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その魔法は僕には効かない。

FU

夜空 3

恐る恐る振り返った僕は、
どんな表情をしていただろうか。

青ざめていただろうか。

振り向いた先には、
火曜日と木曜日にコンビニに来る
サラダとビールのサラリーマンがいた。

「やぁ。」

先程までの恐怖が隠しきれず、
僕は何も言葉を返すことが出来なかった。

優しい笑顔をしていたが、
ビールで少し赤くなった頬。

お酒、強そうに見えるのに弱いのだろうか。

「あ、ども…」
やっと返せた言葉にその男は、

「いつもこの時間では無さそうだな。」
そう返した。


木を囲むように丸くなっているベンチに
座って、サラダをつまみにビールを飲む男は、
遠くに見える住宅街の光を見つめていた。

「ここで何をしているんですか?」

早く帰りたかったはずなのに
聞いてしまった僕がいた。

「天体観測だ。」


そう答えた男に、

んなわけないだろ。

と突っ込んでしまいそうだ。
星なんかひとつも見えないじゃないか。

そう思った僕であったが、
真面目過ぎるほどの表情で言ったその男に、
少し笑ってしまった。

ただ、真面目すぎる顔の奥に
どこか切ない悲しげなものが
詰まっているようだった。









その男とそれ以上の会話があった訳では無い。

僕は、その後に
「では、またコンビニで」
そう告げて帰った。

あの人は毎日あの様にして、
サラダを食べて
ビールを飲んでいるのだろうか。

何かに悩んでいたりしたのだろうか。

ベンチの上にあった会社の資料。
一瞬しか見えなかったけど、
記憶にある名前を
僕は、帰宅途中で無意識ながら調べていた。








そこそこに勉強をしてきたが、
何かを悟ったかのように
僕は冷静に過ごしている。

「珍しいな、お前からOB訪問をしたいだなんて言ってくるのは」

ゼミの教授に言われ、
誤魔化しきれない作り笑いを見せ、
資料提供をしてもらった。

次の週の火曜日、
僕は興味本位でOB訪問をしに行ったのだ。



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コメント

  • 水精太一

    最新10話迄拝読し読み返しをしています。未来に何の光も見出だせない凌太くんの前にひとりの男性が現れました。彼はコンビニの謂わば常連客。無機質だと思っていたバイト先を「ここも社会の一端だよ」と気付かせてくれた人。完璧に見えたその姿はしかし、夕暮れ時の哀しさ故か、少し頼り無気に映ります。都会の空に星など見えない。なのに彼は「天体観測をしている」などと言う。冗談など通じなさそうな表情で。おかしな人だと思いつつ、凌太くんはベンチに広げられた彼の仕事の資料を目に留めます。それは小さなきっかけでした。けれどその先に、どんな光が待っているかなどまだ凌太くんは知る由もありません。ベンチに腰かけビールを煽る男性が見ている「星」は暗喩。自分が扱ったかも知れない住宅のひとつひとつに、彼が手に入れたくても叶わない「家族」の暖かい光(星々)が瞬いている。求めても届かない光はいつか、彼の元へも訪れてくれるでしょうか。

    1
  • cn

    自分で自分がわからない牧。わからないから満たされることもない。そんな状態きっと辛い。だからこそ、切ない悲しげな政宗に共鳴して、牧の心の扉が開いたのかな、なんて考えました。

    2
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