だんます!!
第三十二話 一本釣りってやつ?
「あはは!!!あはははは!!!あははは!!あーはっはっはっは!!傑作だ。傑作過ぎる」
『マスター落ち着いて下さい』
すまん、取り乱してしまった。
とりあえず中国の連中は面白すぎる件。
まさか一早く魔石の摂取に気付くとは……。
何か変わった人間達だとは思っていたが、まさかそう言う種類の人間だったとはな。
なんておめでたいやつらなんだ。
まだまだ先になると思っていたが、これでリポップに依存しない起源の魔物が生まれる。
やせいの まものが あらわれ た。ってヤツだ。
本来それらを生み出すのはまだまだ段階を踏んでからになるだろうと考えていた。
他の人種が順に生まれてから魔物が生まれるのが、世界の成り立ちの本来の流れだとコアが言っていた。
にも関わらず、自ら進んで魔石を摂取するとは、呆れて物が言えん。
いや、むしろ冒険者の意識管理がうまく行っていなかったとでも言うべきか。
魔石の価値を黄金より高める事によって、冒険者からの魔石の流通を制御するのは基本中の基本だ。
価値があるからこそ、魔石を求め、強さを求め、刺激を求め、娯楽を求め、命を賭けて迷宮に潜り魔石を集めるようになってる。
デバイスで存在改変する時に脳みそ弄り回して奴隷にしているわけじゃないからこそ、この仕組みを作った。
それが全てでは無いが、魔石は冒険者や迷宮魔物のように、人間に干渉出来ないようにするのは難しいからだ。
存在改変の元素、ラディアル。
魔石はラディアルを結晶化させたものだ、ラディアルは本来、世界が弄ぶ唯一の玩具とも呼ばれる元素、言わば魂、世界を循環する神の残滓だ。
世界に新たな生命が誕生するのは、爆発的なエネルギーを必要とする。
そしてその命は、一つの大きなラディアル元素となる。
そのラディアル元素に自在に干渉出来るのが、ダンジョンマスターだ。
人を殺しDPに変換する、その人間の持つラディアルの量に取得ポイントは左右されるが、ダンジョンマスターが自在に存在改変を行えるDPに変換し、その命の循環を亜空間で延々と繰り返す。
それがダンジョンだ。
そして、存在が魔物として確定した生物を狩り、魔物の外殻は再び吸収され、存在を固定する為に生み出された核が魔石として残る。
冒険者が魔石を獲得し、システムがそれを買い取りDMを与える。
DMなどはラディアルのほんの一部だ、ラディアル元素のほんの一欠片でしかない。
そして買い取った魔石は再びラディアルとして分解し、一度魔物の形状を覚えたラディアルは、その何倍もの魔物を生み出す素となる。
永久循環だ。
そんなラディアルを生み出す恵み。
言わば人間は果樹だ。
そのラディアルの塊である人間が魔石を摂取すると、存在固定があやふやになり魔石の持つ存在固定に縋ろうとする。
人間は本来思考が不安定だ。
人間に限らず思考を持ち生きるモノは生涯の90%以上は意味の無い思考を巡らせ生きている。
意味があるのは信号だ。
腹減った、眠たい、痛い。
生命の維持に関しての信号である。
魔石を摂取する事により、人間の思考はより良く生きる為にはどうするかとなる。
信号だらけの思考になるわけだ。
辛く悲しく絶望している、負の感情があればラディアルが最高に幸せの状態に持って行き、負の感情を取り消し充実した状態に維持しようとする。
病に侵されているのなら、健康にしてしまい。
欠損部位があるなら再生させてしまう。
そして更に足りない部分を補おうとするわけだ。
例えば崖の下に落ちてしまったとする。生きる為には崖の上に戻らなければならない。
ならば上に戻れるように羽を生やそう。
羽が生えたが体がこのままでは気持ちよく飛べない。
ならば全身に羽毛を生やそう。
飛べるようになったが、いちいち地面に着地するのが面倒くさい。
ならば足を鳥脚にしてしまおう。
こうやって鳥類に分類する魔物に進化していく。
徐々に自我を失い魔物として完全に生まれ変わると、次は種の繁栄を本能的に行うようになる。
人間を喰らい、ラディアルを使い繁殖機能を持った子孫の卵を生み、種の確定を急ぐのだ。
だがこいつらは俺の管理する魔物では無いから人間にも普通に殺される。
そして素材の剥ぎ取りができる、できてしまう。
その心臓からは種の変化の際に造られた銀色の心核がとれる。
実はこの銀色の心核が厄介だ。
『悪い事ばかりではありません』
「そうだな」
悪い事ばかりじゃない、ならば悪い事もあると言う事だ。
実はこの銀色の心核はミスリルハートと呼ばれていて、ご察しの通りのレアメタルだ。
コアが言う悪くない部分、言わばメリットはミスリルハートがこの世に発現したと同時に、俺のメニューからもミスリルを生み出す事が可能になる。
だが、デメリットとしては人間がこちらに対抗できる武具の製造ができるようになってしまう事だ。
ぶっちゃけ俺からすると、フェリアース、グランアース、レィゼリンの何れかに行けばミスリルなどいくらでも手に入るので、一々地球で精製できる事に何の価値も見出せない。
だからデメリットしかないのだ。
庭師も葬儀屋のギルドも設立していない世界で、人間側に抵抗力を持たれるのは面白くない。
しかし馬鹿ハクメイの所為で、もはやかなりの魔物が生まれつつある。
しくった。
いや、だっておかしいだろ。
普通宝石見て綺麗だな、売ったら金になるかな?とかアクセサリーにしたいな。とかならわかる。
百歩譲って飴かと思って食べたならまだ理解しよう。
けど水に溶かして血中に流し込むなんて誰が思う?
