部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第二十八話 「『救世』の降臨」

 神は私を見てふふっ、と笑った。
「なんだい、その顔は」「え、いえ。ただなんというか…」「どうして、と言いたいんだね?」「まぁ、はい…」
 あれ…?こんな口調だったっけ?なんかもうちょっとウザさがあったと思うんだけど…。おかしいなぁ。
「剣聖、『無垢』の降臨者…様々な忌み名を持つ蒼台千代。彼女はさっき上げた二つの他に夢見の剣聖という忌み名を持っているんだよ」「え?日本人?」「名前から見るに日本人だけど、実際は違う。君が元々住んでいた世界線とは違う世界線から彼女は来たんだ」「はぁ…」
 そうか、別の世界線も存在していたのか。結構ややこしいなぁ。
「話を戻していいかい?」「えっ。あっはい!」「なぜ彼女が夢見の剣聖なんて言われているのか。彼女の物憂げな表情もあるんだけど、主に持っている剣に意味がある」「剣に、ですか?」「うん。彼女の持つ剣、【真銘】八咫鏡は刀身を見た者に深い夢を見させるっていう性質がある。僕らはそれを『夢物語』と呼んでいるんだ」
『夢物語』…。なんかロマンチックだな。まぁそれはそれとして、それに私は掛かったってことか。
「私がそれに掛かったって事で良いんですよね」「うん。その解釈で合ってるよ」「でも、どうして?剣聖は私にそんなことを?あと最後の言葉も気になるし、素質があるってなんの素質があるんだ…?」「素質は恐らく降臨者の素質だと思うよ」「え?私が?」「うん。僕が治めるこの世界線には今現在三体の降臨者が存在している。魔神王とサテラが戦った『戦殺』。剣聖及び『無垢』。そして、『覇道』の三体だね。僕はこの三体を勃発している戦争の激化を抑えるために送ったんだよ」「それは知っています。おじ様から聞いたので」「なら良いや。だけど、それはあくまで激化を抑えるための応急処置、戦争は終わらない。僕はそれに気付いていたんだ。だからもう一人、戦争を終わらすような降臨者。『救世』の降臨者となり得る存在を様々な世界線から探し回った」「だけどいなかったんですね」「あぁ。それで、僕はこの世界線でその適正者を『無垢』を通じて探していて、偶然転生した君を見つけた訳さ。だから、『無垢』には『夢物語』をこの僕の庭にリンクさせて君を連れて来させたんだよ」
 成る程…。つまり私がその、『救世』の降臨者っていうのになれば良いんだ。でもどうやって?
「それで、君にその役を全うしてほしいなぁって思ったんだけど、どう?」「私で良ければやりますけど…どうやって?」「簡単さ。僕に君のなにかをくれればいい。例えば、そうだなぁ。こことか?」「ひゃわぁっ!?」「あふっ」
 唐突にお尻を触られたので咄嗟にビンタする。しゃがんでたからぶちやすかった。一応私3歳だよ?なにほざいてんのこの男は。
「あいたたた、冗談だよ冗談!そこまで本気でやる事ないじゃないか!」「やりますよ!女の子のお尻触るとか最低です!」「……尊い。こほん、本題に戻るけど、君は僕に何かを献上すればいい。どちらか片方の視力とかね。それらを献上すれば君には、『救世』の降臨者としての力を君に授けよう」「うー…。なんでそんなに切り替え早いんだよぉ…」
 しかし、力か。力を得れば、剣聖とかを打倒出来るかもしれない。でも、力を貰うためには何かを献上しなければならない。うーん…。視力かぁ…。
「あ、そうそう。授ける力は献上する物に比例する。だから視力より眼の方が力は強くなるんだ。強い力が欲しかったら、物を豪華にしていこう」「あー…。じゃあ他の降臨者達は何を献上したんですか?」「そうだねぇ。『覇道』は聴力と痛覚を僕に献上したね。そして、『戦殺』は一本の指を献上した。そして、『無垢』は記憶を献上した。この中では『無垢』の力が一番強大だ。記憶は人間にとって大切なものだからね」「成る程…」
