Bouquet of flowers to Messiah

有賀尋

Stormy opening side MAMORU

任務が終わってチャーチに戻ってきた。
医務室に寄ってから昴のところに行こうと医務室に立ち寄った。

「...戻った」
「おぉ、衛か。怪我は?」
「...ない。それよりも、また新入りがいる?」

いつもと違う匂いがした。そして、心做しか懐かしい匂いだった。

「...分かるのか」
「...誰かがいることくらいは」
「新入りのドクターだ。俺と昴の知り合いで、北方の研究者兼ドクター、フォークス付きだった。名前は藍浦心白。さっきまでここにいたから匂いが残ってんのかもな」
「...そう」
「そうだ、草薙が帰ってきてるぞ。多分昴の所じゃないか」
「...うん、行ってくる」

そう言って医務室を出て昴の部屋に向かう。
途中、藤堂みたいな、でも白衣を着ていた人とすれ違う。

「...もしかして、君が衛?」

俺は足を止めた。

「...新入りドクター?」

俺は振り向かずに質問した。

「へぇ、知ってるの?」
「...今医務室に行ってきたから」
「ふーん、ねぇ、君は昴によって生み出された人間なんだよね?君のメサイアには断られたけど、君はその身体を僕の研究に貸してくれる?」
「...伊織に何か言ったの」
「うん、体を改めさせてくれって」

そう聞いた俺は近寄って見下ろした。

「お?」
「...伊織に近寄るな。俺は体は貸さない」
「ちぇー、君もかー」
「...思い出した。フォークスに潜入していた時に未熟児に実験をしていた研究者だな」
「...へぇ、潜入してたんだ?」
「...俺達のことは放っておいて。治療位は世話になるだろうけど、実験なんて二度とやらないしさせない」

そう言い残して俺は昴の部屋に向かう。

「...ただいま、伊織、昴」

昴の部屋のドアを開けると、伊織が荒んでいた。
きっとさっきの研究者のせいなんだろう。伊織に近寄ると伊織が手を伸ばしてきた。その手は少し震えていた。

「...伊織...?」
「衛、部屋に連れて行きなさい。少し安心させてあげるといい」
「...うん、わかった。...伊織、部屋戻ろ?」

伊織が頷くと俺は伊織を抱き上げて部屋を出た。

「...衛、下ろしてください」
「やだ」
「...何故ですか」
「...自分に聞いてみたら?」
「...随分意地悪になりましたね」

伊織が見つめてくる。
別に意地悪になった訳では無いんだけど。

「...しばらく会えなかったから。それに、伊織荒んでる。震えてたし、今も震えてる。...何かあったの」
「...なんでもお見通しですか...」

部屋に着いてベッドに座る。相変わらずの大量のクッションは置き場所がなくてそのままだ。
伊織を膝の上に乗せて頭を撫でる。

「...新入りドクターに好奇心を満たすため、体を改めさせてくれと」
「...俺も言われた」
「...あの人に会ったんですか」
「...昴の部屋に行く前、声をかけられた」
「...これは予測なのですが」

そう言って、伊織は少し俯いた。

「メテオリットに依頼され、私の記憶を消したのは彼かと」
「...記憶を消したのがあいつだったとして、俺達になんのメリットがある?」
「…あの時は、私を使えばサクラを釣れると思ったのでしょう」
「...結果として釣れなかったけど」
「戦力は多少削れたのでは?俺達にはメリットは何もありませんよ」
「...それでも削っただけ。伊織はちゃんと戻ってきた。それだけでいい」

それだけで揺らぐならここはこんなになっていない。
揺らがない信念があるからこそ、冷静に対処する。ここはそんな場所だ。

「…声をかけられた時、見透かされたような気がしたんです。あの人の目は、全てを見通すような…。…目が合った時、恐怖を覚えました。彼は掴めない、あんな人は初めてです」
「...よくわからないやつだよ。まるで一嶋みたい」
「...一嶋よりも、かもしれません」

そういうと深く俯いてしまった。
伊織を安心させてあげることが出来ていない。

「...あいつはきっと何もしないよ」
「...だといいのですが」
「...北方の雪の匂いが少しした。だけど怖い匂いじゃないよ」
「...分かりました、衛の言葉を信じます」

伊織はやっと顔を上げた。
でもそれは安心した顔でもなく、少し困っているような、そんな顔をしていた。
ただ伊織を撫でるしかなくて悔しかった。
伊織の笑った顔を見たかった。
俺は伊織を守りたい。ずっと一緒にいたい。

伊織は強くなるのに、俺は弱くなっている気がした。

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