その魔法は僕には効かない。

FU

母支 5

「大丈夫??武川さんは、いつもピリピリしているの、気にしない方が良いわよ!」


そう慰めてくれた女性は、
笑顔で営業所の外まで送ってくれた。

「あの、えっと…」

僕は、先程の動揺を忘れることが出来ず、
手先が震えるのが自分でもわかった。

怒られた。
このことが頭からこびりついて離れない。
あの人の顔と言葉が脳内を再生しては、
また同じところから再生されていく。

「こんな後だから言い難いけど、本当は凄くいい職場だから。良かったらここ、受けてみてね」

そう女性は僕に伝えて、
営業所へと戻った。








僕は、帰宅してもずっと考えてしまった。

コンビニにはもう来ないだろうか。
僕は嫌われてしまっただろう。
いや、もともと関係も深いものでは無いから、
嫌いも好きもないか。

僕は、窮屈になる心に
押しつぶされそうだった。


僕って、
こんなにメンタル弱かったっけ…


「凌太、何してるのー?ご飯出来たわよー」

1階から母の声がする。

「んー、今日は食欲が無いんだ」

扉を少しだけ開けて、
母に伝えると僕はまた部屋の扉を閉めた。

トントントン

「入るわよー」

と言いながら、勢いよく階段を
駆け上がってきた母は僕の部屋へと
許可無く入ってきた。

僕は、入ってくるなと伝えたい子どものようにそっぽを向いた。

「どうしたの?」

僕に優しく声を掛ける母に
泣いてしまいたい気持ちだった。

僕は、母に今日あったことを話した。
振り返ると思い出して更に落ち込んでしまう。

そんな表情を母は、感じていただろう。

「そうだったのね…でもね、」

そう言って母は僕にこう伝えた。

「武川さんは、凌太に期待しているからこそ叱ってくれたのではないかしら。期待をしない人にこれ以上を求めて叱ったりしないわ。初めて会った凌太を信じてくれたのよ。これからどう動くか、それが凌太の今1番しなくてはならないことではないかしら?」

優しさの中に正論が詰まっていて、
母の言葉に、僕は何も返せなかった。

僕に、期待…

そんな都合のいい捉え方をしてもいいのだろうか、僕は不信感もあった。

「嫌われたと思うなら、もう囚われるものは、無いのだから、何でもしてしまいなさいよ。」

母が僕の背中を力強く押した。

「痛いってば」

嫌われていると感じるのなら、
とことん嫌われても、
僕を、自分のありのままを
武川さんに見せても良いのかもしれない。

それで僕は、
こんなへたれた人間ではないことを
伝えてやろう。
僕の中で何かが弾ける音がした。

「お母さん、ありがとう」

母は、微笑んで

「よしよし、じゃあご飯食べるよ!」

そう言うと僕の背中を押しながら
部屋からリビングへ連れ出した。



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