 五感を献上できたりもするのか…。成る程、うーん…。ていうかよくよく考えたら普通の方の眼、邪魔なんだよなぁ。うん。よし、これを献上しよう。
「神様、献上する物が決まりましたよ」「おっ、どれを献上してくれるんだい?」「こっちの眼です」「うーん?魔力眼じゃない方の眼かい。成る程ね。よし分かった、ならばその眼を貰おう」
 そう言って彼は人差し指を上に立てた。
「じゃあ、この指をじっと見てね」「んっ…」「じゃあ、それっ」「おぅっ!?」
 変な声が出た。一瞬にして片目の視界が真っ暗闇になった。あぁ、これが失明って奴か。
「じゃあ眼は貰ってくよ」「あの…どうですか?」「どうって?」「眼、どういう感じですか?」「色が無くなって白くなってるね」「そうですか」
 眼をくり抜く訳では無いのか。なら安心だ。そっちだけ何もない、とか怖いしね。
「じゃあ、君にはそれ相応の力を与えよう。そうだなぁ…『救世』なら、『治癒ヒーリング』とか『命令オーダー』の類を纏めると良いかな。人を救ったり、纏めたりが似合うと思うし。君はそれで良いかな?」「はい」「なら、少し待っててくれ」
 そう言って彼は立ち上がり、そこらかしこの花を摘み始め、5本の様々な色をした花を持って戻ってきた。
「えっと、それぞれ『治癒』、『律動ローカリング』、『命令』、『障壁』、『先導リード』のマナが含まれた蜜が入っているんだ。それを採る」
 そう言って、花を握り潰した。すると、手の間から透明な液体が溢れてきた。それを金魚鉢のような瓶の中に入れ、スプーンで混ぜる。そして、それをすくい、差し出してきた。
「はい、あーん」「あー」「どうだい?」「美味しい!でも、これで力になるんですか?」「なる。君が『雷帝エレキシカル』を取得した時もそんなに難しく無かっただろ?」「まぁ、たしかに…」「そういう事さ、それに、君は以前の50倍の魔力総量になると思うよ」
 彼はニコリと笑った。おかしいな、この神はこんなに良い人ではなかったんだけど。
「さて、そろそろ君を返すとしようかな」「えっ?」「いやだって、ここに長居してたら、龍帝だって心配するだろうし、ねぇ」「あっそっかぁ…。じゃあ帰してください」「はいはい、それじゃあ楽しむんだよ?」「分かってますよ!しっかり降臨者としての役目も果たします!」「うん。いい心意気だ、それじゃあね」
 私は転生した時と同じように光に包まれた。
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 意識が戻り、暫く目を瞑っているとおじ様の声が聞こえてきた。
「……剣聖。本当にラルダは大丈夫なんだね?」「だからそう言ってるじゃないですか。彼女は夢を見ているだけですよ」
 なんか凄い心配されてるので目を開ける事にした。すると、彼は顔をほころばせこう言ってきた。
「ラルダ!起きたのかい?良かった…!」「うん、おはようおじ様。心配してくれてありがとう。よいしょっ、と」「ん?どうしたんだい?」「ウェインさんとクレイさんを治療するの」「君、『治癒』出来たっけ?」「ついさっき、出来るようになった」
 そう言って私は二人に『療養霧ヒーリングシャワー』を浴びせる。すると、二人の傷はみるみる回復していき、最終的には傷一つ無くなった。
「ん…?」「あれ……傷が消えてる?」「ふぅー。ん?どうしたのおじ様」「お前は、お前はラルダとは違うな?お前は誰だ?」「…私はラルダだよ。『救世』の役目を背負った、降臨者のラルダ。私は、この戦争で乱れてしまったこの世界を救う為にこの役目を背負ったの」
 そう言ったら、おじ様はすっごい驚いた顔をし、ウェインさんとクレイさんは何を言ってるのか分からない顔をしていた。しかし、剣聖だけは、笑っていた。

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