キチガイどころの騒ぎじゃないだろう。
まぁ、もしミスリルの存在に気付き、武具を製造して冒険者に危害を加えようとしても、人間は所詮人間でしかないのでレベル1の冒険者にも歯が立たないだろう。
だが、不意打ちで怪我をさせるぐらいは出来るはずだ。
冒険者が人間ごときに危害を加えられる?
あってはならんだろう、そんな事。
冒険者が世界中に存在するようになった時こそ、俺が人間を唆して、医療品として使えるなどの情報を流布して魔物大国にしてやるのが楽しいんだ。
それなのにこんな早い段階でほんともう。
「コア、中国に飛ばしてくれ。ハクメイの優しさを利用してるバファリンの優しさじゃない方の奴らに八つ当たりしてくる」
『申し訳ございませんが、既にミスリルハートの発現が確認されました。至急銀の手の選出をお願いいたします』
「えぇ!?!マジで!?」
『ウケるー。マジです。』
「なにその抑揚のないウケるーって」
『渋谷の女子高生が呪文のように唱えていたので』
コアちゃん!そんなとこにコアちゃんが行ってはいけません。
しかしまさかの銀の手か。
そのうち魔女とかも先行して生み出すとかなったら勘弁だな。
それは条件がキツすぎるからありえんか。
しかし銀の手かぁ。
本来はフェリアースで、鉱夫と呼ばれる人間の集団が弱い魔物を狩り、集めたミスリルを加工していたのだが、効率が悪いだろうとミスリルを集める冒険者を用意したのが銀の手の始まりだ。
それがいつしか銀の手はミスリルの流通を管理する役職となってしまった。
まぁ、あてがない訳でもないな。
特にあいつなら喜びそうな気がする。
てか喜ばせる絶対の自信がある。
「コア、」
『了解しました。冒険者松岡君の所へ転移します』
「なんも言ってないよね?!」
そして視界が切り替わる。
大袈裟な門構えに整備された地面。
公園と呼ぶには相応しくない行き交う人々の多さ、そこは秋葉原の唯一と言っても過言では無い公園だ。
此処には奴がいる。
誰がいる?
奴しか居ない。
色眼鏡にニット帽、その帽子からは肩にかかるほとの長い髪、赤に近い茶色の癖っ毛が跳ね返り、帽子を弾き飛ばそうとしているがキッチリと押さえ込まれており、どれだけ激しく動こうとも落とす気配すらない。
余裕の表情で棒付きの飴を舐め、ネルシャツを腰に巻き、胸元の開いた薄地のTシャツから百合の紋章のようなネックを揺らし、足元のスケートボードをキックフリップでくるくる回すと危なげなく着地する。
それだけ見るならば、こいつは大層人気が出たことだろう。
女性がこんな絵になるイケメンを放置する筈もない。
しかしギャラリーは白くてデカイ鳥と、外からカメラを撮る謎の男の群れだけだ。
「うぇーい!! 松岡君いつもより回ってんじゃねぇかよっ!!」
「そうだね。だが、五月蝿い。焼き鳥にしたくなるから黙っててくれないか?」
「うぇーい!! 晩飯焼き鳥かよ!!おごれよ!!!」
「共食い……?ではないのか?」
外からカメラを撮られている事には何の興味も示さず、でかい白い鳥と喋るイケメン。
何故こいつが女の子に人気が無いのか。
冒険者でいれば誰であれ人集りが出来るここ秋葉原で、この公園の広場の外には怪しげな格好をした大勢の気味が悪い男達と目の前のデカイ鳥だけの異質なギャラリー。
どうしてこんな事態になっているのか……それは、この広場の外周に並べられた様々な剣を持つ萌え萌えなフィギュアが立ち並んでいる他に理由はないだろう。
ラブブレイブ…と言ったかな?
剣の家系に女として生まれてしまった9人の姫達が、剣豪犇めく天下一を決める武道大会で優勝を目指す謎の話だったはずだ。
その等身大のフィギュアを広場の外周に所狭しとシュチュエーションを変えて設置し、スケボーのうまい松岡君を陰ながら覗いている(設定)らしい。
何故先に説明するかって?
