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その魔法は僕には効かない。

FU

臆病 9

俺は、今 目の前にある仕事を
こなすだけでは 存在に価値がない。


課長が部長に上がった時、
俺も位が上がった。

責任を伴うことは、
昔から良くやっていたし、
嫌いという訳では無い。

会社の皆が仕事をする環境を
出来る限りいいものに、
そして何より、お客様 一人一人に
素敵な住居を提供することが、

俺の何よりの使命だと思っている。


ただ、恋愛に関しては、
責任を伴えない。


俺が好きになった相手に
気持ちを伝える事さえ、
臆病になってしまうのだから。


恋人になることが出来ても、
その人の人生を俺が狂わせてしまう。

それが、俺らの世界だから。


この気持ちは誰にも言えないから、
俺の心の中で留めておくことしか出来ない。


学生時代、それが辛くて苦しくて、
自分の中だけに抑えておくことが、
出来なくなってしまった。

相手に好きだという気持ちを
伝えてしまったんだ。
俺は、今までに無いくらい
想いが強くなって、
心が締め付けられる感覚に陥った。
それなのに…


「は?気持ち悪い。」


言葉が返ってくる。
それが現実だった。


好きな人が、
俺の心を完全に塞ぐきっかけを
作ったのだと思った。


それ以降 俺は恋をしても、
言葉にすることは無かった。










日曜日


僕は、来週に待ち構える試験のことで
頭がいっぱいだった。


穏やかな風が吹いていて、
心地よい部屋の中。

7月とは思えない程だ。


ただそんな景色は、見えない。

僕の頭の中は、
試験の事だけ…

だけ…だけ…


言い聞かせている。

本当の頭の中は、

驚く程に、
武川さんでいっぱいだった。



どうして…



武川さんの年齢は知らないけど、
きっとかなり歳は離れているし、
もう結婚しているのではないだろうか。


子どもがいたりしてね…


嫌な方に、どんどん悪い方に、
僕は考えてしまう。


とにかく、今は勉強だ。


気を取り直しきれていないのは、
わかりきっているが、
僕は机に寝そべった身体を起こし
勉強を再開した。









にちようから1週間も経たないうちに、
入社試験当日になった。


もうやるべき事はやった。
やるだけのことはやった。


いつの間にか、
大量の手汗、とてつもない緊張が
僕を襲う。

ただ、今日は身体の内側から、
ワクワクしていた。


これに受かれば武川さんと
一緒に仕事ができるかもしれない。


そう思うだけで僕は緊張を
少しずつであったが、
和らげることが出来た。


頑張ろう。


本社の屋上を見上げる。
一呼吸して、
僕は自動ドアの門を潜った。



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コメント

  • 水精太一

    大学生の凌太くんの姿越しに、武川さんは苦痛でしかなかった自分の過去を思い出していた。凌太くんは「逢いたかった」と言ってくれたけれど、それはただ単に進路に悩んでいた彼の背中を少しだけ押した自分に向けられた、“尊敬”の念からだと思ったでしょう。武川さんはもう、自分への好意に距離を置く癖が出来上がってしまっている。自らが発した逢いたかったという言葉さえ、途中で誤魔化してしまう程に。そしてふたりは、自らがするべきこと、しなければならないことをこなしながら、お互いの存在を心の奥底に棲まわせている。その存在は、例えば彼らが小さな鳥であったなら、小枝のように脆く危うい拠り所。強い風には耐えられない程か細くて、信じられないくらい頼りない。大きな期待をすればする程、足を踏み外した時の絶望は深くなる。だからといって思い起こさずにはいられない。もどかしい気持ちを、逢えない時間が「愛」に昇華させてゆくのでしょう。

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