俺と彼女とタイムスリップと

淳平

22話「リビドー」

 唯の機嫌が直ってから1週間。 ギターを弾いたり、ゴロゴロしたり、歌ったりとそんな毎日を過ごしていた。 唯とも仲直り? できたのかは分からないが、いつもと同じように接することができた。 そんな割とうまくいってると感じていた日々もそう長くは続かない。
 何があったかって? 唯と相川が体育祭委員に選ばれてから放課後、唯と一緒に帰れていないのだ。
 まあ、唯は空手部で部活がある日は一緒には帰れないのだが。 それでも前より頻度が減って俺としては何だか寂しい。 一緒に帰れないのは仕方がないのだが、放課後に相川と委員の仕事を2人きりでしているらしい。
 故に、帰宅部の俺は1人寂しくトボトボと家に帰り、ギターを弾いているのだ。

 まあ楽しいんだけどな。
 そして今日はスタジオで練習する日。
 練習の成果、見せてやるぜ!

 と、そんなことを考えていると真柴楽器に到着した。
 現在16時半を回ったところ。 スタジオは17時から借りているから、まだ30分も時間がある。 店の中でギターでも見てるか。

 店内に入ると、真柴が店の手伝いで接客をしていた。 目が合い、真柴は笑顔で手を振ってきた。 おい、なんか可愛いからやめろ。
 他のお客さんが見てるだろ。 なんか照れくさくて視線を合わせられないだろ。


 店内にあるギターを見ていたらいつの間にか30分経ったようで、真柴に声をかけられた。

「お待たせ!」
「おう、んじゃ入るか」

 スタジオの中に入ると、石田が先に来ていたようでドラムを叩いていた。 相変わらず、迫力のあるドラムだ。
 石田は俺と真柴に気付いたようで、演奏を止めた。

「おーっす。 待ってたぜお二人さん」
「お待たせ! 石田くん部活帰り?」
「ああ、そうそう。 部活終わって直で来たからこの格好」

 石田は陸上部のTシャツを着ていた。 大きな字で南高魂と書かれたTシャツはいかにも体育会系といった感じだ。

「おー、かっこいい! 石田くん結構筋肉あるねぇ! どこかの帰宅部さんとは違うね!」
「おい真柴。 お前も帰宅部だろうが!」
「あはは〜そうでやんした」

 てへぺろと言わんばかりに舌を出して真柴はおどけた。
 この前俺に言ってきたことが頭をよぎる。
 ……あれはなんだったんだろう。
 ……まあ今はいいか。 それよりも練習だ。

 それぞれ楽器を準備し、セッティングが整ったところで今から演奏を始める雰囲気になった。

「おい淳一。 歌の練習はしてきただろうな?」
「もちろんだ! かかってこいや!」
「おー! すっごい自身だねえ。 期待しちゃお!」
「あ、でもぞんな期待されるのもな……」
「あ? 何だよ淳一! 男なら堂々としろよ」
「そうだよ淳一くん! 男なら堂々と色々ときっちりしないとね?」

 真柴のは何か意味深に感じるんだが。

「わかったわかった! やってやるよ! 石田カウントくれ!」
「あいよ!」

 1.2.3.4と石田のカウントで曲が始まった。
 石田の力強くも安定したドラムにベース、ギターと重なっていく。
 さてそろそろ歌い出し。 ギターも歌も忘れずに……よし! なんとか入れた。
 あとはこの調子のまま…………

 そう思った矢先、俺は曲に入り込んでいた。
 曲以外のことは何も考えないほど集中していた。 サビに強く思いがこもった。 その時に唯のことを思い出した。

 気が付けば曲が終わっていた。
 それに気づくのとほぼ同時に涙を流しているのに気がついた。

 ふと周りを見ると真柴と石田が唖然とした顔で俺を見つめていた。

コメント

  • 黒犬

    一話から一気読みしてしまいました!とても読んでて楽しいし、次は何?次は何?って感じで、読み進められました!とても面白いです!続き待ってます!

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