もし本人に、あれはなんだ?と聞いてみろ。
一話から全てボソボソと喋りながら最終話まで台詞を言いやがるぞ。
話にならんくなるのだ。
リアルに数日持っていかれる事態に陥ること請け負いだ。
「よう、精が出るな」
「んぐっ、おっ。メイズか?どうしたんだ。こんな所に」
さぁ、ここからが俺の本領発揮だ。
「おぉぉっ!!なんとその木陰からこっちを覗くきくりん!!今までは居なかったはずだ!!」
「ふっ。さすがメイズだ。俺が恐れを成しただけある。そろそろ奴らが帰ってくる、話なら鳩に餌でもやりながら聞こう」
そう言うと馬鹿でかい鳥は呆れながらステータスを表示し、インベントリからダンボール箱を4つ取り出す。
「アルガイオス、お前なにしてんだ?」
「荷物持ちだよ荷物持ち!最近寿司屋の30層松岡君に手伝って貰ってっからな。それでお返しは荷物持ちでいいってんで、潜った後はこうして付いてやってんだよ」
白くてデカイ、某有名RPGのマスコットとも言えるあの鳥に似ているが、こいつは冒険者ランク暫定2位の龍王アルガイオスだ。
「それよりメイズ、鳩が寄って来たから忙しくなるぜ。喉詰まらせたりしねぇようにちゃんと見ておいてくれよ、コーラとパンタも置いとくからよっと」
アルガイオスがそう言うと、公園をぐるりと囲むようにランドセルを背負ったちみっこい集団が現れる。
「おい!!松岡!!お前またいんのかよ!!」
「早くお菓子ちょーだーい!!」
「おいアルガイオス!俺コーラでいいぞ!」
「お兄ちゃんだれー?」
「腹減った腹減った!!!」
ワラワラと小学生達が集まって来る異常事態に少々目が回ってしまいそうだが、松岡君はフッと小さく笑うとダンボールの封を解いた。
目の前で繰り広げられるのは、神業とも言える速さでお菓子の封を破り、ウエハースをポイポイと投げて行く謎の作業だ。
群れた小学生達が新築の餅撒きのようにウエハースを取り合い、粉々にして食べやすくすると、一気に口の中に放り込み二枚目の獲得に走る。
中に入っているカードのみを抜き取り、ゴミはアルガイオスがシュタタタタと嘴で咥えて集めて行く。
あっと言う間に一箱空になると、松岡君は二箱目を開け、アルガイオスは口に含んだゴミを空の段ボールに詰め込み、再びインベントリに仕舞い込むを繰り返す。
「おいアルガイオス。鳩って小学生か?」
「だな、鳩もいるがな」
まさに神速とはこの事かと、お菓子を子供に蒔いている松岡君は何やらキラキラのカードを後から羽織ったネルシャツの胸ポケットにしまい込みクスリと笑う。
「おい!黒いにーちゃん!喉詰まる!お茶くれ」
「俺パンタグレープでいいよ!!」
「あたしオレンジがいいー」
「けっ!アルガイオス!!今回ちゃんと冷えてんじゃねぇか!!」
「おうよっ!!」
おうよっじゃねぇだろ。
こいつらこんな時間からチョコレート食いまくったら晩飯食えなくなるんじゃってならねぇか。
この人数だもんな。
「ふん、見ろメイズ」
そこで松岡君が俺にカードを見せて来る。
そのカードのキャラは赤髪のショートカットの日本刀使いなんだが……やばい。
赤髪は二人いて、剣使いと日本刀使いが……くっ、ここで名前を間違えば松岡君は口を聞いてくれなくなるだろう。
イラストを見せる為に名前が手で隠れてしまっている……似非だとバレると計画がががが。
《花火です、それと今季トレーディング限定100枚の花火の浴衣キラです。プレミアです》
「うぉぉぉお!!花火の浴衣キラキターーー!!!!スゲェな!!今季トレーディング限定100枚の花火浴衣キラじゃねぇか!!すげぇよ!松岡君すげぇよ!!」
「ぐすっ、えぐっ、メイズ。やはりお前は戦友だ」
なんか松岡君泣き出したんすけど。
てかコアまじいつもありがとう。
《容易い御用です。私もラブブレイブは嫌いではないので》
「さぁ、メイズ。わざわざここまできたんだ。何か用事があったのだろう?セーラー剣士のジュピターたんは譲れないが、他ならなんでも言うがいい。この松岡、力の限り協力してやろう」
「まじか!!マジで助かるわ!松岡君!!じゃあ海外旅行いこうぜ!!」
「ふん、容易い御用だ」
いやぁ、マジでちょろいわこいつ。
「アルガイオスも来るか?」
「おうよっ!!メイズが絡むなら暇は無さそうだからな!!」
よっしゃー!!思わぬ大物釣れたぁ!!
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