Bouquet of flowers to Messiah

有賀尋

Black Gemini〜Black lover ep.1〜

僕達は双子としてこの世に生を受けた。
でもそれは時に残酷で、時に離れられないものとなる。
押し入れに閉じ込められて海斗に耳を塞がれて守られながら必死に耐えたあの日。戸をそっと開けて目の前に広がる光景は絶対に忘れない。真っ赤に染まったあの光景は忘れられない。海斗と家を出て生活を始めて、子どもながらによく生きて来れたと思う。
僕は泣き虫で、いつも海斗にくっついて回った。海斗は僕を守ろうとずっと一緒にいてくれた。尋さんに拾われた後もずっと一緒で、色んなことを経験した。
そして尋さんは1枚の置き手紙を残して僕達の事を置いていった。

「え...どういうこと...?」
「僕達...尋さんに置いていかれた...?また...?」
「でも...迎えに来るって…」

置いていかれた。

その衝撃に僕達ははただ立ち尽くすしかなかった。
「必ず迎えに来てくれる」と、そう言い聞かせてあの場所で来るのを待った。

尋さんがいなくなってしばらくして、海斗がPCを見て少し驚いた顔をしていた。

「...キング...?」
「海斗、どうしたの?」
「キングからメールだよ」
「キングから...!?」

キングからのメール、それはきっと迎えに来てくれる。その連絡だと少し期待をした。ロジックを解いてメールを見ると、そこには仕事の依頼だった。
僕は肩を落とした。

迎えのメールじゃなかった...いつ迎えに来てくれるんだろう…。

海斗がメールを読むと、4日でシステムを組み上げてほしいとの連絡で、正直無理すぎる。

「4日後...無理だよ、僕達にできっこない...あのプログラムだって1ヶ月かかったのに...」
「...やるしかない」

4日間詰め込みでシステムを組み上げた。必死に作り上げた。
そして、4日後、プログラムは完成した。
僕はハッキングしているカメラを見ながら、いつくるのかを待った。
今か今かと待ち構えていると、黒い服を着た人間が2人入ってきたのが見えた。
そして歩き方ですぐに分かる。あれは、尋さんだ。

「...海斗、来たよ」
「だな。...誰だ後ろの...」

僕と海斗は銃を構えて入ってくるのを待った。
いつ入ってきてもいいように、そしていつでも攻撃できるように。

「随分薄暗いわねぇ…」
「そんなもんですよ、ここは」

システムを解除して入ってくる。その声は間違いなくキングで、後ろにいるのは、誰なのか分からない。

静かに銃口を2人に向けて睨みつける。

来ているのは尋さんだということは知っている。でも、後ろにいるのが怪しい。
だから警戒するのだ。
それを察したかのように、尋さんは声をかけてきた。

「…僕だ、ブラックキングだ、向けているものを下ろしてもらおう」
「…尋か」
「久しぶりだね、僕の忘れ物を取りに来た。頼んだものはやってくれた?」
「あれか、勿論、あんたの頼みだからな。…今のこの組織の情報を全部詰め込んだ、その上でプログラムを組んでおいた。…持っていけ」

海斗がメモリを投げると、尋さんはちゃんと受け取ってくれた。

「…ありがとう。またそのうち連絡する…百瀬さん、行きましょう」

そう言うと尋さんは出ていった。
僕は1つ引っかかった。それを海斗に聞いた。

「ねぇ海斗、この組織の情報って...?」
「九条律のこの組織の事だよ。...尋さんは警察庁警備局特別公安五係にいるんだ」
「それって...」
「そう、チャーチ。国籍も戸籍も抹消されて、特別殺人権が与えられるスパイ集団の候補生」
「...連れてったのって...」
「白王と係長の一嶋晴海」

それから僕に説明してくれた。
尋さんがサクラ候補生としてやっていること、メサイアがいること、そしてそのメサイアの前メサイアが九条律であること。
そして、既にここに九条律はおらず、捨てられた存在だということ。

「捨てられた...?」
「九条律はもうここにはいない。だけど、居場所は知ってる。俺達が管理してた、あの工場だよ。研究施設を隠してる。ここを出よう、愛斗。ここを出て、俺達2人で生きよう」
「海斗...」
「ここにいたら俺たちは見殺しにされて終わりだよ。もう誰も信じちゃいけない。信じられるのは、俺達だけだよ。絶対愛斗を守ってみせるから」
「うん...絶対だよ...?何があっても...離れないで、お兄ちゃん...」
「分かってる...」

海斗がいれば何もいらなかった。いろんな組織を転々として、海外も回って死線を駆け抜けた。

しばらくしてから日本に戻ってきて政府高官との約束の日。
その高官は特殊な性癖を持っていると情報があったから本当に気をつけていたし、海斗もすぐ近くに隠れていた。
だけど。
僕はベッドに押し倒された。そこまではいい。

「...情報をくれたらいいよ」
「分かってるよ、渡せばいいんだろ」

情報をべらべら喋る辺り、本当に馬鹿だと思う。しばらく情報を喋ったあとで僕は海斗に合図した。

これで終わる。

そう思っていたのに。
そいつは服の下に手を入れた。そして身体をあちこち触り始めた。

「な、何を...っ...!」
「何って、ヤらせてくれるんだろ、情報は渡したからな」
「や、だ...!」

僕は必死に抵抗した。
でも、所詮子ども。大人の力には敵わなかった。力づくで抑えられて上下の服を脱がされる。そこまで僕は今までも許したことはなかったのに。
抵抗する気持ちと裏腹に身体は次第に熱を持ち始め、触られたくない手が伸びて僕を触る。

嫌だ。気持ち悪い。触らないで...!

僕が泣きじゃくるのをお構いなしにその手は僕を触り続ける。そして嫌な感覚が僕を襲った。
ただ痛くて痛くて、気持ちいいなんてものじゃない。
僕は泣きながら海斗がそいつの後ろで銃を構えたのが見えた。海斗が引き金を引いて、相手が死ぬと、海斗は服を着せてくれた。

「愛斗、ごめん。...逃げよう」
「海斗...」

僕は海斗にしがみついてバレないように2人で逃げ、廃工場に戻った。
戻ると海斗は僕をずっと抱きしめてくれていた。

「ごめんな、愛斗...守れなかった...油断した...」
「海斗のせいじゃないよ…」

こんな穢れた僕でも海斗は抱きしめてくれる。でも僕は海斗にこんな穢れた僕を抱きしめてほしくない。

僕は...海斗に最初をあげたかった。
なのに...なのに...!

その事がただただ悔しくて。

だから僕は願った。

「...海斗...」
「なに...?」
「...僕の事...上書きしてよ...」
「...へ...?」
「...やだよ...あんな...あんなのに...触られて...暴かれたままなんて...!今までもあったけど…こんなの...やだ...」
「でも...」
「お願い」

海斗にあげたかった。でもそれはもう叶わない。ならせめて、僕を上書きしてほしい。
震えながら海斗の腕を掴む。
海斗は僕の手を握って真剣に見つめてこう言った。

「...ほんとにいいの?」
「...うん...」

海斗がそっと唇を重ねて、僕の身体全てを上書きしてくれた。
すごく優しいその手が僕に触れる度に涙がこぼれた。その涙を海斗は優しく拭ってくれる。
僕は海斗とさらに離れることが出来なくなった。
偶にその夢を見ては海斗に温もりを求めた。海斗は嫌と言わなかった。僕が望むようにしてくれた。
その優しさが、僕にはとても痛くて嬉しかった。

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