部の中心的な弓道部員だった私が異世界に転生したら長耳族でした

クラヤシキ

第二十話 「氷上の覇者 前」

 サテラが仲間になった後、ウェインさんから呼び出しを食らった。
「ねぇラルダちゃん」「何ですか?」「明日クレイとじゃなくて私と一緒に模擬戦しない?」「ウェインさんと、ですか?」「えぇ、クレイはレジストと回避しかしないでしょ?私は攻めるわよ?」
 攻めるのか、少し怖いな。うーん、でもたまにはクレイさん以外相手もいいかも。よし、そうと決まれば!
「良いですよ」「そう?ありがとう!」
 そう言ってウェインさんは喜びながら去っていった。多分自分の家に戻ったのだろう。そういえば、ウェインさんとクレイさんが住んでいる家は私が居候して、それに加えておじ様が移住してきてるので今は4人で住んでいるのである。広いからあと4人は迎え入れられそう。そういえば、サテラってどうするんだろう。行くところが無いならば迎え入れるのもありかなーと思う。
「どうしたんだいラルダ」「一人で何してるんですか?」「あぁ、おじ様…とサテラ」
 サテラとおじ様が手を繋いでいた。あぁ、私も繋げば二人の娘を持つ父親みたいに見えて良いかも。うん、いい。
「今から、ウェイン達の家に行くんだ。ラルダも来るかい?」「うん、行く!それと手繋いでいい?」「あぁ。良いよ」「わーい!」
 という訳で手を繋ぎながら一緒に家に帰った。周りの人達がすっごい和めかしい目でこちらを見ていた。やはり、そういう風に見えていたのだろう。
「そういえば、ラルダ、いえ先輩。エルドラードさんとはどういう関係なの?」「せんぱっ…!?げほっ…おじ様とは一応師弟の関係だよ。弓を作ってくれたしね」「師弟の関係…ははは」
 おじ様が少し静かに笑う。うん?違うのか?…ていうか先輩って言われた。懐かしい。中学生の時以来だろうか。凄い懐かしい。取り敢えず出しゃばって来たら線路に落としてやろう。いや、この世界に電車が有るとは思えないし、大丈夫だと思うけど。言うてあの事件はトラウマなのだ。
「あっそうだ。明日のウェインさんとの模擬戦頑張って!」「あ、うんありがとう」「なんだい?ウェインと模擬戦するのかい?」「うん、いつもはクレイさんが相手なんだけど」「…気を確かに持つことだ」「え?」「いや、なんでもない。頑張ってくれ」
 んー?よく聞こえ無かったけど、気にしない方が吉かな。ウェインさんって確か氷術師だったから、雷攻撃が通用するかが問題だよなぁ。難しそう。そんな事を思いながら歩いていたらもう家に着いていた。
「ここが家ですか?」「あぁ、今日から君はここで暮らすんだ」「私、こんな大きな家住んでいた事無いのですっごいわくわくします!」「大きな家って言うのは、子供の夢だしねぇ」
 笑いを起こしつつ家に入る。明日はどういう戦いになるんだろう。楽しみであり、不安だ。ていうか、私の夢は、森で弓を使って狩りをしたりしたかったのに、今は魔力行使で矢を作って、ぶっ飛ばすだけだからつまらないな。そうだ、ウェインさんとの戦いでは普通の矢を使っていこう、魔力行使も断然するけどね!
 余談だが、サテラも初めてのお風呂で蕩けた。私以上の蕩け具合だった。液体になるんじゃないかってぐらい蕩けてた。お風呂が最強ってはっきり分かりますね。
 ______________
 翌日、朝早くから私とウェインさんは里から少し離れた山の麓に来ていた。
「よーし、ここら辺で良いかな」「意外と凄い離れましたね」「言ったはずでしょ?私は攻めるって。街で私の魔力を行使すると氷漬けになるから」「ひぇっ…。まぁクレイさんとの訓練を参考にします!」
 因みに私達の他にもエキストラが結構来ている。まぁおなじみのメンバーなんですが。魔神王が居なくて代わりに軍隊長が増えたぐらいか。
「ウェインが出るとは何か癪に障ったのかの?」「いや、何もないんだろうけど、見てるのが暇になったんだろう」「あんな子供が相手なんて……」「ラルダー、頑張れよー!」「頑張ってくださーい」
