Bouquet of flowers to Messiah

有賀尋

光と影

『...衛、そこで寝ないでこっちで寝たらどうですか?体が冷えますよ?』

優しい声がする。
昴かな。
伊織かな。
百瀬多々良かな。

でも俺にとってそこは寝にくい。
ここの方がよっぽど寝れる。

伊織の影だと教えられたあの日、俺はなんとも思わなかった。

伊織のために死ね。

俺はそう教えられてきた。昴が俺を作ってくれたおかげで俺は伊織を守れる。今までもそうしてきた。
伊織のいる会社は北方と繋がりがあって、よく襲撃を受けていた。一嶋晴海に命令されて伊織に見つからないように殲滅していく。
でもこの間、俺は伊織と会ってしまった。影で生きる俺は伊織と会ってはならない。影は影らしく生きねばならない。シェルターに送って殲滅して、腕を1本吹っ飛ばした。本当なら回収して昴に処理をしてもらわなければならないのに、置いてきてしまった。
昴に怒られた。
指紋を取られても、俺の事は国家機密以上に扱われる。どこにもヒットしない。かすりもしない。
俺は既に死んでいる。人間じゃない。

誰かが俺の頭を撫でてくる。その手は優しくて、どこか暖かい。
よく昴も撫でてくれていたけどそれとは違う。
なんだろう。
伊織はよく話しかけてきてくれた。いつも敬語ばかりで聞いている方が疲れる。もっと言葉を崩せばいいのに。
でもそれが伊織だと昴が言っていた。伊織は人間として生きてきた。その中での経験が今の伊織を作っているのだと。

うっすら目を開けると伊織の顔があった。俺は思わず伊織の顔を見つめる。

「衛...?どうかしましたか?」

どうもしない。どうもしないけど、何故か見つめていたくなる。
俺はそのまま伊織の膝の上に頭を乗せてすり寄ってまた目を閉じる。

「...あなたは本当に猫みたいですね」

感情なんて知らない。
伊織を守るためなら必要ない。
でも許されるなら、今は伊織のそばでこうしていたい。
伊織は光、俺は影。
伊織を守るためなら、俺は何にでもなる。

それが望まない結果になったとしても。

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