部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第四十五話 「銀河での戯闘の果てに」

 あれから何度弓を引いたのかな。もう分からないや。指も痛くて、腕も重い。なのに、なのに、あの男は、疲れなど知らない、と言うかの様に私に攻撃を仕掛けてくる。私は腕に力が入らなくなり、遂には弓を落としてしまった。
「もう終わりか?」「はぁ…うぅ…。反則だよ…。なんで効かないんだよ…」「反則もなにもこの空間はそう言うものだからな」
 ふざけるんじゃない。こいつは殺されたいんじゃないのか?多少の刺激を受けたいなら別に普通の空間で良かったのに。どうしてこんな。
「お前なら、俺を落とせると思ったが…駄目か。残念だ」「残念って…ほぼ無敵のあんたにどうやって勝つのさ!?」「それを見出すのもお前の試練だろう?」「ふざけないで!こんな理不尽な空間に連れてくる必要は無かったじゃないか!なんで、なんで!」「むぅ…。少しばかりやり過ぎたか?決戦としては最高だと思ったんだが…」「はぁぁ……取り敢えず、少し休ませて…。お腹空いたし、何よりも腕と指が痛い」
 と私は吐き捨てて、旧月神に背を向けて寝転がった。取り敢えず指と腕に治癒魔術をかけ、眠るフリをした。とても寝れる状況じゃない。奴の超防御を貫通しない事には勝ちには到達出来ない。どうすれば奴の超防御を貫通できるか…。一人、頭を抱えていると、久々に神の声が聞こえて来た。
『何だ、そんな事に悩んでいたのかい?』「(神様…。正直、あんなのに勝てないよ。だって神だよ?)」『そうかな?相手は神だけど、所詮中級。月や銀河の加護がないと弱い存在だよ?』「(今その加護をあれは受けてるんだけど)」『ごめん、そうだった。なら君にいい事を教えてあげよう』「(いい事?)」
 この神はふざけてる時はとことんふざけるけど、真面目な時は、至って真面目になる。そして今は声音的に真面目な時だ。
『君の月帝弓には終末定理タブーの「殲滅」の他に「討滅アナヒラー」という魔力が備わっているんだよ。僕がねじ込んだ。この魔力は君自身に直接の効果はもたらさないんだけど、君の感情変化によって変わるんだ』「(感情変化?)」『そう。例えば君が相手を見て、強いなぁって思ったらそこから君が放つ矢はその相手に対してとても刺さる様になる。要するに、そうだなあ。ロールプレイングゲームで言う特攻って奴だよ』「(私が強いと思った相手に対して有利になれるって事?)」『まあそうなるね。実際月神は加護さえ受けてれば無敵だ。強くない訳が無いだろう?理不尽だと思うのもありだが、君は今最も強い者と当たっている事を忘れてはいけない。』
 そうなのか。私が放つ矢が全く通らなかったのは、彼を強いと思わず、理不尽だの何だの不満しか抱かなかったからか。
『そうだよ。さて、じゃあそう分かったらやってみようか。もう一度月神にチャレンジだ』「(……そうですね!)」
 私は立ち上がり、再度月神に向き直った。月神もそれに気が付いたのか、こちらを向いて来た。
「もう休まなくていいのか?」「えぇ。元気になりました!さぁ、やりましょう!」「良いだろう。では、」「(居合いの型…?取り敢えず不味いな…)」「始めぇ!」
 その合図と共に楕円に剣閃が通る。私はそれを間一髪で避け、後ろに飛躍し後退する。取り敢えず距離を取る。
「また距離を置くか…。何度も何度も学習しない奴よ!」「貴方こそ!そうやって!突っ込んで来るのを!辞めたらどうですかっ!」
 勢いよく向かってくる月神に対して私も月神に向かう。そして、ある程度距離が縮まった時、ほんの少し前に飛躍し、足を突き出す。すると、どうなるか。真っ直ぐに突っ込んで来た月神は唐突の事で避けれず、そのまま顔面でその足を受ける事になる。
「むぐぉっ!?」「急速、装填っ!!!」
