Bouquet of flowers to Messiah
Emperor sleeping place
朝早くに雪がいなくなることがある。
任務だったら任務だと事前に言ってくれるから任務じゃない。
どこに行くんだろう…?
そう言えば明日がその日だ。少しだけあとを追ってみよう。
その日は雪がおいでと僕をベッドに引っ張りこんでくっついて寝る事になった。ずっと任務で離れていた分、数ヶ月ぶりに一緒に寝られる。
引っ張りこんですぐに雪が寝息を立ててしまったものだから、僕も寝ざるを得なくなって普通に寝てしまった。でも、雪の体温がなくなったことに気がついて目を覚ます。潜入とか尾行は少しずつ教えて貰っていて、言っちゃ悪いけどいい実践になった。
雪を追いかけてたどり着いた場所は墓地。
先代のサクラや、殉職して行ったサクラが眠る場所。長谷部さんや鯰尾さん、藤瀬さんもいる。
とある一角に新しく出来ている墓前に、雪は竜胆の花束を置く。
何かを話すわけでもなければ、ただただ黙って見つめているだけだった。
...あれは...誰のなんだろう...?
「...やっぱり来てたのね、律儀ね」
百瀬さんもやって来て、花を手向けていた。
百瀬さんも知っていて、雪も知っている人。それは容易く想像出来た。
...もしかして、ここは九条さんの...?
いつの間に...?
「…あの時はごめんなさいね、私がちゃんと肉体を回収していれば…」
「またその話か、気にすんなって何度も言ってんだろ」
そんな会話が聞こえる。
やっぱりそうだ、ここは九条律の墓だ。
少なからず僕もお世話になっていたのに、どうして何も言ってくれなかったんだろう。
...言いたく、なかったのかな。
雪にとってはまだ九条さんがメサイアなのかな…。やっぱり僕は雪のメサイアになれないのかな…。
雪とメサイアを組んでかなり時間が経つけど、やっぱり雪にとっては...。
悲しいような悔しいような。そんな気持ちが渦巻いたまま、僕は部屋に戻った。早朝から任務のある僕はそのまま情報部に赴く。
...今の顔を雪に見せることは出来ない。きっと情けない顔をしているんだと思う。余計に心配をかけるだけだ。
結局顔を合わせられないまま、雪は任務へ行ってしまった。また海外の空を1人で飛び回ると言っていた。今回は長く戻らないと言う。寂しさを押し殺して僕は僕の出来ることを精一杯やった。たまに来る雪からのメールに一喜一憂して、声が聞きたいと思ってみたり、早く抱きしめたいと思ってみたり、気持ちはぐちゃぐちゃだった。
1年が経ったその日。雪が朝早くにこっそりいなくなる日。僕は任務で一緒に寝ることは出来なくて、部屋には戻らずそのまま九条さんの墓前に向かった。雪は帰ってきている。情報部に1度だけ顔を出してくれたから。
九条さんの墓前について、僕はそっと花を手向ける。九条さんは確かに竜胆の花が好きだった。部屋に呼ばれて行けば竜胆の花が花瓶にいけてあった。
「...九条さん、お久しぶりです。前谷です。こんな形で会うなんて思いもしませんでした。...九条さん、貴方から雪を取ってごめんなさい。...僕を、Black boxを拾ってくれてありがとうございました。...貴方はあの時相応しくないって言ったけど、雪に相応しいメサイアになってみせます。...見ててください」
ずっと思っていたのだ。
―君は雪のメサイアに相応しくない。
相応しくない。
突きつけられた現実は僕を蝕んでいった。
相応しくないことくらい分かってる、不釣り合いで、なんの役にも立たないことくらい分かってる。...それでも、僕はずっと隣に立ちたいと思って今まで頑張ってきた。弱虫も、泣き虫も未だに変わりはしないけれど、でも昔の僕とは違う。ちゃんと隣に立てていると僕は思うのだ。
少ししてから足音が聞こえる。最近は足音で誰が誰なのか分かるようになった。
この足音は...ひとりしかいない。
「…尋?なんで…」
あぁ、やっぱり。この人だ。
僕の大切な人。守りたい人。ずっとずっと会いたいと願っていた、僕のメサイア、雛森雪。
「…黙ってるなんて酷いよ、雪。僕も多少じゃなくお世話になってるんだし、それに水くさいじゃないですか」
「...ごめん」
僕は墓前をあける。雪も同じように竜胆の花束を置く。
何をするでもなく、ただそこで墓石を見つめているだけ。何を考えているかは分からないけれど、その目は優しかった。
「...なんでお前知ってるんだ?」
「ここに九条さんのお墓があるってこと?」
「...あぁ...」
そこで僕は話をした。
去年のこの日にいなくなった雪を追いかけてたどり着いたことを。そして雪も教えてくれた。九条さんの命日である事、雪がお墓を立てたこと。
「...命日なんだね、九条さんの」
「...あぁ」
「隠すなんて酷いよ。言ってよ」
「悪かったって」
「...来年は、一緒に来ようよ」
「...そうだな」
お墓参りをして隣を歩く。
もう誰にも取らせない。雪は僕が守るんだ。
墓地を優しく朝日が照らして1日の始まりを告げた。
任務だったら任務だと事前に言ってくれるから任務じゃない。
どこに行くんだろう…?
