部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第二十九話 「『救世』の加護」

 剣聖を見ると少しだけ笑っていた。神様といい、なんで笑われるかな…。
「どうしたんですか?」「その様子だと、力を得たそうですね。そして貴方は降臨者の枠に収まったと」「そうですよ。殆どが援護とか指揮に関する魔力ですけどね。ただ」「ただ?」「他の感覚も倍以上に鋭くなった気がします」
 視覚を失った代わり、他の五感が鋭くなったらしい。うーん、流石だよ神様。良いキマリっぷりだ。…とかなんとか思っていると、もう一つの降臨者がサテラとウェルトを連れて帰ってきた。サテラが手を振りながら走ってきた。
「あっ、せんぱーい!ってあれ?」「あぁ、サテラ。大丈夫だった?怪我はない?」「え、あ。はい。私はどうともありませんけど…。あの」「ん?」「いつの間にそんなに魔力を有するようになったんですか?それに少し眼の色変わってますし、どうしたんですか本当に」
 眼の色が変わってる。どういうこと?あっ、そういえば、ずっと片方の視界が真っ暗闇なのに不思議に思っていたけど、失明したんだったな、私。
「ちょっと強くなっちゃった。てへっ」「てへっ、じゃないですよ。ちょっとどころじゃないですよそれ。そうでしょう魔神王様?」「え、あぁそうだな…『雷帝』『同調』含めて他に五つ増えている。何があった?」「ん。そこの長耳族エルフ、お前、もしや…」「えぇ。私もこれで降臨者です。まぁ実感は湧きませんが」
 私は自身なさげに言った。しかし、降臨者になったのは間違いない。これから私も抑止の為に誰かを犠牲にしなきゃいけないのか…。そう思ってしまい、少しばかり眉間に皺が寄る。すると、剣聖は私の顔を覗き込みながら聞いてきた。
「どうしたんですか?もしかして降臨者になったのが不服ですか?」「え、いや。そういう訳では無いんですけど」「ただ、抑止の為に誰かを犠牲にしなければならない、と思うと悲しくなります。それに、戦闘慣れもしていないし、正直この役目が勤まるか…」
 私は洗いざらい吐いた。不安だと思っている事全部。いやぁ、なんでこんな憎んでいた相手にこう安心してきりだせるのか不思議でならない。同枠について仲間意識でも根付いたのだろうか?
「心配しなくても大丈夫です。貴方には心強い仲間がいますし、戦闘に慣れた人も沢山いる。仲間とともに歩んで、戦って、生活していれば、おのずと身につくと思います。犠牲のことに関しては、仕方ない事ですね…」「…」「ふぅ…こんなか弱い小娘を『救世』の座に座らせるとはあの神も何を考えているのかさっぱりだな」
 新人に結構優しいな剣聖。それに対して『戦殺』はいまいちよくわからない。顔をしかめ顎に手を当てて考えて居ると、耳に質問が入ってきた。
「おい、モチヅキ。ラルダが『救世』の座に座ったとはどう言う事だ?」「そのまんまの意味だ魔神王。この小娘は神と契約を契り、降臨者の力を得て現界した。それだけだ」「待て、降臨者って言うのはこの世界線とは別の世界線から呼ばれるものじゃないのか!?ラルダはこの世界線の人種だぞ?」「いつから決まっていると思っていた龍帝?そんなもの、別に決まっていない。別の世界線で降臨者に適正を持った人材が居なければ、この世界線から人材を選別するのみ」「その人材に選ばれた感じか。良いのか悪いのかよく分からんが…。前とあんまり変わらんのだろう?」「然り」
 龍帝と魔神王、『戦殺』が口々に言う。正直、私も別の世界線から来た人、と思ってたけどそうではない。現に私がそれだ。いまだ『救世』の立ち位置がよく分かっていないけどよほどシビアなんだろうなぁ。でも私がなれるって事は結構緩いかも…。
『それは君が特別な部類で、なにより僕が気に入ったからだよ。ラルダ』「えっ?」
 唐突にあの神の声が聞こえてきた。え?なんなのこれ?何?まだ剣聖の夢物語が残ってるの?
『いや、夢物語が残ってる訳では無い。これは僕自身が今君に語り掛けて居るんだよ』(流石神。なんでもあり…)『だってそれが『救世』の権能だもん。僕自身から直に加護を受ける』(まぁ、それは良いとして…。何ですか気に入ったって)『いやぁ…ほら。君、尊いじゃん』(尊い…は?)
 何言ってるんだこの神は。意味のわからない事はやめてほしい。ただでさえ私は今頭がこんがらがって居るんだ。
「ラルダちゃん、どうしたの?顔が真っ青だよ?」「ウェインさん……」
 どうやら私は顔が酷かったらしい。酷な話だ。そう思い、フラフラしながら歩いていたら、ばったり倒れてしまった。

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