 思いっきり顔面に足をめり込ませた月神はそのまま吹っ飛んでいった。かなり距離が広まったので私は弓を構える。射出は99999本を一本に収束させた『殲滅する破星の轟矢レブダントエンドレーザ』8連。私は、狙いを済ませた後それを一気に放つ。
「『殲滅する破星の轟矢レブダントエンドレーザ』ぁ!」
 8本の青白い光線は真っ直ぐ、月神に飛んで行った。しかし着弾する、と思った直前。月神の周りに黒い霧が覆い、光線を全て弾き返した。やっぱりあの神は魔術に関する事は強い。数で責めても無駄だ。弾かれてそれぞれ別の方向に飛んで行った光線が別々の場所で別々のタイミングで爆発する。
「くっ…」「……ぺっ。何でだ?」
 月神が何か呟いているが、気にせずに攻撃を仕掛ける。今の私は私より技能や経験などで上位に位置してる月神に対してとても有効な攻撃を放つ事ができる。この好機を逃す訳にはいかない。弓での攻撃は防がれる。一気に距離を詰めて、『極雷槍』でも何でもいいから物理で攻撃する。しかし、そうはいかなかった。
「少し休ませてもらおう。『影なる軍勢シャドウ・ウェイグ』」「っ!」
 彼が指を鳴らすと、突然辺りが黒い靄に覆われ、そこから黒い無数の人間が湧いて出て来た。その数およそ2000以上。そんな光景に私は走らせていた足を止める。そうしていたら一気に黒い人々に囲まれた。じりじりと距離が詰められて行く。一気に覆い尽くして窒息でもさせる気か?
「うふふ…。昔の私だったら怖気付いて動けなかったんだろうなぁ」
 しかし私はこの状況に立ってなお、全然余裕があった。『討滅』があるから?否。はたまた『殲滅』や『霹靂』があるから?否だ。答えは、私が『救世』の降臨者だからだ。
「『先導リード』!」「…なんだ?」
『先導』は神から『救世』の力を与えられた時に貰った魔力の一つだ。この魔力は如何なる大軍勢でも全部私の物になる。私が指示すればきちんとその指示に従う様になる。例えそれが魔術によって作られた軍勢だとしても。黒い人達の矛先が一斉に月神に向く。
「月神、今この子達の主導権は、全て私が持つ事になった。君の言う事はもう聞かないよ?」「成る程な…。窮地を好機に変えたか。面白い!」「迎え。抑えろ」
 私は黒い軍勢に簡単な指示を施すと同時に、軍勢は勢いよく飛び出して行き、こちらに向かって来ていた月神に乗っかって行き、あっという間に月神は覆い潰された。
「ぐ、がっ!あああああああああああっ!」「ありがとう月神。多くの仲間を与えてくれて」「ぐっ…あぁっ!クソっ…!」「そして、私をここまで成長させてくれた事、本当に感謝するよ。ありがとね、師匠」
 弓を構え、近距離で矢を放つ。当然、『殲滅』と『討滅』、『霹靂』を孕んだその矢は、月神が最後までした抵抗をもあっさりと破壊し、その脳天を貫いた。貫いた瞬間、月神はうっすらと微笑んだ気がした。本当は『殲滅する破星の轟矢』で終わらせたかったが、あれでは味気ない気がしたのだ。私は溜息を一つし、踵を返し、弓を収めようとすると、月神が掠れた声で言ってきた。
「5ヶ月…という………短い期間、であったが……………お前は最高に………鍛え甲斐のある、いい弟子だった……」「……」
 黒い軍勢は雲散霧消し、遂には月神も事切れた。終わったのだ。当然それはこの隔絶空間の脱出許可が降りた事を意味する。早く出ろ、と言うように空間が崩れ始めた。私は出口らしき場所にひたすらに走った。その最中、私は呟く。
「ここでの、生活は楽しかったし、貴方の教えは多分一生忘れないと思う。生前も含めて、貴方は私の最高の師匠だったよ」
 そう言い残し、私は隔絶空間から脱出した。最後の月神の笑みが妙に私の心に刺さった。自然と、目尻が熱くなっていくのを感じた。

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