アルミと藤四郎の失敗無双
運命は失敗のイタズラ
神はいる。 例えば地上に天変地異を起こす。 例えば人には不可能な奇跡をもたらす。 例えば人が死んだときにその魂を異世界に送り飛ばす。 それら全て、紛うことなく人知を超えた技は神によるものだろう。
ここはこの世のどこでもない世界。 神が住む理想郷。 そこで一人の女性が地上を見下ろしていた。
「おや? また失敗したのかい?」
一見して十代半ばの少女。 しかし銀糸で編まれた荘厳な衣装から、只者ではない雰囲気を醸し出していた。 それもそのはず。彼女は人に非ず、女神と呼ばれる存在だった。
「失敗をしまいと気をつけていながらも、結局失敗ばかり繰り返す。あの男は本当に難儀な運命の持ち主だねえ」
失敗、失敗、失敗失敗……、また失敗。 女神が独り言を呟き眺める間にもまた失敗の連鎖。
「アッハッハ……失敗の勢ぞろいだ。一人でよくここまで失敗を揃えれるよ」
パキり。 快適すぎて駄目になりそうなソファーを背に、空間に投影される映像を見ながらせんべいをボリボリと頬張る。
人間界、それは神様にとって貴重な娯楽だった。 まさに人間でいう所のテレビ番組。 神様は酔狂な人生を歩む人間たちを鑑賞しながら笑い、喜び、時には慈しみ、涙を流す。そうして退屈な神様業を紛らわしていた。
そして映像に映っている東堂藤四郎の人生もまた娯楽の一つ。 だが、
「しっかし、これは女神として、一視聴者として見過ごせないね。ここまで見ているこっちがしんどくなるくらい失敗続き──」
そういうと表情が一変。 突然、烈火の如き怒りを露わにした。
「──だというのに。なぜこいつは平然としていられるんだい?」
まるで藤四郎にどうにかなって欲しいかのように言う女神。 今度はころっと白けたように、
「無味乾燥。せっかく面白い事になるかと思ってチャンネルも変えずに見続けてきたというのに、ひどい仕打ちだよ。これじゃあ退屈じゃあないか。退屈で退屈で、死んでしまいそうだよ」
ソファーから転がり落ちて、ごろごろと床を転がり始めた。 装束をだらしなく巻き込み皴になることを気にすることもなく。 やがて、あっと女神は閃いた。
「そういえば別の異世界に面白い人材が居たよねえ」
そういうと鬼も腰を抜かすような悪い顔に豹変した。
「そうだよ、何を考えていたんだ我は。番組が面白くないなら、そこに介入してしまえばいいんだよ。面白くない試合にブーイングする観客のように。売れない漫画に路線変更を提案する編集者のように」
言いつつ立ち上がってパンパンと理想郷には存在しない埃を払う。 折り畳んだ扇子を映像に突き付けた。
「人生が面白くないのなら、その運命を書き換えてしまえばいいんだ。 『運命の女神』らしくね」
早速女神は行動に移す。 裾を引きずりながら映像に近寄ると、細腕をずぷりと中に突っ込んだ。 手の感覚だけを頼りに悩ましげな表情で何やら運命を弄繰り回し出す。
「確かこの辺に住んでたと思うけど。部下の失敗を許さず退職勧告を突き付けるような厳しいサラリーマンが。彼とぶつければちょっとは面白くなるんじゃないかな。違和感はあるけどその辺は同棲してるとか適当に設定しちゃえばいいし。そことこっちをこうこうこうやって繋げて、適当にあの辺を──」
一人盛り上がりながらどこか楽しげにブツブツと呟きだした。 すると何かに気付いた様子で、
「うん? いやちょっと待て、何かおかしいぞ? なんだこの世界は? なんでこの世界がこうなって、あれがどうで……いや待て違う、そうじゃない! 何だお前は! こっちに来るな! よせ、止めてくれ!」
突如、映像が爆発した。 はじき出された女神は爆風で吹き飛ばされてクッションに受け止められる。 唖然。 信じられないといった表情で映像を見つめ返す女神。 そこにはゲートを渡って藤四郎の世界へと移動している少女の姿があった。
「一体何なんだあの爆発は……。信じられない、まさか運命の女神の行動をも失敗させるなんて。恐るべき女の子……一体何者なんだ……」
直で受けた爆風を気にも留めず、目の前の映像のほうが重要だと言わんばかりに女神は映像に食い入るように見つめた。
「我もこの部屋も不変だから良かったものを── 何々……本名、アルミ・チェスト。職業、超レベル錬金術師……? ………………なんだそれは? 私はそんなもの知らんぞ……」
溜息一つ。 理解不能と諦めた女神はぼふっとクッションに倒れ込んだ。
「まあいい。運命は変わった。これで少しはこのチャンネルも楽しめるだろう。 期待しているよ、東堂藤四郎。それから、アルミちゃん……♪」
