天使が暮らす家

ノベルバユーザー222759

揺れる心、涙

『チャミナ、ユノさん。僕ね?怖いよ。』

《怖いよなぁ?》

『ふぇぇぇ。ホントはね?お泊りもヤダ、チックン嫌い!っく、牛乳こぁぃ。』

〈そうですね。〉

『やらっ、っく。苦しいの我慢するから、皆と同じのダメでも良いもん。だから、っく!』

《ユチョナ。ごめんなぁ、俺もチャンミンも焦ってたんだなぁ?ゆっくり時間を掛けて頑張ってみないか?》

『ふぇっ?』

〈1日だけ、お泊まり頑張れますか?ずっと一緒に居ますよ。〉

『ずっとは、やだよ?一杯お泊り、やだよ?』

〈はぃ。約束します。ね?〉

『ん、ワガママごめんなさぃ。』

《教えてくれて嬉しかったよ、ありがとな?》


真新しいパジャマと、塗り絵、そして数冊の絵本を買って貰ったユチョンには、何時ものニコニコ笑顔が戻っていた

大学時代の友人でもある、今回の入院ではユチョンの主治医をするヒチョルさん

{少しは泣けたのか。ユチョン、怖かったら、沢山泣け。ん?}

『っ、ヒチョルせんせ?僕ね、チックン嫌い。でも、牛乳こわぃ、こわぃんだぁーー!』

{怖いよなぁ?ユチョン、少しずつ頑張れる?ん?}

『痒いって言ったら、止めてくれる?お腹痛いのも、苦しいのもやだっ!』

{俺もチャンミンも近くで見てるよ?}

〈ヒチョルさん、ユチョナかなり怖がってるみたいなので、ユチョナのペースで進めたいと。〉

{分かった。ジュースを買いに行ってきて?今日は、どの程度で反応するか検査するから。}

〈ユチョナ、行きましょうか?〉

『だっこぉ!』

優しく抱き上げ、売店に行く

飲み物をいくつか買い、病室に戻ると、ヒチョルが治療の準備をしていた

{豆乳は?全く問題なし?}

〈ぇえ。〉

{今日はね?4時間で4回、頑張って貰うね?}

買ってきた飲み物を受け取ると、部屋を出て行ったヒチョル

{ユチョン?飲めるかな?}

見た目には何時もと変わりないりんごジュース

本当に僅かな量からのスタートなのだろう

『チャミナ、手繋いでて?』  

{飲めたな、偉かったね?}

『チャミナ、ギューしてて?』

小さく震える身体を抱きしめて、ゆっくり背中を擦ると、眠ってしまった

{チャミナ?沢山褒めてやってよ?途中で嫌だと言ってもさ。}

〈はぃ。〉

彼自身が重度の小麦粉アレルギーで

学生時代の飲み会の席で、初めて彼がアナフィラキシーショックと言うものを起こして苦しんでいる所を、目の当たりにした

医学生でありながら、何一つ冷静になれなかった

彼が医師を志したのも、何度も救われて来たからだという

『目、かゅぃ。』

{冷やそうね?他には痒いところないかな?}

『なぃ。』

保冷剤で、目を冷やしているとオデコにも小さな蕁麻疹がいくつか出来ていた

{チャミナ、次でストップするな?}

『ぅ、けほけほっ。』

{お胸の音聴かせてね?んー、ユチョン。あと一回、ジュース飲めるかな?嫌だ?}

『ヒチョルせんせ。ここに居る?』

{居るよ?}

『ん。頑張る』

2杯目の飲み物を飲み干したユチョン

必死で耐えたのだろう

小さな身体は悲鳴を上げていた

助けを求めたり、甘えたりするのが苦手なのに

分かっていたのに、無理をさせた

『うぁぁ、ぃたぃっ!』

お腹が痛いと丸まってしまったユチョン  

ギュルギュルと音をたて始めた

ヒチョルはナースコールで指示を出しつつ、戸棚にしまっていたエピペンを取り出した

{ユチョン君。よく頑張ったね?すぐ楽にするからねー?チャンミン、左足押さえて。}

小さな足に注射が打たれ 

弱々しく泣くユチョンが可哀想で、ぎゅっと抱きしめた 

{お腹温めようね?}

『チャミ、ぎゅー?ナデナデね?』

優しくお腹を撫でながら、蕁麻疹が酷い箇所を冷やす

{シンドイのも可哀想だし、点滴するな。ユチョン、左手、チックンな?最後だからね?}

『チャミ、ぎゅーね?』

優しく抱きしめていると、素早く処置を終わらせたヒチョル

{点滴終わったら楽になるからね。ユチョン、お疲れ様。}

『ん、あーと。』

