俺と彼女とタイムスリップと

淳平

29話「由夏との約束」


「えーっと、次はCコードで次はGコードか……なんだ簡単だな。 そんでもってここからギターソロ……ここが難しいんだよなあ」
「ギターソロは顔で弾くのよおじいちゃん」
「そうそう、DAWNの山村さんもそう言ってたな……って由夏か……」

 ギターを弾いていたら突然由夏が目の前に現れた。
 こうして会うのは由夏が俺に相談してきた時以来だ。
 前より髪が短くなっていた。
 ボブヘアーってやつかな? 髪が短くなったから余計に唯にそっくりだ。

「あー、これ? なんとなく切っただけよ。 おじいちゃんのことだから失恋したとでも思った?」
「いや、そこまでは考えなかったな。 ただ、やっぱり唯の孫なんだなってさ」
「ふーん、やっぱりおじいちゃんはおじいちゃんね」
「どういうことだよ」
「あっちの世界でのおじいちゃんも同じこと言ってたのよ」
「ほー、そうなのか」
「さっきのギターソロの話もね」
「おー、間違いない。 俺だなそれ」

「まあ違うところもあるけどね……それより、バンドの方はどうなの? 文化祭までに間に合いそうなわけ?」
「ああ、なんとかな。 二人とも楽器経験者だから肩を並べるのは無理だけど、足を引っ張らない程度にはな」
「ふーん、そうなんだ。 まあせいぜい頑張ってよおじいちゃん」
「おう」

 俺が答えると由夏は思い出したかのように話し始めた。

「あ、そうそう。 私、松村由夏、この度初めての彼氏が出来ました」
「え、マジで?」
「マジよ」

「あの……この前言ってたやつ?」
「そうそう、私ったらなんでおじいちゃんなんかにあんな相談したのかしら。 無謀に決まってるのにね」
「……何も言えない……だけどおめでとうな。 おじいちゃん素直に嬉しいぞ」

「ん、ありがと。 まあ私はおじいちゃんとおばあちゃんの血を受け継いでるけど、二人と違って肝心なところで素直になれたのよ。 ……緊張して死ぬかと思ったけど」
「……お前は凄いよ由夏」

 俺がそう言うと由夏は俺の腹に軽くパンチをした。

「だから今度はおじいちゃんが素直になる番だよ」
「ああ」
「約束だからね」
「ああ」
「……心配だなあ」
「信用無いな俺」
「……そりゃあ……ねえ……」
「……そりゃあ……な……」

「まあ、おじいちゃんはおじいちゃんなりに頑張ってよ」
「おう」
「それじゃあね、おじいちゃん」
「由夏」
「ん? 何?」
「よかったな本当に」

ありがとうな、由夏。 おじいちゃんなりに頑張ってみるよ。 あと本当におめでとう。
由夏も石田もすげえよ。 俺もそろそろ自分の素直な気持ちと向き合うよ。

俺がそう言うと由夏は顔を赤くした。

「……ありがと! 私のことよりおじいちゃんは自分のこと頑張りなさい! じゃあね」

 由夏はそう言うと俺の前から姿を消した。

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