だんます!!
第二十八話 赤髪のセクシャルハラスメント?
「コア、一応メイファー達の監視強化しておいてくれ。多分あいつらが餌になっておびき寄せられた他国が干渉してくるはずだ」
『了解しました』
暫くは大丈夫だと思いたいが、情報社会であるからな。警戒はしておいて損はないだろう。
インターネットなんかが無い他の世界であれば情報操作ができたりもするのだろうが、いかんせん目まぐるしい早さで伝わるからな。
韓国の一件が翌日世界中で知られてたのがいい例だ。
ピピッピピーピピピピポピパ。
おっ、誰だこんな昼過ぎに。
黒い鉄ー♩あっ、太郎ちゃんだ。
てか俺の携帯太郎ちゃんの着信しか鳴ってなくない!?
「あいよ」
『俺だ……大変な事になったぞ』
「え?どしたの?」
『爆炎竜のソロ討伐に成功した…』
「なん……だと!?」
無理だ、できる筈がない。不可能だ。
俺が太郎ちゃんのキャラで何度も挑戦したが、悉く焼き尽くされたあの爆炎竜に!? どんなチート使いやがったクソジジイ!!
『落ち着いて聞いてくれ。本当なんだ。鍵は地形を生かしたアタック、ハイドの連発だ。5時間掛かった』
「仕事しろよ。ゲームばっかしてねぇで」
『あぁ、まぁそうなんだがな。てかやっぱり無茶苦茶だな。あの壁、強行手段もいいところだ』
「ん、まぁ、あれぐらいしときゃ間違いはないだろ。漏れた分は知らんけどな。成り行き次第だ」
『間違いはないのだろうな。そこで一つ問題なんだが、どうやら韓国の次の代表は暫定的ではあるが当面国連事務総長のパン・プキンに決まりそうだ』
「ハロウィンで活躍しそうな名前だな」
『はは!そうだな、だが十分気をつけてくれ、国連が何やら画策してくるかもしれん。ダンマスの力技でどうとでもなるかも知れんが不確定要素の一つとして頭に入れておいて欲しい』
「うん、わざわざありがと。どうする?太郎ちゃんもそろそろ冒険者なる?」
『それはもう少し後で頼む。また何か変わりがあったら連絡する』 
国際連合総会ねぇ。
別にどってことないか、中国に時間とられたのがあれだが一先ず上々の結果と言っていいだろう。
てか明日既に30層ダンジョンオープンの日じゃねぇか。
「コア、先行で罪喰いの奴らに潜らせてやれ。いつも通りレセプションだからダミーコア制御はとるなって言っておいてくれ」
『了解しました。ですが、現在の罪喰いの実力ではレベル到達はしていますが、25層〜30層の初日攻略は難しいかと』
「そうか?21から25層がオークで、26から29は色付きオーク、30層はゴブリンキングとジェネラルだったよな?オークとゴブジェネは殺し合いするし、うまく利用したらいけるだろ。…いや、コアの言う通りだな。あいつらヘイトの稼ぎ方とかまだあんまりわかってないぐらいか」
『それとなくアドバイスをしておきます。それでは予定通り設置致します。駅前寿司屋ダンジョン30層試験開放いたします』
あいよーんと。
これでやっと30層か。
冒険者の数も300人に満たないぐらいだが、かなり順調な滑り出しとも言えるだろう。
冒険者の存在も都内では秋葉原の風物詩みたいになってきてるしな、国内では認められてきたって事だと素直に喜ぼう。
さて、そんな事よりだ。
実を言うと俺は一つの大きな問題に直面している。
様々な問題を解決する以前に、この問題を解決しない事にはどうにもならない。
「コア、メイズでいい。グレイルのとこに飛ばしてくれ」
『申し訳ございません、ジャミングされています。グレイルの位置情報を読み取る事が出来ません』
「わかった。アキバに飛ばしてくれ」
『了解しました』
その問題は言わずもがなグレイルである。
あいつは韓国の一件の報酬で、日本で遊びたいと言ったので遊ばせていたのはいいのだが、いざグランアースに連れて帰ろうとしたら雲隠れしやがった。
どうしようも無いからどうせならとフレンドコールのメッセージ機能で頼みごとをしたんだが、返事も無く逃げ回っている。
確かにグランアースは、他のフェリアース、レィゼリンに比べても罪喰いの比率が高い、まぁ罪喰いのシステムを組み込んだ一番初めの世界であるから当然かも知れないが、そこの最高幹部の一人であるグレイルがグランアースに帰ったとしてもあいつが腕を振るうような仕事があるはずもない。
