですが、そこで一つ心配がありまして』
「ふむ、もしや心配はウェイツーの親方か?」
『はい、もしかすると、何かあるかもしれないので気をつけて下さい。引き続きこちらで調べてみます、何か変わりがあれば連絡します』
通話を切った後にラオは難しいそうに眉間に皺を寄せてしまう。
この内容を正直に話してしまっていいものか悩んでいるのだろう。
「すごいっす!メイファーちゃん!!でも、もうちょっと踏み込んだ方がいいかもっす」
「うん、やってみる」
楽しんでる2人を見て更にムムムと唸ってしまうが、ラオは意を決してハクメイの肩を叩く。
「あ、ラオちゃん。どうしたんすか?難しい顔して」
「いや、ウェイツーから連絡があったんじゃが……そのなんじゃ、言いづらいんじゃがな」
「どうしたんすか?」
そこでラオはなんと言うべきか息を詰まらせてしまう。だが、全て話しておいた方がいいだろうと息を吸い込んでから口を開く。
「ウェイツーから報告があったんじゃ……魔石は医療としてじゃなく、新種の麻薬として開発されておる。難民は皆治験に使われ魔石と覚醒剤を打たれておるそうじゃ、そして、魔石を打った影響で難民達は魔物のようにその体を変化させた為に兵隊にする計画がされておるようなんじゃ」
「え?」
全てを言い切った後に、ハクメイは忍者刀をその手から落としてしまう。
「ウェイツーからはこれ以上難民と魔石を渡さないでくれと言われておる」
ラオの言葉にハクメイは静かに目を閉じ、次第に肩を震わせる。
「しろおにいちゃん、大丈夫?」
だがハクメイは吹っ切れたかのように突如爆笑し始める。
「ははは!!ははははは!!!!まじか!!まじっすか!!!ははははは!!!」
ハクメイは急に笑い始めたのだ。
ラオはなんと声を掛けていいかわからなくなり手を伸ばすが、すぐに引っ込める。
メイファーは笑ってるハクメイを見て首を傾げているだけだ。
「ははは!!なんで俺が!!なんで俺がこんな!!ふざけんな!!ふざけんな!!これも、なにもかもお前のせいだ!!お前が世界を変えたから!!メイズ!!!!!!!」
どうしようもない怒りにメイズの姿を思い浮かべて叫ぶが、ハクメイは膝をつき頭を抱える。
「うわぁぁぁぁぁああああ!!!」
割れそうな痛みがハクメイに襲いかかり、頭を押さえたままにジタバタともがき始める。
ラオとメイファーで必死にハクメイを抱きかかえるが、おさまる様子は無く、更に壊れたようにもがき始める。
「ち、ちがう……そうだ。俺は警察官だったんだ……それでメイズさんに憧れて……そうだ……俺は世界が変わるのを誰よりも喜んだ……記憶を対価に特別にしてもらった……メイズさんは……悪くない……悪いのは……」
「ハクメイ?大丈夫かの?」
「あはははは!!そうだ!!悪いのは俺なんだ!!あはは!そうっすよねメイズさん!!あなたが切り捨てた世界に同情を抱いて…あんな奴ら、あんな奴ら助けてやる必要なんて無かった」
ハクメイは目の焦点が合わないままに忍者刀を拾い上げ、フラフラと歩き始める。
「しろおにいちゃん?どこいくの?」
「あは、どうせ助けられないならせめて俺が殺してやるんすよ…それが我が神であるメイズの思し召しなのだから」
メイファーは急いで駆け寄りハクメイに後ろから抱きつく。
「しろおにいちゃん、そんなのしちゃダメだよ!」
「だまれよ」
「あっ」
メイズはその姿を粒子と変えてメイファーの拘束を解く。
ハクメイは何かを思い出すように目を閉じる。
『お前の記憶の対価に特別な力と、この刀を与える。だが、この力は庭師の能力をお前に与えているって事を話しておく』
『庭師っすか?なんすかそれ』
『まぁ、どうせ消す記憶だ、教えておこう。俺が管理する世界には必ず6つのギルドが必要となる。冒険者を殺した冒険者を殺す罪喰い、魔物と化けた人間を狩る銀の手、世界に必要な魂を選定する庭師、冒険者に対抗する組織の掃除をする葬儀屋、新人類の創造者である魔女、そして新人類の守護者である文字のまま守護者他にも補助的なギルドがあるが、これが六大ギルドだ』
『罪喰い立候補間違いないっすね!』
『いや、お前は条件と程遠いから罪喰いは無理だな、だが庭師の能力はいいぞ。潜在的に魂に干渉する力を持つのだが、それの力のお陰で魔法の創造がしやすくなる補正がかかる』
『まじっすか……やっぱ犯罪犯してきた方がいいっす? てかそれより庭師って世界に必要な人間の魂を選定するんっすよね?そんな大層な仕事俺には無理っすよ』
『いや、もし何かの拍子に人間が殺したくてたまらなくなったら記憶を取り戻す可能性がある。そんな事は無いだろうと信じて隠し味として、このチートを与えておいてやるんだ。だが、もしお前が記憶を取り戻した時、道に迷いそうだと思ったのなら、迷わず殺せ。庭師はそういう仕事だ…その者に魂のあり方の選択を与える事ができる』
『うーん、なんかよくわかんないっすけど、チート貰えるならあざっす!!』
『まぁ、庭師に完全になるには絶望と明確な殺意が必要だからな。お前がギルド員になる事はないだろ。ただ、記憶を平気で差し出せるお前にちょっとしたサービスってやつだ。庭師にならずとも、他の者よりは少しだけ魔法への理解力が増す程度だと思っていれば……ってこの記憶も消すから意味はないか』
何かを思い出し、吹っ切れたかのように目を開くと、先程のように焦点の合わない絶望を浮かべていたが、今は寒気の走るような冷たい氷を思わせる瞳を見せる。
「アニキ……いや、メイズさん、俺やるっすよ。庭師ってやつ」
「まって!!まってよ!!しろおにいちゃん!!」
メイファーの声はハクメイには届いていなかった。
そして頭に浮かびあがる言葉を読み取る。
〝我この至上なる箱庭にて〟
〝滅びと苦痛を対価として〟
〝己の魂の在り方に選択を与え賜う〟
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