そう言えば明日がその日だ。少しだけあとを追ってみよう。
その日は雪がおいでと僕をベッドに引っ張りこんでくっついて寝る事になった。ずっと任務で離れていた分、数ヶ月ぶりに一緒に寝られる。
引っ張りこんですぐに雪が寝息を立ててしまったものだから、僕も寝ざるを得なくなって普通に寝てしまった。でも、雪の体温がなくなったことに気がついて目を覚ます。潜入とか尾行は少しずつ教えて貰っていて、言っちゃ悪いけどいい実践になった。
雪を追いかけてたどり着いた場所は墓地。
先代のサクラや、殉職して行ったサクラが眠る場所。長谷部さんや鯰尾さん、藤瀬さんもいる。
とある一角に新しく出来ている墓前に、雪は竜胆の花束を置く。
何かを話すわけでもなければ、ただただ黙って見つめているだけだった。
...あれは...誰のなんだろう...?
「...やっぱり来てたのね、律儀ね」
百瀬さんもやって来て、花を手向けていた。
百瀬さんも知っていて、雪も知っている人。それは容易く想像出来た。
...もしかして、ここは九条さんの...?
いつの間に...?
「…あの時はごめんなさいね、私がちゃんと肉体を回収していれば…」
「またその話か、気にすんなって何度も言ってんだろ」
そんな会話が聞こえる。
やっぱりそうだ、ここは九条律の墓だ。
少なからず僕もお世話になっていたのに、どうして何も言ってくれなかったんだろう。
...言いたく、なかったのかな。
雪にとってはまだ九条さんがメサイアなのかな…。やっぱり僕は雪のメサイアになれないのかな…。
雪とメサイアを組んでかなり時間が経つけど、やっぱり雪にとっては...。
悲しいような悔しいような。そんな気持ちが渦巻いたまま、僕は部屋に戻った。早朝から任務のある僕はそのまま情報部に赴く。
...今の顔を雪に見せることは出来ない。きっと情けない顔をしているんだと思う。余計に心配をかけるだけだ。
結局顔を合わせられないまま、雪は任務へ行ってしまった。また海外の空を1人で飛び回ると言っていた。今回は長く戻らないと言う。寂しさを押し殺して僕は僕の出来ることを精一杯やった。たまに来る雪からのメールに一喜一憂して、声が聞きたいと思ってみたり、早く抱きしめたいと思ってみたり、気持ちはぐちゃぐちゃだった。
1年が経ったその日。雪が朝早くにこっそりいなくなる日。僕は任務で一緒に寝ることは出来なくて、部屋には戻らずそのまま九条さんの墓前に向かった。雪は帰ってきている。情報部に1度だけ顔を出してくれたから。
九条さんの墓前について、僕はそっと花を手向ける。九条さんは確かに竜胆の花が好きだった。部屋に呼ばれて行けば竜胆の花が花瓶にいけてあった。
「...九条さん、お久しぶりです。前谷です。こんな形で会うなんて思いもしませんでした。...九条さん、貴方から雪を取ってごめんなさい。...僕を、Black boxを拾ってくれてありがとうございました。...貴方はあの時相応しくないって言ったけど、雪に相応しいメサイアになってみせます。...見ててください」
ずっと思っていたのだ。
―君は雪のメサイアに相応しくない。
相応しくない。
突きつけられた現実は僕を蝕んでいった。
相応しくないことくらい分かってる、不釣り合いで、なんの役にも立たないことくらい分かってる。...それでも、僕はずっと隣に立ちたいと思って今まで頑張ってきた。弱虫も、泣き虫も未だに変わりはしないけれど、でも昔の僕とは違う。ちゃんと隣に立てていると僕は思うのだ。
少ししてから足音が聞こえる。最近は足音で誰が誰なのか分かるようになった。
この足音は...ひとりしかいない。
「…尋?なんで…」
あぁ、やっぱり。この人だ。
僕の大切な人。守りたい人。ずっとずっと会いたいと願っていた、僕のメサイア、雛森雪。
「…黙ってるなんて酷いよ、雪。僕も多少じゃなくお世話になってるんだし、それに水くさいじゃないですか」
「...ごめん」
僕は墓前をあける。雪も同じように竜胆の花束を置く。
何をするでもなく、ただそこで墓石を見つめているだけ。何を考えているかは分からないけれど、その目は優しかった。
「...なんでお前知ってるんだ?」
「ここに九条さんのお墓があるってこと?」
「...あぁ...」
そこで僕は話をした。
去年のこの日にいなくなった雪を追いかけてたどり着いたことを。そして雪も教えてくれた。九条さんの命日である事、雪がお墓を立てたこと。
「...命日なんだね、九条さんの」
「...あぁ」
「隠すなんて酷いよ。言ってよ」
「悪かったって」
「...来年は、一緒に来ようよ」
「...そうだな」
お墓参りをして隣を歩く。
もう誰にも取らせない。雪は僕が守るんだ。
墓地を優しく朝日が照らして1日の始まりを告げた。
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