シリウスは若手に同行してアドバイスを出したりするらしいが、グレイルは基本後輩イジメて遊んでるだけだ。
本人は可愛い後輩を強くしようとしているだけらしいが、後輩達からすると偉い迷惑である。
そんなグレイルが、この世の全てをぶっ込んでこねくり回したような、なんでもある東京で自由にはっちゃけまわると色々と弊害が出てくる。
転移した先のファミマ。
恐らくコアも思うところがあってここに転移させたのだろう。
いつもはゲーセンのベガ前なのだが、今日はファミマだ。
この場所の一番のイメージとしては、ダンジョンに潜ってる以外はここを溜まり場にしている夜爪が真っ先に浮かぶ。今日もいつも通りに奴らがいるのだが、何故か夜爪と黒猫の白黒コンビで体育座りで突っ伏している。
それを心配そうに囲む人集りが出来ているのだが、とりあえず話を聞いてみようか。
「なんかあったのか?」
「きゃー!!!メイズさん!!」
「メイズ!!握手してくれ!!」
「うぉー!アキバ来て良かったぁ!!」
ギャラリーは一気に沸くが、とりあえずそれを制止して静かにしてもらう。
「ようジャリ猫共、何があった?」
「うぅ、ぐすっ、えぐっ、だんますー」
「ダンマス言うなしばくぞ」 
「ぐすっ、怒ったにゃ、ぐすっ」
黒猫に至っては顔すら上げない。
一体何があった。
「いいから何があった。さっさと教えろ」
「ぐすっ、あの、赤髪の大剣使いにゃ。夜爪とクロは朝に潜ってたにゃ、そしたらあいつがきたにゃ」
「グレイルか?」
「ぐすっ、えぐっ」
駄目だ話しにならん。
コア、今日の朝のコイツラの状況を読み取って流してくれ。
《了解しました。再現構築致しました、再生します》
━━
「んにゃー!!!!」
ゴブリンジェネラルの胸に短刀を突き立てて、魔石に変換する夜爪。
その桜色の刀身の短い曲刀は桜吹雪、本来であれば、Level30前後の冒険者が持てるようなクラスの武器ではないのだが、こいつはやはりキチガイなので、このクラスの武器所持は普通なのだろう。よく罪喰いのブチ猫がにゃんこ連盟のみんな夜爪の無駄遣いがあるから可哀想だと言っていたのが如実にわかる装備である。
姫プ駄目絶対。
「ギルマス!!!ジェネラル来てます!!」
「見えてるにゃっ!!」
魔石の回収をしていた夜爪の背後に、筋骨隆々の鎧を纏ったゴブリンが剣を振り下ろす。
あわやと思わせるシーンであったが夜爪はその場から姿を消す。
あのクソ猫の代名詞と言える瞬身である。
この瞬身のスキルが込められた靴、デザインこそ夜爪に丸ごとデフォルメされてモコモコになってしまっているが、神馬の革靴もかなりの価値があるアイテムである。
てかすげぇな、こいつのガチ装備。
外にいる時スリッポンにデニムのホットパンツとパーカーの元気幼女スタイルなのに、ガチガチの冒険者やないか。
「んーにゃにゃにゃにゃにゃにゃー!!!」
その両手に握られた短刀で目にも留まらぬ斬撃を繰り出すと、ゴブリンジェネラルは肉がズタズタになり足をよろめかせる。
「クロ!!!いまにゃ!!」
「はい!!!縛鎖!!!」
クロがその手に持つ鎖を使い、ゴブリンジェネラルの動きを封じると、夜爪猫は背後からその首を掻き切りトドメをさす。
漆黒聖天、通称クロの職はアサシンである。
その代名詞とも言えるのは黒縄と呼ぶ鎖を自在に操作する暗殺者からの特殊派生スキル操鎖術で、音の出ない黒い鎖を使い敵の動きを封じてから息の根を止める姿から畏怖され、その鎖をもう一本の尻尾と例えて〝ドSの猫又さん〟とも呼ばれている。
実状は夜爪に逆らう事が出来ず、虐められて喜んでいるドMの猫又さんだが。
「うぉー!!やっば!!猫の獣人やんけ!!!!可愛いなぁぁ、ほんまお前らって反則的にかわいいよなぁ!!」
そこでやっと件の大剣使いが現れた。
赤髪の大剣を背負った少年、グレイルだ。
夜爪とクロを見てニッコニコしてやがる。
「うぉー!耳も手入れしてふっこふこやんけぇ!!」
「触んにゃ!!」
「おっ!」
真っ白でふかふかの猫耳を蹂躙された夜爪は頬を真っ赤に染めて短刀をグレイルに振り抜くが、当然それが当たるワケもない。
「さ、触るなにゃ!!」
