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銃と剣の演舞

切々琢磨

第三話

 三日後、城の隣にある練兵所に二種類の人間が数百人程集まっていた。片方は防具に身を包み各々の得意とする武器やライフルを担いで大きな声で会話をしている傭兵たち。もう一方はお世辞にも質がいいとはいえない服を着て、何も持たずどこか疲れたような目をしている一般人。

 カミールは知り合ったばかりの傭兵の自慢話を聞き流しながら一般グループの中にいるであろうマルタを探すが、あっという間に見つかった。彼女は他の者とは違い背筋を伸ばしジッとどこかを見つめている。どこで手に入れたのか、その腰にはショートソードが下げられており左手でグリップをぎゅっと握っていた。

 指示もなくブラブラしていたカミールらだが、しばらくすると派手な鎧を纏った体格のいい男が部下を数人連れて現れ、壇上に上がると集まった者たちを見回す。年はカールと同じぐらいで、四十前後だろうか。

「静粛に……今回貴様らの指揮を取るジークフリートだ。これから野営地に行くが到着するのは明日の日暮れとなるだろう。無駄にできる時間などない、今すぐ出発する」

 そう言うと彼は部下に指示をして何処かへ歩いて行く。何人かの軍服を着た士官は大きな声でそれぞれ三列渋滞になるよう命令する。カミールも傭兵に混じって列に入りながら準備を進める馬車を見ると、荷台にかかる布が風にたなびき、大量のライフルが藁のように敷き詰められているのが見えた。

「しかし魔族に決戦を挑むなんて、珍しいんじゃないですか?」

 マルクスがどこか不安を隠せない表情でカミールを見上げる。そういやこいつは『戦争』を経験していないのか。

「そうだな、知る限り最後に戦争があったのは俺が十九の頃だったか。カールを含め三人のメンバーと参加したんだが、隊列も陣形もあったもんじゃない。皆が目の前の魔族を倒すことだけを考えて剣を振るっていた。あれは酷い戦いだった」
「今回も……厳しい戦いになりそうですね」
「どうだろうな……」

 カミールは前方を歩く一般人らを眺める。この戦いは今までとは違う。そんな予感がする。

 都市直営の農作地帯を抜け、何回か休憩を挟み森へと入る頃には太陽もすっかり低くなっていた。このような開けていない場所は人間の支配圏に入り込んだ魔族が隠れるのには絶好の場所であり、傭兵たちの会話が静かになる。

 カミールはマルタを探すが、背の高い男に埋もれいつの間にか見失っていた。探しに行こうかと列を抜けようとするが、すんでのところで思いとどまる。
(なにやってるんだ、俺には関係ないだろ)
 この作戦に参加したのは報酬の為なのだ。彼女を気にかける必要などない。

「流石に肩が痛くなってきたな」
 気を紛らわすようにマルクスへ話しかける。

「だいぶペースが遅くなってきてるようですね。いつまで歩くつもりなんでしょうか」
「いくら群れているからって夜にこんな場所居たくないな」

 そんなことを話しながら歩いていると完全に日が沈み、列の所々で松明の明かりが灯る。そろそろまずいんじゃないかと皆が思い始めた時、列が止まり前方から士官が馬に乗り駆けてきた。

「この先の村で野営する。建物の中には入らず道に広がれ。村の外にも出るな」

 闇の中を歩かなくていい安堵からか、途端に愚痴やら何やら話し声が漏れ始める。
 木壁に囲まれている村へ入ると、所狭しと人がひしめき合っていた。足の置き場もままならない状況で、カミールは座り込んでいる人たちを踏まないよう、泥の中を歩くように大股で開いている場所を目指す。

「これは……村人にとってはいい迷惑だな」

 いい時間なので村人は家の中で食事でもとっているだろうが、真っ昼間から道を防がれたら仕事もできなかっただろう。かといって夜の森は野営するには危険すぎる。

「カミール・ケーニンガー、こっちに来い」

 名前を呼ばれ、声が聞こえた方を向くと村の中では比較的大きな建物のドアからジークフリートが手招きしていた。

「あれ、知り合いですか?」
「今日はじめて名前を聞いた奴だぞ」

 途中寝転がっている傭兵の頭を蹴りながらもドアまでたどり着くと、ジークフリートの側に立っている衛兵がマルクスの前に立ちふさがる。

「ここから先はケーニンガー殿のみ入室を許されてます」
「そういうことだ。部下を下がらせてくれ」

 何だそりゃと文句の一つでもつけようとしたカミールだが、マルクスは素直に後ろへ下がる。
「僕は先に飯食って寝ますね」

 ああそうかい、疲れてるからさっさと休みたいのか。
 カミールは一人で建物へ入る。部屋の中央には暖炉があり、水の入った大きな鍋がグツグツと音を立てている。その周りは長椅子長机が囲んでおり、士官たちが座りパンをかじっていた。

「宿屋、か。村の建物には入ってはいけないんじゃなかったのか?」
 ジークフリートはコップにワインを注ぐとカミールへ渡す。

「士官は特別だ、なんせお前らの生命を預かってる立場だからな。傭兵は危なくなったら逃げればいいが、俺達は逃げ切ったところで敗北の責任を取らされる」
「で、その傭兵である俺が士官様専用の宿屋に呼ばれた理由は……」
「そうだ、お前にはこの大隊の副隊長をしてもらう」

 カミールは目眩のような感覚に襲われ椅子に力なく座る。
 俺が、大隊の副隊長だと……? 今まで一度に指揮したのは最大で十五人だというのに。

「傭兵共の指揮はともかく、先日まで土いじりしていた連中を動かせるほど優秀だと俺は思われているのか?」
「この中で巨人を倒したことがあるのはお前らのギルドだけなんだよ。まあ副隊長といっても基本はパイク兵の陣頭指揮をしてもらう。銃兵のことは無視して構わない。だがいざって時はお前にも指揮してもらうかもな」
「それは、大隊長が戦死するほど壊滅的な被害を受けたときってことか?」
「そうとは言ってないだろ」

 酒が回っているのか、ジークフリートは赤い顔でニヤニヤと笑う。

「傭兵はプロとしてのプライドがあるんだろうが、銃兵共が使うのはライフルだ。お前らが技術を習得するのに幾年もかける剣術とは違う。正しい手順さえ覚えれば女子供だって簡単に、安全な距離から敵を打ち倒すことができる。時代は大量動員総力戦だ!」

 何が面白いのかガハハと笑うジークフリートを尻目に、カミールはワインを味わうのに集中する。明日もかなりの距離を歩くことになるだろう。話も終わったようだし、飲み終わったらマルクスのようにさっさと寝てしまおう。

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