銀黎のファルシリア

秋津呉羽

間章 ツバサとサクラ

「私も冒険者になるから」

 冒険者になるために故郷を出立するツバサに向かって、サクラが放った一言がそれだった。
 無謀だと、ツバサは思った。

 ノーザミスティリアの田舎で生まれ育ったツバサとサクラは、幼い頃から何をするにしても一緒だった。ツバサが率先して何かをすると、サクラがそれを一生懸命追ってくる……そんな構図だ。サクラは器用だったし、大体今まで何とかなってきたものの……冒険者になるというのは、また別次元の問題だ。

 父親の影響で冒険者になると幼い頃より決めていたツバサは、今まで厳しい修練を積み続けてきた。だからこそ、戦う力は十分にあったし、何より冒険者として生きていく覚悟は今まで生きていく間に決めていた。

 なにより、冒険者になるということそのものが危険すぎる。
 当時のユーティピリアは整備が行き届いておらず、冒険者と無頼漢が紙一重だった時代だ。おっとりとして、優しく、虫も殺せないサクラが冒険者になるには過酷すぎる。
 最悪、目も当てられないような状況に陥る可能性だってあった。
 だからこそ、ツバサは止めた。必死に。何よりも大切な彼女だったからこそ、安全な所で幸せに暮らしてほしいと思ったのだ。

「ツバサだって、私の反対を押し切って冒険者になったくせに。私だって、何度も何度も反対したもん。危ないから止めてって」

 だが、目に涙をいっぱいに溜め、プルプルと震える彼女の反論に、ツバサは珍しく何も言い返せなくなってしまった。そう、今の今まで、サクラはツバサに何度も冒険者になるのを止めてと言ってきた。それを黙殺してきたのはツバサだ。

「ツバサが止めてくれないなら……私がついていく」

 聞けば……すでに、ヒーラーとしての修業を積み始めているんだとか。
 ツバサとサクラの出身地であるノーザミスティリアは魔法の発祥地であり、最も研究が盛んな地域だ。ヒーラーとしての修業を積むならば最適ともいえる場所であった。
 ただ、それを聞いてツバサは頭痛がした。

 ソロでヒーラー……茨の道を素足で突っ切るようなものだった。
 ヘマをすれば一発でパーティーが壊滅する――それがヒーラーという職だ。
 ヒーラーにも色々種類があって支援も行える吟遊詩人(バード)や、光の魔法による攻撃もこなせる祭司(ドルイド)などもあるが……彼女が目指しているのは純粋な回復職である治癒者(ウァテス)だろう。

 パーティーには引っ張りだこになる一方で、地雷だと知られれば噂は一瞬にして広がり、誰とも組んでもらえなくなる……そして、困窮したウァテスは一人で無謀な戦いに挑むか、金を払ってパーティーを組んでもらうかという、地べたをはいずるような生活を強いられるようになる。
 サクラのそんな未来を想像したツバサは血の気が引く思いだった。
 一人でツバサが悶えていると、サクラは頬を染めながらポツリとつぶやいた。

「好きな人と一緒にいたいと思うのはダメなの……?」

 それでノックアウトだった。
 結局、ツバサは冒険者としての出立を遅らせ、サクラの修行に付き合うことになった。
 そして、遅れること三年……こうして、ツバサとサクラは一緒に冒険者への道を歩むことになったのであった……。

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