「おぉぉ!!わいに歯向かいよんかドラ猫!!ええやんけ、可愛いやんけぇ!!」
頬を膨らませて目に涙を浮かべながら八重歯を剥き出しにしてグレイルに威嚇をするが、当の本人は爆笑している。
悪い奴である。
「あ、あの、グレイルさん。今日はちょっとノルマがあるんで……その、これで失礼します!!」
クロが勇気を振り絞って夜爪を自分の背後に隠しぺこぺこと頭を下げる。
「お、ほんまか。なんやノルマって。なんか欲しいもんでもあるんか?」
「いえ、あの、えーと、明日ダンジョンが開放されるみたいなんで、少しでもレベルを上げようって。だからギルメンも待機でメインの二人だけで狩ってるんです!後少しなんで、すいません!失礼します!!」
クロはムクれてる夜爪の両脇を掴んで連れ去ると、夜爪はジタバタしながらグレイルに威嚇をしているが、なんとかその場を後にする。
「にゃーん!!!ムカつくにゃ!さっきの赤髪!!」
「ギルマス、それは忘れてしまいましょ!ここは20層、いくら慣れたとは言え油断は禁物です」
「わかってるにゃ!!戦闘で鬱憤を晴らすにゃ!」
そこにリポップしたゴブリンジェネラルが駆け込んでくる。
夜爪が短刀を構え、ゴブリンを待ち構えていると、突如目の前でジェネラルが爆散する。
「にゃ!?」
確かにゴブリンジェネラルは爆散した。しかしそこには誰もいない。
新手の自爆スキルでは無いかと考察しながら気を取り直すが、それから数時間ひたすらゴブリンジェネラルは戦う前に爆散し続けた。
そして昼前には他の前線のプレイヤー達が続々と集まってしまい、出待ち状態になってしまう。
すっかり意気消沈してしまった夜爪とクロの前に、まるで示し合わせたかのように再び赤髪の大剣使いが現れる。
確信犯である。極悪人である。
「おー!さっきの子猫共やんけ!どないや!ノルマ達成したんか?」
「いえ、駄目でした」
クロがブンブンと顔を真横に数度振ると、グレイルは顔を歪ませて悪そうに嗤う。
「黒猫くぅーん?!それもしかしたらわいに耳触らせへんかって呪いが掛かってしまったんかもしれへんでぇ?わいらみたいにレベルが1000とか超えてくると、たまに世界が勘違いしよんねん。神様やってな!ほいで拒否したから加護を否定した!みたいになっておかしなったりすんねん。これわいらの中でバグ言うてんねんけどなぁ」
そんなシステム何処にもないぞ。
無茶苦茶言ってんなこいつ。
デタラメにも関わらず、すっかり意気消沈の沈没艦状態の2人は判断力が低下して、泣きそうな顔でグレイルを見上げてしまっている。
「大丈夫や、心配せんでええぞ。あん時の再現や、それをして受け入れろ。ほいたらまた通常通りに戻る」
そう言って2人は泣きそうになりながらも耳を存分にモフらせてしまう。
そしてグレイルは我慢の限界だと言わんばかりに爆笑し始める。
「だっはっは!!嘘やぁー言うねん!!わいが全部石ころ投げて殺し回しとったんや!だっはっは!!可愛い!!可愛いぞにゃんこぉ!!だっはっは!!あーおもろ。屁こいて帰ろ」
そのままグレイルは笑いを隠そうともせずに肩を震わせながら消えていく。
それを見届けた夜爪とクロは手を繋ぎ号泣しながらダンジョンから戻り、ファミマの前で泣きじゃくる。
イマココである。
一言で言おう。
これは性的嫌がらせである。
セクシャルなハラスメントである。
よって判決はギルティである。
これでいてグレイルは悪気が無いのが更に悪い。
どうにかして止めなければ、夜爪やクロのような被害者を更に増やす事になる。
「長足もブッチーも今日は断ったのにゃ……」
「ぐすっ」
クロは未だに膝の間に頭を挟んでボロボロと泣いている。
「すまんが、何があったかは見せてもらった。グレイルの件は俺に任せてくれ。何としてでもあいつを捕らえて、元の世界に突き返してやる」
舐めんなよグレイル。
お前が一番嫌がるやり方で俺の本気見せてやる。
「見たっておかしいにゃ!!なんでダンジョンマスターって名乗らないにゃ!!」
「シッ」
締まりが悪くなるだろうが。
やっぱり夜爪はキチガイである。
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