 そんな声援だのなんだの送ってる人達を見てから、ウェインさんを見る。いつもとは幾分か違う衣服だ。いや、衣服は変わらないんだけど上にローブ羽織って、魔女みたいな帽子を付けてるぐらいか。
「さて、もう準備は良いかな?」「はい!」「持ち物はいつもの弓と、うん?普通の矢?」「はい、私は一応弓師なので。魔力だけでなく矢も使おうと思います!」「へぇ。使えるといいね?」「えぇ。一撃で穿って見せましょう」「それでは互いに頑張りましょう?私は貴方を50秒だけ氷漬けにしてあげる」「ならば私は貴方を穿ちます」
 私たちは互いにそう言い互いの手を叩き、所定の位置に移動する。この手を叩くという動作は開戦前に必ずやらねばならない動作で、互いに最善を尽くし戦おうという意味らしい。やらなかったら卑怯者として叩かれるのだそうだ。
「軍隊長殿は「障壁バリア」か何か持ってたっけ」「え?あぁ、持ってるが…」「使っといて。使わなかったら凍死するよ?ただでさえ薄着なんだから」「分かった。「立方障壁」」
 軍隊長さんがそう唱えた瞬間、ぼわんと立方体が現れ、私とウェインさん以外の人達を立方体が包み込んだ。成程、魔力壁を即席で作って防衛するのか。有能な魔力を持ってるね、軍の隊長らしい魔力だ。
「さて、これで観客も護られた訳だし、やろうか!」「はい、本気でやりましょう」「それでは」「「いざ、勝負!」」
 同時に大声をあげ、その瞬間私は真正面から「電矢」を放ち、次なる攻撃「流星」を構え、タイムラグ無しで放つ。「流星」の数は51。この戦い、氷結が進まなければ私が有利だ。 合計52の電矢がウェインさんに襲いかかる。恐らくこの数を止めるのなら大規模な氷魔術を使うだろう。だけど、レジストに回れば「雷槍」を飛ばすし、回避を選ぶなら倍の数の「流星」を放つ。逃げ場は無い。次なる一手は二択。さぁ…どうくる?
「「絶対零度アブソリュート・ゼロ」」
 レジストだと瞬時に把握する。しかしレジストではあるものの、攻撃魔法でもあることに気づく。絶対零度、摂氏温度の零下、273.15度を意味し、動体総てを凍らせる。彼女はこの一撃で私の魔術を冷却しつつ、私も冷却しようというのだ。彼女の周囲、私の電矢が一瞬にして凍っていく。この一撃で終わり?いいや。
「「電磁融解エレクトロ・メルシング」!」
 氷に対するレジスト魔術は心得ている。電撃は一気に彼女付近まで到達し、凍り付いた地面が、電矢が溶けていく。これで「絶対零度」は消える、と思っていたが…。
「なっ…!?溶かした筈なのにまた凍っていく…?」「私はクレイの単発的魔術とは違う。私の「氷結アイシクル」は私が魔力を込める限り持続する。止まらないの」
 持続型か!今まで相手にした事が無いからなぁ…。どうするか。冷却を「電磁融解」で妨害しつつ、距離を取って、矢を放つ。よし、これで行こう。
「「氷塊」「暴風テンペスト」」「きゃっ!?」
 無数の小さな氷塊が彼女の周りに生成され、暴風が巻き起こる。当然のごとく、氷塊が巻き込まれ、刃のように飛んでくる。暴風により、遠距離武器は総てゴミと化し、私は風に煽られ、氷塊に切り刻まれていく。外から見れば白銀に輝く猛吹雪だろう。
「ぐぅぅ…!あぐっ!?」
 真正面から氷塊を喰らい、吹っ飛ばされる。その瞬間、風が病む。よし、これなら着地出来る。そう思い、地面に足を付く。しかし、忘れていた、今でも「絶対零度」が発動している事に。
「しまっ!?」
 足が瞬時に凍る。身動きが取れない。あぁ、不味い。どんどん体が凍っていく。そしてウェインさんが近付いてきて、こう切り出す。
「分かった?私は《氷上の覇者》って言われてるの。だから当然、その覇権を握るのは私。氷上では誰も私には勝てない」
 ウェインさんが可愛らしい笑顔で言う。氷上の覇者。彼女に似つかわしく無い忌み名だ。しかし、この数分間での攻防で、もうその忌み名を信じる事しか出来なくなっていた。

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