眠りの世界に落ちていったユチョン

チャンミンは暫くぎゅっと抱きしめていた

〈僕達のエゴでしかないのでしょうか?怖がってるユチョンを、無理矢理。〉

{んー。難しいとこだな。}

『ふぇっ。』

{おっきしちゃったか?よく頑張ったな、ユチョン。}

『ポンポン、たぃなぃーー!』

{良かった。}

『ん。チャミ、絵本!』

〈どれ読みます?〉

{また後で見に来るから。}

『ヒチョルせんせ、バイバイー!』

〈ユチョナ?この治療は今日で終わりではないのです。でもね?心が苦しくなってしまうのであれば、止めても良いのです。〉

『っ、チャミナ。ギューってね?』

〈おいで?よく頑張りました。〉 

『ごめんなさい。ユノもチャミナも僕のこと考えてくれたのに、怖いよ。お腹いっぱい痛いよ。身体痒い、やだっ!』

〈そうですね?検査を頑張れただけでも、十分です。ありがとう、ユチョナ。〉

『ごめんなさい、家に帰る。』

〈帰りましょうね?〉

{ユチョン、よく頑張ったな。検査結果は、来週には出るから。}

〈ありがとうございます。〉

『ヒチョルせんせ、僕。こわぃ、やだっ。』

{急がなきゃいけない治療じゃないし、今日頑張れただけ凄いことだよ。少しお休みしても良いからね?}

『お休みする。』

{また、何時でも相談に乗るからね?トラウマにはしたくないよ、な?}

〈はぃ。少しお休みして、ユノと3人で話をしてみます。〉

{分かった。明日の朝、診察してから退院な?点滴はもう少し続けよう。}

〈分かりました。〉

{何かあったら呼んで?あと、遅延型の可能性もあるから、明日退院してからも運動は避けてな?}

〈了解です。〉

『おやしゅみー、ヒチョルせんせ。』

{おやすみ、ユチョナ。}  

翌日、朝食後に退院したユチョン

再びヒチョルの元にユチョンとチャンミンが二人で相談に訪れたのは、検査入院から半年以上経った頃だった

『苦しいのも怖いけど、毎日牛乳飲むのも怖いよ。せんせ、僕。』

{そうだよな?}

『ごめんなさい、まだ僕。頑張るって言えない。』

〈良いんですよ?キチンと話せただけで良いんです。〉

{偉かったな。ユチョン、牛乳を舐める練習からしてみるか?この前、シンドイなった時より、もっともーっと、少ない量だよ?}

『ずっと一緒?』

{検査の時は居るよ?}

『ん。頑張る。』

{最初は、10分の1の量からスタートだな。ユチョン、無理して頑張らなくていい。ずっと居るし、待ってるからな?}

『んー、っく。』

ペロッと僅かに、お皿に付いた牛乳を舐めたユチョン

頑張ったご褒美にと、ゼリーとシールを貰いニコニコ笑顔で

{2時間様子を見よう。}

〈分かりました。〉 

少しだけ、唇の痒みを訴えたけど、それ以外に症状は現れなかった

『ヒチョルせんせ、僕。せんせと、頑張りたい。』

{そっか、ありがとな?ユノさん、次の休みは?}

〈明後日です。〉

{明後日の昼休み、もう一度ユノさんも含めて治療法について話そうか?}

〈分かりました。〉

{何かあったら、何時でも連絡してな。ユチョン、よく頑張ったな。}

〈帰りましょうね?〉

『ん、帰る!』

〈今夜は、ハンバーグにしましょうか?〉

『やったー!』

翌日、昼過ぎにヒチョルの診察室を訪れた3人

カンファレンスルームに居たのは

「久しぶりです。ユチョナ?」

『ジョンヒョンさ。』

{同席をお願いしたんだ。ウチの病院でもたまにカウンセリングをお願いしてるから。} 

〈そうですか。〉

『僕、がんばるよ。っ、ぁ。』

{無理しなくていい。な?夏休みに合わせて治療計画を立てようか?}

《今回は長いですか?》

{ユチョン?怖いと思うけど、5回お泊りして、2回お家に帰るっていうプログラムを3回繰り返したいと思ってる。}

『はぃ。』

引き攣った様な必死の笑顔

我慢している、強がっているのが分かる

《ユチョナ。》

〈分かりました。よろしくお願いします。〉







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