女神は扇子を広げて口元を隠すと予想不可能な展開に口角を吊り上げて、期待に怪しげな笑い声を漏らすのだった。
ここはこの世のどこでもない世界。 神が住む理想郷。 そこで一人の女性が地上を見下ろしていた。
「おや? また失敗したのかい?」
一見して十代半ばの少女。 しかし銀糸で編まれた荘厳な衣装から、只者ではない雰囲気を醸し出していた。 それもそのはず。彼女は人に非ず、女神と呼ばれる存在だった。
「失敗をしまいと気をつけていながらも、結局失敗ばかり繰り返す。あの男は本当に難儀な運命の持ち主だねえ」
失敗、失敗、失敗失敗……、また失敗。 女神が独り言を呟き眺める間にもまた失敗の連鎖。
「アッハッハ……失敗の勢ぞろいだ。一人でよくここまで失敗を揃えれるよ」
パキり。 快適すぎて駄目になりそうなソファーを背に、空間に投影される映像を見ながらせんべいをボリボリと頬張る。
人間界、それは神様にとって貴重な娯楽だった。 まさに人間でいう所のテレビ番組。 神様は酔狂な人生を歩む人間たちを鑑賞しながら笑い、喜び、時には慈しみ、涙を流す。そうして退屈な神様業を紛らわしていた。
そして映像に映っている東堂藤四郎の人生もまた娯楽の一つ。 だが、
「しっかし、これは女神として、一視聴者として見過ごせないね。ここまで見ているこっちがしんどくなるくらい失敗続き──」
そういうと表情が一変。 突然、烈火の如き怒りを露わにした。
「──だというのに。なぜこいつは平然としていられるんだい?」
まるで藤四郎にどうにかなって欲しいかのように言う女神。 今度はころっと白けたように、
「無味乾燥。せっかく面白い事になるかと思ってチャンネルも変えずに見続けてきたというのに、ひどい仕打ちだよ。これじゃあ退屈じゃあないか。退屈で退屈で、死んでしまいそうだよ」
ソファーから転がり落ちて、ごろごろと床を転がり始めた。 装束をだらしなく巻き込み皴になることを気にすることもなく。 やがて、あっと女神は閃いた。
「そういえば別の異世界に面白い人材が居たよねえ」
そういうと鬼も腰を抜かすような悪い顔に豹変した。
「そうだよ、何を考えていたんだ我は。番組が面白くないなら、そこに介入してしまえばいいんだよ。面白くない試合にブーイングする観客のように。売れない漫画に路線変更を提案する編集者のように」
言いつつ立ち上がってパンパンと理想郷には存在しない埃を払う。 折り畳んだ扇子を映像に突き付けた。
「人生が面白くないのなら、その運命を書き換えてしまえばいいんだ。 『運命の女神』らしくね」
早速女神は行動に移す。 裾を引きずりながら映像に近寄ると、細腕をずぷりと中に突っ込んだ。 手の感覚だけを頼りに悩ましげな表情で何やら運命を弄繰り回し出す。
「確かこの辺に住んでたと思うけど。部下の失敗を許さず退職勧告を突き付けるような厳しいサラリーマンが。彼とぶつければちょっとは面白くなるんじゃないかな。違和感はあるけどその辺は同棲してるとか適当に設定しちゃえばいいし。そことこっちをこうこうこうやって繋げて、適当にあの辺を──」
一人盛り上がりながらどこか楽しげにブツブツと呟きだした。 すると何かに気付いた様子で、
「うん? いやちょっと待て、何かおかしいぞ? なんだこの世界は? なんでこの世界がこうなって、あれがどうで……いや待て違う、そうじゃない! 何だお前は! こっちに来るな! よせ、止めてくれ!」
突如、映像が爆発した。 はじき出された女神は爆風で吹き飛ばされてクッションに受け止められる。 唖然。 信じられないといった表情で映像を見つめ返す女神。 そこにはゲートを渡って藤四郎の世界へと移動している少女の姿があった。
「一体何なんだあの爆発は……。信じられない、まさか運命の女神の行動をも失敗させるなんて。恐るべき女の子……一体何者なんだ……」
直で受けた爆風を気にも留めず、目の前の映像のほうが重要だと言わんばかりに女神は映像に食い入るように見つめた。
「我もこの部屋も不変だから良かったものを── 何々……本名、アルミ・チェスト。職業、超レベル錬金術師……? ………………なんだそれは? 私はそんなもの知らんぞ……」
溜息一つ。 理解不能と諦めた女神はぼふっとクッションに倒れ込んだ。
「まあいい。運命は変わった。これで少しはこのチャンネルも楽しめるだろう。 期待しているよ、東堂藤四郎。それから、アルミちゃん……♪」
女神は扇子を広げて口元を隠すと予想不可能な展開に口角を吊り上げて、期待に怪しげな笑い声を漏らすのだった。
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