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銃と剣の演舞

切々琢磨

第四話

 日が照らすと同時に村を出た一行は、太陽が真上に来る頃に目的地の野営地へ到着した。森林を切り開いたと思われる大量の切り株の先にある丘には、作りかけで隙間だらけの木塀が立ち並んでおり、所々にはやぐらが生えていた。中に入ると壁がかろうじてあるだけの城跡を中心にテントや倉庫などが乱立しており、士官の指示で馬車から荷物を下ろしていく。
 
「我々の攻撃計画を感知されるのも時間の問題だ。さっさと訓練に取り掛かるぞ」

 どやされながら急いで設営を終えると、士官らは一般人と銃使いの傭兵を集め何処かへ行ってしまった。残された傭兵にジークフリートは告げる。

「今更お前らに戦闘訓練なんていらないだろ。銃兵がまともに動けるようになるまで自主的に訓練しておけ。くれぐれもおかしなことをするなよ」

 そう言い残すと本部へ戻っていき、傭兵たちは解散となった。彼らはそれぞれバラけていき、テントに戻って昼寝をする者、早速支給品の酒を飲む者、親睦を兼ねて剣の打ち合いをする者と自由にやっているようだった。カミールも少し身体を動かそうかとスカーミッシュのメンバーを探すが、近くにいたカールは腰を曲げふらふらと歩いていた。

「はぁ~老人にはキツイ労働だったな。俺は明日まで動けそうにない」

 カミールと目があったカールは彼の意図を察し、何も言ってないのに言い訳がましくまくし立てている。

「別に無理やり付き合わせたりはしないぞ。明日は知らんがな」
「はは、悪いな。明日は日が暮れるまで付き合ってやるよ」

 マルクスを探すが、まだ若い彼は珍しがられオヤジ共に絡まれているようだった。他のメンバーも散り散りになっており、カミールは傭兵たちに見切りをつけると塀の外へ出歩く。
 背の低い草が生い茂る草原では、一列に並んだ銃兵がライフルを真っ直ぐ構えていた。カミールは彼らを見下ろせる場所に座るとその様子を見物する。

「撃てぇ!」

 士官がサーベルを振り下ろすと筒から一斉に白煙が吹き出し、乾いた銃声が遠くまで響き渡る。

「さすがに、この人数だと迫力があるな」

 迫りくる魔族に向けて一斉射撃。倒れていく魔族を想像しこれからの戦いに希望を持つが、撃ち終わった後の彼らはなんとも滑稽なものだった。装填をしているのだろうが、手元がおぼつかなく紙で包まれている発射薬を銃口に入れるのにも苦労しているようだった。

 ようやく全員の装填が終わり一斉射撃を行うが、このペースじゃ二発目を撃つ前に肉薄されるだろう。それともこれが当たり前なのだろうか。

 マルタはどうしているだろうとカミールは少女の姿を探す。彼女はすぐに見つかった。彼女の足から胸ほどもある長い銃を構える姿は、他の男がそうするよりより銃を目立たせている。華奢な身体は反動を抑えるには不十分なようで、撃つと列の中で一人だけ後ろにのけぞっていたが、煙が晴れるとカミールはマルタの動きに目を丸くした。

 周りの奴らが装填に戸惑っている一方で、彼女は器用な手さばきで指ほどの大きさの紙筒をポーチから取り出すと、先端を食い破り中に入っている発射薬と弾丸を銃口へ流し込む。年端もいかない少女が武器を慣れた手つきで扱うというのはどこか芸術的で、誰よりも早く発射準備が終わると火が消えないよう火縄にふーふーと息を吹きかけていた。

 何発か撃った後、訓練が一息ついたようで銃兵達は散らばってだべり始めた。ずっとマルタを見ていたため気づかなかったが、すっかり太陽は朱くなりもうすぐ日が暮れそうだった。カミールはあくびをしながら立ち上がると、彼女の元へ向かう。

「あれ、あなたは酒場の……」
 彼に気づいたマルタは銃を整備する手を止め目を丸くする。

「カミールだ。銃の扱いに慣れているのか?」
「触ったこともないですよ~。でも両親が縫製職人で手伝いをしていたので、手先には少し自身があります」

 ふむ、確か酒場の女給が服屋の娘だとか言っていたな。手先が器用ならなんでも扱えるものなのかと一人納得するカミール。

「カミールさんはどうしてここに? あなたも銃兵なんですか?」
「え? 俺?」

 まさかマルタを見に来たとも言えまい。いや待てよ、確か俺は……。
 カミールは自分が銃兵とパイク兵を総括する大隊の副隊長であることを思い出す。形だけの役職だと思い忘れかけていたが、もしかしてかなり責任ある立場なのではないか?

「俺は副隊長に選ばれてしまってな。視察というか、様子を見に来たんだよ」
「そうなんですか! どうですか、わたし達なら魔族を蹴散らせそうですかね?」
「う~んどうだろうな」

 正直銃はよくわからん……という言葉は胸の中だけに留める。士気が落ちないよううまいこと何か言おうと考えていると、一人の青年がカミールの元へやってくる。
「お話聞かせてもらいました。あなたが副隊長なんですね」

 青年は村人の中でもしっかりとした服を着ており、首には骨を加工した装飾品のネックレスを付けている。ただの村人とは思えないが。

「ええっと、君は?」
「申し遅れました。僕はオステンの村から来たヨハン。父は村長でしたが、魔族の襲撃で死んでしまったので一応僕が彼らのリーダーということになっています」
「その年で村長か。色々大変だろ」

 カミールも幼くして生きるか死ぬかの世界に放り込まれたのだ。ヨハンは明るく振る舞っているものの、その苦労は相当なものだろう。

「村を失ってからはその日の食事すらありつけない状況ですからね、皆ボロボロですよ。必ず勝って故郷を取り戻します!」
「なるほど、カネ目当ての傭兵と違って自分たちの村を取り戻すとなれば気合も入るだろうからな。期待してるぞ」
「はい! 任せてください」

 まあこんなもんだろう。カミールは仲間の元へ戻っていくヨハンを一瞥しマルタに意識を向ける。期待しているとは口からでまかせもいいとこだが、これで少しでも士気が高ぶれば副隊長の仕事としては合格か。
 マルタは整備が終わったのかライフルを肩に担ぐが、彼女の身長のせいか銃が大きく見えた。

 日が暮れて日中の鳥と攻守が交代するようにコオロギの大合唱が辺りを支配する。訓練で疲れた者達が寝静まる中、本部のテントからだけは薄っすらと明かりと声が漏れていた。

「……そうだ、そのタイミングで銃兵を下がらせる」
「……あいつらの突撃に対応できるのか?」

 テントの中にいるのはジークフリートとその部下達、それとカミール。初日の訓練を終え、作戦などの調整をしていた。というのも銃とパイクを連携させて戦うこと自体前例がなく、誰もが手探りの状態なのだ。副隊長カミールは本来積極的に議論しなければならないが、銃についての知識が乏しいので会話についていくことすら難しい。

「すまんが、もう一度銃兵の役割について教えてもらえないか?」
 会話の流れを切るカミールの質問に何人かの士官が嫌そうな顔を向けるが、ジークフリートは意に介さず答える。

「長年俺達が魔族と集団戦闘できなかったのは突撃に対処する術がなかったっていうのは知ってるよな。そんで銃の登場で一方的に蹂躙することができるようになったんだが、銃は発射速度が遅く距離が離れすぎれば当たらない。彼らの力を最大限引き出すにはどうすればいいかって話だ」
「ああ理解した……」

 あくまで主役は銃兵でパイク兵は彼らのサポートというわけだ。

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